【書評/要約】一汁一菜でよいという提案(土井善晴 著)(★5) 「食べること」「料理すること」に関する気づき満載。「生き方」まで考えさせられる良書

毎日の献立をどうしようか…
特に遅くまで仕事をしているビジネスウーマンには、帰宅後料理をする気にもなれず、出来合いの食事を買ってしまう人も多いのではないでしょうか。

外のことを優先して、大切にすべき自分のことは後回しになり、家庭の食事、食卓を囲んだ団欒、子どもへの食育もおろそかになる。それでいいのか?

忙しい現代人へ、ご飯と具だくさんのお味噌汁・お漬物という「一汁一菜でよいという提案」。

本書は、レシピ本ではありません。人間は食事によって生き、自然・社会・人々とつながってきました。その長い歴史の上で作られてきた「一汁一菜」という日本の食のシステム・食文化について知り、体にいいモノを、負担なく、美しくいただく心構え・作法について学ぶ本ですです。日々の食事を見直す気づき満載の良書です。

今回は、土井善晴さんの『一汁一菜でよいという提案』からの学びを紹介します。

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食は日常。なぜ、なぜ一汁一菜か

【書評/要約】一汁一菜でよいという提案(土井善晴 著)(

一汁一菜とは、ただの「和食献立のすすめ」ではありません。
一汁一菜は、長い時間をかけて日本で作られた食の「システム」であり、「思想」であり、「美学」であり、日本人としての「生き方」です。

「食べ飽きる食事」と「食べ飽きない食事」

連日のお寿司、焼肉の食事は、体が受け入れなくなります。意識するかしないかにかかわらず、身体はこれらの食べ物を食べ続けることは体に悪い・負担があるとを知っています。

一方、伝統的な「一汁一菜」は毎日食べても食べ飽きることがありません。これは日本人が長い年月をかけて編み出した、日本人になじんだ食文化だからです。具沢山なお味噌汁にすることで、毎日に必要な栄養も充分摂ることができます。

脳が喜ぶおいしさ、身体が喜ぶおいしさ

脂たっぷりのお肉や加工品・お菓子は、食べて反射的においしいとと感じる味がついています。加工品・お菓子がおいしい理由は簡単で、食品メーカーは、利益を得るために「脳が喜ぶ中毒性のある合成品」の開発に日々注力しているからです。

一方、伝統的な食事は、合成したおいしさとは別物です。味噌・漬物は微生物が育むおいしさです。お味噌汁を飲むとほっとしますが、それは、おいしさだけでなく、無意識で身体全体に心地よさ、安心感を感じているからです。

「おいしい」にも種類がある

「おいしい」にも種類がある―。私たちは、この事実を認識する必要があります。

土井さんは料理研究家として、日本の伝統的な食を知れば知るほど、日本人の知恵・感性の豊かさに驚くといいます。そして、未来の日本人の健康・生活・地球環境を考えた結果、「一汁一菜が日本の家庭料理の最善の道」であるという考えに至ったそうです。

日本の食文化

【書評/要約】一汁一菜でよいという提案(土井善晴 著):日本の食文化

和食の「ケ・ハレ」

日本には、「ハレ」と「ケ」という概念があります。ハレは特別な状態、祭り事。お正月料理などはこれにあたります。一方、ケは日常です。日常の家庭料理は、いわばケの食事です。

そもそも、両者の違いは「人間のために作る料理」と「神様のために作るお料理」という区別です。日本には少なくとも、手を掛けるもの、手を掛けないものという2つの価値観があり、けじめをつけてきました。

「ケ・ハレ」にけじめがなくなった日本人

現代日本では、「ハレ」と「ケ」、さらには、「西洋の食文化」、「日本の食文化」がごちゃごちゃになっています。これが、現代の「料理とは手を掛けるもの」といった考えにつながり、毎日の献立を悩ましくさせています。

「ケ・ハレ」、「西洋と日本の食文化の違い」については、土井さんの別本の記事を参考にしてください。読む価値のある良書です。日本の食文化について知りたければ、以下の本がシンプルにまとまっています。私は、以下の本に非常に感銘を受けました。

バエる料理作りで疲弊する現代人

私たちは、各種メディアのる「レストラン特集」「バエる料理」によって、手を掛けたものこそが料理だと勘違い。結果、毎日の献立のハードルを上げて疲れています。何品もおかずを揃えようと、加工食品を買っているようでは何かが間違っています。

本来、和食は、素材を生かし、シンプルに料理することを大事にします。食材の手数が増えるほど、食材は痛み、鮮度が落ちます。日常の家庭料理は、毎日手をかける必要はありません。

贅と慎ましさのバランスを

庶民が手の掛かるご馳走を喜ぶのは、高価なものへの憧れです。世間体を重んじる日本では、他人と同等のものを手に入れたいと望むことも強く影響しています。

しかし、分不相応な憧れは、場違いな場面に現れて、ハレとケを混同し、食事・暮らしも高価な手がかかったものを求めるようになります。一方で、軽視されるのが「当たり前にやるべきこと」であり、家庭料理もその一つです。

贅沢な暮らしができるから幸せなのではありません。分不相応な暮らしには、無理が生じ、生活が心身を共に疲弊させます。

慎ましい暮らしは「貧乏」とは違います。無理なく、健やかに生きるために大切です。地球環境を考えても、「慎ましく食事」で「慎ましく暮す」ことが、現代人には求められています。

四季がある日本は「旬」の野菜・果物を食卓に取り入れるだけでも、豊かさを味わえるはずです。

食事について、改めて考える

【書評/要約】一汁一菜でよいという提案(土井善晴 著):食事について、改めて考える

人の身体は食べることで維持されています。食べることは「生きる原点」です。故、食材を得る⇒料理する⇒食べるという一連の「食事行為」には、様々な知能・技能を養う多くの学びがあります。

良く食べることは、良く生きること

家庭環境は「食事」に強く現れます。「食育」という言葉がありますが、親の手料理&家族団らんで食事する家庭、いつも出来合いの食事の家庭では、子どもの成長に大きな差が生じます。「成長の差」は食の作法・躾にとどまらず、健康・感受性・情緒まで多岐にわたります。

子どもは、親にすべての食事を委ねています。手料理で育った「おいしい幸せ」や「深い安心」の経験は、情緒を安定化し、冷静に対処する「落ち着き」となり、さらには他者への「愛」につながります。また、「幼少期の台所の安心感」は、その子が親になったとき、その子にも世代を超えて引き継がれていきます。

「台所の愛」は、平和な社会づくりのためにも大事なのです。

和食と五感

人は元来、五感と経験で、「良い食品」「悪い食品」を瞬時に判断する力を持っています。これは、人類進化の過程で、「種を残す」ために、危険な食べ物を排除することが極めて重要だったからです。

特に和食は、視覚、聴覚、触覚、 嗅覚、味覚の五感をすべて働かせて、全身でおいしさを味わうことも大切にしています。

視覚目で見ておいしい。食材だけでなく、膳・器も楽しむ
聴覚台所から聞こえてくる音は、おいしいものができる音。
人はそれを聞くだけで幸せな気持ちになれる
一方で、違和感のある音は、雑味・焦げ付きを作る
触覚こりこり、かりかり、さくさく、がりがり、つるつる
日本はこのような触感のオノマトペが豊か。つまり、様々な触感を味わい分けている
嗅覚おいしいにおいは体にいい、一方で、食べてはいけないと教えるのが嫌な臭い
味覚現代では、焼肉など、直接、脳に働く快楽な「味覚」と、身体に安心感を与える「味覚」を区別が大事

現代における問題:「味覚」に誤作動…

優れが食に対する五感をもつ人類ですが、現在は、❶人類進化のスピードが科学の進歩に追いつかない、❷脳を勘違いさせる「おいしさ」の登場、❸メディアの影響で、「悪い食品」を判断する力に問題が生じています。だからこそ、親は、食べ物の良し悪しをしっかり吟味して子供に与えることが求められます。

何を食べるべきか、何が食べられるか、何を食べたいか

詳細はこちらの記事に委ねますが、料理は人類に革命を起こしました。人間らしい体つき、賢い脳、時間(余暇)を人類が手に入れられたのも「料理」のおかげです。

では、私たちは、今後、いかに食べていくのか?

「何を食べるべきか」は、栄養価値の高い、身体に良い料理、「何が食べられるか」は、安心・安全な食べ物で、これらは万人に共通です。しかし、「何を食べたいか」は人それぞれ。現代社会では「おいしさ」と「栄養価」「安心」は乖離する方向に進んでいるように見えます(少なくとも50年前は一致)。

そもそも、人が食べたいものだけを毎日食べることをしないのは、経済的な理由以上に、食べ続けることが身体に良くないことを、無意識に知っていて、セーブするからです。ただし、この「セーブ機能」が壊れがちな人も多いのが現代です。だからこそ、ダイエット本は溢れ、メタボリックドミノで病気になる人がたくさんいます。

いかに食べるか。考えて食べたいですね。

最後に

今回は、土井善晴さんの『一汁一菜でよいという提案』からの学びを紹介しました。

最後に、土井さんの言葉を掲載しておきます。

和食の一汁一菜を食事のスタイルとして、家庭料理を作って下さい。
汁飯香なら、作れます。
きれいに整えて、慎ましく暮らせば、心身は敏感になって、かつ、穏やかになります。
余裕のある日には、季節のおかずを、作って下さい。
料理する幸せがわかるでしょう。
食べる人の笑顔が見られます。
ときには、お客さんを招いて下さい。
おいしい肴を用意して、器を選んで、盛りつけて下さい。
互いにもてなし、楽しむ場を、作って下さい。
そうすることが、和の食文化を守り、子どもたちに伝え残すことになると思います。

是非、本書を手に取って読んでみてください。「生きる上で大切なこと」に気づかされるはずです。