【書評/要約】Amazon Mechanism(谷 敏行 著)(★5) "普通の社員"を"起業家集団"に変えるアマゾンの強さのメカニズムを惜しみなく公開

アマゾンがイノベーションが次々起こし、事業拡大を続ける理由はどこにあるのか?

その理由が、Amazonのイノベーションを生み出す体系化された仕組み・環境=アマゾン・イノベーション・メカニズムにあることを明快に教えてくれるのが、谷 敏行さんの本「Amazon Mechanism (アマゾン・メカニズム)」

アマゾンでイノベーションを生み出しているのは一握りの天才ではない、「普通の社員」。Amazonの事業規模では、特定人物の「ひらめき・センス」に依存していては、事業規模に見合うイノベーションを継続的に生み出し続けることはできません。イノベーションの創出を「仕組みで解決」しているからこそ、アマゾンは強いのです。

本書では、「普通の社員」を「起業家集団」に変え、成長し続けるメカニズムの全容が惜しみなく公開されています。この方法は、過去の成功にひきづらて行き詰まる「日本企業」にも大いに役立ちます。

今回は、谷 敏行さんの本「Amazon Mechanism )」からの学びを、ポイントを絞って紹介します。

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アマゾン、イノベーション量産の方程式

イノベーション量産の方程式:【書評/要約】Amazon Mechanism(谷 敏行 著)

イノベーション量産の方程式

アマゾンは、世界一とも言える「顧客第一主義」を貫く企業です。顧客が望むものを提供し続けるためには「発明」「長期思考」で、イノベーションを起こし続けることが必須です。

これを実現しているのが「アマゾン流:イノベーション量産の方程式」です。

アマゾンのイノベーション量産の方程式

【A】ベンチャー企業家の環境 ✕ 【B】大企業のスケール ― 【C】大企業の落とし穴

アマゾンでは、これを実現するための「仕組み化」「プラクティス化(習慣行動化)」が徹底して行われています。

普通の社員がベンチャー起業家のような思考ができる環境を構築。彼らのアイデアに、経営幹部が「大企業のスケール」を加えて、新しい事業を生み出します。さらに、「大企業が陥りがちな落とし穴」に落ちないような仕組みも構築しているのです。

連続企業家がもつ能力

イノベーションを生み出すにはアイデアと同時に、それを事業化する力が必要です。世の中には新しい事業を何度も立ち上げるシリアルアントプレナー連続投資家がいますが、彼らは以下の2つの能力に秀でます。

❶(特に3~5年後の)未来の「製品・サービス」と「ニーズ」の交点を見極める力
❷優秀な人材を引き付ける力

連続起業家は、世の中の方向感はもちろん、精緻な見積もりが必要で予測が難しい3~5年後の未来を精度よく見極めます。

ベンチャーの成功・失敗の要因の第1位は「タイミング」※です。連続投資家は「技術進化と新製品/サービスが実現する時期」と「顧客ニーズが顕在化し、市場が立ち現れる時期」の交点を見る目に長けているのです。さらに、誰も見たことのない未来の風景を、高い実現性をもって感じさせることで、優れた人材を惹きつけ、チームをビルドアップする力にも優れています。

※2位以下は以下の通り
2位:チーム、3位:アイデ、4位:ビジネスモデル、5位:資金調達

ベゾスは、連続投資家と何が違うのか

では、ベゾスが連続投資家の上を行くのはなぜでしょうか。それは、「組織でイノベーションを起こす仕組み」を作り上げたからです。

「多様な能力を持つ普通の人」たちが、互いの能力を補い合い、モチベーション高くイノベーションに取り組むことで、特殊能力を持つ1人の起業家にひけをとらない成果を上げることを可能にしているのが、アマゾンです。

「普通の社員」を「連続起業家集団」に変える

「普通の社員」を「連続起業家集団」に変える仕組み・プラクティス:【書評/要約】Amazon Mechanism(谷 敏行 著)

ここからは、「アマゾンのイノベーション量産の方程式」の【A】ベンチャー企業家の環境について見ていきます。このコアとなっているのが以下の6つです。

Amazonのイノベーションを起こし続けるための6つの仕組みとプラクティス

❶PR/FAQで「逆方向に思考する」
❷「沈黙から始まる会議」で「社会政治」を撲滅する
❸「イノベーションサミット」でイノベーションの風土情勢
❹「1WAYドア」と「2WAYドア」で区別する
❺「奇妙な会社である」ことを自認する
❻リーダーシップ原則

以下では❶と❸について取り上げます。

PR/FAQで「逆方向に思考する」

アマゾンでは、イノベーションを創出に当たって、「逆方向で思考」=「顧客ニーズからスタートして、そのソリューションとなる製品・サービスを発案」します。この中核を担うのが「PR/FAQ(よくある質問/想定問答)」と呼ばれる企画書です。

3~5年後を想定して、本当に顧客が心から欲しいもと思うサービス・製品を徹底的に考え、想定問答集まで落とし込みます。それを、次のステップでは起案者の提案をチームで精査。さらに、連続企業化のアイデアををチームで作り上げるために、 関連する事業や技術、ファイナンス、法務などのプロも加えてブラッシュアップすることで、未来予測の的中率を上げていきます

短期的には利益が出るかは2の次

アマゾンでは「すぐに儲かる儲かる」という軸ではビジネスを判断しません。「儲かる/儲からない」だけで判断すると、新しいマーケットを生み出すチャンスを見逃します。他社との差別化、技術ありきの発想もありません。あくまで「顧客メリット」が第一です。

市場調査の落とし穴

市場調査のデータや売上予測をもとに製品・サービスを企画するとどうなるか?
この場合、既存市場を前提とした短期的な議論が中心になってしまいます。それよりも、本当にこの製品やサービスを「顧客が必要としているのか」ということに集中する。これこそ、「本質的な議論」と考えるのがアマゾンです。

会議資料作成のルール

Amazonの会議資料は「Wordで1~6枚」というのはよく知られています。箇条書き・グラフ・図、「など」という表現は禁止。意見はすべて散文形式でまとめなければいけません。

散文で書くとごまかしがききません。徹底的に以下を考える必要に迫られます。
・自分の提案したいことは要するに何か?
・その提案の根拠は何か?
・実現性はどの程度あるか?
・実現のための方法は、自分が提案している方法以外にないのか

「ワンウェイ・ドア」と「ツーウェイ・ドア」で区別

イノベーションには失敗がつきものです。リスクを取ることに対して人は臆病です。一方、引き返せるチャレンジなら、 失敗を恐れずに前進することもできます。

アマゾンでは、以下の2つを常に問うことで、ミドル層リーダーの意思決定スピード、および、起業家精神を植えつけを行っています。

ワンウェイ・ドア:一方通行のドア
ツーウェイ・ドア:両方向のドア。引き返せるので前進せよ!

大企業の落とし穴を回避する

レイトン・クリステンセンの『イノベーションのジレンマ』は、企業が破壊的イノベーションによって滅びていく法則を示した名著ですが、大企業は「既存事業を守る」「雇用を守る」、つまり、「自社の都合を優先する」ことで「大企業病」に陥って、輝きを失います。

だから、アマゾンでは、「会社の利益を確保する」ことと「顧客を満足させる」ことを同列に扱いません。「顧客を満足させる」ことが最優先事項です。

ここからは、アマゾンのイノベーション量産の方程式の【C】大企業の落とし穴の回避方法について見ていきます。

大企業の6つの落とし穴と回避策

企業がイノベーションを起こそうとするときに障害になるのが、意思決定の複雑さや遅さです。また、稼ぎ頭事業とのカニバリです。アマゾンでは、この障害を回避する方法が仕組み化されています。

大企業の落とし穴回避策内容
❶新規事業のリーダーが既存事業と兼務で社内調整に追われるシングル・スレッド・リーダーシップ仕事の掛け持ちをしない
一つの意思決定ラインで行動
❷既存事業が優先され、新規事業にリソースが回されない社内カニバリゼーション(共食い)を推奨新しいアイデアが顧客に今までにない価値を提供し、かつ大きなビジネスになる可能性が大きいと判断したら、それが稼ぎ頭である既存ビジネスを陳腐化させるものであっても前進
顧客が何を選ぶかの選択権は顧客
❸新規事業の失敗が担当者の失点になるインプットで評価アウトプット評価(売上、利益など)は結果。アウトプットを生み出すために準備したさまざまなリソース=インプットで評価
❹既存事業の無難な目標設定がチャレンジを妨げる組織文化を作る既存事業にもストレッチ目標人・組織の成長には複利効果がある
全社員がストレッチ目標でチャレンジすれば、複利効果で異次元に行ける(年率5%の成長で15年で2倍)
❺正規化された「過去のコア事業」の幹部が権力を持つ「規模」でなく「成長率」で評価稼ぎ頭を特別扱いしない
❻ルール優先で社員が指示待ちになる全員がリーダー

大企業のスケールを活かす

経営幹部「Sチーム」の果たす役割:【書評/要約】Amazon Mechanism(谷 敏行 著)

最後に紹介するのが、アマゾンのイノベーション量産の方程式の【B】大企業のスケール についてです。

規模のメリットを活かし、規模のデメリットを回避する仕組み

アマゾンのような大企業にはスケールメリットがあります。スケールメリットとは、企業規模の拡大によって得られる様々な効果「規模のメリット」ことです。規模はプラスに作用すれば「メリット」ですが、逆にマイナスに作用すれば、被害は甚大。計画と1%のズレでもその差は甚大です。

この「大企業のスケール」の観点から重要になるのが、経験豊富なリーダー・幹部による、見立・判断・実行です。アマゾンではこの役目を、経営幹部「Sチーム」が担います。

普通の社員⇒チームによってブラッシュアップされたアイデアの中で優れたものは、「Sチーム」によって、さらに精査されます。

アマゾンの幹部に求められること

アマゾンの幹部には、数値ベースの意思決定と、仮説と判断をベースとする意思決定の両立が求められています。どのような場面でどちらを優先べきかを学び、若き部下たちに伝えていくことも幹部の大切な役割です。

また、幹部も率先して企画書を書きます。これも、部下たちが「自分もやってみよう」というモチベーションの醸成につながっています。

経営幹部「Sチーム」の役目

経営幹部「Sチーム」の具体的な役割は以下のようなものです。
以下では、本書のタイトルのみ示すので、詳細は、本書を手に取って読んでみてください。

❶大企業のスケールを社内起業家に与える仕組み・プラクティス

①破壊的イノベーションを担う「Sチーム」と「Sチームゴール」
②経営幹部が新規事業の立ち上げの「経験者」
③新しい技術やスキルの獲得を恐れない
④「数値」と「判断」の両立
⑤「掛け算」の買収

❷イノベーションに適した環境を育む仕組み・プラクティス

①創造性を高めるオフィス環境
②多様性を推進する「アフィニティ・グループ」

❸メカニズムに魂を吹き込む仕組み・プラクティス

①ハンズオンで率先垂範する
②インスティーショナル・イエス Institutional Yes
③ミショナリーとしての本能に逆らう意思決定
④仕組みを進化させる
⑤イノベーションの重要性を会社に継続発信する

最後に

今回は、谷 敏行さんの本「Amazon Mechanism )」からの学びの一部を紹介しました。

本書には、これ以外にも、
・ベゾスの考えを端的に示す、ベゾス自身の発言(の解説)
・イノベーション創出に行き詰まる日本企業に向けた、メッセージ(いかにアマゾンから学ぶか)
なども紹介されています。

いろいろと学びの多い本です。手に取って、1冊通読されることをお勧めします。