【書評/要約】「空気」を読んでも従わない(鴻上尚史 著)(★5)

人の頼みを断れない、自分の意見が言えない、人の目が気になる…

どうして、私たち日本人は、なんとなくの「空気」に流され、不本意な行動を取ってしまうのでしょうか。

今回紹介する鴻上尚史さんの本『「空気」を読んでも従わない』は、世を生きる生き苦しさのヒミツを暴き、楽になるための新しい視点を示してくれる本です。NHKのブックガイド番組「理想的本箱」でも取り上げられた1冊です。

キーワードは「世間」と「社会」。なぜ、日本人が場の雰囲気に飲み込まれやすいのかを示し、その上で、生きづらさを解消する方法を教えてくれます。

岩波ジュニア新書ということで、子どものための本と侮ることなかれ。大人に読んでほしい1冊です。

今回は、本書からの学びを紹介します。

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「世間」と「社会」。その違いを知る

【書評/要約】「空気」を読んでも従わない(鴻上尚史 著):世間と社会

日本は「世間」と「社会」という、2つの世界によって成り立っています。この2つの違いを理解することで、日本人の感じている生き苦しさのヒミツが分かります。

日本の文化:「世間」と「社会」

日本人は、「世間」に生きる民族です。自分に関係のある人たちをとても大切にします。一方で、自分に関係のない「社会」に生きる人たちは、無視します。助けません。

世間・あなたと、直接関係のある人たちのつながり
・会社・組織の仲間、地域のサークルの人や親しい近所の人たち
非常に大切にする
お互いが助け合いつながる安心感と引き換えに、掟・ルールに縛られる
 ⇒頼みを断りづらい、生き苦しい
社会・あなたと、なんの関係もない人たちのこと
・道ですれ違った人とか、電車で隣に座っている人など
知らない人は、助けを求めていてもスルー

日本人は、道・駅などで困っている老人・妊婦を見ても、なるべく関わらないようにします。東日本大震災の時は知らない日本人同士が秩序を持って助け合う姿が見られましたが、これは、一時的に、「国難とも言える危機」を共にする「仲間=世間」になったに過ぎません。

これは、「日本の文化」です。諸外国には「世間」はありません。あるのは「社会」のみです。

なぜ、日本では「世間」が生まれたか

江戸時代まで、日本人は人間関係の濃い世界「村」という「世間」の中で暮らしていました。

「世間」では、掟を守ることが巡り巡って自分のためになります。貧しい村で生きていくために、皆がルールを守って協力します。村では若者の結婚相手の世話までしましたが、これも、村の人口を守り働き手を増やす(減らさない)というメリットがあったからです。だから、掟を破るものは許されません。村八分」にして、徹底的に仲間外れにしました。

明治以降、中途半端に壊れた「世間」

時代は流れ明治時代となり、政府は、富国強兵策で国を強くすることを目指しました。国が(で)国民を守る時代の到来です。政府は「世間」の代わりに「社会」という考え方を国民に示し、「世間」を弱めました。

しかし、現代でも「世間体が悪い」と言った言葉に象徴されるように、「世間」は日本人の意識にあります。

日本人には、「世間」に背くことを申し訳なく思ってしまうDNA、「仲間はずれ」が怖いというDNAが流れています。だから、友達、上司など「世間」の人たちの依頼をなかなか断れません。自分が弱いからとか、性格以前の問題です。

現代社会における「生きづらいさ」の正体

【書評/要約】「空気」を読んでも従わない(鴻上尚史 著):なぜ、生きづらいのか

敵の正体は「空気」

現代では「世間」は弱くなっています。中途半端に壊れた「世間」がカジュアル化したのが、「空気(ムード、ノリ、場の空気)」です。

この「空気」が、現代の日本人が感じてる「生きづらさ」の正体です。

「空気」はもとは「世間」です。よって、時に「空気」は恐ろしいほどの、強力な力で人を苦しめます。

「場の空気」ができるとき

「空気」=場の雰囲気は、その場を決定付ける人がいる場合もありますが、支配者がいない場合も、なんとなく形成されます。場の支配者がいない場合、場の空気は、一瞬で変わるという特徴があります。ある人の一言で、場が和んだり、氷ついたりするのは、そのためです。

「世間」のルール

「世間」とうまく付き合うには、そのルールを知る必要があります。

「世間」の5つのルール

❶年上がえらい(年上の人が重要な判断をしている)
❷「同じ時間を生きる」ことが大切(集団行動を見出すことは許されない)
❸贈り物が大切(何かをもらったら返さないと礼儀知らず)
❹仲間外れを作る(仲間はずれは、世間を1つにまとめるためにも大切)
❺ミステリアス(非合理的・非効率な「いつもそうしている」習慣・慣習の存在)
❻なかなか変わらない(特に悪い側面は)

中でも大事なのは、このようなルールを持つ「世間」は、なかなか変わらないということです。特に、悪い側面は、自然に放っておいて変わることはありません。意識的に変えていこうとしない限り、よくなることがないのです。だから、日本の学校・組織、その他「世間」はなかなか変われないのです。

日本人の「しょうがない」

多くの日本人は、苦しくてもストレスを受け入れがちです。「しょうがない」と諦めます。ここにも、日本の文化・歴史が関わっています。

日本は異民族に侵略・征服されたことはありません。一方、日本を襲ってきたのは、地震、大雨、津波、日照りといった天災です。天災は立ち向かっても無駄な相手です。故、日本人は苦労や苦難に対して「しょうがない」と受け入れました。

一方、欧米・中国など多くの国は、移民から侵略されてきた歴史があります。「しょうがない」で諦めていたら終わりです。英語には日本人的な負け犬があるあきらめの「しょうがない」に該当する言葉はありません。近い言葉に「We have no choice」がありますが、「私たちはやれることはぎりぎりやった。でも、他に方法がない」と意味であり、はじめから「社会」に身を任せたりはしません。

強力な「世間」との戦い方

【書評/要約】「空気」を読んでも従わない(鴻上尚史 著):「世間」との戦い方

では、私たちは、その場を支配する「空気」に対し、どのように付き合ったら、息苦しさから逃れられるのでしょうか。

【対 空気】心の内を声にして発する

まずは、場の雰囲気が自分が思う方向とは異なる方向へ進もうとしたとき、自分の思いを口にしてみることです。こういう時、多くの人も、同じように思っていることがよくあります。そして、誰かがその声を上げてくれたことで、安堵の空気が流れることもあります。

少なくとも、今、決まりつつある「空気」をはっきりと話題にして知らしめると、その場の「空気」は一気に変わります。

【対 同調圧力という世間】戦略・努力が必要

対抗すべき敵が「空気」なら、場の雰囲気は変えられますが、これが、組織や国など世間にある「同調圧力」だと、簡単に変わることはありません。それ相応の準備・作戦が必要です。

いったんは世間のルールを受け入れつつ、変えるきっかけにを探しながら、小さな戦い(揺さぶり)をかけていくことが必要です。適切なタイミングで声を上げ、コツコツとした努力で世間の認識を揺さぶり、仲間を増やしていくのです。

なお、海外にも同調圧力ありますが、欧米の学校では自尊意識を鍛える教育が行われ、同調圧力に立ち向かいやすい人が育っています。一方、日本では「人に迷惑をかけないように」と、「同調圧力に敏感になる教育」が行われています。これが、日本の自尊意識・自己肯定感の低さにつながっています。

同調圧力に屈しない自分の育て方は、以下の本が非常に参考になります。

【対 世間】仲間外れを恐れない

生き苦しさを生む「世間」と戦う方法がもう一つあります。それは、「仲間外れを恐れない」ことです。これはつまり、「世間」から外れるということです。

世間から外れた時に感じる寂しさを軽減する術を知れば、「世間」から抜け出しやすくなります。

寂しさの攻略法

「仲間外れを恐れない自分」を作るコツは、
❶「社会」とつながる
❷複数の弱い「世間」をもつ

ことです。

❶はとても簡単。知らない人との「社会話」を楽しむことです。例えば、コンビニのレジで「ありがとう」ということで、心が少し優しくなりませんか。このような会話を楽しむことです。たった一言の会話が、「世間」に生き苦しくなっているあなたの心を自由にしてくれます。

❷は、学校・組織といった強い「世間」とは異なる、弱い「世間」を持つことです。趣味を通じて等、ゆるくつながることです。人は所属することで、安心感を感じる生き物です。だから、緩く縛らない関係の「世間」を作っておくのです。そうすれば、強い「世間」を抜け出したい時に、安心できる行き場となります。

定年退職した独身男性は孤独に弱いですが、これも、弱い「世間」を持っていないからです。現役時代、強いチームに所属することで、まるで自分が強いと勘違いしているからこそ起こる悲劇です。

スマホのつながりに注意

さて、現代では、SNSを通じて弱い「世間」を見つけやすくなりました。しかし、SNSでは、「いいね=人の評価」を求めすぎると、結局、「世間」に苦しむことになるということです。

多数のフォロワー「いいね」で人に認めらられると、自分は「何者かになったようで心が満たされます。しかし、「読者が気に入るかどうか」だけを考え始めると、人生は不安定になり、不幸になります。

Twitterにつぶやくとき、「読者が気に入るかどうか」の前に「自分は書きたいのか」「自分は面白いと思っているのか」―。自分の人生を決めるのは、自分であって、他人の評価ではありません。

また、スマホでメール・Twitter・Instagramの見過ぎは自分を不幸にします。これは、「世間」を強化することに他ならないからです。適度に弱くつながっておくことが大事です。

最後に

今回は、鴻上尚史さんの本『「空気」を読んでも従わない』からの学びを紹介しました。

本書を1冊読むと、より、生きづらさの正体に腹落ちするとともに、心も軽くなるはずです。鴻上さんの説明がわかりやすく、読みやすくてサラサラ読めるので読書が苦手な方も大丈夫。是非、手に取って読んでみてください。読んでよかったと思えるはずです。