【書評/要約】右手に「論語」左手に「韓非子」(守屋 洋 著)(★4) 性善説か性悪説か、大事なのはバランス。現代を生き抜く秘訣

人間をどう見るか?この問題に対し、昔から2つの見方があります。一つは 性善説、もう一つは性悪説です。

性善説は人間の本性は善、一方、性悪説は人の本性を悪であることを前提とした上で、人とどうかかわったり、社会を納めたりするかを考えます。日本は性善説、それに対し、欧米・露・中は性悪説を前提に、物事を考え、国を統治しています。

さて、ここで性善説と性悪説のどちらがいいかは一旦置いておくとして、私たち日本人が社会のベースとしている性善説の欠点は、相手に対する警戒心が薄く、脇が甘くなることです。そこを衝かれたら、ひとたまりもないのです。

では、日本人はどう人や社会と付き合い、今の時代を生き抜いたらいいのか。

今回は、守屋 洋さんの著書『右手に「論語」左手に「韓非子」』に、現代社会を生き抜く秘訣を学びます。

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性善説と性悪説

【書評/要約】右手に「論語」左手に「韓非子」(守屋 洋 著):性善説と性悪説

性善説:人間の本性は「善」

性善説では、人間は生まれつき「善」の要素を持っていると考えます。人は本質的には悪人ではない。悪人になるのは成長していく過程で何か悪に染まるような出来事と出会うからであり、悪の要素と出会わなければ善人のまま大人になると考えます。

だからこそ、人間を信頼し、その善なる本性を伸ばしていけば、政治も経済もうまくいくと考えます。

性悪説:人間の本性は「悪」

性悪説では、人間の本性は「悪」です。性善説とは真逆で、「善」こそが後天的努力によるもの。「善」は全て「偽善」であり、何かの思惑がなければ善い行いができないものだという説です。だから、

人には生まれつき無限の欲望があり、放っておけば他人と衝突ばかりして争いばかりの世の中になる。。だからこそ、人間の欲望を制することこそが社会の秩序を保つために必要であると考えます。

性善説か性悪説か

では、私たちは、性善説、性悪説、どちらに従って生きるといいのでしょうか。

著者の守屋さんの上記問いに関する答えは「性善説のよさを確認しながら、その欠けた部分を性悪説で補い生きること」。つまり、大切なのはバランスです。

では、具体的に何に気を付けて生きればいいのか?この解を得るために参考とするのが「中国古典」の「論語」と「韓非子」の教えです。

本書では、性善説の代表として『論語』性悪説の典型として『韓非子』を取り上げ、その人間観をわかりやすく示してくれます。

以下では、論語と韓非子の人間学を見ていきます。

論語:性善説の上に成り立つ人間学

【書評/要約】右手に「論語」左手に「韓非子」(守屋 洋 著):

論語は、孔子の言行録です。
日本にも聖徳太子の時代に伝わり以来、読みつがれ、日本人の思想形成に最も大きな影響を与えてきました。かつては、日本人の教養の根幹でもあり、その伝統は現代にも及んでいます。

論語の特徴は「人間学」にあり

論語の特徴は、性善説に基づく「人間学」です。論語には、人間の営みに関する、様々な知恵が盛り込まれてます。

・人格の形成にはどんな努力をすればよいのか
・周りの信頼を得るにはどうすればよいのか
・人間関係にはどう対処すればよいのか
・リーダーにはどんな条件が必要になるのか
・国を治め組織をまとめるにはどうすればよいのか 等

その基本は、上の者から押し付けられるのではなく、自分で自分を磨くための自覚的な努力をベースとしています。そして、世を納める「治人」は、世のため人のために尽くせと指導します。

最も大事なのは「徳」

「徳のある人になりなさい」とはよく聞く言葉ですが、格子が最も大切にしたのが「徳」です。孔子の説く「徳」を一言で表すのは難しいですが、その人の身に備わった品格のことです。人間としての魅力とも言い換えられるかもしれません。

「徳」とは、最高の人としてのあるべき姿であり、最善を他者に尽くし切ることです。徳はただ持っているだけではだめで、その性質をきちんと発揮し、周りに良い影響を与えることが大事です。まずこれを身につけ、上の地位についたときは、これを下々の者に及ぼせば、国も組織もうまく治められると説いています(徳治主義)。

五常の徳:中でも大事な「仁」

徳は、「五常の徳」からなります。これは、仁(思いやり)、義(正義)、礼(秩序)、智(智恵)、信(言行一致)の5つから成るものです。この中、最も大事なのが「仁(思いやり)」です。「仁」を身につけ、それを広く社会に及ぼしていけば、住みやすい世の中にできるはずだ、と孔子は説いています。

韓非子:性悪説の上に成り立つ統治学

【書評/要約】右手に「論語」左手に「韓非子」(守屋 洋 著):

韓非子は、中国戦国時代の法家である韓非の著書です。法治主義・富国強兵を唱えた当時の思想書の代表作であり、性悪説の上に成り立つ統治学です。

現代の中国人の考え方の根底には、韓非子の要素が結構多く含まれています。一方で、韓非子の説くところは、日本人にとって馴染みが薄く、しかも、その論が身もふたもないため、違和感や残念感、やりきれなさを感じる人が多くいます。

人を動かすのは「利益」

論語では、人間を動かしている動機は、「仁(思いやり)」ですが、韓非子ではそんな甘っちょろい考えは皆無です。人間を突き動かすのは、思いやり・愛情・義理、人情のどれでもありません。人を動かすのは「利益」です。

人間は利益に執着する生き物であり、それぞれの立場により、追求する利益も異なります。それ故、君主と臣下もいつお互いに裏切るかわからない存在です。

「人の性は悪、その善なるは偽なり」。つまり、善も「偽善」です。だからこそ、しっかりした規範をつくって、悪なる本性を押さえ込まなければならないのです。

統治に必要なのは「法」と「術」

どんな相手であれ、「もともと人間は信用できない存在」であるとすれば、どうやって国を治めればいいのか。

韓非子が大切だと説くのが、「法」と「術」です。この2つを少し詳細にまとめたのが以下の表です。この2つがあれば、信用ならぬ臣下を手なずけたり、震え上がらせたりして、思うがままに使いこなすことができるというのです。

項目内容
・法律。臣下や人民の従うべき基準
・はっきりと明文化して示しておくことが大事
・違反した者は罰則を適用して処罰
・「法」を運用して臣下を統制するためのノウハウのようなもの
・「法」と違って明文化されたものではない
・賞罰の権限を自分の手にしっかりと握り、自分でそれを行使することが大事(臣下に押さえを効かす、絶対の条件)

本書では論語・韓非子の教えを40個ずつ紹介

【書評/要約】右手に「論語」左手に「韓非子」(守屋 洋 著):

本書では、論語・韓非子の教えが「40個ずつ紹介」されています。それぞれが対比的で非常に参考になります。
以下は、それぞれ40個の中からいくつかをピックアップしたものです。論語はそこに心があり暖かい。一方、韓非子は心が冷たくなります。

論語韓非子
・利益や金銭だけの関係は、いずれ崩れる
 心通い合う友を持て。
・「仁(思いやり)」を身につけよ
・法にばかりを頼るな
・読み、かつ考えよ(読むだけではダメ)
・噓はつくな。過ちに気づいたらすぐ改めよ
 過ちに気づいても改めないのが本当の過ち
・「訥言敏行」を心がけたい
・やる気を出せ
・歴史は先人の苦闘の記録。
 人間の成功の失敗の記録でもある
 歴史に学び、現代に対する洞察を深めよ
・勉強の場はどこにもある
・苦労が人をつくる
・若者には可能性がある
・真価は逆境のときに現われる
・和して同ぜず
・謙虚であれ
・人の道を踏みはずすな
・悪意にはどう報いるのか
・窮しても取り乱すな
・自分には厳しく、人には寛容に
・天命を自覚せよ
・権限を手放すな
・組織内部にも戦いあり
・小さな忠義立てが仇になる
・機密を漏らすな
・厳罰をためらうな
・思いやりの政治は成り立たない
・臣下を信用するな
・愛する者にも用心
・人は利益で動く
・君臣の関係はソロバン勘定だ
・些細なことから崩れていく
・内部の結束を固めよ
・噓も真実になる
・忠誠を当てにするな
・他人を頼むな
・汚い手も使わざるをえない
・恵まれた者は強い
・人の善意をあてにするな
・働かざる者食うべからず
 弱者救済に力を入れれば、財源が問題になる。富裕層へのある程度の負担はやむを得ずとしても、中流層にまで過大な負担を課せば社会の活力が衰える

是非、これらの違いを、本書を手に取って、学んでみてください。

最後に

今回は守屋 洋さんの著書【右手に「論語」左手に「韓非子」】からの学びを紹介しました。私は、韓非子については、全くその内容を知らなったので、大いに勉強になりました。

確かに、日本人は脇が甘く、韓非子的な考えは大事だと思う一方、バランス的には、日本は、性善説(論語):性悪説(韓非子)=9割:1割(あるいは8割:2割)ぐらいの社会であってほしいと思います。

なお、本書を読んでいて思い出したのが、17世紀フランスの文人ラ・フォンテーヌが書いた「ラ・フォンテーヌの寓話」を紹介する著書「悪知恵のすすめ」です。本書には、「日本人は性善説すぎる」とし、まずは疑うことから始まるフランス人の知恵に学べと論じられています。この中で紹介される42の悪知恵は、確かに、日本人は学んでおいた方がいい内容であり、だまされる前の転ばぬ知恵となってくれます。合わせて読んでみてはいかがでしょうか。