【書評/要約】悪知恵のすすめ(鹿島茂 著)(★4) ~日本人は性善説すぎて脇が甘い!フランス寓話に学ぶ 42の人生訓

「イソップ童話(寓話)」というと、子どもに人生の教訓をわかりやすく教える物語。古代ギリシャの寓話で「太陽と北風」はその代表作です。しかし、この「イソップ寓話」をもとに17世紀フランスの文人ラ・フォンテーヌが書いた「ラ・フォンテーヌの寓話」を知る人は少ないでしょう。

「ラ・フォンテーヌの寓話」は、子供への教え以上に、子供に読み聞かせる大人側に多くの学びを与える、厳しい社会の中で「生き残るための人生訓」に満ちています。

ビジネスマンなら読んでおけとも言われるマキャヴェリの「君主論」にも負けない内容っぷりで、悪意・競争のはびこる社会で勝ち組になるために、どうするべきか/どうしないべきか、現代、我々が置かれた資本主義社会での生きるためにも通用する含蓄ある「知恵」が満載です。

著書「悪知恵のすすめ」は、このラ・フォンテーヌの寓話から、含蓄の深い42作品を取り上げた一冊。寓話とともに、悪意・憎悪・競争がはびこる現社会を切り取りなら、様々な教えを与えてくれます。

タイトルの「悪知恵」とは、悪さを働くという意味ではありません。「生き残るための知恵」です。読むべき良書です。

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性善説すぎる日本人に警鐘

性善説すぎる日本人に警鐘

基本、性善説な日本。学校教育で「騙すな」という教育はされても、「騙されるな」という教育はあまりされません。さらに、現代日本は比較的、安心・平和な社会で生きているため、他国に比べて警戒心というものが備わっていません。これでは、グローバル社会で生き残りはできません。

性悪説を教育の第一原理とするフランス思考を学ぶ意義

ラ・フォンテーヌの寓話は、性悪説を教育の第一原理としている「フランス人思考」がベースとなっています。こちらがいくら善意や好意をもって接しようとしても、向こうが悪意や憎悪をもって臨んでくる場合、いかに対処するかを様々な寓話で教えてくれます。

学ぶべきは「用心深さ・疑い深さ」

「悪知恵のすすめ」で紹介される「42の教え」の一つに「見かけで判断するのはよくないが、判断は見かけでしかできない」というものがあります。

見かけで判断するために最も大事なのは相手の「目」。相手の目をしっかり見据える必要がありますが、日本人は相手の目を見ながら話をするのが苦手です。これも警戒心の薄い日本人特有の気質です。

しかし、これでは、相手に騙されるリスクが高まります。確実な証拠を自分の力で摑むまでは絶対に相手を信用してはいけません。

本書では、著者の鹿島茂さんが、ラフォンテーヌの寓話ごとに、現代の日本人、そして日本が、グローバル社会のおいてどのような危うい状態にあるのかを解説。日本人が持つべきは「キツネの用心深さ」「疑い深さ」であることを教えてくれます。

悪知恵のすすめ:42の人生訓

悪知恵のすすめ:42の人生訓

本書では、寓話を題材に以下の教えが学べます。かなりシュールですが、現代社会を生き抜く「知恵」が学べて、とても面白いです。
ビジネス、投資にも役立つ教えがたくさんあります。

42の人生訓:一覧

1. 無知な友より、賢明な敵のほうがまし
2. 働いて自分だけ豊かになりたがる日本人
3. 人とは微差に過剰反応するものである
4. 騙し騙されは人生にとって絶対に回避できない
5. たとえ飢え死にしようとも、孤高に生きる
6. ライオンと闘うには民主主義ではダメ
7. ライオンの言う「おいしい話」を簡単に信じるな
8. 最も強い者の理屈は、つねに最も正しい
9. 小さな親切は、大きなお世話である
10. わが身の不幸は、ふりかからなければわからない
11. だれがネコの首に鈴をつけるのか、それが問題
12. 最も恐るべき敵は、ときに最も矮小な敵である
13. 性格のよくない人に何か与えると、必ず後悔する
14. 人の背負っている荷物はそれぞれ違う
15. 人間はときに自分より小さなものの助けを必要とする
16. 自分より臆病なやつを見つけられない者は、この世にいない
17. ペテン師をペテンにかけるほど楽しいことはない
18. ある年齢を過ぎると、本性はすべてをあざ笑う
19. 得意なものと好きなものは必ずしも一致しない
20. ヒトの欲はエスカレートするものである
21. 世の中には、偽りの噂を流す悪意ある人間がいる
22. オオカミはオオカミらしく振る舞うのがいちばん
23. 何ごとにおいても、先のことを考えろ
24. 危険が迫っているときでも、甘美なる歌声は邪魔にならない
25. 悪党とはたえず戦いつづけねばならない
26. 愚かなロバは蔑むべし
27. 恋がわれをとらえるとき、賢い知恵は消えてなくなる
28. 少しでも怪しいと感じたら、危険に近づくな
29. 海は素晴らしいものを約束するが、それを当てにしてはいけない
30. 固有名詞にうといのは地雷である。うっかり踏むと、命取り
31. 遠くから見ればたいした人物だが、近くから見るとろくでもない
32. 復讐は、その後の償いを秤にかければ割に合うものではない
33. つきあうなら、同じ身分の人にしておくほうがいい
34. 手中にある一匹の魚は、いつか手に入る二匹の魚より値打ちがある
35. 人種や民族を理由の迫害が始まったら、正しい抗議も無駄
36. いったん流行が始まってしまったら、何人といえども逆らえない
37. 金の卵を産むメンドリの腹を裂いてはならない
38. 敬意は、衣装に対して払われるものである
39. 予測できない未来に値をつけることを「博打」という
40. 勇気を試す本当の試金石は、差し迫った危険のうちだけにある
41. 見かけで判断するのはよくないが、判断は見かけでしかできない
42. 現状は決して満足させることがない。いつも最悪の状態である

以下では上記42の人生訓の中から、いくつかピックアップして紹介します。

1.無知な友より、賢明な敵のほうがまし

ラ・フォンテーヌの言う「賢明な敵」とは正しい損得勘定ができる敵のこと。「無知な友」とは損得の判断がつかずに、一時的な感情(正義感、友愛、etc.)に駆られて行動を起こしてしまう味方のこと。確かにごごもっともです。

働いて自分だけ豊かになりたがる日本人(日本人の労働観)

日本人は、食糧確保のためにひたすら働くアリで×、フランス人は働かず、歌で人を楽しませるセミで〇 というのが本書教え。ただ、これだけではわかりにくいので、解説を。

イソップ童話の「アリとキリギリス」ではアリとキリギリスのように真面目に働きましょうと教えられますが、労働は、フランス・カトリック的な考え方では、懲罰であり、苦痛。旧約聖書のアダムとエヴァは蛇に楚々の枯れて禁断を実を食べたために、罰として「労働」を与えられました。ヨーロッパ人は夏に長期バカンスを楽しみますが、それは、根底に労働は「必要悪」との考えがあるからです。そんなカトリック的思考から見ると、日本人の労働観は働いて自分だけ豊かになりたがる金の亡者に見えます。

では、現代の日本人の労働・所得はどうか?日本は世界の先進国から見ると所得が低く、幸福度も低く、自殺者の割合も多い。盲目的ただ会社にしたがって働けば所得も増える時代はとっくに終わりました。「ただ真面目に働くのが正義」という労働観は、既に時代にマッチしていないように感じるのは私だけではないはずです。

このような考え方は、ひろゆきさんの考え方が非常に参考になります。

3.人とは微差に過剰反応するものである

圧倒的な勝ち組には腹は立たない。しかし、同期入社の友が少しでも給料が上だと、猛烈に腹が立つし、自尊心が傷つけられて落ち込む。
私もちっちゃい人間。私が会社員の時はそうでした。しかし、会社やめて比較対象がなくなったら、とても幸福になりました。

6/7/8 強者の理論

世の中を太平に保つためには、圧倒的な「強者」が必要。圧倒的な強者が盾となって弱者は守られるからです。しかし、一方で、強者は1番目だけでなく、2つ目、3つ目の権利を手中に納めてしまう。現世界では、ライオン=米国です。

では、ライオンと闘うには、どうしたらいいのか?
ライオンの力の差が大きすぎる場合には、「みんなが力を合わせて」とか「話し合いで」とかいった民主主義的な奇麗事で済むわけがない。かといって、革命やクーデターが成功する可能性は限りなく小さい。それは、スターリンや毛沢東などのような独裁者の恐怖の呪縛から国民が解放されるには、彼らの死を待ち続けなければならなかったことからも明らか。

さらに始末が悪いのは、病気や老いを自覚したライオン。弱気にもなるが、猜疑心もいっそう強く、狡猾になる。臣下の忠誠を試そうとする傾向も強くなるので、ライオンのおいしい話を簡単に信じてはいけない。権力者が、自ら進んで権力の一部を放棄するなどということは、まず、絶対にあり得ない。そんな態度を見たときは、まず、疑うべきです。

現代における「最も強い者」は「最も金のある者」と重なる。「最も強く、金のがある者」はどこに行っても負けない。強い者の理屈は常に正しくなってしまうのです。

さて、現代の国際情勢についてはどうか、考えてみよう。

10.わが身の不幸は、ふりかからなければわからない

事前にどんなに警告があったとしても、自分の身に不幸が襲いかからない限り、警戒心は薄い。ガヤガヤと騒ぐだけで、何一つ決めて行動することはありません。

バブル崩壊以来、繰り返された財政出動で多額の税金が公共事業に費やされたが、景気回復のカンフル剤になるどころか空しくどこかに吸い取られ、税収が増えることはなかった。その結果、増税以外に道はなくなったが、政治家も国民もそれほどに危機を感じず、赤字国債に頼り続けた。日本にはギリシャショック時はドイツが助けてくれたが、日本にはそんな救済支援者はいない。さて、行方は?!

11.だれがネコの首に鈴をつけるのか、それが問題

民主党政権下で話題となった「事業仕分け」。総論では、仕分けに反対する者はいない。しかし、各論に入り、個別の話となると、途端に批判が続出した。損な役回りをして猫の首に鈴をようとする政治家はいないのです。

14.人の背負っている荷物はそれぞれ違う

人は他人がいい思いをしていると知ると、真似をしてみたくなるのが常です。投資での大儲け話はその好例。奇跡のような儲け話が自分にもあるかもと考えて、大事な資産を投じてしまう。

この敗因は、自分との条件の違いというものを一切無視してしまうところにある。基礎知識、経験、タイミング、ばくちの才能 等、あらかじめあたら得られた条件は驚くほど違います。メディアで「主婦が片手間で大儲け」とはやされても、実際はそうではありません。相当の時間を投資につぎ込み、全身全霊で勝負した結果です。

「あいつにできるなら、自分も」という発想はやめたほうがいいのです。

16.自分より臆病なやつを見つけられない者は、この世にいない

臆病者であれ、心配性の者であれ、自分よりもひどい者を見つけると、それだけで治療効果があります。かくして、人は自分より弱者を探すのです。

では、今の日本。デフレと言われて久しいですが、日本の病を気分的に救うさらなる弱者はいるか? 残念ながら、日本が「特攻先発隊」であり、前には誰もいない…つまり、うつ症状から回復はできません。

34.手中にある一匹の魚は、いつか手に入る二匹の魚より値打ちがある

「現金が強い」という資本主義社会の鉄則。しかし、最も投資タイミングとして魅力のある大恐慌時などにおいて、この芸当ができるのは、マーケット参加者のほんの一部にすぎなません。
ほとんどの人は二羽目を狙ってすでに「破滅」してしまっています。つまり、安く変えるタイミングでは投じるお金を持っていないのです。 かくて、世界の富は現金のある一部の人間にますます集中してゆく。

35.人種や民族を理由の迫害が始まったら、正しい抗議も無駄

意志や努力で変えることのできないものは相当にあります。

まず、人種と民族。これは絶対に変更不可能。宗教も日本人のように無宗教が大多数を占めるケースはまれで、民族や国籍と重なっているから、これもたいていは変更不可能。一人種同一民族でも、出身の地方や階層によって違いは大きい。この出身地方・階層というのも変更不可能である。親の職業、貧富の別、学歴も同じ。さらに、身長、顔、声、体毛や目の色といった身体的特徴も、美容整形を施す以外は変えられないのが普通です。
だから、社会に何がしかの変化が表れて、こうした変更不可能なものへの風当たりが強くなったときには、当事者は理不尽な差別や迫害で苦しむことになります。

いったん人種や民族を理由にした迫害が始まったら、どれほど正しい抗議を行ったとしても無駄だという悲しい諦念を身につけておいた方がいい。そう考えると、日本とはなんと、幸せな国か!

39.予測できない未来に値をつけることを「博打」という

かつて、博打は「博打打ち」というプロだけが参加するものと決まっていた。賭場では、損するも得するもすべて本人の責任という不文律が支配していたから、負けても天を恨むしかなかった。もちろん素人衆は出入り禁止で、素人衆を賭場に誘うことは、博打打ちの仁義に反するとされていたのである。 現在、博打という名を名乗っていない博打が世の中にはどれくらいはびこっているのだろうか?

最後に

今回は、生き残る・勝ち残るために日本人はもっと「用心深さ」「疑い深さ」を身に着けるべきであることを、著書「悪知恵のすすめ」に学びました。

私も、人やある事実を信じすぎて、痛い目にあったこと多数…
痛い目にあったときに復帰する力は経験を経てついてきたように思いますが、その発端となる「騙されない力」「事実を見誤らない力」の方が大切です。本書の学びを人生で役立てていけるよう精進します。