【書評/要約】多様性の科学(マシュー・サイド 著)(★5) 多様性が大事ってそういうことだったのか!脳がアップデートされる超良書

多様性は大事。

現代社会で「多様性」は差別問題や倫理問題として語られることが多いですが、人類の発展、より現代的には「業績を上げる要因」「イノベーションを起こす要因」として極めて重要であることを、徹底解説してくれるのがマシュー・サイドさんの著書「多様性の科学」。

必要なのは、個人知より集合知であり、個人主義なアプローチより全体論的なアプローチ。組織や社会の今後の繁栄は、個人個人が持つ多様性をいかに活かせるかにかかっています。

本書を読むと、社会・企業のみならず、一個人として「豊かにしなやかに生きる術」もわかります。きっと、本書を読み終える頃には、これまでとは違った視点から「新たな成功の法則」が見えてくるはずです。

自分の思考を大いにアップデートさせてくれる本でした。今回は、「多様性の科学」からの学びの一部を紹介します。

なぜ、多様性が必要か。画一的集団の死角

【書評/要約】多様性の科学(マシュー・サイド 著)(★5):画一的集団の死角

現代社会は様々な問題を抱えています。単純な簡単な問題を解く場合、多様性は必要ありません。しかし、複雑な問題となると、たとえ天才であっても一人ではできない。必要なのは「多様性のある集団」です。

画一的な集団が抱えるもっとも根深い真の問題

画一的な集団が抱えるもっとも根深い真の問題は、本来見なければいけないデータ、訊かなければいけない質問、つかまえなければいけないチャンスを、自分たちが逃していることに気づいてさえいないことです。

私たちは皆、自分自身のものの見方や考え方には無自覚です。違う視点で物事をとらえている人から学べることがたくさんあるのに、それに気づかずに日々を過ごしています。同じような考えの人ばかりが集まると、考え方に「盲点」が生まれます。「盲点」を共有し、しかも、同調し合って、その傾向を互いに強化してしまうことにつながります。

視野の狭い画一的な集団は、互いに同じ間違いを犯す。
同じ場所で立ち往生し、解決の糸口やチャンスを見逃してしまう。
さらに、不適切な判断をした場合も、同調し合って、自信をもってその方向に進んでいってしまう。

これは、取り組む問題が複雑なら複雑なほどそうなり得ます。

成功戦略としての多様性

昨今のAIの進化も、十年前の機械学習とは異なり、多様なアルゴリズム・予測因子を組み合わせることで進化しました。人の組織も同じです。

かつてビジネスの現場では女性は軽んじられ意見は聞き入れられませんでした。しかし、人口の半分がもたらす意見を排除してしまっては、多様な視点・発見ができるはずもありません。現在、ビジネス・科学・研究など、様々な世界では女性の登用が高まっていますが、これは多様性の観点からも極めて大事なことです。

このようなことから、今、最先端組織の多くが、成功戦略として多様性を取り入れ始めています。

強すぎるリーダーが集団をダメにする

私たちは、序列が定められたヒエラルキー集団の中で生きるよう設計されています。支配者が、従属者を威圧してまわりを動かそうとするのは、ボスザルも金融街のやり手も変わりません。

このような特徴があるのは、進化の過程、生き残り戦略上重要だったからです。群れ・集団なりが選択に迫られたとき、それが単純な問題なら、支配的なリーダーが決定を下し、他が従う方が、迅速に一体となって行動できたからです。しかし、問題が複雑になると、一人の力では問題が解決できません。

ところが、強すぎるリーダー・独裁者は多様な意見・アイデアを握りつぶします。結果、集団はダメになるのです。

尊敬されるリーダーは、なぜ、情報を共有するのか

支配型のリーダーに対し、尊敬型のリーダーは、自ら進んで集団と知恵・アイデアを共有、周りの声にも耳を傾けます。

それは、賢明な判断には集団の知恵が欠かせないと考えるからです。すると、そこに絆が生まれ、それが伝搬して、集団全体に協力的な体制が築かれます。結果、相手ばかりでなく自分にもプラスになる「ポジティブ・サム」的な環境が強化され、全体パフォーマンスもアップします。そして、ますます信頼の絆が強化され、安定したヒエラルキーが形成されます。

これに対し、支配型のヒエラルキーは「ゼロ・サム」です。誰かの地位が上がれば、誰かが蹴落とされます。、常に警戒が必要であり、問題があれば干されます。これでは集団はダメになります。

ただ、支配型も尊敬型もそれぞれに適した時と場所があります。賢明なリーダーはその両方を使い分けます。何か計画を実行するときに重要になるのは支配型。新たな戦略を考えたり、将来を予測したり、あるいはイノベーションを起こそうというときは、多様な視点を取り入れるのです。

無意識のうちにリーダーを決めてしまう罠

フレンドリーで尊敬されるリーダーが組織の発展に大事なことはわかりましたが、ここで、ヒエラルキーには大きなパラドックスな不都合があることを知っておかなければなりません。

私たち人間は不確かな状況に直面すると、ある種の支配的なリーダーを支持して、秩序を取り戻そうとする傾向があります。不安な時に神頼みするように、無意識に強いリーダーに救いを求めてしまうのです。

しかし、不都合にも、こういう時こそ、多様な声を聴いて、最大限の集合知を得ることがが肝心であるのです…

「支配型ヒエラルキー」は単にリーダーによって発生するのではなく、そんなリーダーを求めるチームや組織や国にも原因がある。このことは覚えておく必要があります。

イノベーションと多様性

【書評/要約】多様性の科学(マシュー・サイド 著)(★5):イノベーションと多様性

社会が成長を遂げる最も大きな要因は「イノベーション」です。イノベーションには多様なアイデアが欠かせません。
では、なぜ一部の組織や社会だけが、他に比べて革新的なのでしょうか?

イノベーションには2種類ある

イノベーションには主に2つの種類があります。

❶特定の方向に向かって一歩ずつ前進する自然淘汰的な「漸進的イノベーション
❷それまで関連のなかった異分野のアイデアを融合する「融合のイノベーション

どちらのイノベーションも重要ですが、昨今の変化や革新の原動力は「融合のイノベーション」です。

融合のイノベーション的思考が得意な人

アイデアの組み合わせ「融合のイノベーション」を生み出すチャンスはあなたにもあります。しかし、多くの人はその可能性に背を向けています。「自分はそんな創造性はない、一部の天才が生み出すもの」とはなから諦めています。だから、大事な気づきを育てられません。

では、「融合のイノベーション」を生み出しやすい人にはにはどんな特徴があるでしょうか?

移民、或いは移民の子である割合が高いことが知られています。イーロン・マスクや、Googleのセルゲイ・ブリンもその一人です。移民は新天地で新たな文化を経験。古い慣習や思い込みを、新たな観点から見て疑問に思った場合も、それを自分なりに最適化して受け入れます。このような思考が、アイデアを変化・修正・融合するための一助となるのです。

アイデアの融合を生み出すスキルの磨き方

移民に見られるセンスは、「外国に住んでいるところを想像してみる」といった訓練でも強化できます。外国で1日の間に起こりそうな出来事、その時の感情や行動を想像し、書き出してみる。これが連想力・想像力アップにつながります。

また、読書などを通じて、異分野を垣根を越えて学ぶことでも創造性はアップします。視野が広がることで、別の角度から問題をとらえ直すことができるようになり、多様な分野の知恵やアイデアを融合するチャンスが得られるからです。

ここで大事なのが「第三者のマインドセット」です。どっぷりその分野にはまってしまっては新しい発想は生まれません。当事者でいながら、少し距離を置き、第三者でいることが求められます。

そして、現状に疑問を呈して、既存の枠組みの外へと飛び出す行動力も大事。私たちは、無意識に変化を嫌い、現状を維持しようとしますがそれではダメ。リスクを恐れず行動し、壁にぶち当たることで、逆境を跳ね返す力「レジリエンス」を身につけることが求められます。

そのアイデアが次のアイデアを誘発する

世の中を広く見渡すと、突出してイノベーションを生み出す企業・エリアがあります。このような「場所の発生」はどの様なメカニズムで起こるのでしょうか。

これを紐解くうえで大事なのは「共有」です。アイデアは人と共有すると、その可能性はどんどん広がり「アイデアはさらに新たなアイデアを誘発」します。

シリコンバレーが先進的な技術を生み出す地となったのも、優れたエンジニアが企業という枠を超えて自由につながり、情報やアイデアを共有しあった結果です。

知的創造力は人とのつながりの連鎖の中で強まり、そうした文化資本は世代を超えて継がれていきます。歴史においても、イノベーションが同時多発的に発生する時代がありますが、これは複数のコミュニティが知的討論の場で交差し合ったときです。

イノベーションは、一人の「偉人」によって生まれるわけではありません。集団脳の産物であり、それまでつながることのなかった数々のアイデアが連鎖した結果なのです。

エコチェンバー現象:数と多様性の逆説的結果

【書評/要約】多様性の科学(マシュー・サイド 著)(★5):エコチェンバー現象

では、より多様性の多い人間関係を構築するにはどうしたらいいでしょうか?ただ、人と出会い共有すればいいというわけではありません。ここにも大きな落とし穴があります。

人数が多いと多様性も高い?

大学は、生まれ育った環境や、考え方の異なる人々とつながれる場です。では、より多様性の多い人間関係を構築したいと思ったら、人数の大きな大学の方がいいのか?

調査結果が明らかにした答えは、以外にも「No」。人は大きなコミュニティに属すると、より狭いネットワークを構築する傾向があるからです。

多くの人がいると、人は自分と同じような考え・文化を持つ人が見つかります。結果、つながりに多様性がなくなるのです。対して、小規模大学は学生数が少なく、友達候補の選択肢も少なく自分と似た人を見つけにくい。結果、ある意味妥協して少し違いのある人を受け入れ交流を深めます。これが「多様性のあるネットワークの構築につながる」のです。これは大学に限ったことではありません。

すぐつながれるからこその矛盾「エコーチェンバー現象」

現代は、デジタル技術を通して世界中の誰とでも一瞬にしてつながれる時代です。しかし、ここでも起こっているのは、世界が広がるほど、人々の視野が狭まっていくという矛盾現象「エコーチェンバー現象です。

自分にとって都合がよく、心地がいい人のみとつながり、似た者同士でコミュニケーションを繰り返すと、結束が高まり、特定の信念のみが強化され、強い自己正当化を起こします。これは、ある種、自分にフィルターがかかった状態です。

エコーチェンバー現象の怖さ

ネット上のつながりを見てみてください。インターネットは、その多様性とは裏腹に、同じ思想を持つ画一的集団が点々と存在する場となり、自分の意見を極端に信じるようになった結果、反対意見への寛容さが失われ、攻撃的になるという、残念な結果を起こしています。

これは、現代社会における特徴的な問題の一つです。「白人至上主義」「極端な政治的思想」「ワクチン反対」も同様の仕組みで起こります。この時、人がつながる上で大事な「信頼」は失われ、不信感が人から人に伝搬し、社会を生きにくいものにします。

平均値の落とし穴

【書評/要約】多様性の科学(マシュー・サイド 著)(★5):エコチェンバー現象

多様性を奪う罠はエコチェンバー現象だけではありません。実は、「平均値」も私たちが無意識のうちに陥る落とし穴です。

標準化は人を枠にはめる

誰もが関心のあるダイエット。次から次へとダイエット方法が登場しますが、多くの人はどれを試しても失敗します。それは、どのダイエットも、個々の人間を見ず、全員を「平均値」として扱うからです。

標準化とは、多様な人々を無理やり一つの「平均モデル」に強制します。個人個人の有益な違いはすべて無視します。

これが集団の仕組みで用いられると「思考がパターン化」され、「柔軟性に乏しい集団」となります。「一般常識」など、このような思考は世の中にはびこっています。

標準を疑え!

ダイエットに限らず、教育カリキュラム、勤務形態など、様々な標準化された手法は、どれも、それぞれ人間の多様性を考慮し損ねています。だから、一般的に「ベストプラクティス(最適解)」と言われる方法でも、効果が出ないということはよくあります。最適解は絶対的なものではなく「今のところは最善」であるにすぎません。

例えば、食生活の標準ガイドラインは、標準化されたコックピットと同じで、人間の多様性を無視しています。
血糖値コントロールで痩せたければ、血糖値が乱高下しない食事を見つけるために、何を食べたら血糖値がどうなるか、自分の数値を取らないといけません。そのうえで、血糖値管理し、自分にあった食事療法を探っていく必要があります。

平均・標準化には「多様性を軽んじる罠」があることを注意しましょう。

独自の環境を作ることで才能は開花する

アップルウォッチを代表に、今現在、簡単に個人の健康情報が取れるようになりました。このような、「標準化から個人化」の流れは止まりません。健康情報に限らず、教育、働き方等、今後は我々の生活のあらゆる領域で、「標準化から個人化への転換」が起こります。

多様性は人間らしさの大事な一部です。今こそそれを真剣に考えるべきです。上手に利用すれば、幸福度は増します。

人類の進化と多様性

【書評/要約】多様性の科学(マシュー・サイド 著)(★5):人類の進化と多様性

ここからは、多様性を、人間の進化・歴史からとらえ直します。

個人知から集合知への転換が人類を進化させた

一般的に、人間が他の動物と比較してずば抜けて進化した理由は、「大きな脳を手に入れたこと」と考えます。しかし、正しくは「多様性を受け入れ、集団脳・集団知を手に入れたこと」が人類に最大の進化をもたらしました。

個人知から集合知への進化」— これにより、知恵やアイデアの蓄積・継承が飛躍的に進み、やがて人類には人類に大きな遺伝的進化をもたらしたのです。集団の情報量が急速に増大した結果、その記憶や整理のために脳の容量が拡大(約350cc→1350cc)したのです。

人類の祖先がまず、集団知で獲得したことの一つが「火を使って調理する」というテクノロジーです。これにより、人は安全な食料を増やし、消化負担や毒の心配が減りました。その結果、大きな消化器官・大きな口・強力なあごが不要となりました。また、生命維持に必要な「水」の確保も、「水筒」というテクノロジーを発明しすることで解決しました。そして、生存率もUPしました。

こうして、人間は、生理的・機能的、文化、社会の在り方、心理など、実に様々な進化を手に入れたのです。動物は、イノベーションを集合知とすることができないため、知恵やアイデアの蓄積・継承が継承されません。だから、特定の個体がイノベーションを起こしても、その世代で消滅しまうのと、大きな差です。

勝ち組・負け組

古代の人類は、生存のためのスキルを集団知を用いて洗練させていきました。この時、起こるのが「生存確率が高い進化を遂げたものが残り、低い者は淘汰される」という進化です。つまり、自然淘汰によって、効率良く集団から獲得・記憶・整理する心理的能力を身に着けた者が生き延びる、優位に立つ。

賢い勝ち組が残り、負け組は滅んでいくという構図です。能力の低い者は淘汰されます。

こういう現象を見ると、やっぱり、現代社会に起こる「貧富の二極化」「強者・弱者」は生きとし生けるもの宿命なのだと痛感させられます。

最後に

今回は、マシュー・サイドさんの著書「多様性の科学」からの学びを紹介しました。

本書には、今回紹介した内容以外にも多様性のメリットをどのように実生活に活かすか、3つの方法が紹介されています。とても重要なことを教えてくれるので、是非、本書を手に取って読んでみてください。

イノベーションはたった1人の天才が起こすわけではない。
人類の繁栄は、個人の脳を超えた集団脳によるもの。イノベーションは、個人の知恵以上に、集団のネットワークの中で起こる融合がカギとなる!

今後の私の、人とのかかわり方にも変化をもたらす学びとなりました。