201X年。青天の霹靂で日本初の女性首相になった霧島さくら子。
長引くデフレ、財政破綻論、自由貿易促進の声など、目の前に山積する国家の難題を抱えるさくら子は、首相公邸のソメイヨシノの下で不思議な老人と出会う。
その老人とは高橋是清であった。

本書は、世相が酷似する是清が生きた「大正~昭和時代」と「現代」を巧みに交錯させた政治経済小説です。毎年、ソメイヨシノの下で年に1度だけ出会う是清の話をきっかけに、さくら子は自分が首相として何をすべきなのかを理解し、大胆な経済政策を打ち立てていくのです。

ストーリーを読むと、是清の生きた時代と現代がいかに酷似しているのか、そして、その時、現代の安倍首相や麻生大臣が尊敬・手本とするする是清がどのような考えをもとに政治・経済を動かしていたかがわかるようになっています。

私は高橋是清については2.26事件で暗殺されたことぐらいしか知りませんでしたが、本書を読み時代背景を知りたくなりました。そんな政治・経済・歴史に興味を持たせてくれるビジネス小説です。オススメです。

まずはお勉強:酷似する2つの時代

分類 是清の時代 現代
1.金融 1920年 大正バブル崩壊→長期デフレがスタート 1990年 平成バブル崩壊→長期デフレがスタート
2.震災 1923年 関東大震災、1993年昭和三陸地震 1995年 阪神淡路大震災、2011年東日本大震災、
2015年熊本地震
3.恐慌 1929年 世界第恐慌 2007年 米国不動産バブル崩壊 →2008年 リーマンショック
4.政治 短命政権が続く 安倍内閣の前は短命政権が続く

上記のような酷似する時代の中、是清は以下のような政策を実施しています。
・金本位制を放棄して管理通貨制度に移行
・大量の国公債発行による公共事業や軍事への投資

つまり、是清はケインズ政策の先駆けとも言える公共事業・軍事予算を活用した積極財政政策を実行。大量の国債を日銀に引き受けさせることで財政規模を拡大。世界第恐慌後の日本で、リフレ政策を実施することでデフレ脱却を行いました。

結果、日本は欧米諸国よりも早く世界恐慌から離脱します。しかし、国民生活を圧迫する高率のインフレーション(物価上昇)を抑制するために、赤字国債と国家予算を縮小しようとして「軍事費削減」を実施しようとするのです。この行為は、軍部の怒りを買うこととなり、結果、1936年「2.26事件」により、赤坂自宅にて暗殺、82歳の生涯を終えました。

デフレ時に国がすべきこと1~是清の言葉より

デフレに陥った国の政府が、増税や公共事業削減などの緊縮財政をしてはいけないというのは本当でしょうか?政府が増税をして、支出を削れば財政が改善すると思うのですが。」

「財政が悪化するとたちまち緊縮緊縮と言い出す輩がおる。そうすると、国民所得が減少し、税収も減ってしまう。何しろ、税収とは国民所得つまりは国民総生産から【政府に分配された所得】に過ぎんのだ。税収が減ると、財政はさらに悪化してしまう。
緊縮緊縮と言っているやつらは、そもそも国民経済の基本すら全く理解していないことになるわけだな。」

「国の経済と個人経済(家計簿)を一緒に語ってはいかんのだ」

国債発行をすると「日本破綻論」が飛び出しますが、デフレかつ震災が起こり、国民生活が窮しているようなときは、復興のために投資すればいいのです。

デフレ時に国がすべきこと2~是清の言葉より

「国民の多くが蓄財に走り、しかもそれを企業が借り入れて投資しないようなデフレの時期には、政府が国債を殖やす以外に方法はない。さもなくば、アメリカのように国民所得が半分になるという大惨事を招きかねないのだ。
しかも、デフレの時は国民がみな蓄財に励み、金を借りようとしても使おうともしないので、政府が国債を発行しようとした場合、極めて低金利で借りることができるのだ」

デフレ時には政府が民間に代わり貯蓄を借り入れて投資することが大切だと言っています。また、投資が活発化した時に生じる「信用創造」についても非常にわかりやすく解説されています。

自由貿易協定 ~是清の言葉より

自由貿易自体は、国民経済のための単なる道具であり、それ自体が必ず肯定されるという類のものではない。特に、欧米諸国が唱える「自由貿易」は、そうだ。何しろ、欧米列強が自由貿易を主張するとき、彼らは原理原則に従ってそれを主張しているのではなく、彼ら自身の利益のために主張している。

自由貿易という名のもとで関税という盾なしで、生産性が極端に高い欧米と交易をした日には、自国の産業が壊滅してしまう。無論、大勢の国民が職を失うことになる。その分、欧米の産業や雇用が潤うという話だが……英国から自由貿易を強制されたインドでは、国内の綿産業が消滅してしまったのだよ。大勢のインド人が働く場を失い、所得を得ることができなくなり、餓死者まで出る始末だ。国民経済がそのような状況に陥ったとして、それでも『自由貿易は絶対的な善である』などと言えるのだろうか?

(略)
外国の製品を輸入することは、つまり自国での生産をその分減らすということだ。自国で生産が減少すれば、雇用の機会も減少する。結果的に、「国民経済の最重要要素」である生産力(=供給能力)と雇用が失われてしまうのだ。

正にTPP…

ホントに輸出依存? ~是清の言葉より

「さくら子さんが暮らすという未来の日本にしても、それほど輸出や輸入に依存した経済というわけではあるまい」

「ええと……確か、日本の輸出依存度は13%程度、輸入依存度は11%程度だったと思います」

「何と! それでは、さくら子さんの日本は、現在よりも貿易に依存しない、どちらかといえば内需依存の国民経済を実現しているわけだ」

「それほど外需への依存が小さいのであれば、別に自由貿易などにこだわる必要はあるまい。日本は日本の国益のために、独自の成長戦略を立てれば済む話だ。そもそも、自由貿易といった用語につられて、貿易依存を高めてしまうと、経済的な主権が小さくなってしまう。だからと言って、外国と貿易するなという話では、もちろんない。日本国にとっての正しい解答は、自由貿易の全面的な肯定と、全面的な否定の間のどこかにあるはずだ」

一冊通じて監修の三橋貴明さん色満載です!