生物として「ヒト」を見るなら、子孫を残し、進化していくことが求められるはずだ。
しかし、世界のどこかで常に戦争が起こっている。ヒトはなぜ争うのだろうか?

そんな疑問を生物学者の立場から、進化と遺伝子に着目して解説しているのが本書。
宇宙がビッグバンで誕生してからの生物の進化を押さえた上で、ヒトが人になった理由、野生動物との違い、ヒトの誕生と心の進化、さらには、「ヒトとは何か」「人はなぜ争うのか」について考察しています。

人間の進化、そして、人間そのものを知るうえで、いろいろな知見が得られる良書です。最近、好んで読んでいる人工知能本では人間の「脳」にフォーカスして「人とは何か」を明らかにされることが多いですが、本書では「遺伝子」という違う角度から「ヒト」を考察しており、大変、興味深く読みました。

また、種を残すとう生物の観点から、人間は本来「一夫一妻制なのか、一夫多妻制なのか、乱婚制なのか」が明らかにされてている点も面白いです。どれに当てはまるかは「精巣の大きさ」と「精子の数」が関わっているのだとか。この部分のまとめは本書評では割愛しますが、個人的には非常に興味深い内容でした。

さて、本書のメインテーマに戻りますが、過去より、戦争は「正義の戦争」という名のもとに、正当化されてきました。時には、ナチス・ドイツによるユダヤ人600万人の虐殺のように、ジェノサイド(民族虐殺)も起こっています。

なぜ、人間はこんな残虐なことができるのでしょうか?
果たして、戦争は遺伝子に組み込まれたヒトの宿命なのでしょうか?
それを克服する力がヒトにはあるのでしょうか?

以下で、著者の考えをまとめてみます。

「農業の始まり」が身分格差・争いを生んだ

狩猟時代の人の暮らしは「その日暮らし」です。狩りで得られた食物は皆で分配するのが原則。独り占めは許されません。もしもそのような行動をすれば、集団から排除されてしまいました。いわば「平等な社会」でした。

しかし約1万年前に始まった農業・牧畜がそれまでの生活を一変させました。農業の発達が、蓄財、私有財産、身分格差、階層文化につながっていったからです。

現代の戦争

古い戦争は、局地戦。兵器もさほど強力ではありません。しかし、20世紀に入ると様相は一変。第一次世界大戦ではヨーロッパを主戦場に2000万人の命が奪われた。また、第二次世界大戦では死者が5000-8000万人にも膨れ上がりました。これは当時の世界人口の2.5%もの人が犠牲になったことになります。

ヒトは「争い遺伝子」を持つが、他の生物にはないコントロール力を持つ

ヒトは、縄張り防衛、拡大、膨張、という生物学的衝動を間違いなく持っています。つまり、「争う遺伝子」を持っているのです。

しかし、日本は70年間にわたって戦争を起こしていません。憲法9条によって戦争を放棄し、対外的な戦争をしないとう国是を守ってきたからです。ここで、カギとなるのは教育です。

ヒトは、生物学的に「争う遺伝子」と述べましたが、その発現を抑えることができます。人間社会には、他の生物とは異なる社会法則があり、ヒトは生まれつき生物として持っている行動パターンを替え、新しい社会を切り開き、よりよい世界を作ることができるのです。それが他の動物とは決定的に違うヒトの能力なのです。

「理性」と「教育」が地球を救うのです。

教育により戦いは避けられる!

著者は、人の進化の過程で狩猟採取時代に獲得された「争う遺伝子」「人殺し遺伝子」はもともと弱い遺伝子だったのではないかと推測します。しかし、農業が始まった1万年前から本格的な戦争がはじまると、敵を殲滅する、皆殺しをするようになってしまいました。

人間社会では、個人的な殺人は抑制され、国家間の戦争は許される風潮がありますが、戦争と人殺しの「遺伝子」を発動させているのは、まさに「宣伝」と「教育」です。

人は、ヒトは、「争う心」を持つと同時に、「争わない心」を持っています。他の生物と異なり、言葉を発展させたヒトは、遺伝子を克服する力を持っています。事実、ヒトは恋愛をし、家族のために働き、世の中を良くしようと奮闘してきました。また、ヒトが人になるに従って、ヒューマニズムを発展させ、人類愛を形成し、宗教も作り出してきました。

戦争することで儲けたり、潤ったりする国がある以上、戦争の動機は今後もなくなることはないだろうと著者は推察します。それ故、大事なのが教育です。戦争に反対し、平和を求める運動の基板もやはり教育だからに他なりません。

争いのない未来を、世界で目指したいですね。