多くの犠牲を伴う「戦争」は起こしてはならないもの。特に、広島・長崎に原爆が投下された日本人なら強くそう思っているはずです。しかし、世界のどこかで常に戦争が起こっているのが実態です。

なぜ、戦争が起こるのか?

それを簡単に言えば、お金が動くから。

1776年7月4日建国で歴史の浅いアメリカが世界の覇権国となったのも、第一次世界大戦時にヨーロッパの国々が大きな犠牲を伴いながら戦争を展開する中、アメリカは国を痛めることもなく戦争ビジネスで儲けたからにほかなりません。

今回紹介の『「教養」として身につけておきたい 戦争と経済の本質』は、戦争が起こると経済はどうなるかを以下の観点から明らかにした一冊です。

現代の戦争は、米中対立に見る経済戦争など、ITの進化により「戦い方」は変化しています。しかし、戦争と経済の本質は、時代を超えて変わりません。

日本は2021年で戦後76年を迎え、、多くの日本人にとって戦争は遠い世界の出来事に感じれますが、国の安全保障政策のみならず、今後の経済や国力を見たり、投資をする上でも戦争に関する教養を付けておくことは非常に大事です

今回は、著書『戦争と経済の本質』をベースに、そのた情報も加えながら、「戦争と経済、お金の流れ」について、見て行きます。

戦争と国力

戦争の現実は「お金」そのもの

戦争には多額の費用「軍事費」がかかります。戦争の現実は「お金そのもの」であり、軍事費はそもそも国力がないと捻出できません。

戦争の現実はお金そのもの。結局のところ軍事費は経済水準で決まる

世界の国々は経済成長と共にGDPが大きくなり、それに伴い、軍事費(額)も増えています。特に、中国をはじめアジアの国々は、経済成長の3要素である、労働人口、資本の蓄積、イノベーションを背景に軍事費が増大していますが、日本の軍事費(防衛費)は過去20年間は増えていません。

理由は、防衛費増大に対する反発も大きく防衛費に上限を設けていることもありますが、日本が経済成長をしていないというのも大きな理由です。

平時の軍事費とGDP

各国のGDPに占める軍事費の割合は、平時においては平均GDPの2.3%。一般的にGDPの1%から3%程度の範囲が適正水準で、米国は3.5%、中国は2.1%、日本やドイツは1.0%程度です。

中でも、米国は年間70兆円以上と突出しています。日本の国家予算は年間100兆円であることを考えると、いかに巨額化が分かります。全世界ではGDP77.3兆ドルに対し、1兆7500億ドルの軍事費が支出。うち、35%が米国、12%は中国が占めています。

有事の軍事費

有事となると、軍事費は桁外れな額に膨らみます。

日本が参戦した戦争の場合、日本の軍事費は当時のGDP比で以下のようになっており、太平洋戦争がいかに日本の国力・経済力を無視していたかが分かります。
日清戦争 :0.17倍
日露戦争 :0.6倍
太平洋戦争:8.8倍

日本は太平洋戦争の軍事費をどう賄ったか

では、上記の通り、国力・経済力を無視して行われた太平洋戦争の軍事費はどのようにまかなわれたのでしょうか?

多くの場合、戦争が発生すると、国は戦費を国債発行により調達しようとします。その結果、GDP項目における政府支出が増加することになります。

太平洋戦争においても、軍事費は、日銀の直接引き受けによる国債発行で賄われました。

戦争とマクロ経済

戦争とマクロ経済

国債が大量に発行されると何が起こるか?それは「金利の上昇」です。

国債で国費を何とかしようとする状態は「国家破綻のリスク」が高まった状態です。危ない企業にお金を貸す場合、金利が高くないとだれも貸してくれないように、国家の場合も、リスクが高まれば金利が高くないと、だれも国債を買ってはくれません。

国債の大量発行は金利を上昇させ、国内の設備投資も抑制されりるため、経済成長にとってマイナスです。

また、大量の国債を中央銀行が直接引き受けるとなると、市中に大量のマネーを供給すれば、すると通貨の価値は減少し、インフレになります。太平洋戦争の時も、日本は戦後、ハイパーインフレに襲われました。

日本も、太平洋戦争後、日本も国家破綻(デフォルト)、ハイパーインフレ、預金封鎖を経験しています。詳細は、以下の記事の後半にてご確認を。

戦争と株価

参照:4knn.tv

では、太平洋戦争時、日本の株価はどのように推移したのでしょうか?

意外ですが、太平洋戦争時、戦時期間を通じて、株価は思いのほか安定的に推移しました。

その理由は日本が国家総動員体制となり株価を人為的に買い支える施策が多数導入したからです。しかし、そのままことが済むはずもありません。戦後に反動不況が起こりました。

ただ、壊滅的な打撃を受けた日本にとって幸いだったのは、朝鮮半島の主権を巡る国際紛争「朝鮮戦争」による「朝鮮戦争特需」があったことです。朝鮮戦争の背景にあったのは「米ソ対立」ですが、米軍の前線補給基地として、日本企業に処理できないほどの注文が舞い込み、特需が起こったことで日本は救われました。

これがなければ、日本の奇跡の復活はなかったかもしれません。日本は戦争に加担するようなことをしていないと思ったら大間違いということです。

【参考】130年間の超長期株価チャートで読み解く株価

ちなみに、上記チャートを株価の上下トレンドでブロック化すると、A~Gの7つのブロックに分けられます。
現在は、上昇の7波動目となっています。
1878年に東京と大阪に証券取引所が開設されて、140年強が経過していますが、1878~2014年までの上昇率は年換算すると6.7%となっています。バブル最高値には今なお到達していませんが、長期投資には大いにメリットがあると言えますね。

130年超長期

参照:4knn.tv
約140年に見る、7つの大きな上昇・下落トレンド

A 上昇:日本経済黎明期-明治(1880年~1920年 約40年間)
B 停滞:長期低迷期-昭和(1920年~1945年 約25年間)
C 上昇:戦後高度成長期(1945年~1960年 約15年間)
D 停滞:停滞期(1960年~1975年 約15年間)
E 上昇:バブル経済期(1975年~1990年 約20年間)
F 停滞:長期低迷期-平成(1990年~2008年 約20年間)
G 上昇:平成バブル(2008年~現在)

合わせて以下の記事も参考に。

地理的条件が、国家間の潜在的な関係を決める

地理的条件が、国家間の潜在的な関係を決める

日本は戦争こそしていないものの、隣国である韓国、中国、ロシアと領土問題で長く争っています。

戦争や経済には、各国の関係性や地理的特徴が密接に結びついています。だからこそ、各国の政治指導者や軍関係者たちは熱心に地政学を学んでいます。米国の経済外交戦略も常に地政学的観点から決定されています。

ハートランド(Heartland)とは、20世紀初頭の世界情勢をとらえてハルフォード・マッキンダー氏が唱えた地政学用語で、ユーラシア大陸の中核地域を中軸地帯のことを指します。

20世紀初頭は、海軍大国(海洋国家)優位の歴史でしたが、鉄道の整備などにより大陸国家の移動や物資の輸送などが容易となったことで、ハートランドを支配する勢力による脅威が増していると提唱しました。

この地は、戦争が起こりやすい地で、今現在も、戦争が起こっていたり、隣国との仲たがいが絶えないエリアです。エネルギー資源が豊富なこのハートランド地帯を支配できた国は、歴史上、一国も存在していません。

テクノロジーの進化で変わる戦争

テクノロジーの進化で変わる戦争

前節では、「地理的条件が国家間の潜在的な関係を決める」と述べましたが、現在社会では、IT技術の発達により、戦争の勝敗に対する地理的条件は小さくなっています。

代わりに大事になったのが「新しいテクノロジーと金融システム」。

技術を持っている、お金を持ちそれらをうまく回すシステムを持っているかで、戦争の勝敗が決まる傾向が高まっているのです。

「新しいテクノロジーと金融システムの両者を制覇できた国が、次世代の派遣国家となる」のです。米国が人工知能の開発を急いでいる背景にも、ITのテクノロジー化を進める目的があります。

なお、米軍の志願者の内、身体的(肥満)・学力的な問題で7割が軍に入隊できない現状があるそうです。身体的理由=肥満が原因なら痩せることで入隊も可能ですが、入隊に求められるITを使いこなせる学力、特に「数学力」と「読解力」がない場合は、どうにかなるものではありません。

どんにAIが発達しようが、頭を鍛えることは大事そうです。

最後に

今回は、加谷 珪一さんの著書『「教養」として身につけておきたい 戦争と経済の本質』から、知っておくべき、戦争の本質を学びました。

国債、金利、インフレなど、経済や金融市場についての教養を付けておくことが極めて大事なことがご理解いただけたのではないでしょうか。以下の通り、他にもいろいろ学ぶことが多い著書ですので、是非、ご自身で読んでみてください。

1.戦争のコスト
2.戦争とお金の関係性
3.戦争とマクロ経済
4.戦争と株価の関係
5.地政学
6.戦争とビジネス
7.これからの戦争の展望

なお、戦争とお金(経済)について学ぶには、以下の本も非常に参考になります。合わせて読むと、「世界の歴史」は「権力とお金の歴史」であることがよりよくわかります。

また、なぜ人は争うのか、その根本を知りたければ、以下の本がおすすめです。