【書評/要約】「嫌いっ!」の運用(中野信子 著)(★4) 嫌いには理由がある。嫌いの感情に無駄なエネルギーを使わないための戦略的運用術になるほど!

なぜ、「嫌い」という感情が存在するのか?

嫌いの感情は、誰かを嫌っても腹立たしくてイライラするし、誰かから嫌われても悲しかったり自己嫌悪になったりして、自分を苦しめます。それにも関わらず、「嫌い」の感情が存在しているのは、自分を守るために重要なアラーム機能を担っているからです。私たちはかなりのエネルギーを割いて「嫌い」という感情を生み出しています。

「嫌い」の本当の意味と重要性が理解できれば、自分にとって大切なものが何なのか、手放すべきものが何なのが見えてきます。また、「嫌い」の感情との関わり方を知り、運用していくことで、人生はもっと豊かになります。

今回は、中野信子さんの『「嫌いっ!」の運用』から、脳科学的知見から「嫌い」との付き合い方・戦略的な活かし方を学びます。

ヒトは嫌わずにはいられない

ヒトは嫌わずにはいられない理由:【書評/要約】「嫌いっ!」の運用(中野信子 著)

「嫌い」という感情はデメリットしかなく、解消すべき/克服すべきものと思われがちです。しかし、人にとって「不必要な感情」、ましてや「有害な機能」なら、進化の過程で淘汰されなくなっていたはずです。

生き物にとって、嫌いものは、自分に害を与える可能性が高いものです。「嫌い」の感情には、「不快」「不安」「不審」「違和感」があり、その先には「危険」「恐怖」「不利益」「有害」があります。

つまり、「嫌いの感情」は身を守る防衛判断自分にとって、得にならないものを見分ける迅速なプロセスが、感情の「嫌い」という形で脳に記憶されているのです。

なぜ「嫌い」を嫌うのか

では、なぜ、「嫌い」という態度を取ることに、抵抗を感じるのでしょうか。

一つは、好き嫌いはダメと押しし得られる「教育の影響」です。二つ目は、「嫌われる」ことへの警戒です。嫌いという感情を表明してしまうことで、その場の空気を壊したり、さらには、他社から嫌われてしまうのではないかと考えるからです。だから、多くの人は、気の乗らない誘いも断れずに、時間を浪費しています。

集団も「嫌い」を排除する

個人に限らず、集団も「嫌い」を排除します。個人と所属する組織・集団の利益が相反した場合、組織は集団の利益を優先するからです。

例えば、社会集団を脅かす存在の一つが、内部から集団を破壊する「フリーライダー(タダ乗り)」の存在です。簡単に言えば、自分の利益ばかりを湯煎するずるい人を野放しにしていると、集団は機能しなくなり、最悪、崩壊してしまいます。だから、ずるい人には強い「嫌悪感」が生じます。そして、ここに、集団バイアスが加わると「制裁」「排除」の論理が働くようになります。

特に、不況などで社会全体の所得が下がると、自分自身の責任でないにもかかわらず自信がなくなり、下がった自己評価を埋め合わせるために「ずるい人」「異質な人」「妬ましい人」をを猛烈に制裁しようとします。本来、必要のない膨大なエネルギーを使って、相手の足を引っ張り、引きずりおろすのです。

本来かけるべきエネルギーはそこではないはずです。世の中がおかしくなっているときほど、注意が必要です

なぜ、「嫌」と言えないか

そもそも、私たちは、「嫌い」の伝え方・活用法を学ぶ機会はほとんどありません。

「嫌い」を無理やり好きにしたり、嫌を我慢する方法を学ぶのではなく、「嫌い」という感情を上手に伝えて、自分の心を自分で守る力を身につける方が大事です。

嫌なことや嫌な人に遭遇したとき、ネガティブな感情に振り回されず、適切に嫌いながら、その直感・感情を上手に運用する。また、同調ではなく互いの差異を認めて協働する方が、大人のコミュニケーションといえるのではないでしょうか。

「嫌い」という感情はどのように形成されるのか

「嫌い」という感情はどのように形成されるのか:【書評/要約】「嫌いっ!」の運用(中野信子 著)

好き嫌いを判断するときに、脳はどのように機能しているのでしょうか。

「嫌い」と脳

まず、「この味が好き」「この顔は苦手」など、自分の主観的な好みの決定に関わっているのが「眼窩前頭皮質」です。物事の価値を見極め、判断をして、自分にとってよりよい選択をするための処理をしています。「眼窩前頭皮質」を含む「前頭前皮質」は、思考や創造性担う脳の中枢です。新しい脳で「人を人たらしめている脳」とも言えます。

眼窩前頭皮質理性的な「嫌い」 人を人足らしめている
・自分にとって好ましくない、もしくは苦手であるという「嫌い」
・我慢すればなんとかなる
扁桃体本能的な「嫌い」 動物的
・特に「恐怖」に強く反応
・生理的に受け付けないい「嫌い」
・言葉にできないけれど気持ちが悪い「嫌い」

一方、快・不快を感じて好き嫌いを判断しているのが「扁桃体」です。

蛇が苦手な人は多いですが、学ばずとも人は直感的に「自己防衛のための見逃すべき存在」と見ます。このような「直感的に嫌」という感情は身を守るために大事です。味覚についても「直感的にこれは食べてはいけない」と判断できた生き物は生き残り、進化してきたと考えられます。

つまり、偏桃体による本能的な「セキュリティ本能=「嫌い」は無理やり克服しないほうがいいのです。
ょう。

「嫌い」という感情を排除する人

「この人のこういうところが嫌い」という価値基準ベースの嫌いは、「眼窩前頭皮質」による働きです。理性が強い人は、冷静に合理的な判断を行います。このタイプの人は、例えば、仕事の場合、「好き」か「嫌い」ではなく、「やるべき」か「やるべきでない」か、「可能」か「不可能」か、「有益」か「無益」というように、合理的な判断を行い、余計な感情を排除します。これは、大人として必要なことですが、行き過ぎると、自己防衛の「嫌い」センサーが働かず、ストレス・鬱で自分を壊すことになります。

また、別のタイプとして、同調圧力で自分の好き嫌いと他人の好き嫌いが分からなくなっている人もいます。このような人は、自分の感情をオフにすることで、ある意味、理性的になっています。自分に自信がない人は、この罠にハマりやすいので注意が必要です。

子どもの「嫌い」は未成熟が原因

子供の「嫌い」にも注意が必要です。子どもはすぐに「嫌い」と言います。これは、ただ単に、前頭前皮質が未発達なため、相手が傷ついたり辛い思いをするという思いに至らず、そうした発言をしているにすぎません。語彙の少ない子供が、「もっと自分を見てほしい」という気持ちの裏返しの場合もあります。大人はその点を注意して、子どもと向き合うことが求められます。

「嫌い」の戦略的運用術

「嫌い」の戦略的運用術:【書評/要約】「嫌いっ!」の運用(中野信子 著)

ここからは、「嫌い」という感情を人生に活かす、「嫌い」の戦略的運用術について見ていきましょう。

身につけたい「非協調性」の技術

現代社会では、言われたことを嫌でもただ黙々とやっていては、こき使われておしまいです。そこで、活用したいのが、嫌いを上手に活かす「非協調性」です。ただ周囲に同調するのではなく、自分ならではの考え、判断をもつのです。

日本では協調性が求められますが、欧米では協調性以上にオリジナリティが重要視されます。協調性は、「信頼性=trust」、「率直さ=straightforwardness」、「迎合性=compliance」、「利他主義=altruism」、「謙虚=modesty」、「優しさ=tender-mindedness」から成りますが、「協調性の高いいい人は収入が低い」という統計結果もあります。

利己的になれということではありません。空気を読んでも従わない。うまく「嫌い」を使って、いささか「利己的」に考えることで、自分を守るように行動するのです。以下の本、とても参考になります。

嫌いの中に「ビジネスチャンス」がある

ビジネスチャンスは「嫌い」の中にあります。人の嫌がることはビジネスの種です。人類の歴史は、「嫌い」を乗り越えるために、文明を進化させてきたといって過言ではありません。

一方、自分の才能を伸ばす上で、好きなことに時間を費やすことは大事です。自分の時間は、自分を磨くための「インプット」に欠かせないものだからです。そして、この時間が才能を育みます。

本当の天才を育てるためには、好きなことに没頭できる環境をつくり、何が好きで、何が嫌いなのかを把握し、「好き」を大事にするのと同じくらい、「嫌い」という気持ちを大事にすることが求められます。

「嫌いの運戦略運用嫌」のために必要なこと

「嫌いの運戦略運用嫌」のために、大事なことが2つあります。

「嫌いの運戦略運用嫌」のために必要なこと

❶自分の嫌いを知る(己を知る)
❷妬みの感情を制する(自己コントロール)

自分の嫌いを知る(己を知る)

まずは、自分を知るために「嫌い」なことを文字に書き出して客観視しましょう。
嫌いな人や嫌いなことを無理に好きになろうと努力をしても、実際にはうまくいきません。「嫌い」はとてもパワーを要する感情なので、振り回されないために、まずは嫌いを認める、なぜ嫌いか分析するのです。嫌いの感情を外に爆発させるのではなく、嫌いをどう扱えば、自分が幸せになれるのか、矢印を自分に向けて考えるのです。そうすれば、自分も他人も傷つけずにしみます。

・「ネチネチ嫌わない」。でも、「あえて好きになろうとしない」⇒「嫌い」を認める
・なぜ嫌いなのか、客観的に分析する
・嫌いな感情を前向きなモチベーションに転換する
 例)「嫌いあいつには絶対に負けない!」「この環境から絶対に抜け出してやる!」

妬みの感情を制する(自己コントロール)

人は、自分と同じぐらいのレベルの人(ライバル的な存在)がうまくいっていると、素直に喜べず「妬み」を感じます。一方で、圧倒的に凄いと思える人には、このような感情は湧きません。むしろ尊敬になります。

誰かに妬みを感じたら、「自分が何に対し妬みを感じているのか」をよく見つめましょう。場合によっては、相手の努力をしらないから妬ましく感じている場合もあります。

このような「妬みの感情」は相手もうすうす気が付いています。故、思い切って、「嫌い」の気持ちを伝えるというのも選択肢の一つです。上手な伝え方のポイントは、「人格を責めないこと」「自分が認めているその人のよさをセットで伝えること」です。

私はあなたのことそんなに好きではないけれど、的確にクライアントの要望を把握する力は尊敬している」とリスペクトする一言があれば、自分の主観の「嫌い」という感情と、その人の人格や仕事ぶりを切り離して語ることができます。
このようなテクニックを知っていれば、自分も相手も、相手を認めつつ、仕事を進めることができます。

自己嫌悪との向き合い方

自己嫌悪との向き合い方:【書評/要約】「嫌いっ!」の運用(中野信子 著)

嫌いの気持ちが自分に向くこともあります。「自己嫌悪」です。

脳には自分を嫌う性質がある

まず、知っておきたいのは、脳には自分を嫌う性質があるということです。壁にぶち当たり、自己嫌悪に陥る時期は辛いですが、別の見方をすれば、それは「今の自分をなんとかしたい」「自分を克服したい」という思いがあるということです。

そもそも人間の価値を測れる、客観的な物差しや仕組みはありません。あの人は凄い・あの人はバカだと評価しても、それは自分の主観でしかありません。

他人と比較せず、過去の自分と比較し、今日をよくする

唯一、人の価値が測れるとすれば、それは自分自身の昨日と今日の能力の差です。人と見比べるのではなく、過去の自分と比較する。昨日できていたことと、今日できることを比較することです。

自分の努力したことを書き留め、見える化する。すると、他人ではなく、自分のやってきたこと、これからやるべきことに目が向くようになります。後日、その記録を見返せば、自分がいかに努力し、能力も進歩したのかがわかり、自信につながります。自分の努力の軌跡を見ることで、自分の人生に冷静に向き合えます。

自分の欠点は活用できる

自分の嫌いなところを明確にわかっている人は幸運です。それは、自分の「資質」を分っているということだからです。

嫌な自分の特性を直そうとするだけでなく「弱み」を「強み」に転化して活かすのです。

自分の嫌いな部分をポジティブに捉え直すには、まず、そのことを認めましょう。そして、その、どんなときに役立つのか想像してみる。実は、「自分が欠点だと思っていたことが誰かの役に立つ」とよい妄想をするだけでも脳は喜び、ドーパミンが分泌され、やる気も高まります。誰かの役に立てるという「社会的報酬」による快感も得られ、自己肯定感の向上にもつながります。

嫌いなこととの向き合い方

嫌いなこととの向き合い方:【書評/要約】「嫌いっ!」の運用(中野信子 著)

実際に、成功する人は、自分ができることとできないことをよく理解しており、「嫌なことは嫌だ」ときっぱり言ってやらない人が多いです。
とはいえ、やはり人間には、嫌でも苦手でも、どうしてもやらなければならないことがあります。ここからは、嫌なこと、どうう向き合い、どう取り組むか見ていきます。

ここでもまず「嫌いの分析」から

ここでも大事なのは、「嫌やの分析」です。理由が明確になれば、自分でせずとも、便利システム・サービスなどを使うと問題が解決するかもしれません。代替案や気持ちの持ち方を変えて、自分の嫌な気持ちを軽くできるかがポイントです。

「やらないことを決めてしまう」のも大事です。取捨選択の判断基準を設けることは非常に大事です。作業量の見直しにもなります。

やる気が出ないときの対応策

嫌いなことは、やればできても、やる気がしないことが大半です。そして最大の難所は「物事のやりはじめ」です。始めさえすれば、自動走行で最後までできるケースが多々あります。

ここでも、いかに嫌な気持ちを小さくできるか。中には、そのために、大きな課題は、小さな課題に分解し、小さなステップを上るようにします。1分で終わるステップでもOK。とにかく、始めれば、脳からはアドレナリンが出て、徐々にやる気が出てきます。

ラベリング効果を使っ て脳をだます

脳はとても騙されやすい。そこで、「実はやってみると好きかも。得意かもしれない」と、考えを転換してみましょう。

「嫌い」という気持ちと、やらねばならないという意志が対立しているときに、意志の力で「嫌い」をねじ伏せようとすると、意志のエネルギーが消耗され、本来使われるべきことへのエネルギーがそがれます。意思エネルギーは有限です。真面目過ぎるとこの罠に落ちやすい。このようなネガティブ感情をエネルギーを使わないように、しなやかさ・軽やかさが大事です。

最後に

今回は、中野信子さんの『「嫌いっ!」の運用』からの学びを紹介しました。

❶「嫌い」という感情が存在する理由になるほどと納得できたこと、❷「嫌い」という感情もとらえ方次第で戦略的に運用できると気づけたことは大きな収穫でした。

まずは、「嫌いかも/嫌かも」と感じたときは、まずは、その理由を考えてみようと思います。これだけで、「腹が立つ」「いらだつ」に無駄なエネルギーを費やすことを軽減できるはずですから。