【書評/要約】ビジネスの限界はアートで超えろ!(増村岳史 著)(★5) 次世代iPhoneを生み出すゼロイチの思考法 アートシンキングの根底がよくわかる書

アートとビジネスは遠いところにある

そんなイメージを持っているビジネスマンは多いのではないでしょうか。しかし、スティーブジョブズが生み出した Apple iPhone のような革新的は、現在のビジネスの延長線上にはありません。必要なのはクリエイションアートな感覚です。

そんなアートシンキングの必要性とそのスキルの磨き方を教えてくれるのが、今回紹介する本です。非常に学びの多い本です。

今回は、増村岳史さんの著書「ビジネスの限界はアートで超えろ!」からの学びを紹介します。

[スポンサーリンク]

ビジネスで重要度が増すアートシンキング

【書評/要約】ビジネスの限界はアートで超えろ!(増村岳史 著):

テクノロジー企業でアートが重視されるわけ

フェースブックなど米国を代表する先進的テクノロジー企業では、アートが非常に重視されています。そして、今では、かつてビジネスの世界で一つの勲章となったMBA(経営学修士)を持つことよりも、MFA(芸術修士)を持つ人材の方が圧倒的に重宝されるようになっています。

その理由は、変化が早く、不確実性が高い現代では、これら4事象を融合することが求められていますに解決する力の重要性が高まったからです。

これからの21世紀をしなやかに生き延びていくには、左脳がつかさどるロジカルシンキング以上に、アートが持つ感性の力の重要性が増しているのです。

データ分析にもアート力が必要

現在は、大量の情報が簡単に取得できる時代。このデータの解析には、データの可視化=データビジュアリゼーションが欠かせません。この基礎に必要となるのも、アートのデッサンに見られるようなデッサン力です。

デッサンで最も重要なことは、絵を描く対象を見る際に「俯瞰」と「主観」を繰り返すこと。しかし、デッサンの初心者は得てして細部にのみ目が行き、全体のバランスが崩れて、うまく全体を描けません。これと同じようなことが、データの可視化でも起こっています。

データ分析というと、論理的で左脳的な日々の仕事のようでありながら、実際にはその基礎部で「右脳的な感性」が必要なのです。

ビジネスの出発点は「アート」

経営学者ヘンリー・ミンツバーグは、著書『MBAが会社を滅ぼす』で、 マネジメントとは元来、「クラフト(経験)」「アート(直観)」「サイエンス(分析)」の3つの融合であり、3つのバランスが重要であると述べています。

クラフト :目に見える経験を基礎に実務性を生み出す
アート  :創造性を後押しし、直観とビジョンを生み出す
サイエンス:体系的な分析・評価を通じて秩序を生み出す

新規事業、企業など、ビジネスの出発点は、アーティストが真っ白なキャンバスに作品を制作していくプロセスに近いものです。革新的な「アート」は、後から「クラフト」と「サイエンス」が伴走で、どんどんと仕組み化・効率化が進み、最後には平準化していきます。

iPhoneがそうであったように、ビジネスの出発点は「アート」にあるのです。

経営者には、ロジカルシンキングの限界を突破し、新たな価値創造をする(ゼロイチを創る)、アートな思考が必須。米国では、多くのエグゼクティブが美術を学んでいます。

アートの力

【書評/要約】ビジネスの限界はアートで超えろ!(増村岳史 著):アートの位置づけ

サイエンス、テクノロジー、デザイン、そしてアート。この4つは密接に絡んでいます。

アートの位置づけ

サイエンス、テクノロジー、デザイン、アートを、「課題解決―問題提起・価値の創造」と「ロジック― 感性」を2軸で整理すると、上図のようになります。

4つは遠いようで、それぞれ近い

テクノロジー:ロジックで課題解決を図る
サイエンス :ロジックで問題提起・新たな価値の創造をする
デザイン  :感性で課題解決を図る
アート   :感性で問題提起を行い、新たな価値の創造する

ルネサンス期のダビンチなどは、まさに、この4つの垣根を飛び越えることで、後世に残る数々の偉業を成し遂げました。医学界画像だって昔は手描きアート。アートがサイエンスを加速させてきたのです。

今の時代、益々、上記4つの垣根を飛び越えてビジネスをすることが求められています。

サイエンス・アートには「深層的な思考」が必須

私たちの思考は、大きく「表層的な思考」と「深層的な思考」に分けることができます。

表層思考と深層思想

表層的な思考:短期的な課題や目標を完遂するためのもの
深層的な思考:長期的な目標達成やビジョンを実現するためのもの

テクノロジーやデザインは課題解決型で、主に「表層的な思考」に依存しますが、サイエンスやアートは新たな価値を創造するものであるため、「深層的な思考」により多く依存します。また、目先の仕事の問題解決は「表層的な思考」がメインですが、長期的なビジョンを育むための「深層的な思考」が欠かせません。

2つの思考を区別しろ!

「上記2つの思考のこの切り分けができていないと、問題解決においても、混迷すると語る」のは、寺下薫さん。著書「世界一速い問題解決」は、表層的思考に関わる問題をいかに最速で問題解決するかに特化したアドバイス本です。

アート(力)は〝あるとき突然〟発揮される

「表層的な思考」による問題解決法は、寺下薫さん曰く「100%スキル」で、ノウハウを学べば比較的、容易に身につきます。それに対して、「深層的な思考」はすぐには身につきません。じわじわ地層のように積み重なり、ある時、顕在化して大きなパワーとなります。かつて、ジョブズは最初のマッキントッシュを設計していたとき、カリグラフの知識が急が蘇り、それが、デザインに優れた革新的なマックの登場につながったと言っています。

共通項が多いエンジニアと画家

エンジニアはテクノロジーとサイエンス、画家はデザインとアートととらえられますが、エンジニアと画家は極めて多くの共通項が多いと言えます。

まず最初に、新しいものを創造するという点で同じです。プログラム開発とデッサンも、全体と細部を繰り返し見て、新たなものを想像するという点で共通です。さらに、対象物を観察することが求められ、熱狂的な没頭が必要となる点でも共通しています。様々な維持で「協調と協和」も求められます。

エンジニアがアートを学ぶことは、ビジネスの飛躍に大いに役立つのです。

アート・デザイン・クリエイティビティ

【書評/要約】ビジネスの限界はアートで超えろ!(増村岳史 著):アート・デザイン・クリエイティビティ

ところで、アートとデザイン、どう違うかわかりますか?以下のように整理できます。どちらも、クリエイション(創造)の活動ですが、目的が異なります。

アートとデザイン

アート :クリエイション アーティスト(作家)の中にあるものの自己表現
デザイン:ソリューション クライアント(依頼者)の課題解決

アートとデザインはどう違うのか

アートは感性によって問題を提起し、価値の創造をするものであり、デザインは感性によって課題解決をするものです。故、アートには必ずしも報酬が発生するわけではありませんが、デザイナーのデザインには、クライアントの問題解決に対する「報酬」が発生します。ここに自己表現は必要ありません。

これら2つは目的が大きく異なるので、思考も違います。デザインは、頭の引き出しの中にストックしてある既存の意匠や先人たちの知恵を引っ張り出し、それに、インプットした新たな知識や情報を組み合わせて制作するものです。

だから、くまモンの生みの親 水野学さんは「センスは知識からはじまる」、つまり、デザイナーには知識が必須と述べています。

「アート思考」と「デザイン思考」はどう違うのか。

では、「アート思考(アートシンキング)」と「デザイン思考」は何が違うのでしょうか?

まず、デザイン思考とは、デザイナーの発想や思考法をビジネスイノベーションにも活かしていこうという発想法です。あくまで、クライアントやユーザ思考で、次のステップで考えます。

デザイン思考:考え方のステップ

Empathize:他人の気持ちを感じ取る
Define:サービスの機会を発見する
Ideate:アイデアを出して合成する
Prototype:試作品を作る
Test:テスト結果を検証する

デザイン思考は、スタートは、目の前にある「課題」から。課題を解決するためのソリューションです。

一方、「アートシンキング」は、新たな価値の創造です。ゼロからイチを生み出す力が求められます。アートは、ロジックに基づく思考で対象を捉え、さらに、直観力、創造力、直観とといった感性をフル稼働させた上に成り立ちます。また、アートがそうであるように、報酬があるかもわからない、つまり、ビジネス的に成功するかもわからないゼロイチの事業事業は、パッションがなければ、事業家すら難しいと言えます。

つまり、「ビジネスの限界を超える思考」アートシンキングでは、では、感性、ロジック、パッションが必須。それは「哲学」や「ストーリー」ともいえるかもしれません。

世界に革命を起こしてきたアートやAppleのような製品には、感性に基づく問題提起と価値創造があり、そこに、熱い情熱を実現するためのロジック(ストーリー)があるのです。

アートシンキングはいかにして身につくか、身につけるか

アートシンキングはいかにして身につくか、身につけるか

前節の最後では、アートには「ロジック」が必要と述べました。しかし、日本の美術教育ではこれが学べません。しかし、世界にはデザインに優れた国があります、何が違うのでしょうか。

日本の教育ではクリエイティブな素地はつかない

小中学校時代の図工・美術の時間を思い出してください。そこにあるのは「感性」と「感覚」で描くお絵描き。遠近法をはじめ、アート・デザインの技法(ロジック)を学ぶことがありません。

一方、世界には、北欧など、デザイン性に優れた国があります。これらの国の美術教育と日本の教育は何が違うのでしょうか。

北欧 :物心つかない幼児の頃からのセンスのインプットを実施
ドイツ:目利きを育てる教育。脳への良質なインプットのため、美術館巡りを繰り返し、目を養う
英国 :鑑賞・実践を繰り返す教育。絵を観て自身がどう感じたかを語り合う。
    直観や感性具体的に言語化させる
米国 :合理的美術教育。感性や感覚を一切排除し、モチーフを模写するスキルから教える

日本から、アートシンキングでイノベーティブなプロダクツを生み出せない理由が、初等教育からあったと言えそう。とにかく真似て工業化する(マネシタ)までが、限界だったとしか思えません…

アートシンキングを身につけるには

では、アートシンキングはどうやって身につけられるでしょうか。

感性は誰もが持っています。しかし、一方で、多くの人は、直観や感性、センスは生まれ持ったものだと思ってしまっています。しかし、「直観や感性は身につけることが可能」です。
増村さんは、「誰しもが本来は持っているものだけど、さび付いてセンスを呼び起こすことができなくなっている」と指摘します。

では、センスを呼び覚まし、アートシンキングを実践していくには、具体的に何をしたらいいのでしょうか?

それは、「絵を観ること」 そして「絵を描くこと」です。「デッサン力」を磨くことです。

私たちが「これはいい」と思える絵は、必ず、論理と感性双方のバランスの上に成り立っています。良い絵を観、書くことで、以下の力をつけることです。

デッサンで学べる「アートシンキング」のベーススキル

・イメージを保ち続け、具現化する力
・じっくりと観察し、出力する力
・理論を学習し、実践する力
・全体を統合し、調和させる力

これら、論理と感性双方のバランスを「観る」と「描く」により、理論と実践、主観と客観を繰り返す。これにより、アートシンキングが徐々に身につき、ロジカルシンキングの限界を超え、ビジネスにイノベーションをもたらす発想にもつながっていきます。

最後に

今回は、増村岳史さんの「ビジネスの限界はアートで超えろ!」を紹介しました。本記事の内容でで、タイトルの意味がご理解いただけたのではないでしょうか。

なお、増村さんは、主にビジネスパーソンを対象に絵(デッサン)を描くことによって「右脳と左脳のバランスを活かした全体的な思考能力」と「新しいものを発想していく能力」そして「ものごとを俯瞰して捉え、調和のとれた思考能力」を高める講座を開いていて、ロジックで絵がうまくなる方法を教えています。

本書でも、この方法の「入門」が紹介されているので、まずは、本書を読んでみるといいと思います。

私は小中学生までは絵が得意でした。しかし、それ以降、絵なるものを描いたことがありません。私のかつての頭のキレる上司がしばらくデッサン教室に通っていました。「なぜ、忙しい忙しいと口にしながら、デッサン教室に行くのか?」と不思議に思っていましたが、「なるほど、こういうことだったのか」、いまさらながら、10年?越しで気づいた次第です。モノを知らないと、いろいろ、時間を無駄にする…。私も、絵を描いてみようかな…