【書評/要約】世界2.0 メタバースの歩き方と創り方(佐藤航陽 著)(★5) ~映画「竜とそばかすの姫」の世界は現実になる

メタバースとは、新しい世界を仮想空間内に創造すること。「世界2.0」を創ることです。

メタバースは、仮想通貨界隈では、バズワードとしては終焉している感じもありますが、それは、本当に開花するテクノロジーが必ず通る道。メタバースは、今後世界中の株式市場と世界経済をひっくり返すほどのインパクトのある世界です。映画「マトリックス」「竜とそばかすの姫」の世界が現実になる。そんな未来は必ずやってきます。

今回紹介する佐藤航陽さんの「世界2.0」は、メタバースとは何かを徹底的に教えてくれる本。しかし、本書の内容はメタバースにとどまりません。これから出てくる玉石混交のテクノロジーから、「未来を変える原石技術を見抜く方法」と、それを「経済的な成功」につなげるタイミングの見抜き方・付き合い方を教えてくれる「未来を読む力をつける本でもあります。

大変学びの多い本です。今回は、著書「世界2.0」からの学びを紹介します。

バズワードから、将来輝く原石を見つけるセンス

【書評/要約】世界2.0 メタバースの歩き方と創り方(佐藤航陽 著):バズワードから将来輝く原石を見つける

メタバースをはじめ、AI、ブロックチェーン、仮想通貨といったバズワードは、2~3年に一度くらいの頻度で出てくるものです。 これらは、バズワードは技術の初期にいったんバズりますが、急速に終焉します。しかし、その後、未来を見据えていた人たちはコツコツと技術を積み上げ、世界経済を変えていきます。

これは、2000年代初期に起こったドットコムバブルとその終焉、そして、その後、淘汰が進んできた後に世界経済を変えたGAFAの出現などを見れば明らかです。このような、技術の浮き沈みは今に始まった話ではありません。

バズワードに対する3つの態度

玉石混交のバズワードの中から、将来光り輝く原石を見極められれば、ビジネスや投資で成功する確度は高まります。しかし、初期の段階で、これらバズワードに対する人間の態度は、だいたい3つに分かれます。

❶シニア層に多い:完全否定
「チャラチャラしていてけしからん」「そんな夢みたいなことは現実化しない」という態度

❷若者に多い:自分にプラスがあれば….
「自分にとってプラスになるのであれば、新しい流れに乗っかって活かしてみよう」という態度。新しい流れに乗っかったせいで痛い思いをしたり、大損して貯金を失ったりこともある反面、チャンスがあるかもと考える

❸ミドル層に多い:知ってるけど…
「メタバース? 一応知ってはいるけど、それってくだらないものでしょう」という斜に構えた態度。覚めた目でと遠くから様子を伺う。

将来、どうなるか

佐藤さんは、経験則上、❷の態度以外に得られるものは何もないと断言します。❸の態度が最も後悔を残します。❸は変化が誰の目にも明らかになった時点で態度を180度転換しますが、そのころには❷がチャンスを総取りした後で、何も残っていません。競争の世界では、中途半端な日和見のスタンスを取る人にチャンスが与えられることはないのです。

なぜ、大企業が資金を投ずるのか考えよ

そもそも世界最高の人材と世界最大の資金をもつGAFA(Google・Apple・Facebook・Amazon)のうちの2社(AppleとFacebook)が将来有望と読んで兆円単位を投資していくのが確定している分野に、普通の人間である自分たちが「その可能性はない」と考えるのはちょっと無理があります。

本書を読むと、メタバースに対するマイナスの固定観念は取っ払うことができます。

次にくるテクノロジーを予測する

【書評/要約】世界2.0 メタバースの歩き方と創り方(佐藤航陽 著):次にくるテクノロジーを予測する

佐藤さんは、序章「メタバースとは何か」で、多くのページを割いて、複数の「テクノロジーの法則」について述べています。このテクノロジーの法則を理解することが、タイトルの「世界2.0」「メタバース」を理解するうえで欠かせません。

テクノロジーの進化を予測する方法

本書を読み進めるにあたっての前提知識であり、各章で述べることの土台となる考え方です。
あらゆるテクノロジーの本質的な特徴は、次の3つに絞られます。

テクノロジーの本質的な3つの特徴

テクノロジーは
①人間を拡張するものであること
②いずれ人間を教育し始めること
③掌から始まり、宇宙へと広がっていくこと

テクノロジーは人間のもつ機能の拡張で、①最初に「手足の拡張」から始まり、②社会に広がることで今度は人間がテクノロジーに合わせて生活スタイルを変えていく。さらに、③「消費者」から3~5年遅れて「企業」、さらに、3~5年遅れて「行政」へと広がっていきます。

狙うは半歩先。タイミングが全てを決める

テクノロジーは社会の課題に応じて登場します。世の中には、驚くほど鮮明に現在の社会の姿を言い当てている人がいますが、世の中にどんな課題があって、今現在どんな技術が存在しているかを理解している人にとっては、次にどんなテクノロジーが注目を集めるかはかなり正確に予測することができます。

ただ、実社会での「経済的な成功」はタイミングがほぼすべてを握っています。早すぎても遅すぎてもダメで、狙うのは「半歩先」。テクノロジーの流れを読み切った上で、 適切なタイミングで適切な場所に先回りして待っているスキルが必要になります。

経済的な成功と社会的な名声を得たエジソンに敗れた 早すぎた悲劇の天才ニコラ・テスラに影響を受けて、タイミングを見極めビジネスを起こしたGoogleの創業者ラリーペイジや、テスラのイーロン・マスクです。彼らの成功を見れば、まさに「タイミングが命」です。

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どうやってそのタイミングを読むか

では、どうやってそのタイミングを読めばいいのでしょうか。

大前提として、不確実性に溢れる世の中を完璧にタイミングを読むことは、絶対にできません。しかし タイミングにはある程度「バッファ(許容できるズレ)」があります。重要なのは、【タイミングの誤差をこの「バッファ」内に収めること】だと、佐藤さんはアドバイスします。

タイミングが適切かを読む最も良いリトマス試験紙が【一部のギーク(技術オタク)の熱狂】。ギークから一般の人に波が伝わる間に参入することができれば、それが世の中のメインストリームになったときに優位な立場にいられます。メタバースにおいてもこの法則性が100%当てはまります。

【重要】タイミングを読むための重要ポイント

自分以上の能力があると思う人が熱狂していて、新しいテクノロジーに疎い人が理解できない・興味を示さない・否定するようなものは「アタリ」である可能性が高い!

手っ取り早く未来を予測手段

「子どもの遊び方観察」も、手っ取り早く未来を予測手段です。

人間は、自分が生まれた時に既に存在したテクノロジーを自然な世界の一部と感じ、 15歳から35歳の間に発明されたテクノロジーは新しくエキサイティングなものと感じられる。 35歳以降になって発明されたテクノロジーは、自然に反するものと感じられる。 ――― イギリスのSF作家 ダグラス・アダムス

子どもには、出会ったテクノロジーに対して、どっちが「新しい」か「古い」かという基準は存在しません。生まれた瞬間から存在するものだからです。だから、15歳以下の子どもがどんな遊び方を見れば、その後の社会でどんなテクノロジーが普及してくるかを高い確率で予測することができます。

ちなみに、今の子が、学校から帰ってきて友達と遊んでいるのが『Fortnite』や『Apex Legends』に代表されるオープンワールド型のオンライン戦闘ゲームです。3次元仮想空間で対戦・チャットしながら、ながら通話をしています。彼らは、インターネットや、InstagramやTikTokで育った世代とは違った感覚をもっているのです。この、今どきの大人とのギャップが、次にやってくる「アタリ」である可能性を示唆しているのです。

期待と幻滅のサイクルを乗り越える

佐藤さんは、テクノロジーの法則 「新しいテクノロジーの期待と幻滅のサイクル」についても言及します。

新しいテクノロジーは「過剰な期待」と「過剰な幻滅」に交互にさらされながら普及します。かつて、2000年ごろのドットコムバブルとその崩壊については上述した通りですが、多くが市場を去る中、幻滅期も市場に残って技術をコツコツと磨き続け、社会実装が進み本当に経済的な価値を発揮できるようになったとき、彼らが収益を独占するというサイクルを経て世の中に広く普及していきます。ドットコムバブルがそうだったように、この期待と衰退のアップダウンにふるい落とされずに最後まで残っていられる企業・投資家は少数です。

おそらくその時には、イノベーションのジレンマに悩む必要のない、制約が少なくかつ細かくスピーディに動き回れる「もたざる者(企業)」が、台頭してきていると佐藤さんは予測します。

国家戦略としてのメタバース

2000年代、日本では「モノづくり大国ニッポン」として形あるものを作ることこそが「実業」であり、無形のソフトウェアやコンテンツを作るインターネットは「虚業」と位置づけ、国家として進む方向を間違えました。

結果、産業は丸ごと他国に奪われ、重要な人材は海外に流出し、企業は安値で買い叩かれ、給与は上がらなくなり、経済成長はストップし、先進国としての世界での影響力はどんどん低下しました。

現在、コンテンツ大国日本は、メタバースにおいて圧倒的な「地の利」がありますが、このままでは、メタバースでも全く同じ失敗を犯します。

米国や中国では凄まじい金額がメタバースにつぎ込まれています。今後、日本の映像制作会社・ゲーム会社・出版社など、コンテンツの権利とクリエイターを抱えている日本企業は、米中のテック企業や投資ファンドに安値で買い叩かれて買収されてしまうかもしれません。

今、世界のトップエリートがしのぎを削るのは次世代産業「宇宙開発」や「量子コンピューター」ですが、日本はこの分野で完全なる後れを取りました。もう勝てません。佐藤さんは、「今、日本経済が復活するカギはメタバースしかない」と警鐘を鳴らします。国家が将来を読みが違えれば、その犠牲規模は数千万人です…

メタバースの衝撃

【書評/要約】世界2.0 メタバースの歩き方と創り方(佐藤航陽 著):>メタバースの衝撃<

メタバースとは、新しい世界を仮想空間内に創造すること、「世界2.0」を創ることです。世界を新たに創り出すためには、「世界とは何なのか」「世界とはどう動いているのか」という自然・人間・歴史などの普遍的な法則性を理解しなければなりません。

佐藤さんは自らメタバース空間を創る経験を通じて、読者に「世界の普遍的な法則」を教えてくれます。

メタバース革命とは何か

メタバース革命とは①コンピュータの性能、②通信速度、③3DCG技術という3つの進化が相まった「インターネット3次元化革命」です。単なるゲームのVR化ではありません。それは、メタバースを大きく見誤っています。

この30 年間、インターネット業界においてはニュースやSNSが「入り口」で、ゲームはマネタイズのための「ゴール」でしたが、メタバースにおいては、ゲームが「入り口」。従来の流れとは「真逆のベクトルでマネタイズ化」が起こっています。ゲームを入り口に、コミュニケーション、ショッピング、ライヴなどのビジネスが派生しています。

ブロックチェーンやNFTはなくても成立

2022年現在、メタバース= NFT、仮想通貨のように見られていますが、これれも誤りです。 将来的にメタバースとNFTの技術が融合する可能性は高いですが、現段階においてはこの2つの技術は全く別物で、メタバースがブロックチェーン上で動く必然性は今のところありません。NFTやブロックチェーンの要素は「あってもいいけど、なくても成り立つもの」です。仮想通貨市場を盛り上げる、利害のある人たちが抱き合わせてバズらせているのがが出しい見方です。

Web3.0時代に恩恵を受けるのはクリエイター

現在のWeb3.0の潮流は、Web2.0の覇者であるGAFAに対するアンチテーゼとして提唱された概念です。この背景についてについてご存じない方は、以下の記事を参照ください。

では、Web3.0やメタバースの潮流の中で最も恩恵を受けるのはだれか。それは、クリエイターです。これまで無料でコピーされ放題だったデジタルデータがNFT化されて価値を持つようになれば、そのデータを生み出すことができるクリエイターが大きな力をもつようになることが高い確率で予想できます。

Web2.0時代に経済的な成功を手にしたのはYouTuberやインフルエンサーでしたが、Web3の時代では人々が欲しがる作品を0から制作できるクリエイターが経済的な成功を手に入れることになります(クリエイターエコノミー)。

またBtoBの世界では、少し前に「デジタルツイン」という概念が話題となりましたが、これは、現実の世界から収集した様々なデータを、まるで双子であるかのように、コンピュータ上で再現する技術のことです。このようなデジタルツインの世界ができれば、リアルの世界では難しい実験も簡単にシミュレーションができるようになります。即役立つので、関連ビジネスは無限に生まれてくるでしょう。

『マトリックス』や『竜とそばかすの姫』が現実になる世界

メタバースが作るのは、仮想空間にあるもう「一つの世界」と「もう一人の自分」。映画「マトリックス」や「竜とそばかすの姫」の世界は、まさに、メタバースです。2本の映画を見ていない人は、メタバースの世界をイメージしやすくするためにも見ておくべきです。
特に、「竜とそばかすの姫」は、世界観が難解なマトリックスと異なり、メタバースの世界が理解しやすいのでおすすめです

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もう一人の自分が自由に動き回る世界

マトリックスでは、現実の人間はベッドに寝転がって機械にログインして、仮想世界の中で敵と戦うお話ですし、「竜とそばかすの姫」は、現実世界では平凡な少女 すず が仮想空間の中では大人気スターのベルとなって生きています。こうなると、仮想空間の方が居心地がいい人もでてきます。

岡嶋 裕史さんの著書「メタバースとは何か」でも、リアルよりバーチャルの方が居心地がいいと感じる人たちの存在とその理由がページを割いて解説されています。今回紹介の「世界2.0」と一緒に読んでおきたいメタバース本です。

通信規格の進化が、世界を変える

通信規格が7G・8Gまで進化すれば、人間がハリウッド映画的なメタバースに人間が自然に没入できるようになると考えられています。或いはVRゴーグルをかけて動いていないのに、下層浮かんで激しく動き回る感覚が体感できる。こういう世界が、我々が住む世界で射程圏に入ってきているのです。

こうなると、メタバースの世界は、社会全体に一気に浸透するはずです。

現社会の非現実世界を売りにビジネスを展開しているディズニーランドも、メタバース開発に着手していますが、バーチャル・ディズニーランドは今までにない体験をもたらしてくれるはずです。3次元の仮想空間に誕生したら、行ってみたいと思いませんか?!

こんな世界がやってくるのです。

ここに、神経科学✕メタバースでさらにすごいことになる

ちなみに、人間は生きていくための食事が必要ですが、食欲を司る領域の刺激すれば、電極で刺激するだけで満腹感を感じたりすることもできますし、適当なものを食べてもおいしいと感じるようにすることもできます(今は危険すぎてできませんが)。

著書「脳と人工知能をつないだら、人間の能力はどこまで拡張できるのか」には、著書の紺野さんは「神経科学とメタバースの融合」に期待していると記載があります。佐藤さんの指摘にも「テクノロジーは、人間を拡張するもの」と述べていますが、脳のテクノロジーによる拡張はその最たるものです。

こうなると、より、仮想現実の価値もますます面白い世界に張るはずです。ちなみに、イーロン・マスクこの世界にも先手を打っており、「将来的には誰もが脳に電極を埋め込む時代がきっと来るだろう」 と主張し、自らNeuralinkという脳研究の会社を設立しています。ホント、イーロン・マスクは、未来を見る目を持っている最たる有名人と言えそうです。

最後に

今回は、佐藤航陽さんの「世界2.0~メタバースの歩き方と創り方」からの学びの一部を紹介しました。

本記事では触れていませんが、本書には「メタバース創り方=新しい世界の創造}についても非常にためになる記載があります。創る=技術者やクリエーターだけが知るにはもったいない内容です。なぜなら、世界を創るために必要な、❶世界とはどういう形をしており(ビジュアルとしての視空間(アバターと景色))、❷どういう仕組みで成り立っているのか(生態系) を知ることであり、それは「人間を知ることにつながる知識」だからです。この知識は、他のビジネスでも大いに役立つはずです。

是非、実際に本書を手に取って読んでみてください。