家族で日々食卓を囲むという幸せ。

家族と一緒に暮らしている人はこの「当たり前の幸せ」を感じられなくなっていないでしょうか。そんな、「当たり前の幸せ」の大事さに改めて気づかせてくれるのが、瀬戸まいこさんの小説「幸福な食卓」。

人生何が起ころう、朝はやってきて、生活は続いていく。

幸せは結構もろく、不幸は突然にやってくる。そんな人生において、生きる支えとなる家族のつながりを、家族のささやかな日常と愛を描くのが得意な瀬尾さんが、変わった家族「中原家」の食卓を通じて教えてくれます。予想外の展開にホロりと涙できる一冊です。

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幸福な食卓:あらすじ

幸福な食卓:あらすじ

7年前、自殺に失敗した父。
それをきっかけに、随分ヘンな家庭になってしまった「中原家」。

予備校でバイトしながら大学浪人生を送る父
家を出、一人暮らしをしながらも、家族に料理を届けに来る母
元天才児で大学にも入りながらも中退し、人生を放棄気味に暮らす兄
そして、主人公の佐和子

通常、不幸と言われてしまいそうな家族ながら、家族一人一人は、それなりに、健やかに今の生活を楽しみ、家族みんなで和気あいあいと会話をしながら食卓を囲む。佐和子には高校合格をきっかけに付き合いを始めたボーイフレンドの大浦君、兄の直ちゃんにもちょっと変わった彼女ヨシコがいて、それぞれ、恋に悩んだり、相手への思いをますます熱くしたりしながら、毎日の生活を送っていた。

そんな日常の中に突然起こった「大浦君の事故死」…. それぞれ切なさ・心配・不安を抱えながらも、つながり合い再生していく家族の姿を温かく描く。

幸福な食卓:感想(ネタバレあり)

幸福な食卓:感想(ネタバレあり)

血の繋がらない親の間をリレーされ、四回も名字が変わった高校生とその家族愛をつづり、2019年本屋大賞受賞作を受賞した「そして、バトンは渡された」同様、一般的には不幸とされがちな家庭環境の中にある「家族愛」「絆」がテーマが作品の本作。「家族の存在」の大切さに改めて気づかせてくれる作品です。

重たくなりがちな話に軽さ。思いがけない展開

重たい話の中「軽さ」がある、描き方は瀬尾まいこさんならでは。
この点に関しては、好き嫌いが分かれるところかもしれませんが、私個人としては、

・様々な愛の形がある
・カタチ・形式よりも、真につながっているという「絆」が大事
・不幸は突然にやってくる
・不幸に襲われたとき、最後まで、損得抜きで、優しい目で当人を見守ってくれるのは家族

ということを再認識させられるいい作品だと思います。そして、予想できなかった最後の展開に、最後はほろりと涙しました。

以下では、私が素敵だなと思ったストーリーや発言を紹介します。

家族の形

「うちの家庭って崩壊しているのかな?」
私がプリンにスプーンを突き刺しながら言うと、母さんが目を丸くした。
「どうして?恐ろしくいい家庭だと思うけど」
「父さんが父さんを辞めて、母さんは家を出て別に暮らしている」
(中略)
でも、みんなで朝ご飯を食べ、父さんは父さんという立場にこだわらず子供たちを見守り、母さんは離れていても子供たちを愛している。完璧。

家族のカタチはいろいろある。形式にこだわるより、本当に絆がつながっている家族の方が素敵だと感じたフレーズ。
外から見たらどんなに立派に見える家族だろうが、いがみ合う家族は心の支えにはならない。

大切な人の死

こんなにどうしようもないことがどうして起きるのだろう。どう努力したって、どんなにがんばったって、大浦君は帰ってこない。すごく必要なのに、取り戻す術 がない。今までだって、困難なことはたくさんあった。だけど、いくつか乗り越える手段があったはずだ。どう手を尽くしても仕方がないことが確定している、そんな大問題を前にするのは初めてのような気がした。
(中略)
翌日もまた朝がやってきた。本当に不思議だ。どんなにショッキングなことがあっても、日常はきちんと進んでいく。父さんが自殺を失敗したときも、母さんが家を出たときも、朝は普通にやってきた。

大切な人の死を受け止めるのは大変だ。特にそれが、「人生初の大切な人の死」であるときはなおさら。
私も、「人生初の大切な人の死」は一緒に暮らしていたおばあちゃんであり、夕食を一緒に食べて、その数時間後に突然倒れて、救急車に運ばれてそのまま息を引き取った。いわゆるポックリ死。中学生の私は、「突然の死」が受け止められなかった。

しかし、どんな不幸が襲おうと、朝が来て、毎日の生活は続いていく。そして、何度か大切な人の死を経験しながら、今現在の私として存在している。

生きる役割

「ある程度、役割は必要だってこと。役割を果たすことで、生きてる実感がわくし、みんなが役割を果たせば、いい環境が作られる。だから、父さんは父さんでなくっちゃ、母さんは母さんでなくちゃだめなんだ。俺は兄で、佐和子はもっと可愛くなくちゃいけないんだ」
「父さんさ、やっぱりちゃんと生きなくちゃって思った。そして、父さんにとって、ちゃんと生きるってことは父さんとして生きることだって思った。父さんなんてものにとらわれるのは嫌だって思って、今までの自分を捨ててみたけど、だけど、父さんは父さんで、やっぱりそういるのが一番落ち着く。とにかく父さんでいたいんだ。」

本ストーリーには、「自分の役割とは何か」を考えさせられるシーンが何度か登場します。上記引用はその例。

佐和子を襲った不幸は、家族が同じ食卓を囲むという些細な幸せを奪った。一緒に暮らす父・兄はなんとか、佐和子を元気づけようとさりげない気遣に心を配る生活が続く。

そんな中で、一般的な「父」という役割を放棄してきた父は、やっぱり、「父として生きよう」と決断するのです。変な家族はヘンなりでも絆があることでつながり幸せに生きることもできる。しかし、やっぱり、そこには、複雑な思いもある。家族に襲う不幸は、家族の在り方を改めて深く考えさせ、軌道修正するきっかけにもなり得ます。私も、家族に起こった不幸をきっかけに、家族の在り方が変わった一人です。

家族の存在

「絶対、また恋人はできる。私が保証してあげる。でも、家族はそういうわけにはいかないでしょう? 」
「だから大事にしろってこと?」
(中略)
家族は作るのは大変だけど、その分、めったになくならないからさ。あんたが努力しなくたって、そう簡単に切れたりしないじゃん。だから、安心して甘えたらいいと思う。だけど、大事だってことは知っておかないとやばいって思う。まあ、とにかく、あんたはちゃんと元気になれる環境にいると思うし、元気にならないといけないとも思う。別に急がなくてもいいし、どんな風でもいいんだけど、もう少し元気出してよ。」

大浦君の死から時間が経過しても全く元気にならない佐和子に対して、普段、優しい言葉をかけるとかそういうことが全く苦手と思える兄の彼女がヨシコ が照れくさそうに佐和子に語った言葉です。

私は、普段は一人暮らし。しかし、実家に帰省すると、血のつながる父・妹はとても喜んで、忙しい中であれこれ世話を焼いてくれる。長くいると様々迷惑をかけてしまうので、長期滞在は遠慮してしまうけど、妹曰く、「私が実家に帰ると父はとても饒舌になり楽しそうだ。だから、時々帰っておいで」という。そして、関東でも頻発する地震のニュースを見るたびに、「万一の時に帰る場所はあるからね」と声をかけてくれる。

こんなことはどの家でも大体同じだと思うのですが、損得なしで支えてくれる家族はとても大事だし、もっと甘えていい存在なんだと改めて思う。親不孝なこと、妹不幸なこともいろいろしてきたけど、改めて大切にしたい。

最後に

今回は、瀬尾まいこさんの小説「幸福な食卓」を紹介しました。
いい小説です。家族の在り方を改めて考えるきっかけにもなります。是非、お手に取って読んでみてほしいなと思います。