日々、激しい相場展開が続く世界のマーケット。
昨夜、4月2日の米ダウは3日ぶりに前日比466ドルもの反発。直近2日間で1400ドル下げたことによる反動もありますが、トランプ米大統領が主要産油国の減産を示唆したことで米原油先物相場が急上昇し、投資家心理が改善。石油株が大幅高となり、ダウ平均を押し挙げたと報じられています。
コロナショックのインパクトが凄すぎて印象が薄く感じてしまうほどですが、原油の経済に与える大きさを改めて感じさせられます。4月1日、米シェール企業ホワイティング・ペトロリアム原油急落で破綻するといったニュースも報じられています(昨今の原油急落による主要シェール企業の経営破綻は初)
原油の世界経済に与えるインパクトを改めて認識すべく、2015年発刊の本、みずほ総合研究所が書いた「激震 原油安経済」を再読。経済は激しく変化しているように思いますが、表面は変わっても根本は変わらないことと感じる内容です。今回の、コロナショックと絡めながら、今後について考えてみたいと思います。
目次
本書の背景
本書は、2014年半ばには110ドル近かった原油相場が、翌15年3月には40ドル台前半までに暴落したことを背景に、この価格下落を招いた経済環境の変化とは何か、世界各地にどのような影響を及ぼしているのか、来たるべき原油安経済をいかに受け止めればよいのか――。
上記問題を詳細に解説するのが本書。原油安経済の構造や、原油安で恩恵を受ける国、打撃を受ける国について、分析が行われています。
原油 長期チャート(USDWTI)
2014年、そもそもなぜ、原油「100ドル相場」が起こった?
40ドル台への急落前、原油は100ドル以上の値を付けていました。そもそも原油100ドル相場の背景にあったものは何でしょうか?それは以下の3つです。
1.新興国の旺盛なエネルギー需要
2.緩和的な金融環境、原油の金融商品化
3.地政学リスク
「原油」もリアルタイムに取引可能
中国などの新興国の高成長に伴う原油需要拡大に対する期待と、そのような将来性のある原油市場に、年金運用基金などの新たな投資主体が出現がしたことが原油価格上昇の背景です。また、「アラブの春」などの地政学リスクが拍車をかけました。
しかし、新興国神話が終焉したことにより「100ドル相場」は崩壊。米国の利上げを先取りした市場の思惑をきっかけに、急落。アラブの春前の70~80ドル台を大幅に割り込み40ドル台まで下落しました。ここまでの急落は、上記以外の理由に、もっと根本的な原油価格の決定要因(ファンダメンタルズ)に原因があったと考えるのが自然です。
原油安がもたらすこと
原油安が起こると何が起こるのでしょうか?
原油の負け組・勝ち組
原油安の深層
原油安は世界経済の追い風となることが期待されているにも関わらず、現実問題として、世界の株式市場の不安定要因となり、また、各国の国債利回りの異常なまでの低下にもつながっています。
この状況は以下のように解釈できます。
1.原油安のメリットを原油安の勝ち組、ひいては世界経済が享受するには時間がかかる。
2.原油安には伝統的な経済モデルでは補完できない、金融面での「マイナス面」がある。
資産運用としてのコモディティ投資
グローバルな投資家の資産運用において、2010年代以降、コモディティ投資を敬遠する動きも出てきています。
欧米の年金や各種団体・基金をはじめとした、伝統的な機関投資家が運用ポートフォリオの一環としてコモディティ投資を始めたのは1990年代。2000年代半ばには、コモディティを株式や債券といった伝統的な金融資産と同様に一つのアセットクラスとして位置づけ、積極的にコモディティに資産を振り分ける動きが強まりました。いわゆる「コモディティの商品化」の動きです。
しかし、2012年末には世界最大級の年金基金であるカルパースがコモディティ投資の圧縮を図るなど、機関投資家のコモディティ離れが始まり、コモディティ投資残高は14年末には3000億ドル割れの水準まで減少しました。理由は、中国経済の減速を背景に、商品市況が頭打ちとなる中で運用パフォーマンスが優れないことなど、伝統的な金融資産との分散投資効果が期待されたほど得られなかったためです。
その他、モルガンスタンレー、JPモルガン、バンカメ、ドイチェバンク、英ロイヤルバンクオブスコットランドなど、多くの機関投資家が、コモディティの現物ビジネスの縮小や売却の動きを進めています。そうした背景には政治や規制の動きも関係しています。
原油安とドル高は表裏一体
ドル安は米国の金融緩和の結果であり、金融緩和に伴う流動性相場の下では資金は原油などの商品に向かいやすい。ドル不安が高まった際に、「質の逃避」ならぬ「商品への逃避」の動きが強まり原油高となりました。
しかし、現在は、その反対のことが起きつつあります。ドルの信認回復に伴い、ドルから原油へのマネーフローの巻き戻しが進み、ドルに資金が回帰しつつあります。
苦しい新興国
最後の投資フロンティアとして期待のあったアフリカ諸国についても、逆境に立たされています。新興国の資金調達はドル建てで実施されることが圧倒的に多いです。ドル高と原油安・資源安によって二重の債務負担に直面し、いわば「往復ビンタ」をくらってしまうことが懸念されます。
新興国のブームは当面、足踏み状況を余儀なくされます。現在は、先進国の回復が主導する中で再び新興国を底上げするタイミングを待つ我慢の局面にいます。その間は一定期間、原油価格の停滞も続くと覚悟する必要があると思われます。
世界中で行われる「水没競争」。2014年当時、唯一の浮き輪は米国のみ
日本に限らず、各国中央銀行が異例な金融緩和を行う現在。
著者らは現在の状況を、世界各国の「水没競争」だと表現します。その意味は、自らの経済の浮揚を自らの自国通貨の下落と、他国の需要=外需に依存するゲームに各国が参加しているということ。
浮揚のためには、水没から浮上する「浮き輪」の役目を果たす国が必要です。この経済浮上の役割を単独で果たしていたのが、当時の「米国」。この「米国」という浮き輪に、新興国のみならず先進国もすべてがすがり、コロナ・ショック前まで、世界経済は強く復活したことは皆さんのよく知るところです。
不況の脱出ゲームの行く末は?
前回の不況脱出ゲームのキーは「バランスシート不況」でした。
そして、今、直面しているのが、原油安に追加して、人類が壮大な歴史をかけて戦ってきた「ウイルス」、「パンデミック」による不況です。
世界的規模で起こった感染症
過去、人類は以下のような感染症に脅かされ、多くの人口を失ってきました。世界規模で発生した感染症の中で、人類が根絶したしたのは唯一「天然痘」しかなく、以下の感染症はまだ撲滅されていません。
大規模感染症発生の歴史
感染症 | 時代 | 脅威 |
---|---|---|
ペスト | 14世紀:ヨーロッパで「黒死病」と呼ばれるペスト大流行 | ヨーロッパだけで全人口の4分の1~3分の1にあたる2500万人の死亡と推定 |
新型インフルエンザ | 1918年:スペインかぜが大流行 | 世界で4000万人以上が死亡(当時の世界人口18億人)したと推定される |
1957年:アジアかぜの大流行 | 世界で200万人以上の死亡と推定 | |
1968年:香港かぜの大流行 | 世界で100万人以上の死亡と推定 | |
2009年:新型インフルエンザ(A/H1N1)の大流行 | 世界の214カ国・地域で感染を確認、1万8449人の死亡者(WHO、2010年8月1日時点) | |
新興感染症 | 1981年:エイズ(後天性免疫不全症候群、HIV) | イギリスでクロイツフェルト・ヤコブ病と狂牛病との関連性が指摘される |
1997年:高病原性鳥インフルエンザ | 人での高病原性鳥インフルエンザA(H5N1)発症者 397人、死亡者249人(2009年1月20日現在) | |
2002年:SARS(重症急性呼吸器症候群) | 9ヶ月で患者数8093人、774人が死亡 |
SARSに対して、コロナショックの感染の大きさが伺えます。SARSクラスで9ヵ月間での患者数がカウントされています。となると、今後の感染症の特効薬の研究開発次第ともいえますが、感覚的には収束に1年かかるという発言も現実的に思えます。
ただ、数世紀前まで数千万人が死ぬ感染症が起こってきたわけですから、科学技術の飛躍的な進歩も感じさせます。
コロナショック、そして、経済はどうなるのか?
コロナ・ショックで世界経済は大きく壊れました。「コロナ・ショックが沈静化するには1年を要する」という要人発言も多く、今現在続くような外出規制が長期化すると、中小企業、小売り、飲食、旅行業界などの多くの企業が破綻することとなり、日本にとっては、リーマンショック時よりも、実質的な経済で大きな影響を受けることになります。当然のことながら、生産が落ち込み、移動量も減りますから原油需要も減るでしょう。
世界の経済の不況の脱出ゲームは、踏み台になる支柱となる国を探しながら、自らの浮揚を目指すゲームです。本書が発刊された2014,5年当時においては、その支柱役は「米国」。中でもGAFAを中心とするIT企業でしょう。日本も米国の恩恵を受け、経済浮上しました(ただし、庶民への恩恵は限定的)。しかし、すべての国が復活できたわけではありません。かつて、新興国ブームというものがありましたが、今回は、原油価格の下落のメリットを受けた先進国を中心とする回復が新興国に回る前に、コロナショックが起こったように思います。
はたして、次に世界経済の不況の脱出ゲームの「支柱」となってくれるのはどの国なのでしょうか?どの分野・企業なのでしょうか?
これが分かって投資できれば、この大暴落相場からの経済浮上で大きく儲けられることになります。
少なくとも、外出規制・在宅ワークに関連し、Amazon、GoogleをはじめとするIT系は、本不況にも拘わらず強そうです。ただ、一方で、どこかでこれらに代わる企業が育っていることも事実です。果してどこにいるのでしょうか。