人生に失敗し、絶望したとき、「もう一度、頑張れ!」「明日に向かって生きよ!」「死ぬ気になれば、なんでもできる」といった励ましのポジティブワードや成功者の言葉は心に響くでしょうか?
絶望のどん底にあるとき、成功者のポジティブな言葉は、まぶしすぎて心に響きません。「成功者の言い分なんかクソくらえ!」と腹立たしさすら感じてしまうこともあるでしょう。
そんな絶望期に、心が救われる言葉を投げかけてくれるのが、ネガティブな思考しかできなかった「カフカの超絶ネガティブな言葉」です。
今回紹介する『絶望名人カフカの人生論』は、たくさんの「カフカの絶望の言葉」を解説付きで紹介してくれる本です。
カフカは、世界的ベストセラー「変身」を代表作に持つドイツ作家ですが、生前、作家として評価されることはありませんでした。そして、自分を悲観し、実に多くのネガティブな言葉を残しています。そこに、多くの気づきや、癒しがあります。
今回は、本作品からの学びを紹介します。
目次
絶望名人カフカの肖像
生前、作家として認められなかったカフカ
カフカは、現代では世界的ベストセラー作家として知られていますが、冒頭にも記した通り、生前、作家として評価されることはありませんでした。評価されたのはカフカの死後です。
生前のカフカは「成功」とは無縁。幼少期のトラウマが災いして、全てにおいて、ネガティブ思考。嫌々サラリーマン生活を続け、生涯独身・虚弱体質・不眠症… 挙句の果てには、ストレスから若くして病気になりました。とにかく、ストレスまみれの人生を(自ら選択して)生きた人です。
カフカが絶望したのは「自分」
カフカはたくさんの日記・手紙・ノートを残しましたが、それらは、自分自身や自分の環境に対する「愚痴・弱音・絶望の言葉」で満ちています。
愚痴の対象は将来、仕事、容姿、病気、家族など。「世界が……」「国が……」「体制が…」といった愚痴はありません。ある意味、自分に関することしか、関心ありませんでした。
あまりにも自分に対する絶望が凄すぎて、「なにも、そこまで自分を卑下しなくとも…」と思ってしまうほど。「自分はカフカよりましかな」、と、逆説的に癒されます。
カフカの絶望:ラブレターで
将来にむかってつまずくこと、これはできます。
いちばんうまくできるのは、倒れたままでいることです。
上記は、カフカが結婚を約束していた女性 フェリーツェへあてたラブレターの一説です。
普通の人なら、愛する人にはダメな自分を見せたくないものです。しかし、愛し、将来を共にしたいと願う相手にさえ、自分を繕うことができず、「どうしようもない自分」を綴ってしまいます。ちなみに、以下のような言葉も贈っています。
床の上に寝ていればベッドから落ちることがないのと同じように、 ひとりでいれば何事も起こらない。
カフカは、フェリーツェと二度婚約して、二度婚約破棄しています。愛する人と一緒にいたい、でも、一緒にはなれない…という「アンビバレント」な感情をどうにも制御できませんでした。また、ダメな自分が結婚したり、子供を持つ(遺伝子を残す)ことがどうしても許せませんでした。人といる方が孤独を感じるタイプで、自分以外の「世間」「社会」と共にあることにも苦痛を持っていたのでしょう。
なぜ、カフカはこれほどまで絶望的なのか
カフカは、なぜ、これほどまでに、絶望的なモノの考えをするのでしょう?
本書の中で、絶望の元凶が何であるかは明確に書かれていませんが、大きな影響を与えているのが「心身ともに逞しい父の存在」です。
カフカは36歳のときに、父親に「あなた(父)のせいで、ぼくがいかにダメになってしまったか」を綿々とつづった、45ページもの長い手紙を書いています。ちょっと恐ろしい…なお、実際には、父に渡す前に差し止められています。
カフカの絶望の元凶は「父」
カフカの父は貧しい家庭に育ちましたが、たくましい体と精神で商売を起こし、成功させた「強靭な人」です。しかし、小さい時に勉強をさせてもらえなかったため、勉強に対して強いコンプレックスも持っていました。
「成功体験」と「強いコンプレックス」が同居した人の負の側面に「攻撃的で独善的な性格」がありますが、カフカの父はそういう人でした。結果、子どものカフカに、強く自立することを求めながらも、一方で、支配するようなところがありました。
幼少期の家庭環境に問題
カフカの絶望思考は「父」によるものです。カフカは、幼少期より、以下のような経験をして、精神をゆがめています。
・自分に罪はなくても、罰がやってくる(理由なく怒られる)
・罰を受けたせいで、理由のわからない罪悪感に苛まれ続ける
理由もなく理不尽に怒られて育った子が、性格に問題をきたすことは、科学的にも証明されています。親は、子供に、虐待・ネグレクトをしては絶対にいけません。
それでもカフカは「自殺」しなかった
絶望しきった人の中には、「自殺」という道を選択してしまう人もいます。カフカも「死にたい」と思いながらも、自殺を試みることはありませんでした。
誰しも人生の中で、一度は、「死にたい」という感情に襲われます。しかし、それは、本当に死を願っているのではなく、「今の人生から逃げ出したい」という願望であることが大半です。カフカはノートに絶望を書き記すことを、「今の人生から逃げる手段」にしていたのかもしれません。ただ、あまりに逃げ口として使い過ぎて、精神を病んでしまった感は否めませんが…
カフカを反面教師にすべきこと/学ぶべきこと
本書を読んで、カフカを反面教師だなと思った点を挙げてみます。
完璧主義
普通、そこそこ仕事ができて食べていけるなら、「自分の本来の夢」とは程遠い生活をしていても、「まあ、いいかぁ」と思って生きられます。しかし、カフカは「まあ、いいか」と人生に折り合いがつけられませんでした。
完璧主義は自分を苦しめます。また、自分に関心を持ちすぎると、ダメな自分を赦せなくなります。自己愛が強すぎて、自分を偽って生きている人もいます。理想的な自分を演じて、嫌われたくないので、空気を読みすぎて疲弊するのも本末転倒です。自分が思っているほど、周囲の人はあなたのことなど見ていません。「上手に逃げる方法」を知り、不必要に苦しまないようにする対策が必要です。
考え過ぎる
ネガティブ思考な人は、何かやろうと思っても、その前に、いろいろ考えるというか、悩みます。「これをやろう」⇒「でも、それをするためには、まずこれをしなければならないし……」「こういう問題もある」「うまくいかなかったらどうしよう」と、さまざまな問題や障害を次々と思いついて、結局、行動に起こしません。カフカもそんな人でした。
また、責任を感じすぎる人もいます。しかし、重いのは責任ではありません。「自分で自分を押しつぶしている」だけであることを知るべきです。
自分にこのような思考壁があると思ったら、とりあえず、入念な準備の前に行動です。
絶望は「絶対悪」なのか?
さて、ここまで「絶望のデメリット」ついてばかり述べてきました。しかし、絶望は「絶対悪」ではありません。
カフカは、世界的ベストセラー作家になることで、「人は絶望からも力を得ることができるし、絶望によって何かを生み出すこともできる」ことを証明しました。
カフカの「変身」は、私にとって衝撃を受けた小説トップ10に入る作品です。短編なのに、恐ろしくインパクトがあると同時に、「人間」「人間関係の本質」を突きつけられます。これは、絶望から、時代を超えて共通する「人間の本質」を見出し、それを、何度も何度も推敲を重ねて作品に仕上げたからに他なりません。普通なら目を背けたいことに、向き合い続けた結果です。
絶望の中で、「自分を見つめること」の大事さを教えられます。
最後に
今回は、『絶望名人カフカの人生論』からの学びを紹介しました。カフカの苦悩は、あなたに気づきを与えてくれるに違いありません。「カフカのネガティブな言葉が持つ力」を是非、味わってみてください。
最後に、一つ、豆知識ですが、日本で初めてカフカを翻訳したのは文豪・中島敦だそうです。
中島敦と言えば代表作は「山月記」。
なぜ自分は虎になったのか―。
臆病な自尊心と、尊大な羞恥心が、心のうちに潜む虎となり、家族や友人を傷つけ、我を本当の虎にした…
この作品も、カフカの『変身』に通するものがあり、また、大事なことを教えられます。合わせて読んでみることをおすすめします。