生物として「ヒト」を見るなら、子孫を残し、進化していくことが求められるはずだ。
しかし、世界のどこかで常に戦争が起こっている。ヒトはなぜ争うのだろうか?

そんな疑問を生物学者の立場から、進化と遺伝子に着目して解説しているのが本書。
宇宙がビッグバンで誕生してからの生物の進化を押さえた上で、ヒトが人になった理由、野生動物との違い、ヒトの誕生と心の進化、さらには、「ヒトとは何か」「人はなぜ争うのか」について考察しており、大変興味深い一冊です。

過去より、戦争は「正義の戦争」という名のもとに、正当化されてきました。ナチス・ドイツによるユダヤ人600万人の虐殺=ジェノサイド(民族虐殺)も起こりましたし、太平洋戦争では日本でも多くの命が失われました。

なぜ、人間はこんな残虐なことができるのでしょうか?
果たして、戦争は遺伝子に組み込まれたヒトの宿命なのでしょうか?
それを克服する力がヒトにはあるのでしょうか?

今回は、著書「ヒトはなぜ争うのか」の要点を紹介します。

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「農業の始まり」が身分格差・争いを生んだ

狩猟時代の人の暮らしは「その日暮らし」です。狩りで得られた食物は皆で分配するのが原則。独り占めは許されません。もしもそのような行動をすれば、集団から排除されてしまいました。そこにあるのは「平等な社会」です。

しかし、約1万年前に始まった農業・牧畜がそれまでの生活を一変させました。農業の発達が、蓄財、私有財産、身分格差、階層文化につながり、それが、争いのもとになりました。

現代の戦争

20世紀以前の戦争は、局地戦。兵器もさほど強力ではありません。

しかし、20世紀に入ると様相は一変。第一次世界大戦ではヨーロッパを主戦場に2000万人の命が奪われました。また、第二次世界大戦では死者が5000-8000万人にも膨れ上がりました。これは当時の世界人口の2.5%もの人の命が犠牲になったことになります。

ヒトは「争い遺伝子」を持つが、他の生物にはないコントロール力を持つ

ヒトは、縄張り防衛、拡大、膨張、という生物学的衝動を間違いなく持っています。つまり、「争う遺伝子」を持っています。

しかし、日本は1945年(昭和20)8月10日、米英中3国によるポツダム宣言受諾を申し入れ、15日無条件降伏し、第二次世界大戦で敗戦を迎えて以降、戦争は起こしていません。それは、日本国民、誰もが理解している通り、憲法9条によって戦争を放棄し、対外的な戦争をしないとう取り決めを守ってきたからです。

本来、人は「争う遺伝子」を持っているのに、なぜ、戦争を起こさずにいるのか?

そのカギとなるのが教育と理性です。

ヒトは生物学的に「争う遺伝子」を持って生まれますが、教育によって、その発現を抑えることは可能です。人間社会には、他の生物・動物とは異なる社会法則をもち、生まれつき生物として持っている行動パターンを替え、新しい社会を切り開き、よりよい世界を作ることができる、特集な能力を持っています。それが他の動物とは決定的に違う「ヒトの能力」なのです。

「理性」と「教育」が地球を救います。

教育次第で避けられる争い

教育次第で避けられる争い

著者は、人の進化の過程で狩猟採取時代に獲得された「争う遺伝子」「人殺し遺伝子」はもともと弱い遺伝子だったのではないかと推測します。しかし、農業が始まった1万年前から本格的な戦争がはじまると、敵を殲滅したり、皆殺しをするようになってしまいました。

本来、人間社会では、殺人はいけないことです。しかし、個人的な殺人は「悪いことだ」と抑制される一方、国家間の戦争は許される風潮があります。「人の命の尊さ」を考えるとおかしなことですが、これこそまさに、戦争と人殺しの「遺伝子」を発動させているのは、「教育(宣伝)」です。

人は、ヒトは、「争う心」を持つと同時に、「争わない心」を持っています。他の生物と異なり、言葉を発展させたヒトは、遺伝子を克服する力を持っています。事実、ヒトは恋愛をし、家族のために働き、世の中を良くしようと奮闘してきました。また、ヒトが人になるに従って、ヒューマニズムを発展させ、人類愛を形成し、宗教も作り出してきたのです。

今後も戦争の動機はなくならない

争い、特に戦争は地球から根絶すべきものです。

しかし、戦争することで儲けたり、潤ったりする国がある以上、戦争の動機は今後もなくなることはない。著者は推察します。

それ故に、繰り返しになりますが大事なのが「教育」です。戦争に反対し、平和を求める運動の基板もやはり教育だからに他なりません。

最後に

今回は、若原 正己さんの「ヒトはなぜ争うのか―進化と遺伝子から考える」を紹介しました。

人間とはどういう生き物なのか、そして、皆が人が潜在的に持った「争い遺伝子」に対抗し、戦争を起こさないためにも、いかに「教育」が大事か、改めて実感させられる一冊でした。

なお、本書では、種を残すとう生物の観点から、人間は本来「一夫一妻制なのか、一夫多妻制なのか、乱婚制なのか」という問いも明らかにしています。そこには、「精巣の大きさ」と「精子の数」が関わっているそうなのですが、その内容は、雑学して知っていても大変面白い内容です。

是非、本書を手に取って読んでみてください。

なぜ、争いがなくならないかを学ぶなら、以下の本もおすすめです。