【書評】決定版 菜根譚(洪自誠、守屋洋 著)(★4.5)

これまで本屋平積みの最新ビジネス書が中心だった私の読書。
しかし、しかしこのような読書には欠点もあることに気づき、何十年、何百年と読み継がれる古典を読もうと思うようになりました。

今回取り上げた本もそんな1冊。

「菜根譚(さいこんたん)」は400年ほど前、中国・明代の学者、洪自誠によって書かれた処世訓です。

人生にとって重要な中国の処世訓、思想・道徳といえば、孔子を開祖とする「儒教」、老子を開祖とする「道教」がありますが、この2つの教えに「仏教」を融合し、そのうえで処世の道を語っているのが特徴。

「菜根譚」というタイトルも、宋代の学者の言葉「人よく菜根を咬みえば、すなわち百事なすべし」(堅い菜根をかみしめるように、苦しい境遇に耐えることができれば、人は多くのことを成し遂げることができる)という言葉に由来します。

この由来の通り、「かみしめて味わうべき人生訓の書」で、中国以上に日本で愛され、田中角栄はじめ多くの方が愛読しました(後述)。

「菜根譚」の言葉は、人それぞれ、心に響く言葉が違いますので、是非、手に取って読んでほしい。そこで、今回は本書、或いは、古典を理解するうえで大変重要となる時代背景についてまとめてきたいと思います。

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世界の歴史:比較年表

古典を学ぶなら、まず理解すべきはその古典が発刊された「時代」。
年表上で、その時代がいつ頃なのかを理解することが大事です。

世界年表

正確な出展不明ですが、ネットによく引用されている世界年表です。

世界年表
※↑クリックで拡大

Chamiの一言
話は本題とずれますが、歴史の厚み・ダイナミズムはヨーロッパや中国に劣る日本だけど、日本は一度たりとも侵略などされず、統一王朝(天皇家)が続き、「日本国」として存続しているのは凄い。
ヨーロッパも中国も食って、食われての侵略の歴史です。

中国王朝年表

中国の王朝にフォーカスした世界年表

中国・韓国・日本年表
↑クリックで拡大
参照:日本・中国・韓国 対照年表

主な出来事も合わせてチェックしたい場合は、こちらの「日本・中国歴史年表」が見やすくわかりやすいです。

Chamiの一言
こうみると、やっぱり中国凄い。今後も5G時代のデジタル覇権を狙う中国vs米国の争いに注目だ!

儒教・道教・仏教

ここで、各思想についても私なりの言葉でまとめてきたいと思います。

菜根譚の時代背景

菜根譚は、儒教と道教に仏教が融合された処世訓でしたよね。これらの時代背景は以下になります。

重要人物の生きた時代

孔子(儒教)  :中国 春秋時代 紀元前5世紀
老子(道教)  :中国 春秋時代 紀元前5世紀 ※孔子と同時代
ブッダ(仏教) :インド  紀元前5世紀 ※孔子より10年強前に誕生
洪自誠(儒仏道):中国 明 16世紀

これをみると、菜根譚は、「儒教」と「道教」という紀元前からの長い時を経て、互いに対立、しかし一方で、互いに補完し合あう2の思想が、時代を経て「仏教」と出会った教えであるということがよくわかります。

儒教・道教・仏教

それでは、東洋の3大思想、儒教・道教・仏教とはどんなものなのでしょうか。
私なりの言葉でまとめた結果が以下。

儒教エリート向け、「表」の道徳、公的な「建前」道徳
切磋琢磨し、学問を修め、身を立てて国を治めよ。という規範の教え
道教凡人(民衆)向け、「裏」の道徳、優しい道徳
無理すれば様々な弊害が生じ、世の中のためにならないことも多いので、のんびり生きればいい、無理するなと説く優しい教え
仏教「心」を救う教え
人生は思う通りにはならない「苦」であるとし、その「苦」を取り除くために、煩悩を克服し悟りを開く方法を説いた
「八正道」「三宝(仏法僧)」など

さて、これらを見ると、中国の「儒教」「道教」は、「応対辞令の学」であって、人々の心の問題にまではほとんど立ち入らない教えであり、人が抱える苦しみ・悩みは救済してくれません。一方、仏教は、まさに人の心の救済を説く教えです。

つまり、菜根譚は、中国の古代からの教えに、人の心を救済する教えも混ざった教えなのです。

実際、本書を菜根譚の教えを読んでみると、ある部分では厳しく、ある部分では楽に生きることを勧めており、全体として優しみのある教え・知恵であるという印象を受けました。

著者 洪自誠が生きた時代

洪自誠が生きた時代は、明の時代でも、皇帝も皇帝なら、官僚も官僚で、政治をそっちのけにして党派争いに明け暮れ、王朝が衰退していく時代でした。

これでは、儒教のいうエリート思想が心に響くはずもありません。それ故、官僚にも、道教や仏教に心の救いを求める者が多かったそうです。

日本へ渡来

菜根譚は、日本には江戸時代末期に伝わり、江戸~昭和の日本で愛読されました。経営者や政治家、文化人に座右の書としている人たちが多く、東急グループの創業者・五島慶太、元首相・田中角栄、小説家・吉川英治、元巨人軍監督・川上哲治なども愛読書としていたそうです。

最後に

今回は、菜根譚の教えそのものではなく、この本が書かれた時代背景をメインに紹介いたしました。

冒頭でも記載しましたが、人生、折りに触れて本で観たい本です。
今回は菜根譚入門として、古田洋さんの解説がわかりやすい「決定版 菜根譚」を読みましたが、今後は、岩波文庫「菜根譚」にも挑戦したいです。