小売店にとって「招かれざる客」がいる。それは万引き依存症者。
万引きは刑法では窃盗の一つであり、れっきとした犯罪です。しかし、言葉から受けるイメージが軽いからか、被害の大きさに比べて問題視されることが少なすぎます。
しかし、その被害総額は、なんと、1年間4500億円超。
単純に365日で割ると、なんと1日12.3億円超にもなるのです。
※全国万引き犯罪防止機構調査による
著者は精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳さん。著者は本の冒頭で以下のように語ります。
“人が万引きをはじめる背景には何があるのか、なぜやめられなくなるのか、
どれだけの被害を生んでいるのか、どのようにすれば止められるのか。
それらを考えるなかで、日本人が現代社会で抱えているさまざまな問題・・・・
ストレスや性別役割分業、超高齢化社会、親子関係の問題から起きる摂食障害などーーー
万引き依存症は現代人だからこそ陥る病理であり、だからこそ、誰ひとりとして「自分は絶対にならない」とは言えません。”
斉藤さん自身のクリニックで、特に加害行為を繰り返すタイプの依存症の臨床に長年携わる中で見えてきた、万引き依存者のリアル、そして、その対処法を明らかにしています。
目次
依存症になりやすい人たち
依存症、と聞くと「意志が弱い」「だらしない」というイメージがあります。しかし、本人にとってはストレスに対抗する生き抜くための手段であったりもします。
もともと万引きにかぎらず、何かの依存所になってしまう人の多くはまじめな性格の持ち主です。責任感も人一倍強い。そして、過剰に人に気を遣ったりするなかでどうしようもまいストレスを溜めてしまう。それが時に、万引きという形で現れるのです。
なぜ、女性に万引き依存症者が多いのか
万引きは、比較的、女性に多い犯罪です。
もともと根が真面目な彼女たちは、日ごろや良き嫁、良き母であろうと努めている。しかし、家庭内にいろいろなストレスがあると、それを発散させるための手段として万引き行為に至ってしまう。依存症は手の届きやすい範囲で実施されるものでですが、日々の買い出しの中で、「節約しなきゃ」という気持ちから始まる女性も多いようです。
増える高齢者万引き
万引き依存者には女性が多い一方、最近では、高齢者による万引きの増加が問題になっています。
高齢者の万引きというと、認知症だからということで片付けてしまいがちですが、このようなケースはごく一部に過ぎません。
男性によくみられるのは、「孤独」が引き金となる万引きです。
仕事を退職すると、地域とのつながりも薄い男性は孤立。さらに配偶者が先に亡くなればあっという間に孤立してしまいます。男性はこのような場合、アルコール依存症に陥る人も多いのですが、一部は万引きに走るのです。
そのため、一人にさせないことが一番の万引き対策になると斉藤さん語ります。
なぜ、エスカレートするのか
依存症になった人は、「やめようと思えばいつでもやめられる」と口をそろえて言います。
しかし、依存症に陥ると、万引きが悪いことだとわかっていてもやめられません。また、逮捕されるのが怖くても、盗みたい衝動を抑えられないのです。
理由の一つは「ドーパミン」です。万引きをするため、快楽が得られ、さらなる快楽を求めて万引きもエスカレートします。
もう一つは、「認知の歪み」です。これは、すべての依存症に共通してみられることとで、例えば「大したものを取っていない」「たくさん買っているんだから少しぐらいはいいでしょ」と、本人にとって都合のいい理由で自己正当してしまうのです。
本書の中で紹介されいてるのが以下の本。14年間で万引き6千回を行った女性の実話です。
依存症は誰でも陥る可能性のある病気
本書は万引きをメインに取り上げていますが、依存症の原因はストレスにあることが多いので、誰もが陥る可能性のある病気です。
単に依存症というと軽視されてしまいますが、ギャンブル、アルコール、買い物、などが重度化すると、家庭崩壊をも起こしかねません。
斉藤さんは、ストレスの多い現代人は、いつだれがどんな依存症になってもおかしくなく、「行為・プロセス依存」への注目度がますます高まると指摘しています。
その特徴は7つあります。
①強迫性 ②衝動性 ③反復性 ④貪欲性 ⑤有害性 ⑥自我親和性 ⑦行為のエスカレーション
本書で、理解しておいた方がよいです。
万引き依存症
「万引き家族」を思い出しながら考えたこと
今年話題の映画となった「万引き家族」は、東京の下町で「犯罪」によって生計をたてひっそりと暮らす貧しい家族を描いた作品。
描かれる家族一人一人が、貧困・万引き・育児放棄・孤独・年金詐欺・風俗など、今の日本に重くのしかかる問題を抱えています。しかも、彼らは血がつながっていません。しかし、彼ら家族は、心のつながりがない家族より、家族らしくさえ見えます。
現代に起こる万引きは、貧困を原因としないものが多くの割合を占めています。本書を読むと家族のつながり・孤独・喪失感は軽視すべきではないことを痛切に思い知らされます。