性風俗の市場規模、2兆5000億円程度

貧困の結果、この世界に飛び込む女性は多い。そんな性風俗産業を切り口に、その実態と貧困、介護、日本の構造の問題にまで切り込んだのが本書。著者である中村氏と鈴木氏は、これまで多数の性産業に関わる人たちを取材されていますが、そこには壮絶な世界があると言います。

著者いわく、一流大学の女子大生や子育てをする母親が働く性風俗業界から眺める貧困問題は極めてシンプル。単純に、普通に生活するお金が足りないことが理由。貧困とセックスの背景には、学費の高騰や奨学金、高卒雇用の減少、最低賃金に張り付いた質の悪い雇用、子供への貧困の連鎖など、次々と矛盾や問題が浮かび上がるのです。

挙句の果て、富裕な男性からお金がない女性へのお金の再分配の最後の手段である性風俗や売春も社会は潰そうと制度を強めています。誰もがお金がなければ生活はできません。援助なしに排除するほど貧困の当事者たちが地下に潜ることは当然で、援デリなど反社会的な勢力が、生きていけない女性たちに普通の生活を提案する実質的な「福祉」になるほど今の日本社会は荒れているのです。

社会の問題の縮図が性風俗業界にはあふれています。

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親世帯収入が下落、学費高騰がもたらした結果

「裸の女性たちは社会を映した鏡」と語る中村氏。それを痛切に感じるのが大学奨学金問題だという。
親世帯の収入は20年前に対して20%下落する一方、学費は高騰。さらに、大学の出席は過去に比べて厳しくバイトをする時間も限られています。結果、20年前には1日に消費できるお金が2500円だったものが、900円を切る水準。特に自宅外通学の場合は1ヵ月15万円は必要ですが、これはフルで働かないと稼ぐことはできません。故、自宅外通学の女子大生が長時間のアルバイトに行き詰まり、短時間で稼げる風俗を選択する。それが現実だと指摘しています。

奨学金制度は問題

2004年に政府が高等教育費の削減のために作られた日本学生支援機構。原資を財政投融資に切り替えて、回収も厳格化されました。親の世帯収入が低いと審査で認められると貸付が受けられるという制度ですが、これは、何も持たない未成年にしっかりとした返済の自覚もなく社会に出る前に300万~800万円という負債を負わせるもの。
にも拘わらず、高校の先生が当たり前のように貧困家庭の子に対し、負債を背負って進学することをすすめています。鈴木氏は、本当に将来に必要になるかどうかもわからない教育を受けて、履歴書に書く「○○大学卒業」という1行を買うために、18歳の子に数百万円の借金を押しつけるのは悪質な貧困ビジネスだと指摘します。

勉強すれば、貧困から脱出できるのか?

かつての社会では、階級の壁を越える裏技が「勉強」と「進学」でした。しかし、現代社会においては、その裏技が意味をなさないほど大卒の貧困がゴロゴロしています。弁護士、歯科医、大学教員ですら貧困に困っている現実があります。一方、奨学金制度のような貧困世帯の若者をたたき落とす落とし穴を作ってしまっている。どうすれば階層の壁を越えられるのか、誰もわからないでいます。

失われる貧困女性のセーフティーネット

中村氏は、いまの風俗業界から貧困女性のセーフティーネットとしての機能が失われていると指摘します。それは大学生世代が風俗業界に流れ込んだから。頭のいい子は在学中、頭の悪い子は卒業後に就職できなかったり所得が低かったりして、あとから参入してきます。そうすると、その性風俗からもはじき出されて極貧化する人たちが出てきます。特にシングルマザーなどは逃げ場がありません。

風俗浄化は善なのか?

浄化といって風俗街などをつぶすとそこからはじき出され、働く先まで奪われる人たちが出てきます。結果、生活の糧を得ようと女性は反社会的勢力などに頼らざるを得ない状況も起こっているのです。しかも、風俗が追い出された場所は、別の用途に使われることもなく、廃墟が立ち並ぶゴーストタウン化しています。これでは何のために浄化をしたのかわかりません。経済的には損失でしかありません。

悲惨な貧困層のリアルが見えてきます。当事者以外の人には、ゴシップと捉えられがちな部分もありますが、そうではなく、すぐそこにあるかもしれないリアルなのだと認識させられます。学生時代に借りた数百万にも上る奨学金、あなたは返す自信がありますか?

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