20代が老後の心配をする時代。
なぜ、われわれは未来にこれほどまで不安を感じるのか?
「資本主義の変わり目に割を食ってしまう世代のため」に、上記疑問を疑問を、『進撃の巨人』『鋼の錬金術師』『アイアムヒーロー』といったコミックスやアニメ、『セックス・アンド・ザ・シティ』などのドラマ、その他映画などを題材に分析する一冊。
本書の著者はゴールドマン・サックス、ドイツ証券などで長年活躍してきたトレーダーの松村氏。
一般的には難しくなりがちな経済論・資本論を小説仕立てで展開。「進撃の巨人」がなぜここまで売れているのか?という話から展開していくストーリーは、なぜ?とその後の展開に興味を持たされます。
本作【増補版】では、現代の不安をお金/金融政策/社会構造などを織り交ぜ分析した、前著「なぜ今、私たちは未来をこれほど不安に感じるのか?」(2015年2月に発刊)を前編、続編を後編としたうえで、前編・後編を改めて1冊の本としてまとめています。
本書を初めて読んだのは2015年。当時も面白いと思いましたが、コロナショック後、2020年の今、読んでもいろいろ考えさせられます。
今、我々が襲われているコロナショックは確実に資本主義の変わり目となります。
今、我々が置かれた状況を「進撃の巨人」で例えるなら、新型コロナウイルスは「巨人」。我々は、外出自粛・規制という「ウォールマリア」という壁の中にいる巨人を恐れる民のようなものです。
変わり目で食わないために、今、もう一度、読んでおきたい本「なぜ今、私たちは未来をこれほど不安に感じるのか?」を、加筆し紹介します。
目次
「資本主義の変わり目に割を食ってしまう世代」とは
※本書が書かれた当時は、リーマンショック後の世界。それぞ前提に話を進めます。
本書では、現在は、過去の常識と決別すべきパラダイムシフトが起こっており、それに合わせた社会を作っていかなければならない。にも関わらず、流れに逆らって、今後も取り返しのつかないような間違った政策が既得権益のために行われていると、著者は警鐘を鳴らします。
「ゼロ金利政策」が行われているのに、日本人が喜んで貯蓄して投資しないという異常な世界が何を意味しているのかを真剣に考えるべきと警鐘。中央銀行の緩和が足りない!とマネーのせいにして解決しようとするのは、極めて安易かつ危険な話だと、指摘します。
何が本質的な問題なのかを、最も割をくう20代や30代の人たちや、未来あるべきこと子供たちを持つ親の世代に知ってもらい、他人事ではなく自分たちが一番の当事者であることを理解してもらうことはできないかとの思いで本書は書かれています。
なぜ、「進撃の巨人」がここまで売れたのか?
巨人に食われる人類の危険におびえながら城壁の中で暮らす話を描いた「進撃の巨人」。
それが売れた理由は、「我々が主人公たちに自分自身の何かを投影・共感しているから」ではないかと著者は説明。
不安におびえる現代社会を投影しているからではなか?
現代社会はモノにあふれていて、贅沢を言わなければ平和に暮らしていけそう。
しかし、本当に大丈夫なのだろうか?
今はいいけど自分たちが戦っても全く歯が立たないような何かが襲ってくるのではないか?といった<漠然とした不安>を持っている気持ちがうまく表現されているからではないだろうか、と著者は分析します。
不安の正体
これまでは、贅沢こそが「資本主義」の生みの親。モノや快楽に対する欲望がこれまでの資本主義を動かしてきました。
しかし、我々は昔の経済学の前提も根底から崩れる<新しい時代>にいる。モノの供給が容易になって、さらにはモノがあふれて<欲望が飽和する時代>を経済学は想定していませんでした。
この前提が崩れた結果、現れたのが「シェア」。モノを所有するよりもシェアする方がクールとなりました。
世界システムの成立および産業革命以来、ものすごい勢いでどんどん成長してきた世界経済。その成長が限界を迎え、成長しない<新しい時代>を迎えようとしている。過去の経済学の常識では、ゼロに金利を下げても人がお金を使わずに喜んで貯蓄するなんてことは考えておらず、これまでの経済の病気の治療法が全然役立たない。
それでも、デフレ脱却のため、無理やりな成長やターンを生み出そうとして、社会が歪んだ。その結果、人々はこれで大丈夫なんだろうかと不安に襲われている。これが我々が襲われている<不安の正体>であると、著者は分析します。
先進国の中の先進国「日本」
つい最近まで、米国は日本のようにならないといってきましたが、長期停滞状態が見えてきて、「ジャパナイゼーション(日本化)」が米国でも議論されています。これは世界中の先進国すべてが抱える問題です。
人口が増えている米国でさえ、最近は2%のインフレが精いっぱい。日銀の目標とするインフレ率2%など非現実的。インフレになったからといって、売れる見込みのない製品を作るために設備投資はしません。それぐらいなら不動産や、株式、外貨建て資産に資産を移せばよい。これでは大幅に経済成長が高めることは不可能です。
人類が何千年の成長の歴史の中で到達すべき高みに達する中、日本が一番最初に高齢者が増大し、他の先進国よりも最初に問題にぶつかる「先進国の中の先進国」。だから、一番最初に行き詰ってもがいている。この問題=巨人に最初に挑まなければならぬのが、日本なのです。
既得権益が社会をゆがめる
巨人に挑むためには、成長を当たり前だと思って社会をゆがめている年金という既得権益を持つじいさん・ばあさんを何とかしなければいけません。これが解決できれば無茶な成長戦略をしなくても不安が解消。社会が安定化すれば極端な少子化にも歯止めがかかり「定常型社会や経済」に移行できる可能性が出てきます。
現在、世界の中核とみられている欧米は、15世紀以前は非常に貧しい国であり、アジア、イスラム圏の周辺国にすぎませんでした。その危機を打破するため、富裕なアジアを求めて海に出たポルトガル・スペインが大航海時代が切っ掛けとなり、世界の「中核」におどりで、近代システムを作り上げました。そして、後進国から成長を奪取することで指数関数的に成長を推し進めてきたわけですが、もはやそれも限界にきています。
異常な人口・経済成長に限界
ここ数百年の人口や経済の成長が爆発的であることはグラフを見れば一目瞭然です。
感覚的にも限りある地球において、このような指数関数的な人口&経済成長を維持していくのが不可能なことは明らかです。
我々は成長するのが当たり前と思って生きているし、社会のシステムもそれを前提に作られています。でも、これはここ数百年の間に極端に起きただけのことであり、当たり前のことではありません。
日本が今すべきこと
略奪して成長する世界システムが稼働する中で、日本人は成長しないけれどみんなが豊かに暮らせる江戸時代のような平和な時代を250年間も実現できた国民。パニックの時にもモラル・秩序が保てる国民です。
日本人はモラルがキーワードとなる成長しない「新しい時代」に適合したモデルを作り出して世界のお手本を示し、事態だ打開できるはず。この時代には、成長し阿仁時代にはフロー経済からストック経済へ考え方を変えいくことが求められるのです。
Chamiのコメント
※3.11然り、今回の新型コロナウイルスの外出自粛に罰則なくとも真摯に従う日本人はやっぱりモラルがある。もはや日本は人口減少国。今までの成長モデルを追い続けてはいけないのでしょう。
賢者の石を使い果たした現世界
なぜ、我々はこれほどまでに将来に不安を感じるのか?それは、賢者の石(錬金術における最高の物質)を使い果たしてしまったことが原因にあると著者は指摘します。
現在の経済は「成長」が前提となっています。成長期待から株価が上がり、経済が潤う世界です。しかし、我々は、賢者の石を使い果たしてしまい、それでも成長しようともがき続けて劇薬を使うしかなくなってしまったのです。
その劇薬の例が「マイナス金利」「国家による株式等の大量購入」などにみられる金融政策です。また、リーマンショック以降、「BRICSが成長の原動力」という言われ方がしましたが、これも成長限界を迎えて投資先を探していた先進国投資家(特に米国)が打ち出したある劇薬ストーリー。意味わかりやすい理由を後付けすることで、世界を納得させたといえます。
この劇薬の副作用として、世界の貧困格差は拡大し、ついにはイスラム国のようなテロ集団に各国から人が集まるようなおかしな事態を引き起こしています。
このような現代社会に対し、著者の松村さんは、世界が成長の限界を迎えていることを示すと指摘しています。
イスラム国を生み出した環境にこそ問題あり
劇薬の副作用の一つともいえる「イスラム国」。イスラム国自体にも問題はありますが、それ以上に、イスラム教原理主義に走る人たちを生み出した環境のほうが問題です。
もともと、中東は東西の文明が交差するところで、いろいろな民族がいろいろな宗教を信じて生きてきました。しかし、世界システム=時代時代の覇権国は、勝手に国境線を引いてしまいました。つまり、あるときまでぜんぜん別の民族だったり宗教だったりした人たちが、いつのまにか勝手に1つの国家として線引きさせられたが故、対立が生まれてしまったのです。
エルサレムを奪還のためにキリスト教がイスラム教徒に仕掛けた戦争「十字軍」に始まる宗教問題、領地占拠・奴隷化など、賢者の石にされた恨み、そして、貧富の格差の究極の拡大が、イスラム国のような異常な集団に人々が集まってくる原因なのです。
著者は、テロ集団ともいえるイスラム国に世界中から人が集まるのは、世界システムがある一定の限界を超えていることのシグナルだろうと著者は指摘しています。
もとは同じなユダヤ・キリスト・イスラム教
本書では世界システムの歪みに一神教であるユダヤ教、キリスト教、イスラム教の対立が大きく関わることを指摘しています。
もともとは、これら3つの宗教は、ユダヤ教からキリスト教が生まれて、キリスト教からイスラム教が生まれてきているのに仲が悪い。
いつの時代も、たとえ宗教であっても、権力者は本来の仕事である精神世界の統治ではなく、現実世界の統治の欲を出すものです。結果、信仰は腐敗。カネと権力の拡大のために、キリスト教がもつ排他性が政治利用され、9.11後のサダムフセイン制圧時の時のように、確たる証拠なく制圧するというようなことにもつながるのです。
参考
宗教と経済(政治)がいかに強く結びついているかは、以下の本を読むと理解が深まります。
多神教に生まれた日本人は、一神教の歴史を理解すべき
日本は、「八百万(やおよろず)の神」を崇拝する国。様々なものに神が宿るとしていろんな神様をあがめてきました。仏教伝来後も、うまく、それらの要素を取り入れ、「神様、仏さま」の言葉にあるよう、いろんなものにお願いをします。
日本人の宗教観を言い表すなら、Respect for something(others)。Believe in somethingではありません。
こんな多神教の我々日本人は、唯一の神を信仰する宗教の世界観は理解できません。また、その歴史にも疎いのが現実です。しかし、これでは、現在起こる中東の紛争はちんぷんかんぷんで理解できません。日本人はもっと一神教の歴史を理解する必要があります。
日本は、「和を大事にする国」です。しかし、世界システム(覇権国)のルールは、「勝った側は勝った側の都合のいいルールで世界を仕切ろうとし、それが正義となる」ということです。戦争の勝者がルールを作るのは今も昔も同じで、現在、それを作っているのが米国であることを忘れてはいけません。
参考
日本の神や創生について学ぶなら「古事記」がオススメ。我々が想像する神とは全く違うやんちゃな神とかが出てきて面白いです。以下、マンガなので面白く読めます。合わせて「日本書紀」も読むと日本の成り立ちについて理解が深まりますよ。
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最後に
今回は、松村 嘉浩さんの著書「なぜ今、私たちは未来をこれほど不安に感じるのか?」を私なりにポイントを絞って要約しました。
様々に行き詰まりを見せる世界、そして、そんな時にも強欲資本主義は新たなもっともらしいシナリオで、世界を跡付け講釈させ、都合のいい方向に世界を率いて行こうとする怖さを改めて実感します。
次、また、世界が行き詰まりを見せて、新ルールでの社会が始まったとき、再び権力者によって都合のいいルールが設定されていくはずです。我々はそれがどのようなものであるかを読み解き生きる必要があります。
最後、本書には現在の世界の行き詰まりを表現した興味深い歌があると紹介がされています。
それは、人気バンド RADWIMPS「おしゃかしゃま」。アンチ宗教の盛り込まれ方が凄い。歴史や宗教を知っていると、この歌、或いは、作詞を担当する等 野田洋次郎さんの世界観が分かって非常に面白いです。
是非、以下の記事をご参考に。
[…] てください。なかなか興味深い内容の本です。 書評 【書評】増補版 なぜ今、私たちは未来をこれほど不安に感じるのか?―――日本人が知らない本当の世界経済の授業(松村 嘉浩 著)(★4) […]