【書評/感想】宙ごはん(町田そのこ 著)(★5) 冒頭文でストーリーに引き込まれる!愛のこもった料理は辛い人生を支え、人を繋ぐ

傷つきながらも懸命に生きる女性たちを描き、多くの人の心をつかんでいる町田そのこさん。

私にとって町田そのこさんの作品は、『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』に続いて2冊目ですが、『宙ごはん』も、前作同様、人生に傷つきながらも、人に支えられ成長していく主人公を描いた、人の心に寄り添う小説です。

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悲しいとき、嬉しいとき、やるせないとき、いつだって、主人公・宙(そら)を生かして育ててくれたのは「人の心を温かくしてくれる料理」でした。

最初の数ページで一気に作品に引き込まれます。そして、食が繋ぎ、出会いと別れによって成長していく母娘の姿に胸を撃たれます。読了後、読んでよかったと思える素敵な小説です。

今回は、町田そのこさんの『宙ごはん』の感想をまとめます。

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宙ごはん:あらすじ

【書評/感想】宙ごはん(町田そのこ 著):あらすじ

この物語は、あなたの人生を支えてくれる

宙には、育ててくれている『ママ』と産んでくれた『お母さん』がいる。
厳しいときもあるけれど愛情いっぱいで接してくれるママ・風海と、
イラストレーターとして活躍し、大人らしくなさが魅力的なお母さん・花野だ。
二人の母がいるのは「さいこーにしあわせ」だった。

宙が小学校に上がるとき、夫の海外赴任に同行する風海のもとを離れ、花野と暮らし始める。待っていたのは、ごはんも作らず子どもの世話もしない、授業参観には来ないのに恋人とデートに行く母親との生活だった。代わりに手を差し伸べてくれたのは、商店街のビストロで働く佐伯だ。花野の中学時代の後輩の佐伯は、毎日のごはんを用意してくれて、話し相手にもなってくれた。ある日、花野への不満を溜め、堪えられなくなって家を飛び出した宙に、佐伯はとっておきのパンケーキを作ってくれ、レシピまで教えてくれた。その日から、宙は教わったレシピをノートに書きとめつづけた。

全国の書店員さん大絶賛! どこまでも温かく、やさしいやさしい希望の物語。
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本小説は、全5話から構成。

宙が幼稚園から、小学校、中学、高校と成長するに従い変わる環境変化に戸惑いながらも成長する姿が、2人の”母”、周囲の人たちとの関係を通じて描かれていきますが、5話ともに、宙の苦悩・悩みと宙を支えてくれることになる食事・食卓が登場します。

苦悩し、涙するとき、傍らにあり、宙を支えてくれたのが、花野を慕う料理人・佐伯が作ってくれる「やさしい料理」と「愛情」。料理が癒しとなったり、人を繋ぐ円となっていきます。

愛する人が作る料理が、いかに苦しいこともある人生を支えてくれるか―。愛のこもった料理のもつ力を教えられます。

宙ごはん:感想

【書評/感想】宙ごはん(町田そのこ 著)

ココからは、本書を読んだ感想です。

小説冒頭から、話に引き込まれる

『お母さん』と『ママ』はまったく別のものだと、 宙 は思っていた。『お母さん』というのは産んだひと。『ママ』というのは育てるひと。そういう分けかたなのだと信じていた。だからこのとき、とても戸惑っていた。

上記引用は、『宙ごはん』の冒頭部。えっ、どういうこと?と冒頭からストーリーに引き込まれた私。

舞台は、しらかば保育園 年長クラス。目前に迫った「母の日」を前に、「お母さん、ママの似顔絵を描きましょう」との保育士の言葉に宙が戸惑うシーンから始まります。

育ててくれている「ママ」と生んでくれた「お母さん」がいる宙は、保育士に、「どっち?」「ママとお母さん、みんなどっちをかいているの」と純粋に質問します。

その言葉に「りょうほうってなに。ひとりしかいないにきまってるじゃん。」ばっかじゃないと露骨に厳しい言葉を投げかける大崎マリー。マリーは「保育所にお迎えにやってくる宙のママはニセモノだ」とまで言い放ちます。

私はこのシーンを読んだ時、トンボのハネをむしり取ったりする「子供の純粋な残酷さだ」と思って読んでいました。しかし、読者は後ほど、この「残酷な言葉」が、大きな含みを持っていたことを知ることになります。

マリーは花野との関係、そして、母からの愛情の欠如に幼少期から苦しんでいたのです。ストーリーを通じ、町田さんの伏線のばらまき方がうまさに感動させられます。

幼少期の家族環境が「家族感」を決める

母の日の絵を描いたことがあったでしょ。あのころのあたしね、ママに大切にされて、そしていつもみんなに甘えている宙ちゃんのこと大嫌いだったんだ。あたし、あんな風にママに大事にされたことないもん。甘えたくても、受け止めてもらえない気がしてできなかった。そんな宙ちゃんが『ママとお母さん、ふたりいる』なんて自慢げに言うでしょう。あたしは絵の出来次第じゃ怒られるって恐怖に駆られてんのに、この子は何言ってんのって思って、もう腹が立って仕方なかった。

※上記以外にも、マリーが宙を嫌っていた伏線があり、これもストーリーの大事な部分になっています。

人それぞれ、家庭に事情がある。どんな家庭で育ったかは、その人の「家族感」を形成し、大切な人とどうかかわっていくかにも影響を与えます。本書にはそれを消灯するようなシーンが度々登場し、胸を打ちます。はっとさせられる言葉が、ストーリーの随所にちりばめられています。

母との関係

カノさんは、『お母さん』には決してなれないひとだ。『お母さん』は子どもを愛して守るひとだと思うし、わたしはそういう『お母さん』がいい。けれど、カノさんは自分自身が愛されて守られる方に夢中になっている『子ども』のまんまのひと。柘植さんがいなくなったら、わたしのことなどすっかり忘れて砂漠のど真ん中に逃げてしまうのだろう。
カノさんは、子どもよりも男のひとが大事なんだ。そういうひとだから仕方ないって思おうとしてるし、昔みたいにめちゃくちゃ期待してもいない。でもね、やっぱりときどき考えちゃうんだ。カノさんが普通のお母さんだったら、って。例えば、ママみたいな。

ストーリーの中は、宙が「お母さん」との関係に苦悩するシーンが多数登場します。確かに花野は理想の母親像とは程遠い人です。しかし、母子の関係は、宙が成長し、また、花野の生い立ちや人生を知ることで、徐々に変化していきます。

人はどんな家庭に育とうが、「母」との関係に苦悩するものです。母親との距離があまりに遠いと感じたり、もう一緒に暮らすことなんてできない思うこともあります。しかし、他人との縁は切れても、最後の最後に残るのは「親子の縁」。どこかで心の支えになっていたりもします。誰もが感じる母に対する心の痛みが、読者の心に染み入ります。

今、「毒親」「モンスター」と呼ばれる母親もいます。なぜ、そうなってしまうのかの一旦は、以下の本で垣間見ることができます。

大事な人の死

別れは人を成長させる―。

『宙ごはん』には、大切な人との別れが何度も登場します。その究極と言える「死別」。死別も複数回登場します。

人は大切な人の死を経験することで、いろんなことを教わります。そして、自分の生き方を振り返ったり、新たな決意をしたりします。別れが変える人生・人生観も、本小説の共感ポイントです。

やさしい料理・食卓の大切さ

複雑な家庭環境✕食卓 を描いた作品と言えば、瀬尾まいこさんの小説が思い出されます。

そしてバトンが渡された』も『幸福な食卓』も、家庭環境が複雑であっても不幸とは限らない、「愛」があれば人生は幸せになることを教えてくれる素敵な小説ですが、『宙ごはん』も同じことを教えてくれます。

料理家の土井善晴さんは著書『一汁一菜でよいという提案』の中で、「時間がない中で、毎日の食事に悩んで出来合い品を買うなら、まず先に、一汁一菜でいいので、家族に家庭料理を作ってあげてください。そしてたまには、お客さんを招いて、お互いに楽しみ、もてなす場を作ってください。」と述べています。

本書を読むと、家庭料理の大切さ、そして、和食の奥深さがよくわかります。そして、料理が様々なあたたかい縁を作り、楽しい思い出をつくってくれることを改めて認識させられます。

自分を支えてくれた料理

『宙ごはん』を読み終えて考えたのは、自分の人生にとって、心の支えとなっているかもしれない料理・食卓は何だろうという自問です。

宙にとっては、最初に折れそうな心を支えてくれたのは、佐伯の作った「パンケーキ」でした。

では私は?と考えてみて思い出されたのは、たわいもない家庭料理。そして、家族でつついた「お鍋」や「焼肉。家族の笑顔のある料理でした。

私は夕食も、基本、家族みんなで食べる家庭で育ちました。しかし、現代では、子どもは塾、父親は遅くまで仕事でバラバラで個食が当たり前の家庭が増えています。毎日に一緒にご飯は難しいかもしれません。しかし、極力一緒に食事をして、会話をする時間を持てるようにしてほしいと切に思います。

最後に

今回は、町田そのこさんの小説『宙ごはん』の感想をまとめました。

本当に、人の心がよく描かれた小説です。そして、それが、読者の心をも動かします。是非、本書を手に取って、いろんなことを感じ取ってみてほしいです。

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