【書評/要約】脳を司る「脳」(毛内拡 著)(★5) 脳の大事な働きはニューロンだけじゃない。脳のすきまに「知性」「こころ」あり

生物にとって、最も大事なのは「脳」。身体の中で特別な存在であり、消費エネルギーの20%も脳の活動のために使われています。また、脳ほど堅牢に守られている臓器はありません。

この脳のはたらきは、ニューロン(神経細胞)が担っているというのが、というのが常識です。いわば、ニューロンはコンピューターのような「知能」を司っています。しかし、ニューロンだけでは解明できない「人間らしさ」-「心のはたらき」「知性」「ひらめき」はどこから生まれるのでしょうか。

この問いに答えらしきものを与えてくれるのが、毛内拡さんの本『脳を司る「脳」』。 人間らしさは「脳のすきま」で繰り広げられる、様々な脳の活動にあることを、最新研究とともに教えてくれる一冊です。

最新研究で明らかになる「脳」に驚き。少し難しい解説もありますが、それを乗り越えても、先を読みたくなる「脳の秘密」が満載!もっともっと「脳」について知りたい!脳について知ることが、自分の幸せにつながる!と、知的好奇心を搔き立てられました。

今回は、本書からの学びを、ごく一部ですが、紹介します。

[スポンサーリンク]
Audible 2か月体験無料
聴き放題対象本:おすすめビジネス書・自己啓発書  おすすめ小説

人間の脳、なぜ、凄い?AIとは何が違う?

まずは、この特別な「脳」の基本の働きを見ていきましょう。

脳は司令塔:シナプス伝達

脳の活動:シナプス伝達
画像:KAKODO

脳の活動としてよく知られるのが、ニューロンネットワークです。ニューロンは脳を構成する神経細胞で、ニューロンが電気信号を放出・受容することで、他のニューロンや内分泌線、筋肉に情報を伝達しています。

ニューロンの細胞体は、シナプス一つ一つから送られてくる情報を統合し、演算子、次の細胞にその信号を伝えるかどうかを判断しています。そして、電気信号は、シナプスで神経伝達物質に置き換わり、次のニューロンに送られます。

快楽をもたらすセロトニン・ドーパミン・ノルアドレナリン、エンドルフィンなども神経伝達物質で、その種類は100種類以上あり、これらを使い分けることで様々な情報を伝えていると考えられています。そして、脳から運動神経を伝わって、最終的に筋肉を動かしています。

また、シナプス伝達の効率の変化が、記憶や学習の基盤になっています。

コンピューターと脳

「知性」と「知能」。どちらも「人の頭の良さ」を表す言葉です。しかし、私たちは、AIを「人工知能」とは言っても「人工知性」とは言いません。

知能答えがあることに(素早く、正確に)答える能力。コンピューターが得意
知性答えがないことに答えを出そうとする能力。脳が得意

人の脳の大事な働きの1つ「ニューロン(神経細胞)」はコンピュータのデジタル信号と似たしくみを持ちますが、知能においてはコンピュータにかないません。しかし、人は、コンピューターにはない「知性」や「こころ」を持っています。これは、人間とコンピューターの本質的な違いです。

この「知性」「こころ」、いわば、「人間らしさ」に大事なのが、ニューロン以外の「脳」なのです。

人間らしさは「脳のすきま」に

ニューロン以外の「脳」は、どこにあるのか―。
それがあるのが、「脳のすきま」。ニューロンすらも司る『脳を司る「脳」』です。

人とのコミュニケーションでは「雰囲気」、つまり、人との「間」が重要で、この実体のない何かが全体を司ることがよくあります。脳も同じで、脳の細胞と細胞の「間=すきま」が、重要なはたらきをしています。

ニューロンによる電気信号は素早く「デジタル信号的」です。一方で、脳のすきま=非ニューロンで行われる信号は、ゆっくりとしており「アナログ信号的」です。毛内さんは、このニューロン/非ニューロンが、時々刻々と相互作用を及ぼし合う環境そのものが「こころのはたらき」なのではないかと指摘します。

脳を司る「脳」

本書では、非ニューロンな脳が、大事な役割を担っていることが、詳細に解説します。上図の❶~❼はこれらを説明するうえで非常に大事で、どれも、究めて大事な役割を担っています。本記事では、❶~❼の機能を、極めてシンプルにまとめてみます。

脳の1/5はすきま!水で満たされている

脳のすきま「細胞外スペース」

脳のすきまは「❶細胞外スペース」と呼ばれます。成人の場合、平均して脳の20%、つまり、1/5は空洞です。このすきまの体積は、睡眠や覚醒など脳の状態によって増減しています。

脳のすきまを満たしているのが❷細胞間質液❸脳脊髄液です。脳を衝撃から守る緩衝材となるだけでなく、老廃物を排泄したり、体の免疫機能を支えるリンパ系へと液体を運ぶなど重要な役割を担っています。

脳の中を流れる「水」が老廃物を取り除く

人体の60%は水分です。頭蓋骨の下を流れる脳内の水は「間質液」は、脳脊髄液が脳組織に染み込んだもので、成人の場合、約130ml。1日に3~4回、脳の中で入れ替わり、老廃物の掃除が行われています。この脳の間質液の流れを作り出しているのが❹アクアポリン4です。

新鮮な間質液の供給が停止してしまうと、高濃度なカリウムイオンを含む間質液が滞留し、イオンバランスが崩れるため、ニューロンは電気的な活動ができなくなります。これが、頭が働かない状態です。

この老廃物除去が活発に行われるのが「睡眠中」です。脳脊髄液の動きは、睡眠時に高まり、覚醒時には弱まります。また、睡眠中は、細胞外スペースが広がることで水の通り道が広がります。

だからこそ、十分な睡眠が大事!。一方、歳をとると睡眠が浅くなります。すると、アミロイドβなどの認知症に関連する老廃物を取り除く力も弱まります。これが、アルツハイマー病のような脳の病気との関連があるのではないかと、注目されています。

脳の中を流れる「水」が老廃物を取り除く

ニューロンと同じぐらいの数存在するのが、 グリア細胞(神経膠細胞)です。その中でも特に重要なのが、中枢神経に存在するグリア細胞の一つ❺アストロサイトです。
1つのアストロサイトが数百万ものシナプスとコンタクトし、
・ニューロンへの栄養供給
・血液脳関門の形成、
・神経伝達の補助
といった役割を担い、脳内環境を維持しています。さらに、多くの範囲を巻き込んで活性化します。これが、まったく関係のないことを結びつけて考えたり、アイディアをひらひらめいたりなど、人の「知性」の元になっている可能性があることが、本書で指摘されています。

「神経修飾物質」が心の働きに作用

脳のすきまでは、細胞間質液が「アナログ的」な伝達が行われています。これは「❻広範囲調整系」と呼ばれ、代表的なものに以下があります。細胞外スペースの中で拡散して、脳の広範囲の活動を調節しているのが❼神経修飾物質です。これが「心の変化」に関わっています。

広範囲調整系の種類内容
ノルアドレナリン動作性脳のアラートシステム
・特に、予期しない刺激に遭遇したとき放出
・脳の覚醒水準を高めて注意を集中し、
 新しい環境で生じる不安・ストレスなどの気分を制御
・環境に適応するために、記憶を活性化。学習効率を高める
・アミノ酸のチロシンから合成。ドーパミン⇒
 ⇒ノルアドレナリン(脳で作用) ⇒アドレナリン(全身で作用)
・ノルアドレナリンのはたらきが
 異常だと、外傷後ストレス障害(PTSD)に
 活発すぎると、注意欠如・多動性障害(ADHD)に
 少なすぎると、覚醒レベルが落ち、眠気に
セロトニン作動性うつ病とも関係
・生存に大切な本能的な行動を制御
 血圧・体温調節、摂食・性行動、睡眠覚醒のサイクル、攻撃性や不安など
・うつ病・気分障害・不安障害時は、脳内のセロトニン代謝物が減少
・ノルアドレナリン作動性ニューロンと同様、睡眠によって活動が変化
 ともに、ノンレム睡眠時に減弱、レム睡眠時には完全に消失
 ⇒睡眠覚醒のサイクルに重要な役割
ドーパミン作動性やる気や感情を左右
・運動機能に関与。特に、自分の意思で体を動かす随意運動開始に関与
 行動そのものより、姿勢の維持や、適切な行動の選択など
・モチベーション、報酬と強く関与。報酬が最大になるような行動を促す
アセチルコリン作動性記憶や学習、脳のモード変化に関係
・主に筋肉を動かす末梢神経と筋肉の接合部ではたらく
・脳では大脳皮質・海馬の情報伝達に関与し、学習や記憶に重要な働き
・アセチルコリンの再合成の異常で、アルツハイマー病に

脳を健康に保つには

頭が良いとはどういうことか

前節では、ニューロン以外の脳のすきま(非ニューロン)が「知性」や「こころのはたらき」に大きく関わっていることを紹介しました。
最後に、脳を健康に保つにはどうしたらいいかを見ていきます。

脳の健康の鍵は「アストロサイト」

脳の健康とは、いわば「頭の良さの維持」です。コンピューターが持たない知性の進化の謎を解く鍵となるのが「アストロサイト」です。

研究から、進化的に複雑な脳を持つ動物ほど、ニューロンに対するアストロサイトの比が高い傾向にあることがわかっています。また、アストロサイトは、シナプス伝達の効率を変化させることで脳の情報処理に関与している可能性があること、さらに、ノルアドレナリンの作用を通じて、心理機能や精神機能、記憶の定着などにも関与している可能性があることがわかっています。

「アストロサイトを活性化」するには

では、アストロサイトは、どうしたら活性化するのでしょうか?

アストロサイトの活性化には「ノルアドレナリンの放出」が欠かせません。ノルアドレナリンは上述した通り、脳のアラート機能であり、新しい環境(新奇環境)で活性化します。

具体的には、日常的に以下のような行動に心がければ、ノルアドレナリンが放出されます。

・新しい人と会う
・新しいことにチャレンジする
・読書・映画で作品に触れる
・旅行

要は、「新しいことにチャレンジ」すればよいのです。

中でも、旅行は、新しい場所・人・おいしい食べ物など、刺激がいっぱいです。特に、一人旅は、適度なトラブルに見舞われることも多く、刺激的な体験ができます。私も、若いうちに経験した海外一人旅経験から得たものは計り知れません。まさに、プライスレスな経験。度重なる未知との遭遇・不安・トラブルを攻略して帰国する経験は、確実に人を一回り大きく成長させてくれます。

旅の途中は、脳の警戒が高まり、身を守るために注意力や集中力が高まります。著者は、これがもしかすると、頭をよくすること、脳を若く保つ秘訣ではないかと述べています。

旅行好きの私としては、嬉しい限りです。

最後に

今回は、毛内拡さんの本『脳を司る「脳」』からの学びを紹介しました。

やっぱり、「脳」を知ることは面白い。そして、脳に逆らわずに生きることが「幸せな生き方」につながると確信します。もっと脳について知りたくて、脳に関連する本を、続々読み漁り中です。以下の本も合わせて読みましたが、どの本も関連し合っているので、一度に読むと、理解が深まります。

興味があれば、合わせて読んでみてください。

こんなに価値あることが、数百円で読めるなんて、素晴らしい世の中です♪