【書評/要約】火のないところに煙は(芦沢央 著)(★4) これは実話?「虚実の境界」の曖昧な表現・構成が、読者をストーリーに惹きこむ!

最初の数ページ読むだけで、これは小説なのか?ルポルタージュなのか?と、そのリアリティがありすぎるストーリ展開に引き込まれてしまう芦沢央あしざわ よう)さんの小説「火のないところに煙は」。

本作は、作家の〈私〉の元に持ち込まれた5つの怪奇現象が、最終章で〈私〉の買い解釈を通じてつながる連作ミステリーホラー小説です。

フィクションをドキュメンタリーのように描く表現手法を「モキュメンタリー」と言うそうですが、芦沢さんの作家としての構成力の高さが、「虚実の境界を曖昧」にし、そのことが、読者をストーリーに強く引き込む要因になっています。

文学書受賞こそ逃していますが、様々な賞にノミネートされた実績のあるミステリーホラーです。

今回は、芦沢央さんの小説「火のないところに煙は」のあらすじ、および、感想を紹介します。

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火のないところに煙は:あらすじ

【書評/要約】火のないところに煙は(芦沢央 著):あらすじ

この恐怖、一生モノ。
2019年本屋大賞ノミネート!
静岡書店大賞受賞!
山本周五郎賞ノミネート!
週刊文春ミステリーベスト10国内部門第5位!
このミステリーがすごい!国内編第10位!
ミステリが読みたい!国内篇第7位!
ミステリ×実話怪談の奇跡的融合で絶賛を浴びた注目作がついに文庫化。

「神楽坂を舞台に怪談を書きませんか」突然の依頼に、作家の〈私〉は驚愕する。忘れたいと封印し続けていた痛ましい喪失は、まさにその土地で起こったのだ。私は迷いながらも、真実を知るために過去の体験を執筆するが……。

謎と恐怖が絡み合い、驚愕の結末を更新しながら、直視できない真相へと疾走する。読み終えたとき、怪異はもはや、他人事ではない――。
Amazon解説

小説は5つの怪奇現象+最終話で構成

小説は、〈私〉の元に持ち込まれた5つの怪奇現象と、最終話で構成されています。

第一話 染み 《小説新潮》二〇一六年八月号
第二話 お祓いを頼む女 《小説新潮》二〇一七年二月号
第三話 妄言 《小説新潮》二〇一七年八月号
第四話 助けてって言ったのに 《小説新潮》二〇一八年一月号
第五話 誰かの怪異 《小説新潮》二〇一八年二月号
最終話 禁忌 

タイトルの後に、「《小説新潮》二〇●●年▲月号」とある点が、各話が、ルポルタージュ・実話かと読者を混乱させるのですが、そのことが、ストーリーにさらなる面白さを与えています。

ちなみに本書の巻末の「解説」によると、《小説新潮》は夏になると怪談特集を組むのが恒例なのだそう。確かに「小説新潮 2023年08月号」は「特集 妖しの饗宴」と、オカルトチックな特集となっています。

ホラーにミステリーをプラス

ストーリーの中核は「怪奇現象」です。怪奇現象とは、現代の科学では論理的に説明ができないとされる現象です。

超常現象、心霊現象などとも言われますが、説明ができず、解決策も分からないため、怪奇現象に見舞われた多くの人は、怪奇な現象を、
・自分の過去の過ちに対する「呪い」
・成仏できない霊の「祟り」
と考え、霊感のある人、或いは、祈祷師にすがり「お祓い」で、霊魂を鎮めようとします。

本作品でも、各話、「お祓い」にすがろうとする人たちが出てきますが、それとは別に、〈私〉の知人であるオカルトライター・榊 桔平は、怪奇現象を論理的な視点で解き明かします。単にホラーで終わらず、謎解きミステリー要素を加えている点が、本書を面白くしています。

ただ、簡単に謎解き終了とはなりません。謎を解いた後に、それを超える怪奇現象が起こったり…で、ストーリーに深みが加えられています。

「怪奇現象」に翻弄される人々

1話目は「恋愛のもつれ」が不幸な別れとなり、それが、怪奇現象、悲惨な事件とつながっていきます。現実にありそうな話であるが故に恐怖が増します。

事件の発端、怪奇現象とその顛末、そして最後に残る後味の悪さ・やるせなさは、次話以降も引き継がれます。

家族が祟られているので何とかしてほしいという執拗にお祓いをせがむ主婦を描いた第二話
虚言癖の隣人のせいで悲劇に見舞われる夫婦を描いた第三話
代々の嫁だけが同じ悪夢に悩まされる第四話
お祓いでさらに霊障が激化したアパート住人を描いた第五話

どれも、現実としてありそうなお話ばかりです。各話、怪奇現象の発端が「人の善意」「人を大切に思う気持ち」から始まっていたりするので、一話ごとに、やるせなさが残ります。この辺の人間描写はさすがです。

火のないところに煙は:感想

【書評/要約】火のないところに煙は(芦沢央 著):感想

ここからは、私の読了後の感想です。

小説の中で、心に残った言葉

霊との縁を作りたくなければ、寄り添うように語りかけてはいけません。関わりのない死者に対して祈りを 捧げることは、それまで存在しなかった縁を自ら作ってしまうことになります。

禍事がある場合、人は、霊に心を静めてもらうように、心の中でお願いしてしまいます。しかし、内心で語りかけるだけでも縁ができてしまうのだとしたら….

霊に限ったことでなく「引き寄せの法則」は、マイナスなことでも働きます。心霊現象で頭をいっぱいにしていると、何でもないことも「怪奇現象」に見えてしまうものです。

これは、不安・不満・不幸で頭をいっぱいにしている場合も同じ。自ら不安・不満・不幸を加速させてしまうことになります。

「お金がない、お金がない」と頭がいっぱいだと、「お金」は逃げていきます。お金の不安にさいなまれている人は、以下の本を読んでみてください。最近読んで本の中で、「私にはお金がある!」と思うコツが、以下の本の中に書いてありました。

人が恐怖を感じるとき

人が恐怖を感じるとき―。それは、身の危険を感じるときです。恐怖は自己防衛の感情です。危険でも、論理的に説明できると恐怖は和らぎますが、自分の目で見たり、体験できないことに対してはどうしても恐怖😱を感じます。

人が「死」が怖いのも、いわゆる「あの世」を体験することができないから。だから、科学が進化した現代社会においても、そして、さらに科学が進化しても、人は心の平安を得るために「宗教」がなくなることはないでしょう。

しかし、現代の恐怖の問題は、「本当は怖がる必要がないのに、怖くなってしまうこと」「恐怖を感じる必要がないのに、あえてスリルを求めて危険なことをしてしまうこと」にあるように思います。

前者の場合は、調べればわかることを調べもせずに悶々と不安を感じている人は山ほどいます。また、後者の場合は、スリルを求めて、自分や他人を傷つけたり、ギャンブルにのめり込んだり…人間とは不可解な生き物ですね。

最後に

今回は、芦沢央さんの小説「火のないところに煙は」のあらすじ、および、感想を紹介しました。

芦沢さんの筆力・構成力を感じずにいられない面白い小説です。是非、最後の結末がどうなるのか、本書を手に取って楽しんでみてください。