なぜ「名著」を読むべきなのか―。
理由は、名著には、時代を超えても通用する「普遍的な本質」あり、それが、人生を豊かにしたり、危機・挫折を乗り越える力を与えてくれるからです。
ただ、一方で、ただ文字を追うだけでは深い気づき・感動は得られません。いかに名著を読むか、味わい尽くす方法を知っている人・そうでない人では、大きな差が生じます。
本と対話し、ときには本に身をゆだねて、読了後に深い学び・感動を得る―。
今回は、秋満吉彦さんの本『「名著」の読み方』に、「名著を自分のものにする読み方」を学びます。
目次
名著の読み方:5つの流れ
名著に限らず、本は読みっぱなしではもったいない。いかに準備し、味わい尽くすかです。
著者の秋満さんは、本書で、以下のような読書を勧めています。
❶本を読む準備から始める
❷本を汚す
❸本と対話する
❹本にゆだねる
❺読み終わった本と向き合う
各項目、様々な学びがありますが、当書評では❷~❺について、大事な読み方を紹介します。
本を汚す:自分だけの本にする
気になる箇所にはどんどんを印をつけて読むことが、深い読書には欠かせません。
印を書き込みをすること自体が頭の整理になり、また、印がもう一度読むときの手助けになります。
秋満さんが提案するのは、「ABQ読み」です。「A(大事)」「B(気になる)」「Q(お手上げ)」の3つの印+簡単な一言を書き込みながら本を読みます。
印 | 印をつける箇所 | 印をどう活かすか |
---|---|---|
A | 明らかに大事な箇所 | 【さらに深い理解へ】 時代背景、年表・作家について調べながら読む |
B | 気になる箇所 ?な箇所 | 【疑問や気になる箇所を解消】 ・読了後に改めて見返すことが気づきとなる ・ABQと各章の大事な箇所と照らし合わせて見返すのが㌽ ⇒離れた場所にある言葉・内容がつながり、気づきに |
Q | さっぱり分からない箇所 |
これを実施すれば、自分だけの本が出来上がります。これが本からより深い価値を得る第一歩です。
本と対話する:問いで対話
「本を汚すABQ読み」も「本との対話」ですが、さらに深く名著を読むことを可能にしてくれるのが、「問いで対話する読書」です。
本との対話は「問い」から始まる
「これはどういう意味だろう」「この登場人物は、どうしてこんな行動をしたんだろう」
「問う読書」は、「問い」をもとに本との対話を重ねながら、自分なりの答えを見つけていく読書法です。この読書法は特に小説など文学作品を読む時におすすめです。
ビジネス書、自己啓発書は、目次を見れば、本のテーマ・重要箇所が明確です。一方、小説は、目次を見てもテーマはわかりません。読み始めても、すぐには「主題」がわかりません。そこで、「問い」を立てながら読み進めるのです。
自分事として読む
私たちは、自分に当てられた手紙は、真剣に読みます。例えば、ラブレターなら、この一言、この一文字に深い意味があるのではないかと、必死で考えます。
本も「自分に当てられた手紙」のように自分事として読めば、一文一文が自分に向けた問いではないか、何か意味があるのではないかと、深く考えながら読むことができます。
本書では、カフカの名著「変身」を例に、「なんで?」と問いながら深く読む方法が解説されていて非常に参考になります。
「なぜに毒虫に?」「なぜ妹は豹変?」「なぜ死んだのに家族は幸せそうなの?」
名著は懐が深く、人に様々な問いを投げかけます。「変身」は短編小説にも関わらず、大きな衝撃で人の心を揺さぶります。私も、「変身」を読んで深く考えさせられました。
問いの答えは「自分なりの答え」がいい
自分で感じ、自分で考える。「自分なりの答え」が、人生の深い糧となります。
歩んできた人生によって、名著から感ずるところは異なります。問いに対する答えに正解はありません。私は「変身」を読んで「家族愛」と「人間の豹変」について深く考えましたが、秋満さんは「介護小説」、伊集院光さんは「ひきこもり小説」として本書を味わっています。
夏休みの宿題の読書感想文が薄っぺらいのは、「自分オリジナルの意見・感想」でないことが大半だからです。そもそも、パクった読書感想では、その人の血肉にはなりません。
ただし、人の感想が無意味というわけではありません。新たな気づき、豊かな想像を広げてくれるからです。人の感想は「広がり」、自分の感想は「深さ」を与えてくれると思った次第です。
メタファーは何かを考える
本書を読みながら思ったのは、小説にも「抽象化スキル」が大事だということです。
小説では具体的な事象が描かれますが、それは、何かの象徴「メタファー」であることが多い。メタファーが何か、自分なりの答えが持てると、思考が広がり、小説からの学びが大きくなることを気づかされました。
本に委ねる:難解な本の読破に
本の中には、難解過ぎてお手上げ状態になる本もあります。そんな本を読む方法として秋満さんは「委ねる読書」を勧めます。
大海原のような本には、ただただ身を委ねる
例えば、ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』。名著ですが挫折者の多い本です。私も、挫折者で、マンガで読むにとどまっています。
こんな本を読むときは、本に身を委ねて、読み進めるしかないと言います。しかし、読破後には「人生を変えるくらいの大きな影響力」というご褒美があると秋満さんは言います。
分からないなりに受け入れる
私たちは分からないことを手っ取り早く理解しようとして、分からない分を排除したり、逆に知識武装して読むことがあります。
分かりやすいのが美術鑑賞です。絵の鑑賞より前に、作品の解説を読んでいませんか?先に知識を入れてしまうと、作品を知識フィルターを通してしか見れなくなってしまい、本当の意味での美術鑑賞になりません。これは読書も同じです。
「なんだかよく分からないけど、すごいなあ、気になるなあ」 と、「分からない」を味わい、楽しむのも一つの読書スタイルです。
「委ねる読書」の3つコツ
よくわからなくても、一旦考え、頭に放置しておくと、アイデアが下りてくるときのように、無意識の中で、関連情報同士が重なって、時を経て、「新たな気づき」となることがあります。
そのためのコツは、以下の3つを意識しておくことです。
主客未分読み | 本と自分との壁を取り払って読む |
武装解除読み | フィルターを外して読む |
待つ読書 | 未消化な異物を無意識下で遊ばせる。時間をかけて熟成させ、孵化を待つ |
読み終わった本との向き合い方
「本を学び尽くす」ために最も大事なのは、「読み終わった本との向き合い方」です。いかに、自分の人生に活かすかが大事です。
登場人物を自分と重ねる: 追体験
小説は単なる娯楽と考えられがちです。しかし、登場人物を自分自身と重ねて読むことで、様々な追体験ができます。また、こんな風に対処すればいいんだ!と多くの気づきが得られます。
私も、小説やマンガを「追体験の場」とする読み方をし始めて以降、小説からの気づき・学びが圧倒的に多くなりました。
登場人物・自分自身の重ね読みは、自分一人での試みですが、そこに「他者」を絡めて語る・アウトプットすれば、より豊かな読書体験が得られます。
本棚を「編集」する:本と本につながりを見出す
「この本とこの本はAというテーマでつながっているのでは?」 と考えて、本棚の本を並び替えてみることで、より深いアイデアが下りてくる可能性を高めることができます。
私は、本は電子書籍で読むので、本に形がありません。そこで、アウトプットとして書評をまとめる際に、過去記事をキーワード検索して、本と本を関連付けるようにしています。本の関連付けは、記憶の呼び起こしにもなります。私にとっては書評メモ、1つ1つが財産です。
再読する:時間がもたらす効果
「本を学び尽くす」ための最後の方法は、「同じ本の再読」です。
名著の良さは、読み返すたびに発見があることです。同じ内容なのに、読むタイミングによって心を打つフレーズが変わったり、新たな気づきがあることで、自分の成長を実感できます。
再読のための「Myブックリスト」を作って、いつでもアクセスできるようにしておけば、それが、人生の危機時に「救い」となってくれるはずです。私もこれまで、名著を読み、何度も救われました。
最後に
今回は、秋満吉彦さんの本『「名著」の読み方』から得た学びを紹介しました。
賢人に読書の仕方を学ぶことで、深い読書ができるようになり、1冊のから得られる気づきも多くなれば、ますます読書が楽しいものになるはずです。
毎日、コツコツ読書が、私を思いがけない場所に連れて行ってくれる――。そう確信して、これかでも読書を続けていきます。