【書評/要約】LIFE SCIENCE(ライフサイエンス) 長生きせざるをえない時代の生命科学講義(吉森 保 著)(★4) いつまでも健康・若くいるための知識

新型コロナウイルスをきっかけに、健康に生きるためには生命科学の知識のが必要だと実感している方は多いのではないでしょうか。

何歳になっても健康でいたい」「いつまでも若くいたい」と考えるなら、生命科学に関する教養をできるだけ若いうちに身に着けておくことが欠かせません。

病気になってから、或いは、若々しさを失ってしまった後に対策を初めても、リカバーするのは大変です。手遅れの可能性もあります。しかし、生命科学の教養があれば、老いのペースを遅くする生活を心がけることもできれば、自分や周りの人が病気になったときも、専門家の意見も参考にしながら、数ある選択肢の中から、「自分にとってベスト」だと思えるものを選択でしやすくなります。

私は、先日、ただの1日頭痛に襲われただけですが、恐ろしく「やる気」が失せ、「幸福度」が下がり、「健康であることの大事さ」を痛感しました。できるだけ病気になりたくないと思って読んだのが、今回紹介するLIFE SCIENCE(ライフサイエンス) 長生きせざるをえない時代の生命科学講義です。

今回は、本書からの学びを紹介します。

なぜそうなるのかと考えられる力を持て!

【書評/要約】LIFE SCIENCE(ライフサイエンス) 長生きせざるをえない時代の生命科学講義(吉森 保 著):なぜそうなるのかと考えられる力を持て!

本書「LIFE SIENCE」で学べるのは、大きく分けると以下の4点です。

・「科学的思考」の身につけ方
・生命(細胞)の基本の理解
・オートファジーについての理解
・健康寿命を延ばすために何をすればいいか

この中で、もっとも吉森さんがもっと伝えたいと思われるのは「科学的思考の重要性」です。

不確実な生き抜くために必要な「科学的思考」

著者の吉森さんは、生命科学についての講義を始めるにあたって、まず第1章で「重要なのは、現象自体よりその背景にある理屈だ」「なぜそうなるのかと考えられる力を持とう」と力説します。

不確実性が増す時代においては、常に答えが用意されているわけではありません。個々人が科学者のように思考できる能力を身につけなければ、「思考停止」「思考放棄」で、判断・行動ができなくなってしまいます。

なぜそうなるのかと考えられる力=科学的思考には暗記や数学は必要ありません。大事なのはその数式がなぜ、どのようにして考えられたか、です。思考の過程を理解することです。今の高校・大学受験に見られるような丸暗記教育ではダメなのです。

思考停止しないために合わせて読みたい

自分の頭で考えない人は、何度も同じ間違いを繰り返し、成功から遠のくと力説する本。
多くの人は「私は思考停止なんてしていない。いつも考えている」と思っていますが、多くは、思考の堂々巡りをして、ただ悩んでいるだけです。考えないで生きると、そこに待っているのは「奴隷の人生」です。

科学的思考とは

仮説を立てて、予想を出す。そして、それを実験や観察などで検証する。当たっていれば、仮説の確からしさが増す。

これが「科学の手法のひとつ」です。

新型コロナのワクチン開発を見ても、世界最先端の知識人たちが、この仮説・検証を繰り返すことで、10年以上かかるとされるワクチン開発を異例の速さで成し遂げました。そして、今なお、新しく生まれれる変異種を相手に戦っています。

科学者でない私たちも、日常生活で「あれっ」と思うことに対して、「まず疑問に思う、常識を疑う」。そして、「本当かな」と思って物事を眺めて探求することが大事です。

最強ツール「相関」と「因果」

吉森さんは、覚えておくと便利な考え方として、「相関」と「因果」を紹介しています。相関関係と因果関係は科学の基本です。これは、人間関係、社会の現象など、様々なものを見るにあたって役立ちます。

相関関係:「原因と結果ではないかもしれない」関係
因果関係:確実な「原因と結果の関係」

相関関係と因果関係を常に考える癖をつけておけば、ネットや世間にあふれるフェイク・ニセ情報などへの対抗に大いに役立つはずです。今の時代を生きるために大切な力です。

細胞がわかれば生命の基本がわかる

【書評/要約】LIFE SCIENCE(ライフサイエンス) 長生きせざるをえない時代の生命科学講義(吉森 保 著):細胞がわかれば生命の基本がわかる

さて、ここからがタイトルの本題ともいえる「生命科学講義」です。

すべての生命の基本は、あらゆる生命の基本単位である「細胞です。病気も「細胞が悪くなる」ことで起こります。

なぜ生命の基本単位は「細胞」なのか

人間のはじまりは、何かわかりますか?

それは、「卵子」というひとつの細胞です。その卵子の中に精子が入って受精すると、受精卵が成長を始め、およそ約37兆個まで分裂し、増殖がとまります。

分裂がコントロールされていることで、私たちの手は3本や4本にはならないわけですが、「ガン」は、細胞が無制限に増えて、体に悪を及ぼす病気です。

細胞ひとつひとつに全情報がIN

ひとつの細胞の中それぞれに、ひとりの人間をつくるすべての遺伝情報「命の設計図」が入っており、この遺伝子が遺伝子が生き物のすべてを決めます。

遺伝子は、アデニン(A)、シトシン(C)、グアニン(G)、チミン(T) の4種類からなり、そのATCGの並び方で、遺伝子は「情報=自分の人生の設計図」を描いています。この、ヒトの遺伝子情報は文字に換算すると約 30 億文字あり、その個人差は約0.1%(約300万文字)しかありません。

しかし、この遺伝子の一文字が書き換わると、以下の3つのどれかが起こります。3つのどれがおこるかは結果論。起こってみないと分かりません。
①病気になる
②進化する

③何も起こらない

体には数万種類の遺伝子があり、それが人間をつくるために必要な情報を記録(コード)しています。 この遺伝子のセットがゲノムです。2重らせん構造のDNA(2つの対)の集まりが遺伝子を作り、ゲノムは遺伝子の集まりすべてを指します。

突然変異が起こるタイミング

【書評/要約】LIFE SCIENCE(ライフサイエンス) 長生きせざるをえない時代の生命科学講義(吉森 保 著):突然変異が起こるタイミング

遺伝子は2つの対をなすらせん構造をしています。そして、DANがほどけて複製がつくられます。しかし、この2本の 絡まり合ったDNAが〝ほどけて〟DNAが複製される、あるいは、DNAが〝読まれる〟時、時によって「突然変異」が起きることがあります。

基本的には。突然変異は個体の生存にとって、「不利なもの(悪いもの)」 です。しかし、すべてが悪いものではありません。それは、変異があるからこそ、環境が変わった時に対応できる遺伝子も適当に生み出され、種が絶えずに続いていくことにつながるからです。

突然変異の中には、時に、次の世代に受け継がれることがあり、これを生物学では「進化」と呼んでいます。そして、「生存に有利な遺伝子の突然変異」を持った個体が競争に打ち勝って、生き延びていきます。

細胞がおかしくなる3つのパターン

「細胞がおかしくなるパターン」はざっくり以下の3つで説明できます。

❶細胞内にタンパク質の塊が溜まってその結果死んでしまう
❷ウイルスなどの病原体に殺される
❸細胞内の「原発事故」が原因で細胞が死ぬ

「細胞がおかしくなるパターン」を食い止めるために、細胞は、敵に対して「『戦え』『戦うな』『自殺しろ』」と命じられて、日々戦ったり、自ら死んだりしてシビアな世界を生きています。

細胞を語る上でな「タンパク質」

タンパク質」は細胞を語る上で非常に重要です。臓器をはじめ、人を作っているのはタンパク質です。

タンパク質は、アミノ酸が結合したもので、ヒトでは 20種類あり、それらアミノ酸の結合は、4種類の塩基ATCGの並び方で決められています。私たちが食事でとったタンパク質もそのまま体の中で使われるわけではありません。一度、アミノ酸にバラバラに分解された後に、必要に応じて、タンパク質を組み立てる材料やエネルギーになります。

タンパク質⇒タンパク質がたくさん集まった「超分子複合体」⇒「オルガネラ」(細胞小器官)
細胞⇒臓器・組織⇒個体⇒種(ホモ・サピエンスなどの生物種)

ちなみに、タンパク質の種類で見たときに最も多いのが「酵素」です。タンパク質の約半数が酵素だとも言われています。酵素は体の中の消化や分解などの化学反応を促す触媒の役割を果たします。

寿命を 延ばすために何をすればいいのか

【書評/要約】LIFE SCIENCE(ライフサイエンス) 長生きせざるをえない時代の生命科学講義(吉森 保 著):細胞がわかれば生命の基本がわかる

さて、ここまで、細胞の基礎知識・病気との関係などを見てきましたが、私たちにとって大事なのは、「老化を抑えること」と「寿命を延ばすこと」です。
そこに関係するのが、細胞を若返らせる機能「オートファジー」です。

オートファジーとは

オートファジーは、簡単にいうと細胞の中の恒常性を保つ(いつも同じ状態を保つ)役割をするもので、「細胞の中の物を回収して、分解してリサイクルする現象」を指します。

毎日回収されたタンパク質が分解され、新しいタンパク質に生まれ変わり、細胞の中身が入れ替わる。この機能により、私たちは、毎日変わらない体で過ごせています。これは別の言葉で表すと「新陳代謝」であり、老化を抑え、寿命を伸ばすことにつながります。

一方、免疫力低下は、老化現象の中でもとても怖ろしいものです。免疫力を上げるのにもオートファジーの活性化が欠かせません。今後、オートファジーの研究が進めば、オートファジーの活性化で、しわが減ったり、肌のハリを取り戻したりすることが夢ではなくなると考えられています。

寿命を延ばす5つの方法

最終章では、寿命を延ばす方法が紹介されます。

寿命を延ばす5つの方法

❶カロリーの抑制 ※オートファジーの活性化が必要
❷インスリンシグナルの抑制
❸TORシグナルの抑制
❹生殖細胞の除去
❺ミトコンドリアの抑制

❶❷は既に説明するまでもないと思うので、❸~❺について、簡単に解説します。

❸TORシグナルの抑制

TORとはラパマイシン標的タンパク質と呼ばれるタンパク質で、細胞の中にいて細胞の増殖や代謝をコントロールしています。タンパク質の合成も促進します。これの働きを止めてしまうと死んでしまいますが、抑え気味にした方が寿命にはプラスとなります。

❹生殖細胞の除去

生殖と寿命は深いかかわりがあります。生き物の中には、子どもを産むと死ぬ生き物は少なくありません。そのためか、生殖細胞を取り除いてしまうと長生きできるそうです。

❺ミトコンドリアの抑制

細胞のエネルギーをつくることがミトコンドリアの機能ですが、これも抑制すると長寿化することがわかっています。

日常生活でオートファジーを活性化するにはどうすればいいのか

さて、オートファジーを活性化することが大事だと分かりましたが、では、具体的にどうすればいいのでしょうか。本書ではいくつかの例が紹介されています。

■【最も大事】食べ過ぎず、適度な運動を行う
結局のところ、最も知られている「健康法」が最も大事です。

■納豆・発酵食品・キノコを食べる
豆類や発酵食品に多く含まれている「スペルミジン」を摂取しましょう。発酵食品は、納豆のほかに、味噌や醤油、チーズなども効果ありです。

■プチ絶食
プチ断食は、人間がオートファジーを高めるのにもおそらく有効です。しかし、断食してオートファジーが最も活性化するのは筋肉を支える細胞内で起こるので、うまく行わないと筋肉が衰えます。

最後に

今回は、吉森保さんの著書「LIFE SCIENCE(ライフサイエンス) 長生きせざるをえない時代の生命科学講義」からの学びを紹介しました。

本記事では割愛しましたが、
・免疫システム
・風邪と抗生物質
・なぜウイルスで病気になるのか
など、日々、健康で過ごすために知っておいた方がいいこともいろいろ解説されています。

生命科学の知識は、健康を崩してから、老化が進んでしまってから知識として学んでも、リカバリーは困難(あるいは不可)です。後で後悔しないためにも、若いうちに、知識をつけておくことをおすすめします。