特別な人だけに備わった才能ではない。
センスは、方法を知って、やるべきことをやり、必要な時間をかければ、誰にでも手に入るもの。センスの違いはそれをどう育てているか、どう使っているか、どう磨いているかだ。
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「センスは天性」と思っていた私にとって、とても衝撃的なタイトル。思わず手に取って一気読み。目からうろこの気づきに、大いに納得。すべてのビジネスパーソン必読ともいえる内容です。
水野学さんは、「くまモン」アートディレクションなどで話題の日本を代表する元デザイナー。現在は活躍の場を会社経営者・大学講師などに広げていらっしゃいますが、これは、本書のテーマであり、著者が本書でビジネスマンに力説したいポイント「知識をもとにした美意識・美的センスアップが、スキルアップ・キャリアアップにつながる」ことを、ご自身で実現されていることを示しています。
今回は、水野学さんの著書「センスは知識からはじまる」からの学びをまとめます。
センスは天性ではない
センスとは何か?
カッコいい、かわいらしい など、「センス」というのは数字で測ることができないものです。しかし、その数値化できない事象のよし悪しを判断し、最適化する能力の高いこと・人を「センスがいい」「センスがいい人」といいます。
では、このセンスを上げるには何が必要なのでしょうか?
まず「普通を知ること」が必要
センスは、数字で測れないため、ファッション誌などから学ぼうとしても、わかったようでわからないことが多いのではないでしょうか。
水野さんは、まず「普通を知ること」がことのほか大切だと言います。それどころか、 普通こそ、「センスのいい/悪い」を測ることができる唯一の方法だといいます。
では、普通とは何でしょうか?
ここでいう「普通」とは、「いいもの」「悪いもの」が分かり、その両方を知った上で「一番真ん中」がわかるということです。
これは「普通のものをつくる」ということではありません。「普通」を知っていれば、ありとあらゆるものがつくれるということです。そもそも、自分が認識している「普通」の基準と、あらゆる人にとっての「普通」を合致させないと、基準がズレて、センスの最適化もできません。
普通を基準にちょっといいもの/すごくいいもの/とんでもなくいいものというように、普通という「定規」であらゆる事象を測ることによって、ターゲットが欲しいであろうものをつくり出す可能性が広がるのです。
たくさんあるということなのです。
なぜセンスがなくなる?美的センスの育成を妨げるもの
絵を描く。歌う。踊ったり体を動かしたりする。この3つは人間が原始的かつ生理的に求めてしまうものです。だから、子どもは、上手下手にかかわらず、お絵描きも、お歌も、元気に走り回って遊ぶのお大好きです。ところが、だんだん成長していくと様子が変わってきます。
例えば、絵の場合、ある時、人と比較して自分は「絵が下手くそ」と気づき、絵を描くことの楽しさを失います。さらに、成長して小中学生になると、大人に言われて、或いは、自分で気が付いて「将来に役立つ勉強」をするようになり、益々「美術・デザイン」から遠のいていきます。学校教育でも、デザインや美意識について教えられることもなく、美的センスは磨かれません。
かくして、センスの良さは「特別な人の才能」と化していくのです。
これは「美術」に限ったことでなく、音楽、体育(運動)でも同じ。とりわけ、美術と音楽は特別なものとなっていきます。
学校教育で教えられることのない「美意識・美的センス」
売れるものを売るには「よいデザイン」が欠かせません。つまり、社会で評価されるものを生み出すには「美的センス」は欠かせないものであり、本当なら、学校教育でも学んだ方がいいものです。
美的センスは、身近なところでは、服、住まいやインテリア、持ち物選びなどにかかわり、このセンスが悪いと「見た目」でも損しますし、自信もなくなります。
絵を描く「実技」とは別に、「デザインなどの知識」「名画が生まれた時代背景と思想」など美術知識教育は、社会に出たときに人が求めるものを生み出すという観点からも、見直されるべきと、水野さんはおっしゃっています。
スキルとして求められる「センスのよさ」
美意識・美的センスは、「1個人」としても「企業」としても極めて大事なスキルです。個人の場合、人生さえ左右します。
個人が有利に生きるためにも美意識センスは大事
今の時代は、どんな職種にもセンスが必要不可欠です。「見た目」「商品」いうアウトプットは、必ず評価の対象となるからです。
例えば、いつも読みづらい提案資料を提出する人は、仕事がデキるように見えるでしょうか?
デスクが散らかっていて、目的の資料を見つけ出すのに1時間かかる人に仕事を依頼したいと思うでしょうか?
どんなにいい仕事をしていても、見え方のコントロールができていなければ、人としてよい評価を得ることはできません。
企業の美意識やセンスが、企業価値になる
企業の美意識やセンスが、企業価値になる。これを最も端的に表す企業はアップルでしょう。機能面・デザイン面の両面から美的センスに優れるApple製品は、多くの支持者を生み、企業の価値につながっています。
一方、「技術力」「モノづくりの国」と言われた日本。高度成長期が過ぎ、モノがあふれてしまった後にも、過去の栄光を捨てられず、美意識・美的センスを重視せず、製品開発を進めてしまったためにものの見事に世界から没落しました。生活に必要な機能を手に入れてしまったらば、次に求められるのは「美」に気づくのが遅すぎた。そして、「ユーザーに、『徹底的に』気持ちよさを提供しよう」というセンスにも欠けていました。
そういえば、山口周は、経営などにおいても美意が重要性であるとおっしゃっていましたね。
「センス」とは「知識」からはじまる
先に、センスをよくするためには「まず普通を知ること」が大事であることを述べました。この普通を知る唯一の方法が「知識を得る」ことです。
すべての仕事において「知らない」は不利でしかない
水野さん曰く、「センスとは知識の集積」です。すべての仕事において「知らない」は不利でしかありません。さらに言えば、「生きる」ことにおいても知識がある方が有利。あればあるだけ、その可能性は広がります。
なお、苫米地さんは、ググれば何でもわかる時代ですが、「頭の中に知識があることが大事」だと力説しています。いつもググって答えを求めている人は、結局のところ、自己判断ができない、思考停止人間になってしまうからです。自分の知識で判断できることが極めて大事です。
イノベーションは、知識と知識の掛け合わせ
多くの人は「企画を考えろ」と言われたとき、、「他とは全然違うもの。アッと驚くもの」 をひねり出そうとします。そのために、「知識」より「ひらめき」を重視しがちです。
しかし、そもそも、イノベーションは、ゼロベースで何かをつくることではありません。 「0から1をつくる」のではなく、過去にどんな商品があったのか、それがなぜ売れたのか/売れなかったのかの知識をベースに「1から2をつくる」「AにBを掛け合わせてCを作る」でいいのです。これが、高い打率でできれば優秀なクリエイターになれます。
人間はあまりに先進的すぎるものには興味がわきませんし、恐怖も覚えます。ヒットクリエーターだった長倉顕太さんは、以下の本で「1ミリ先にヒットがある」と述べています。1ミリ先を作るにはやっぱり、基準となる「普通の知識」が大事です。
センスとは知識にもとづく予測
敏腕経営者は過去の優れた英断に対して「長年の勘です」ということがあります。しかし、これは、一連の思考プロセスの言語化が難しいために「勘」と答表現しているにすぎません。
彼は「市場についての膨大な知識と経験」を備えて、そこに自分なりの予測を行い、経営判断しているのです。このような、経営センスも「知識に基づく予測」です。
「センス」で、仕事を最適化する
これまで述べてきたように、「センスは天性ではなく、自己研鑽による知識の集積」です。センスはひらめきでもありません。
センスに自信がない人は、自分が、実はいかに情報を集めていないか、自分が持っている客観情報がいかに少ないかを、まず自覚する必要があると水野さんは言います。
では、どのようにセンスアップに必要な知識を身につけたらいいでしょうか。
効率よく知識を増やす3つのコツ
水野さんは、知識を増やしていく際は、3段階のアプローチがあるといいます。
❶王道を知る
❷今、流行しているものを知る
❸分析する:「共通項」や「一定のルール」がないかを考えてみる
王道を知る
王道とは、製品によっては、「定番のもの」「一番いいとされているもの」「ロングセラーになっているもの」です。王道のものは既に「最適化」おり、その製品にふさわしい「シズル」が必ずあります。これらを知ることで、そのジャンルの製品を最適化する際の「指標」ができます。
今、流行しているものを知り、分析する
今、流行しているものの多くはたいてい、一過性のものです。「王道」と「流行」の両方を知ることで、知識の幅が一気に広がります。
水野さんは流行を知るにあたって、普段から、女性誌、男性誌、ライフスタイル誌、経済誌など、月に何十冊もの雑誌に目を通し、ここから得た知識を、分析に役立ているそうです。
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水野さんがプレゼンで言わない言葉
水野さんがデザインに関するプレゼンで絶対に使わないと決めている言葉があるそうです。 それは、「感覚的に、これがいいと思うんです」という言葉です。
もしあなたがクライアントだとして、たとえでデザインに関するプレゼンであったとしても、「感覚的によい」と言われて、説得力があると感じるでしょうか?「●●なので△△がいいと考える」と提案された方が納得感がありませんか?
かっこいいから、かわいいからといった漠然とした表現も感覚的な表現です。もし、それが本当に良いのなら、「敏腕経営者の勘」と同じで言葉で表現されていないだけで、そこには必ず理由があります。そして、それを言葉で、正確でハイクオリティな「精度の高い知識」があってこそ実現します。
自分の感覚というものを信用しすぎず、客観的に「この感覚はどこからやってきているんだろう?」という確認作業を突き詰めるためにも、知識は大事であり、理由を考え抜くことが大事です。
デザイン・ブランドは細部に宿る
iPhoneがカッコいいのは、「なんかセンスがいい(感覚)」からではありません。そこには、必ず他の商品にはない「違い」があります。
売れるものをつくるには、消費者を欺かないための精度が求められています。 その精度を高める作業もまた、センスを構築する一つの要素です。
どれだけ幅広い知識をもとに設計できるか?様々な要素一つ一つをどう融合させるか?最終的にどれだけの精度でつくりあげられるか?
このような一連のプロセスすべてが、ブランドを作り上げる。まさに、「デザイン・ブランドは細部に宿る」のです。
あなたが「美しい」と感じるものは、社会の多くの人も美しいと感じます。故、自分が「美しい」と感じた体験の集積は、「普通」の定規にもなり得ます。そのためには、美しいに触れる、学ぶことも極めて大切です。
「センス」を磨き、仕事力を向上させる
ここまで見てきてわかるのは、「センスアップはスキルアップにつながる」ということです。本書の最終章では、ビジネスパーソンがどのようにセンスを身につけるか、すぐにできる簡単なヒントがまとめられています。詳しくはここでは述べませんが、大事なことを2点だけ紹介します。
知識は集まるほど、情報が入り、キャリアアップにもつながる
知識とは不思議なもので、集めれば集めるほど、いい情報が速い速度で集まってくるようになります。入ってくるというより、前に見えていても見えなかったものが、見えるようになる・気づくようになるといった方が正しいかもしれません。
そして、その知識・情報の集積は、必ず、スキルアップ→キャリアアップにつながっていきます。
「好奇心」と「感受性」を大切にする
いくら、知識を身につけたいと思っても、したくもない勉強をしていても、知識は頭に定着しません。
「知識を身につけよう」という気持ちではなく、「知りたい」という知的好奇心を大切にすることがとても大事です。また、知りたいという好奇心を高めるには、子どものような新鮮な感性「感受性」を取り戻すことも大切です。
知識の集積に懸命になりすぎると、人は時として自由な発想を失ってしまいます。 センスを磨くには知識が必要ですが、知識を吸収し自分のものとしていくには、「好奇心」と「感受性」の両方が必要なのです。 「幼児性」が創造力や発想につながる大きな理由は、感受性と好奇心が並外れて大きいからです。
「感じる力」を高めるのにおすすめなのは、「初めての場所に行ってみること」。私は旅行好きですが、友達と行くと「本当に楽しそうだね」と言われます。その理由が「好奇心」にプラスして、「感じる力が高まった状態にあるから」だと分かって大いに納得しました。
最後に
今回は、水野学さんの著書「センスは知識からはじまる」からの学びを書評としてまとめました。
書き記した内容だけでは伝えきれない学びがたくさんある良書です。是非、手に取って読んでみてほしいと思います。
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