【書評/要約】利己的遺伝子から見た人間(小林朋道 著)(★5) ~勝者になりたい・幸せになりたいなら遺伝子に従え!

私が本を読む目的は、一言で表現するなら「幸せになるため」です。

お金を稼ぐ
賢くなる
楽しい!面白い!嬉しい!など脳を喜ばせるため… 等

それぞれをクリアするために、ジャンルをこだわらずに本を読みますが、そこから気づいたことは、「人間はどのような生き物なのか」を知ることが必要であり、「人は遺伝子によりプログラムされているのだから、遺伝子の生存戦略に従えばいいのだ」ということでした。

そこで読んでみたのが本書「利己的遺伝子から見た人間」。

本書では、利己的な遺伝子とは何かから始まり、最後には「遺伝子の生存戦略を上手に利用して、いかに一人の人間として幸福になるか」が解説されています。私にとって大きな学びとなる本でした。

本書の文体は少し研究者的で読みにくいところがあります。そこで、今回は、様々な本を読んできた気づきもまとめて、私の言葉に意訳して本書「利己的遺伝子から見た人間」のポイントを紹介します。

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「利己的遺伝子説」はなぜ注目を浴びたのか

【書評/要約】利己的遺伝子から見た人間(小林朋道 著):「利己的遺伝子説」はなぜ注目を浴びたのか

利己的遺伝子説が、注目を浴びるようになったきっかけは、動物行動学者リチャード・ドーキンスというの著書『利己的な遺伝子』の出版です。

遺伝子の生き残り戦術

利己的遺伝子説とは、簡単に言えば「遺伝子の生き残り戦略」。「生物の形態や生理特性、行動、心理といった形質は、 その生物がもつ遺伝子のコピーが世代を通して増えやすいような性質につくり上げられている」というものです。

人間などの「個体」は遺伝子にとって「乗り物」であり、個体は滅びても、遺伝子として生き続けて、増殖しようと努める。そのために、遺伝子はコピーを繰り返し、より自分が生き残りやすい有利な「乗り物」へ「個体」を進化させていくといってもいいでしょうか。つまり、私たちは遺伝子に操られているわけです。

「個」ではなく「群」として生き残る

では、なぜ、利己的な遺伝子説が注目を浴びたのか?それは、ダーウィンの進化論では説明できない生命現象、例えば、ミツバチの働きバチのように自分の子孫を残すためには存在していない生き物の生命現象を明らかにしたことにありました。

働きバチの人生は自己犠牲的です。彼らは集団を守るために、ただひたすら働き続けます。遺伝子の生存戦略的には欠陥があります。

しかし、「集団の他の個体を守るために、自分が戦って死ぬ」ような性質の個体がいる群れは、そういう性質の個体がいない群れよりも、外敵に対して防衛力が高く、群れとして、生存できる可能性が増します。つまり、ミツバチの遺伝子は「群として生き残る」のです。

優秀な遺伝子の方が生き残る可能性は高い

スポーツチームでは、優秀な選手、優秀な監督(個人)は、そうでない選手、監督に比べ、平均すれば、どんなチーム(群)に行ってもチームに優秀な成績をもたらす傾向があります。

このことは、世代を超えて増殖し続けたい遺伝子から見ると、同じ群の中でも、優秀な人材の遺伝子を残していく方が生存確率が高まるということを意味し、長い年月をかけて、そのように進化していきます。

現世は、弱者は強者に食われる「弱肉強食」の世ですが、これは、遺伝子レベルでみても同じということですね。やっぱり、「負け組」になってはいけないのです。

我々は「遺伝子」に操られている

【書評/要約】利己的遺伝子から見た人間(小林朋道 著):我々は「遺伝子」に操られている

ここからは、利己的遺伝子に人間が操られていることを、人間の行動や心理から見ていきましょう。遺伝子の特性を理解し自己コントロールして生きれば、今までの自分より生存戦略的に有利に生きられます。

遺伝子が生き残るために必要なこと

生命としての長く歴史を刻んでいくためには、遺伝子は以下の3つを攻略する必要があります。

遺伝子が生きるために攻略しなければならない3つ

❶遺伝子が複製するために必要な物質やエネルギーを取り込む(食べる
❷自分を破壊したり捕食したりする物体や他の個体から逃げる(危険を避ける
❸群として遺伝子が生き残るために、子どもや親や兄弟姉妹などの生存を重視する(縁者びいき

これは、人間の行動、そのものです。

なぜ、遺伝子は「脳」を作ったのか

さて、ここで、遺伝子は細胞の中にありますが、遺伝子自身は素早い反応ができません。そこで、遺伝子が作り出した機能が「脳」です。脳を設計することで、体の各部位をを瞬時に動かす(電気信号を送る)術を手に入れました。

私たちは「脳」が司令塔と考えますが、それをさらに指揮しているのが「遺伝子」ということになりますね。遺伝子が親分で、脳が子分なわけです。

そして、人間の祖先種は複数登場しましたが、数百万年の間、狩猟採集生活を営みながら、最終的に生き残ったのは「ホモ・サピエンス」です。遺伝子的にもっとも優れた乗り物がホモ・サピエンスだったわけです。

遺伝子生存戦略:危険を避ける

【書評/要約】利己的遺伝子から見た人間(小林朋道 著):危険を避ける

さて、ここからは、遺伝子が生き残りのために攻略すべき3点から、「危険を避ける」を掘り下げてみていきます。
狩猟採集生活においては、ライオンなどから身を守ることも大事でしたが、「有毒物質から身を守る」ことも非常に大切でした。
医療が未発達の時代に生き残るためには、「有毒物質の取り込みを避ける」ことがとても大事でした。この結果、人間が獲得した機能は、現代までも続く様々な反応に垣間見ることができます。

いくつかを見ていきましょう。

妊娠した女性の「つわり」

つわり期の妊婦は、香りの強い食べ物、刺激物、苦い食べ物などを避ける傾向がありますが、これは、古代においては、胎児にとって毒になる物質を含む可能性が高かったから。つわりの時期は、胎児の器官系がつくられる時期であり、毒素による害を最も受けやすい時期(妊娠後3ヵ月前後)です。一方、その時期は胎児は成長するための栄養をあまり必要としません。だから、体がヤバいと思ったものを吐き出したわけです。結果、つわりが激しいほど、流産や先天的欠損をもった子どもを出産する可能性は減りました。

これを知ると、「つわり」は子孫を残すうえで非常に大事な役割であると分かりますね。

子どもの野菜嫌い

今でこそ野菜の品種改良が進んでいますが、狩猟採集時代は、有害物質をもった野生植物に囲まれて過ごしていました。
子どもの「野菜嫌い」は、子どもにとって有害な物質を含む可能性が高かった野生植物の摂取を、子どもに控えさせる、脳の防御戦略ではないかと考えられます。

「嘔吐」や「下痢」

体に入ってしまった病原体(細菌やウイルス等)などの有毒物質はそのままにしておくと危険です。そのため、胃の内壁に備わっている受容器が、脳に有毒物質の存在を知らせ、脳が「口から吐きl出せ!」と嘔吐を命じます。

「下痢」も「嘔吐」と同様です。ヤバいものを体から排出せよという指令です。そのため、下痢止めを飲むと、熱と中毒が2倍も長く続いたという実験もあるらしい。ちなみに、腸内の病原菌自身(の遺伝子)も、下痢によって体外に出ることにより、新しい人間に侵入できるチャンスが生まれます。

なお、人は1秒前まで自分の口の中にあった「唾」であっても、口から出た瞬間に「汚い」と思いますよね。これも、「体外へ吐き出された物=病原菌や有毒物質」という脳の認知特性が関係していると考えられているそうです。

なるほど、納得ですね。遺伝子の生存戦略、恐るべしです。

遺伝子生存戦略:縁者びいき

【書評/要約】利己的遺伝子から見た人間(小林朋道 著):縁者びいき

遺伝子の生存戦略としての「縁者びいき」についても見ておきましょう。

利己的な遺伝子から見る「縁者びいき」

私たちは、一般的に、血縁者に対しては、非血縁個体に対するものとは異なった、以下のような特別な感情を持っています。

・「自分と〝血がつながっている〟」という感覚
・「何かあったら進んで手助けするよ」といった友好的な思い

このような人間における血縁個体同士の親和性は、「学習されたものか、生まれつきのものか」をめぐって、長い論議が交わされてきているそうですが、利己的遺伝子説の立場に立つ生物学者的な視点からは、擬古犠牲的な人生を生きる働きバチと同じです。

もし、「自分と同じ遺伝子をもっている可能性が高い個体を、生かし生き残るため」であり、そのために、人間の脳は自分の子どもや親族に対して、利他的な意欲や喜びを感じるようにできているのです。

父方よりも母方の方の親族の方が子の面倒見がいい理由

実世界では、母方の親戚の方が子どもの面倒をよく見る傾向があり、父方の血縁者よりも、母方の血縁者のもとで、より手厚い保護を受けます。

これにも理由があって、子どもは確実に母やその親の遺伝子を引き継いでいるのに対し、父方は必ずしもそうでないケースがあるため。今でこそ、父親は血液検査で実の子かは調べられますが、昔はそれができませんでした。つまり、父は自分の子でない子のために父は日々の糧を得るべく努力していた可能性があったわけです。結果、父方の縁者も子供を世話しようという気持ちは母方に対して低くなります。

遺伝子が、こんなことも考えて人間の行動をつかさどっているとしたら、すごいと思いませんか!?

文明と個体:進化ののスピードギャップにより生ずる不都合

【書評/要約】利己的遺伝子から見た人間(小林朋道 著):我々は「遺伝子」に操られている

前節を見ると、人間という「乗り物」は、遺伝子によって細部にわたるまで、精密に設計されていることがわかります。しかし、「人間という個体の進化」は「文明の進化」ほどスピーディーではありません。そのため、環境の変化についていけずに不都合が生じています。

ダイエット

文明が進んだ先進国では、よほどのことがない限り、食べるものには困りません。しかし、狩猟採集時代の祖先は満腹状態はほとんどなく、たえず空腹で、糖分などの栄養素は欠乏していました。

だから、生存危機を避けるために、どうしても食べてしまう。そしてブクブク太ってしまうのです。

男性の「浮気」

男性の浮気も、狩猟採集時代の男性の遺伝子が増殖のためにつくり上げたものです。 「人間の男性」という乗り物に乗った遺伝子は、自己増殖のためにはで、できるだけ多くの若い女性と性的関係をもち、生死をばらまいた方が生存確率が高い!

一方、人間の女性は、遺伝子が移った子供を育てるために大きな労力を費やさなければなりません。つまり、その間、つがい相手の男性からの「援助」が必要!頼れる男性を見つけることが大事なのです。だから、女性は金持ちが好きなわけですね。

男女の下世話な話を知的に解説する面白い本

この辺の男女の話は、以下の本が詳しい。すごく下世話な話、エロい話を学術研究を交えて解説して超面白い!知っていると知的なピロートークのネタにもなります(笑)

脳の不都合なプログラムに抗うには

「狩猟採集時代の生活環境に適応した脳の性質と現代の生活環境には大きなギャップがあり、食べ過ぎ・浮気などの現代社会のおける不都合を解消することは簡単ではありません。

大事なことは、「私たちの脳は狩猟採集時代に最適化されていると知ること」。そして、対策として、冷静な判断ができる〝自分〟であるときに、そうならないための対策を完了しておくことです。

遺伝子戦略を利用して、幸福になるためには

書評/要約】利己的遺伝子から見た人間(小林朋道 著):幸せ感の持続につなげる

ここからは、遺伝子の増殖に都合よくつくられた脳の性質を理解した上で、私たちが「幸せになるためにはどうしたらいいか」を見ていきます。

幸せは長続きしない

私たちは「望みがかなうことは人生の幸せ」と考えます。しかし、実は、望んでいたことが達成されたときに体験する幸せ感は長続きしません。

例えば、受験に合格する、宝くじが当たるなどの幸せは確かに嬉しいものの一過性です。遺伝子は生き残るためには、今より、とにかく少しでも、増殖に努めなければなりません。そのために、私たちが満足してしまって停滞しないように脳にプログラムされているからです。

幸福感の多い人生を送るには

では、個体自身の幸せ感を増やし、長続きする充実感を体験するためにはどうしたらいいのか?

そのヒントは、「幸せ感」につながる行動は、大抵、遺伝子が、新しい乗り物(子ども)をとおして増えていくことを有利な行動であるということです。

・喉の渇きを感じて水を飲めば、個体は健康に近づき、遺伝子の増殖にも有利
・大金を得れば、衣食住に関する個体へのストレスが減り、遺伝子の増殖にも有利
・家族で協力して家族の利益になることをやり遂げることは、遺伝子の増殖に有利 等

一方、「今、幸せ!」だと思っても、食べ過ぎて太れば、病気リスクを高めるので、それは、生存戦略的には有利とはいえません。

脳が、短期的にも長期的にも幸せ感を感じられる状況を実現できるように努力することによって、幸福感の多い人生を送ることができます。

最後に

今回は、小林朋道さんの著書「利己的遺伝子から見た人間」を、かなり私の言葉に変換して紹介しました。
様々な本を読んきた知識も合わせて、私なりに意訳している部分も多いので、より正確に遺伝子を理解するためには、是非、本書を手に取り読んでみてください。

私は現在、自分にとってストレスが少ない、「脳が喜ぶ生き方」を模索して生きています。だから、基本的に人生が楽しい。

そのための最大の決断は、自分の糧であった「会社員を辞めた」ことでした。確かにやめるにあたって自分なりに試行錯誤し、かなり遠回りもしましたが、それは、利己的な遺伝子学生存戦略から考えた場合も、間違っていなかったと確信しています。