〝良いもの〟を作るだけではモノが売れない時代。

今の時代、粗悪な商品はもはや商品として成り立ちません。どの商品を選んでもほぼ満足できます。しかし、インターネットによって一瞬で情報が拡散、一瞬でコピーできるようになったので、どの製品も似たり寄ったりです。

こんな時代の新しい稼ぎ方が、プロセス自体を売る「プロセスエコノミー」です。

今回は、プロセスエコノミーとは何なのか、本書の要点を解説します。

[スポンサーリンク]

プロセスエコノミーとは

プロセスエコノミー」とは、プロセス自体を売ることで成り立つ経済です。その最大のメリットは、プロセスはコピーできないことです。

自分のこだわりを追求する姿、様々な障壁を乗り越えながらモノを生み出すドラマはその瞬間にしか立ち会えません。本当に自分がやりたいことをやって、作りたいものを作って生きていくために、プロセスエコノミーは強力な武器になります。

これまでの極めて一般的な商売「アウトプットエコノミー」

プロセスエコノミーに対して、普通の人が考える、極めて一般的な商売の仕方は「アウトプットエコノミー」。プロセスでは課金せずに、アウトプットで課金することで成り立つ経済です。

例えば、音楽を作っているところではお金は稼がず、できた音楽を売る。料理を作っているところではお金は稼がず、できた料理を売るといった当たり前の販売スタイルです。

このような商売において大事なのは、製品の品質や流通価格、マーケティング。いいものを作って、安く提供して、適切に知ってもらい、適切に届ける、ということです。しかし、今の世の中、品質・値段はどこも一定水準を満たしています。例えば、どの店に入ってもだいたい美味しい。

もはやこの方法では品質の差別化は難しいのです。結果、マーケティングや流通、ブランディングにお金をかけられる企業が勝ってしまう。これでは、新参者や小規模経営店に勝ち目はありません。

消費者の変化

消費者は、基本的にどの商品もクオリティが高いので、昔ほど製品選びにこだわらなくなっています。

こんな状況を背景に、重要になったのが「プロセスエコノミー」です。

プロセスエコノミーの利点

プロセスエコノミーの利点

プロセスエコノミーの利点は3つあります。

プロセスエコノミーの3利点

❶アウトプットを出す前からお金が入る可能性がある
❷寂しさの解消
❸長期的なファンを増やせる可能性がある

❶については、製品が完成する前からプロセスエコノミーのスタートしているので、製品を作り上げてく仮定も商品=お金になります。

❷については、クリエーターは基本的に1人作業で孤独です。しかし、プロセスが発信できれば、作品ができる前にコメントをもらうこともできます。

❸は、プロセスからお客さんに見てもらえることで、より感情移入してもらえる=長期的なファンとなってくれる可能性が高まります。

プロセスエコノミーで変わる世界

プロセスエコノミー以前の時代の商売は、「Winner Takes All」(勝者がすべてを制す)でした。資本力で品質・値段・流通・マーケティングを押さえれば勝ちです。しかし、今は、状況は変化しています。

今、消費者に求められている価値

食うに困らない時代、必要なモノが満たされた今の時代、消費者の価値は、物質的なモノ自体より、もっと内面的なコトに価値がシフトしています。

今の時代、消費者が価値を感じているモノ

・「役に立つ」より「意味がある」に価値感を感じる
・自分のアイデンティティを支えてくれ、自分の所属欲求まで満たしてくれるものに価値を感じる

日本でもiPhoneユーザが多いですが、彼らの一部はいわゆる「Apple信者」。宗教的にブランドを信奉し、愛して離れません。むしろ共感を通じてシェアを拡大しています(以下の記事でシェア解説)。

フィリップ・コトラーの「マーケティング4.0」

コトラーは、マーケティングの進化を以下のように整理しています。

コトラーの「マーケティング理論」

マーケティング1.0=製品中心のマーケティング   ⇒機能的価値訴求
マーケティング2.0=顧客志向のマーケティング   ⇒差異的価値訴求
マーケティング3.0=価値主導のマーケティング   ⇒参加価値訴求
マーケティング4.0=経験価値志向のマーケティング ⇒共創価値

マーケティング4.0では、消費者はただ消費するだけではなく、企業のミッションに共感し、さらに活動に参加するフェーズ。つまり、実際にプロセスを共に歩むことに価値を感じ始めているフェースです。

これからの経済で大事なキーワード「6D」

2020年12月に発売された『2030年:すべてが「加速」する世界に備えよ』では、激動の時代を見極める「イノベーターの虎の穴」で、「あらゆるものは6Dになる」と語られています。6Dとは以下の6つの「D」です。

あらゆるものは6Dになる:6つの「D」

①Digitized(デジタル化)
②Deceptive(潜行)
③Disruptive(破壊)
④Demonetized(非収益化)
⑤Dematerialized(非物質化)
⑥Democratized(大衆化)

例えば、一気に浸透した「キャッシュレス決済」も、あれこれ言われながら、水面下でジワジワと進化し(②Deceptive)、やがて既得権益者にとって取り返しがつかないほどの大変化(③破壊)を遂げました。

今、モノが非常に安くなっています。今後AIの時代には、いろんなものが無料提供されると言われます。こんな時、人は何に価値を感じ、オカネを払うのか。

それは、モノを作っている過程を一緒に楽しむ「プロセスとストーリーを共有」する見返りとしての支払いです。この構造転換はまさに④Demonetized(非収益化)です。

そして、更に次元が進むと、成果物(物体)そのものがなくなってしまうことを⑤Dematerialized(非物質化)します。例えば、レコードやCDがストリーミング・サブスクになったのもその一つです。これらは、⑥Democratized(大衆化)して、誰でも使えるようになります。

2040年にはアウトプット経済が終焉

6Dの世界では、テクノロジーとイノベーションによって、時代はエクスポネンシャル(指数関数的)に、つまり、グイグイ加速するように劇変。あらゆる生産コストは一気に下がり、2035~2040年にはアウトプット(成果物)の売買だけの経済は終わりを迎えるとみられています。

来るのは、無料革命による「世の中のガラガラポン」です。

その劇変を指をくわえて傍観するのではなく、時代の変化を見越して行動を先取りしていく必要があります。そういう時代には、プロセスによってオカネを稼ぐ発想をもっているかどうかが極めて重要となるはずです。

プロセスエコノミーと人間の本能的欲求

プロセスエコノミーと人間の本能的欲求

実は、プロセスエコノミーは人間の本能的欲求と非常に相性がいいという特徴があります。

今、私たちは、プロセスやストーリーを大事にするようになっています。そして、自分の中にあるストーリーが、異なる他者のストーリーとどんどん重なっていくことを大事にするようになっています。

例えば、自分の主張を通すときも、
・自分の話をして距離を縮める(Me)
・共通点を見いだして連帯感を作る(We)
・自分のやりたいことを説明する(Now)
というように、「Me We Now」のプロセスが極めて大事です。そして、ファンの支持は以下の過程を経て強くなってきます。

ファンの成長の3フェース

①共感→熱狂
②愛着→無二
③信頼→応援
 ※著書『ファンベース 支持され、愛され、長く売れ続けるために』より

①で、プロセスを共有することによって、最初に抱いていた「共感」はやがて強い「熱狂」にまで高まっていく。②では、ブランドへの「愛着」は、このブランドではなくてはダメだという「無二」の感情へと変わっていく。そして③では、受動的な「信頼」から能動的な「応援」へと高まっていくのです。

こういった蓄積が「Community Takes All」(コミュニティを制するものがすべてを制す)につながっていきます。

このような時代においては、もはや「新しい情報を自分だけが見つけた」と過信すること自体がアウトです。情報それ自体に価値はありません。 むしろ手持ちの情報をシェアして仲間を作り、プロセスを惜しみなく開示してしまったほうが、結果的にさらなる情報が集まってきて、自分にとって得な時代になることを忘れてはいけません。

最後に

今回は、尾原和啓さんの「プロセスエコノミー ~あなたの物語が価値になる」を紹介しました。

時代の変化を察知し、自ら変わることが益々求められます。そのためにも、読書は重要!是非、本書を手に取り、より多くのことを学んでください。

以下の本も、合わせてどうぞ。「良いだけ」では売れない時代に備える良書です。