世の中の風向きが政治の動向によって猫の目のように変わる中国。
重慶市で権力をふるった薄煕来が逮捕・失脚したことはあまりに有名ですが、彼の例にみられるように、中国に生きるということは、荒波との戦い。波が高ければ高いほど、その海を泳ぐものは先を見通すことに限界を覚え、その不安・プレッシャーを解消したいというニーズが権力者に生じます。
本書で取り上げられるのは「権力者と風水師」との蜜月の関係です。中国権力者トップ9のうち2人が、風水に心酔するほど、風水師が政治の世界に食い込んでいるといいます。
以下、詳しく見ていきましょう。
宗教を認めない中国。一方で、風水・気功に陶酔する権力者・貧困者
中国では、政府が認めた宗教団体の活動しか実質的には認められていません。そもそも共産党政権にとって、宗教はイデオロギーの点から受け入れがたく、また、現実的にも民間宗教は社会不安の視点から警戒の対象でしかないからです。
一方で、風水や気功は、中国の長い歴史を通じて人々の暮らしに不可欠な存在として溶け込んでいます。
医療をまともに受けられない貧困者は、手をかざすだけで病を治す「神医」として、重要な決断を迫られる権力者は、迷いを取り去り、進むべき指針を与えてくれる助言者として、強いニーズを持っているのです。
風水師にのめり込み機密を漏らす権力者
「トラもハエもたたく」という、中国の習近平政権が全国で大々的に展開した反腐敗キャンペーン。この大捕り物のターゲットとなったのが元最高指導部メンバーの周永康。前共産党政治局常務委員です。
周永康は、摘発された当初、不正蓄財の金額は1000億元(2兆円)あるとも伝えられましたが、そのバックにいた風水師が、「曹永正(そうえいせい)」。国家機密を漏らしてしまうほど、曹永正にのめり込んでいたという依存関係。当の曹永正は、現在、重要機密を携えて、国外逃亡中であり、中国政府が逮捕に躍起になっています。
このような政治家と非科学的な世界の代表である風水師の関係は、本件限りの関係と切り捨てられる問題ではありません。風水師は政治の世界に食い込んでいるのです。中国の歴史は、宗教に翻弄されてきた歴史ともいえます。
日本は大丈夫か?
本書は、公費で世界一の大仏を立てた共産党幹部の話など、中国の風水師と政治の関係に関する話がほとんどで日本の現状については触れられてはいません。
しかし、一言、「日本のトップ経営者、政治家も程度の差はあるにせよ風水師、占い師と関係があるのは、特殊ではない」と指摘しています。