【書評/要約】「超・長寿」の秘密(伊藤裕 著)(★5) 110歳まで生きるにはどうしたらいいか?若いうちに知るべき健康知識

人間の寿命、100歳と110歳の間には大きな「壁」が存在する。

厚生労働省の発表によると、2022年9月1日現在の100歳以上の方=センテナリアンは90,526人。前年比4,016人と増えていますが、これが「110歳越え」となると人数は極端に減ってしまいます。

伊藤裕さんの著書【「超・長寿」の秘密】は、この壁を乗り越えて110歳まで元気に生きるには何が必要かを、最新の知見とともに探る一冊です。

超・長寿のカギを握るのは遺伝子であるところはよく知られるところですが、本書を読むと、100歳と110歳の間にある壁を乗り越えて健康に、そして幸福に生きるためには、「遺伝子をどう使うか」が大事であることがよくわかる。

寿命を延ばすだけでなく、健康寿命をいかに伸ばして、110歳まで生きるか!?

今回は、「超・長寿」の秘密からの学びを紹介します。

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人間の寿命には限界

【書評/要約】「超・長寿」の秘密(伊藤裕 著):寿命の「勝ち組」と「負け組」

世界の最高齢ギネス保持者は、ジャンヌ・カルマンさんの122歳。
現代の科学では、ゲノム編集・再生医療などを行わない人間の寿命の限界、すなわち「限界寿命」は115歳あたりと考えられています。しかし、平均寿命が延びても、健康寿命も長くならなければ、辛い老後が増えるだけです。

長くなる寿命を、最後まで幸せに生き抜くには、ますます、若いうちからの健康知識をつけておくことが欠かせなくなります。

寿命の「勝ち組」と「負け組」

人生100年時代、私たちの人生は今後大きく「勝ち組」と「負け組」に二極化していく、と考えられています。それは、将来平均年齢がさらに長くなったとしても、イキイキと過ごす人と、苦しみながら生きる人がよりはっきりしてしまうからです。

勝ち組100歳まで生き生きと生活して115歳の天寿を全うする人たち
負け組病気に苦しみながら、周囲の助けで100歳までかろうじて生きる人たち

スーパー元気なおじいちゃんに注目

寿命の「勝ち組」と「負け組」

100歳を過ぎても健康的で過ごしている人はどのぐらいいるのか、それがわかるのは上のグラフです。女性(左)と男性(右)の60歳以降の健康状態を示しています。

ここで注目すべきは、「スーパー元気なおじいちゃん(10.9%)」の存在です。彼らの印象は、とにかく明るく、活気がある。頭はシャキッとし、中肉中背、姿勢が良い、歩く速度が速い、声が大きい、よく食べるなどとにかく元気。お肉も大好きですが、これは、胃腸が丈夫だからです。

一方で、女性はというと、「そこそこ元気なおばあちゃん」はいますが、「スーパー元気なおばあちゃん」はいない。これは、女性は筋肉量が少ないうえ、閉経期以降に女性ホルモンが大きく低下することで、骨折のリスクが高くなるのが原因です。つまり、意識して健康に努めないと、健康寿命と寿命が大きく乖離し、辛い晩年を迎える確率が高くなってしまうわけです。

長寿の大敵、フレイル(虚弱)

長寿のためには、肥満が大敵です。しかし、高齢になってからは、「やせている」ことも問題やせは筋肉量の減少によって起こり、その結果、「フレイル(虚弱)」になってしまうからです。次の5項目の3点が当てはまるとフレイルと見なされます。

❶体重が減少(年間4.5kg、または5%程度以上の減少)
❷歩行速度が低下(0.3m/秒以下)
❸握力が低下(男性 26㎏ 未満、女性 18㎏ 未満)
❹疲れやすい
❺身体の活動レベルが低い

長寿エリートの特徴

【書評/要約】「超・長寿」の秘密(伊藤裕 著):「限界寿命 115歳」まで、幸せに生きるにはどうしたらいいか

100歳を突破し、「限界寿命 115歳」まで幸せに生きる「長寿エリート」はどんな特徴を持っているのでしょうか。

長寿エリートの3つ特徴

110歳以上の長寿エリートと、100歳の長寿エリートを比べると以下のような特徴があります。

❶「腸」が丈夫(腸内細菌はとても若々しく保たれている)
❷日常生活活動度も、認知機能も高い
❸とにかく明るく楽しそう

注目は「とにかく明るい」こと

上記3つの特徴の内、注目したいのは❸です。「明るい」ことは長寿に極めて大事です。

人は人は年を取ると、モノ・自分の考えに執着しがちになります。他人の言うことを聞かなくなるのは、老化の始まりです。モノ・自分の考えに執着 → イライラ感や不機嫌さを増幅 → 不幸な気持ちが「認知症」を早めるという結果を防ぐためにも、「幸福感」をもって生きることは非常に大事です。

個性を活かし、人生も伸ばす

人はそれぞれ個性的に見えますが、遺伝子レベルで見ると、個人差はわずか0.1%に過ぎません。

「才能」という言葉には、生まれながらにしてもった「遺伝子の匂い」がします。しかし、遺伝子のある/なしで、才能のある/なしがすべて決まるわけではありません。その才能を活かすか殺すかは生き方(努力)次第。「自分らしさ」は自分の遺伝子が決めていても、それを活かすのは生き方です。

身体においても、臓器によい記憶を残せる人が、人間の限界寿命115歳まで幸せに生きられる「超・長寿」を実現できます。人よりやや劣るかもしれないと思える遺伝子を自分が持っていたとしても、その特性を逆に強みに変え、前進することが求められます。

遺伝子をうまく使う

長寿には持って生まれた「遺伝子の力」は大事です。しかし、それを活かせるかは「生き方次第」。特殊な技能を除けば、遺伝子の寄与率:生き方(環境)の寄与率=50%:50% 前後です。

つまり、「長寿になれる遺伝子」を持っていることが重要なのではなく、良い生活習慣をして遺伝子の力を十分に引き出す」ことが重要。生まれながらにして持って生まれた「DAN情報」「体質」は変わらなくても、生活習慣で「形質」は変わります(この現象は「エピゲノム」と呼ぶ)。

生活習慣で残る「臓器の記憶」

エピゲノムの変化は、例えば、運動を30分間行なうだけでも起こり、これら情報が、親からもらった遺伝子の上に、書き込まれていきます。これが、私たちの体・臓器に「記憶」として残っていきます(臓器の記憶)。

例えば、断食をすると、飢餓状態になった体はケトン体を使ってエネルギーを確保しようとし、その結果、体重が落ちますが、この時、ケトン体はエピゲノムを変化させ、これが「太りにくい」体質獲得につながっていくのです。

遺伝子のダメージを押さえる

【書評/要約】「超・長寿」の秘密(伊藤裕 著):遺伝子のダメージを修復する

遺伝子がダメージを受けやすいタイミング。それは、2本のらせん構造をしたDANがDNAがほどけて「複製されるとき」、とDNAが「読まれるとき」です。

DANがダメージを受ける原因

通常、DNAは損傷を受けると、細胞内でそれを修復すします。しかし、それがうまくいかない場合、DNAが変質し、病気の発症につながります。このようなダメージはは毎日2~10万カ所という規模で発生しています。

がん、動脈硬化、糖尿病、骨粗鬆症、認知力や免疫力低下、皮膚の劣化など、私たちが老化にともない経験する障害・病気は、すべてDNAダメージに対する修復がうまくいかないことで、引き起こされています。

DNAにダメージを引き起こす原因となるのが、強い紫外線、X線など電離放射線、喫煙、自動車の排気ガスなど。中でも最大の原因がはエネルギー源を産生しているミトコンドリアにおいて発生する「活性酸素」です。ミトコンドリアの衰え、これが老化に直結していきます。

恐ろしいメタボリックドミノ

恐ろしいメタボリックドミノ

私たちは「誕生→成長→成熟→老化→死」と進んでいきますが、健康が崩れる最初のドミノが「肥満(メタボ)」です。この最初のドミノが崩れると、ドミノ倒しのように病気が連鎖反応して起こっていきます。これが、「メタボリックドミノ」です。

食べ過ぎ・運動不足で太ると内臓脂肪がたまり、血糖を下げるホルモンであるインスリンの 利きが悪くなる。その結果、血圧が上がり、食後の血糖が上昇。中性脂肪が高くなったり、善玉コレステロールであるHDLコレステロールが低くなる脂質異常症が起きるなど、生活習慣病はほぼ同時に発生していきます。

さらに、動脈硬化が静かに起こり始め、あれよあれよといううちに、十分な血液が臓器に行き渡らなくなり、脳出血、脳梗塞、認知症、心筋梗塞、腎不全などが起こり、ついにはドミノが 総崩れとなって「死」を迎えるのです。

故、メタボリックドミノのドミノを起こさない生き方、遺伝子の使い方が求められます。

これからの医療に大事なのは個をベースとする予防・治療

これまでの予防医療は〝集団の医学〟でした。しかし、平均的な人など存在しません。故、個をベースに予防・治療に努めなければ意味がありません。

今後医療は、ウェアラブルデバイスを通じて、自分の健康を日常的に観測・管理することが益々容易になります。そして、それがの数値の変化と、自分に似た人たちの〝生きざま〟の結果から、自分の未来を予測することが益々容易になります。

これらをもとに、健康維持に努めれば、ミトコンドリアの劣化⇒老化は抑えられる可能性が高まります。今後ゲノム編集技術などでさらに、寿命は飛躍的に伸びるかもしれないとも言われています。このような最新技術も適宜アップデートしながら、老後の健康維持に努めたいものです。

遺伝子検査キットで自分の遺伝子を知っておくのも良いかもしれません。

遺伝子の力を使う生活

【書評/要約】「超・長寿」の秘密(伊藤裕 著):遺伝子の力を使う生活

超長寿の源泉は何だと思いますか?それは、ズバリ「やる気」です。最後に、超・長寿者になるための「遺伝子が使われる」生活について見ていきましょう。

超・長寿の源泉「3つのやる気」

老化は遺伝子のダメージによって起こりますが、そのダメージを乗り越えていこうとするにためにも必要なのが3つのやる気―「ハツラツ脳」「ツナガル脳」「ワクワク脳です。

「やる気」が出るためには、まず自分がエネルギーで満ちあふれていると思える「ハツラツ」とした気分が必要です。そして、その気分をバネにして、自分の周囲のヒトとモノに興味を持って「ツナガル」ことが大事です。さらに、ヒト・モノに対して「ワクワク」する気持ちを持つことが、「やる気」を生みます。

このような状態は、まさにご長寿の特徴「明るさ」に直結します。

3つの脳を育むには

「ハツラツ脳」を 育むために特に大切にしたい臓器がは「腸」です。
私たちはハツラツとしている時は快食・快便になります。昨今、腸活の重要性が説かれますが、そもそも私たちは、生物は栄養を摂らないと生きていけません。生物進化の過程においても、脳より腸が先です。だから、食事が楽しめる自分でいることは極めて大事です。

「ツナガ脳」を育むには、相槌を打って人の話を聞き、時に相手を褒めることが大事です。
年を取ると、自分の考えに固執して、主張を変えなくなります。そして、孤立化し、認知症を早めます。まずは、相手の話を聞きましょう。そして、相手の良いポイントを見つけ出して、「ほめる」努力をしましょう。褒めるためには、観察力、認知力が必要です。これらを維持し、人間関係を良好に保つためにも「ほめる」は効果があります。

「ワクワク脳」は、何かを始めようとするスイッチであり、これはAIにはない感情です。スイッチがオンになることは、まさに遺伝子が使われることにつながります。

正しい食事と生活

脳のやる気と共に、どうしても大事なのが正しい食事と生活です。昔から当たり前のように言われている「健康のルール」を実践することです。

・食べ過ぎない。時々プチ絶食する。
・品目の多い食事を定時に摂る
・規則正しい生活、十分な睡眠
・適当な運動
・仲間、楽しみ、趣味を持つ

これらが、結局のところ、このような当たり前に良いと言われていることを、当たり前に行う生活習慣が、ホルモンバランスを良い状態に保ち、毎日の元気につながります。そして、元気幸せに生きることが、「毎日の感謝」につながり、限界寿命=生命寿命=健康寿命=幸福寿命となる、長寿につながります。

最後に

今回は、伊藤裕さんの『「超・長寿」の秘密』からの学びを紹介しました。
限界寿命=生命寿命=健康寿命=幸福寿命となるように生きるためには、若くして健康に対する知識を高めておくことが大事であることを、再認識させられた本となりました。

「遺伝子の力」には個人差があるかもしれません。ただ、それだけ、人生・寿命は決まらない。それは、能力も健康も同じ。
結局のところ、長寿で健康に暮らすための結論は、以下の良書とも大差ありません。健康のためには、昔から言われる当たり前のことを当たり前のようにやる、それが習慣化されることが何より大事。不摂生を控えるべく、精進したいと思います。