【書評/感想】コンビニ人間(村田 沙耶香 著)(★5) 「普通」でないと息苦しい現代社会を切り取る。世界各国でベストセラー&芥川賞受賞作

現代社会につきまとう息苦しさ。みんなと同じ、つまり、普通でないと、変な人・不快な人のレッテルを貼られます。

社会は男性差別・性的マイノリティなど、「多様性」を受け入れる時代に向かっていると言われますが、現実はそうではありません。

異質を排除する「普通圧力」の存在を、コンビニを舞台に軽やかに描き出した作品が、村田沙耶香さんの小説「コンビニ人間です。

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異質なものを排除したいという感情は、人間が集団生活を始めた古代より存在する感情で、決してなくすことができない「人間の本能」です。「普通とは何か」、深く考えさせられます。さらに、「生き方・働き方の多様性」「自分らしく生きるとはどういうことなのか」」についても、読者は問われます。

第155回芥川賞受賞作世界各国でベストセラー。その理由に大納得の1冊です。

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コンビニ人間:あらすじ

コンビニ人間:あらすじ

36歳未婚女性、古倉恵子。大学卒業後も就職せず、コンビニのバイトは18年目。これまで彼氏なし。

日々食べるのはコンビニ食、夢の中でもコンビニのレジを打ち、清潔なコンビニの風景と「いらっしゃいませ!」の掛け声が、毎日の安らかな眠りをもたらしてくれる。

ある日、婚活目的の新入り男性、白羽がやってきて、そんなコンビニ的生き方は恥ずかしいと突きつけられるが…。

「普通」とは何か?現代の実存を軽やかに問う衝撃作。第155回芥川賞受賞。
「BOOK」データベース

主人公のは古倉恵子は36歳・独身。

小さな時から、「普通」とは違った価値観・感性をもった、いわゆる「変わり者。この普通でない感覚が、周囲に迷惑をかけたり、怒られたりする原因になっていることに気が付き、「本当の自分」を内に閉じ込めて成長した結果、社会に上手くくなじめす、大学卒業後も、コンビニのアルバイトで生計を立てていました。

恵子にとっては、コンビニで働いているときだけが「普通の人」で振舞える自分の居場所でした。しかし、就職も結婚もせず、アルバイトを続ける恵子を親・妹は心配し、咎めます。

ある日、恵子は、問題行動が原因でバイトをクビとなった無職の男性・白羽と再開します。白羽は文句ばかりでどうしようもないクズ男。しかし、恵子は「世間が認める普通の人」を装うために、ヒモ男・白羽と同棲を始めるのです。そして、白羽が原因で、恵子はコンビニ店員を辞め、就職活動を始めるのですが….

コンビニ人間:感想

コンビニ人間:感想

本書は、白羽のクズ男ぶりなど、ストーリーの面白さもあります。しかし、それ以上に、読みながら考えさせられるのが、「普通とは何か」です。
※以下、コンビニ人間の「ネタバレ」を含みます。

異物に容赦ない「普通の人」

現代社会は、差別などのない「多様性のある社会」へ進んでいる部分もありますが、それはごく一部に過ぎません。実際は多様性に寛大ではありません。特に自分の身近にある「異質」には厳しい。例えば、「独身」「働いてお金を稼がない人」に対しては、彼らを許さない「圧力」が存在しています。

本作は、そのような「普通=同じ」を良しとし、「異質」を排除しようとする強い圧力の存在を、コンビニという舞台を通じて描き出します。

読みながら思い出した作品が、2023年秋に映画公開となった朝井リョウさん原作の「正欲」。こちらは、変わった性癖を持つマイノリティが社会で生きる息苦しさを描いた作品ですが、「正欲」は「異質者」の生きづらさを重たく描いています。軽やかに描く「コンビニ人間」とは対照的で、これが本書の読みやすさのポイントでもあります。

「はっ」とさせられたフレーズ

「コンビニ人間」を読んでいると、無意識に陥っている「偏見」にハッとさせられます。この気づきを忘れないために、心に引っかかったフレーズを抜粋して紹介します。

「異質者」に無意識に行われる「見下し」

同じことで怒ると、店員の皆がうれしそうな顔をすると気が付いたのは、アルバイトを始めてすぐのことだった。店長がムカつくとか、夜勤の誰それがサボってるとか、怒りが持ち上がったときに協調すると、不思議な連帯感が生まれて、皆が私の怒りを喜んでくれる。
泉さんと菅原さんの表情を見て、ああ、私は今、上手に「人間」ができているんだ、と安堵する。この安堵を、コンビニエンスストアという場所で、何度繰り返しただろうか。
興味深いので私は見下している人の顔を見るのが、わりと好きだった。(略)
何かを見下している人は、特に目の形が面白くなる。そこに、反論に対する怯えや警戒、もしくは、反発してくるなら受けてたってやるぞという好戦的な光が宿っている場合もあれば、無意識に見下しているときは、優越感の混ざった 恍惚 とした快楽でできた液体に目玉が 浸り、膜が張っている場合もある。
差別する人には私から見ると二種類あって、差別への衝動や欲望を内部に持っている人と、どこかで聞いたことを受け売りして、何も考えずに差別用語を連発しているだけの人だ。白羽さんは後者のようだった。
店長は、使える、という言葉をよく使うので、自分が使えるか使えないか考えてしまう。使える道具になりたくて働いているのかもしれない。

「普通」であるために

あ、私、異物になっている。ぼんやりと私は思った。(略)
正常な世界はとても強引だから、異物は静かに 削除される。まっとうでない人間は処理されていく。そうか、だから治らなくてはならないんだ。治らないと、正常な人達に削除されるんだ。(略)
家族がどうしてあんなに私を治そうとしてくれているのか、やっとわかったような気がした。
皆が不思議がる部分を、自分の人生から消去していく。それが治るということなのかもしれない。
ここ二週間で 14 回、「何で結婚しないの?」と言われた。「何でアルバイトなの?」は 12 回だ。とりあえず、言われた回数が多いものから消去していってみようと思った。

縄文時代から社会は「独身」「無職」に容赦ない

皆、変なものには土足で踏み入って、その原因を解明する権利があると思っている。私にはそれが迷惑だったし、 傲慢で鬱陶しかった。
白羽さんの言うとおり、世界は縄文時代なのかもしれないですね。ムラに必要のない人間は迫害され、敬遠される。つまり、コンビニと同じ構造なんですね。コンビニに必要のない人間はシフトを減らされ、クビになる(略)
コンビニに居続けるには『店員』になるしかないですよね。それは簡単なことです、制服を着てマニュアル通りに振る舞うこと。(略)普通の人間という皮をかぶって、そのマニュアル通りに振る舞えばムラを追い出されることも、邪魔者扱いされることもない
ムラのためにならない人間には、プライバシーなんてないんです。皆、いくらだって土足で踏み込んでくるんですよ。結婚して子供を産むか、狩りに行って金を稼いでくるか、どちらかの形でムラに貢献しない人間はね、異端者なんですよ。
だから現代は機能不全世界なんですよ。生き方の多様性だなんだと綺麗ごとをほざいているわりに、結局縄文時代から何も変わってない。少子化が進んで、どんどん縄文に回帰している、生きづらい、どころではない。ムラにとっての役立たずは、生きていることを 糾弾 されるような世界になってきてるんですよ

「嫌い」と「集団バイアス」の怖さ

人には「嫌い」という感情があります。厄介な感情ですが、「嫌い」は脳に備えつけの重要なアラーム機能です。これを無視し続けると、ストレス・ウツになることからわかるように、人にとって必須の感情です。ネガティブな感情も、意義があって存在しています。

ただ、これが悪く作用するときがあります。その一つが、「集団圧力」や「同調圧力」です。

中野信子さんの本によると、異質なものを排除したいという感情は、人間社会においては常に起こっている圧力です。これが集団になると「集団バイアス」になります。

集団バイアスがもたらすデメリットは、自分たちと違う人、異質な人を嫌悪し、自分が属す集団内において「制裁」「排除」の論理が働くようになることです。根拠なく、「自分たちのほうが他の集団よりも優秀だ」と思うようになり、他のグループを見下し、排除するようになります。

困ったことに、このようなバイアスは、助け合いがより大事になる戦争や不況など、社会が不安になるとさらに悪化します。それは、収入が減ることで自己評価が低くなり、下がった自己評価を埋め合わせるために「自分の属している集団は優秀に違いない」と、根拠なく下駄を履かせようとするからです。

時代の変化が激しく、情報が高速に飛び交う現代は、このようなバイアスが簡単に生まれます。人間は簡単にバイアスに陥ってしまう存在であることを知っておく必要があります。「コンビニ人間」は、そんな人を見下す人間の姿を再認識させてくれるでしょう。

最後に

今回は、村田沙耶香さんの小説「コンビニ人間」について感想をまとめました。

感想には述べませんでしたが、ラストに向かうシーンもとてもいい。恵子が「「自分がイキイキできる、自分の居場所(働く場)はココだ!」と気づく過程は、ビジネスマンなら何か感じるところがあるはずです。自分の生き方・働き方も考えさせられます。

いい小説に出会えて感謝!多くの方に読んでほしいです。

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