【書評/要約】常設展示室(原田マハ 著)(★4) 絵画と人生が交錯する6つの物語。美術館に出かけたくなる!

私は美術館に行くのが好きです。
直近では、金沢に旅行に行った際に、金沢21世紀美術館に行ってきました。

そんな、私ももともと美術館が好きであったわけではありません。美術・デザインの本、歴史・偉人の本に触れるなどを経て、美術作品には様々な背景が詰まっていることを知るにつれて、価値ある美術品を見るのが非常に楽しくなりました。

そして、それに輪をかけて、美術を好きになるきっかけとなったのが、キュレーターとしても活躍をされていた作家 原田ハマさんの小説です。

今回紹介の「小説展示室」」は、誰もが知る6人の有名作家の絵がキーとなり、ストーリーが展開する短編集です。

今回は原田マハさんの小説「常設展示室」のあらすじ感想に加え、私が美術館で立ち尽くし見入った「常設展示作品」についても紹介します。

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常設展示室:あらすじ

【書評/要約】常設展示室(原田マハ 著):あらすじ

ピカソ、フェルメール、ラファエロ、ゴッホ、マティス、東山魁夷……
実在する6枚の絵画が物語を彩る、極上のアート短編小説集。

いつか終わる恋をしていた私。不意の病で人生の選択を迫られた娘。忘れられないあの人の記憶を胸に秘めてきた彼女。運命に悩みながら美術館を訪れた人々の未来を、一枚の絵が切り開いてくれた――。
足を運べばいつでも会える常設展は、今日もあなたを待っている。
女優・上白石萌音さんによる、文庫解説を収録。
―――Amazon紹介文より

常設展示絵画はいつもあなたを待っている

この小説で描かれるのは「常設」の展示室。美術館所有のいつでも見ることができる展示室の絵画をキーに話が展開するストーリーです。

いくつかの美術展に足を運ばれた方なら、ご存じだと思いますが、メディアで話題になるような特別企画展と異なり、常設展示は、正直「華」がありません。絵画は、部屋にぽつんと、ちょっと寂しそうにすら見えることも。絵画を鑑賞するお客さんはまばらであることもたびたびです。

しかし、常設展示室の絵画は、いつも、どんな時も、あなたを待ってくれています。

常設展示室:感想

【書評/要約】常設展示室(原田マハ 著):感想

絵画が与えてくれる体験:様々な出会い

どんな心境で見るかでも、絵画の見え方は違ってきます。

そして、絵画・画家と絵画鑑賞者の間には、絵に涙する感動の出会い、じんわりと心に染み入る出会い、なんだかよく分からないけれど衝撃を受ける出会い など、様々な出会いがあり、それが時として、人の人生を変えることもあります。

過去に訪れた地の風景に絵画の中で再開するすることもあれば、この絵が描かれた時代はどんな時代だったのだろうと時代を超えた出会いを感じることもあります。

本書の中では、そんな作品を通じた、「絵を鑑賞する人」「絵をコレクションする人」「ビジネスとして絵を扱う人」「人に愛される絵を発掘する人」などの「出会い」が描かれています。

読者は、描かれるストーリーとの「出会い」で、時にロマンチックな気持ちになったり、切なくなったり、涙が流れたり…. そんな様々な出会いが、本書には詰まっています。

最も好きな短編

「小説展示室」の短編の中で私が特に心惹かれたのは、本書に解説を寄稿している女優・上白石萌音も、特に好きだと語る最終章の『道 La Strada』です。

本書は他のストーリーと異なり、名もなき画家の絵画がキーとなって進むお話。

正直、お話の途中から、なんとなく、結末が想像できてしまいます。しかし、それでも、切なさ・温かさで心がいっぱいになり、涙が流れる…。そんな素敵なお話です。

本書は、短編集であるが故に、読みごたえという観点からは、少し物足りなさを感じる人もいるでしょう。でも、美術館に行ってみようかな…という動機を与えてくれるには十分です。

私が心つかまれた常設展示作品

私には、長時間、作品の前で立ち尽くした絵画があります。見入ってしまったのです。
それは、千葉県の決して足の便がいいとは言えない場所にたたずむ「DIC川村記念美術館」で見たレンブラント作品です。

レンブラント《広つば帽を被った男》

レンブラント(Rembrandt Harmenszoon van Rijn)は、17世紀オランダの画家です。風景、静物、肖像画、宗教画、歴史画など、多くのジャンルで活躍し、驚くべき技術と芸術的な才能を示しました。

レンブラント作品が人を魅了するのが、絵画に描かれる「光と影の効果」。強い光と影のコントラストを使用することで、描かれた被写体に深みと立体感を与え、観る者を魅了します。

とは言っても、上に掲載した作品。容姿に優れた美形な男性…というわけでもなく、そんなに光と影の効果が素晴らしい??と思われた方もいるかもしれません。確かに、上の写真では、この作品の良さは全く伝わっていません。

しかし、本物の作品を目の前にすると、「光と影の表現」にくぎ付けとなります。

モデルの顔に左方から当たる光・その表情、肌や髭・髪の毛。
そして何よりも、素晴らしいのが首元のレースの質感。実物より繊細で美しい…

「本物に触れよ」「本物を見よ」と言われますが、この作品を見て、あぁ…そういうことなのかと、大いに納得。

単に写真や映像では得られない素晴らしさがそこにはあります。そして、じっと見入っていると、モデルが生きた時代背景、そしてレンブラントの思想的なものまで伝わってくるような感覚を味わうこともできます。常設展示で、閲覧者がまばらというより、館内に数人と言った状態の中で見た故、より一層、作家・作品と触れ合えた気がします。企画展では人の流れがあって、1枚の作品に食い入るように見ることはできません。

本物に触れることは、芸術や文化を深く理解するために非常に重要な体験であり、その経験は人生を豊かにすることができます。是非、常設展に出かけてみてはいかがでしょうか。きっと、何かが得られるはずです。

最後に

今回は、原田マハさんの小説「常設展示室」を紹介しました。

本物の芸術作品は、単に見るだけでなく、感じ、味わい、考える深い経験を与えてくれます。本書は、きっと、そんな作品に出かける動機づけを与えてくれるはずです。

現在、Kindle本の読み放題サービスKindleUnlimitedでは、原田マハさんの以下の作品も読み放題で読むことができます。合わせて読んでみてほしいです。上質な感動に出会えます。