【書評/要約】楽園のカンヴァス(原田ハマ 著)(★5) ルソーとピカソが絡まる絵画ミステリー 第25回山本周五郎賞受賞
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美術作品を取り扱った作品で読者を楽しませてくれる作家原田マハさん。
キュレーターとして美術知識に支えられた小説は、単にエンタテイメントとして面白いだけでなく、美術館などでの美術鑑賞を非常に面白いものにさせてくれます。

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今回紹介の小説「楽園のカンヴァス」は、複数の賞を受賞した代表作。Amazonでも最もレビューコメントが多い人気作品です。
・第25回山本周五郎賞受賞
・雑誌「ダ・ヴィンチ」プラチナ本 OF THE YEAR 2012受賞
・王様のブランチBOOKアワード2012大賞受賞。

この小説のテーマとなるのは、素朴派の巨匠 アンリ・ルソーの代表作「夢」によく似た謎の名画。ピカソのキュビズムに代表される現代アートの夜明けが垣間見れるストーリーは、絵画好き、ミステリー好きどちらも大満足できる、知的好奇心がそそられる絵画ミステリーの傑作です。

楽園のカンヴァス:舞台・あらすじ

【書評/要約】楽園のカンヴァス(原田マハ 著):あらすじ

倉敷:大原美術館

物語の最初の舞台は2000年の岡山倉敷。

早川織絵(43)は、若い頃、パリ在住のソルボンヌの博士号を取得したルソー研究者。しかし、日本に戻り、未婚のまま子供を産み、今は平凡に暮らす大原美術館の監視員。そんな織絵に思いがけない話が舞い込む。
日本で大規模なアンリ・ルソー展を企画し、ニューヨーク近代美術館「MoMA」からルソー代表作「夢」を借りようとしたところ、MoMaチーフ・キュレーターのティム・ブラウンが、「オリエ・ハヤカワを交渉役にするなら考えよう」と返答したというのだ。なぜ、平凡な監視員である織絵にそんな大役の指名が?

ここまでを1章に、舞台は1983年、若き日の織絵とティムへと移動する。

1983年当時のティムはアシスタント・キュレーター5年目の30歳。そんな彼のもとに、伝説の大物コレクター バイラーの代理人弁護士から、ルソーの知られざる名画を鑑定してほしいとの手紙が届く。よく似た名前の上司トム・ブラウン宛てと間違いだろうと思いつつ、熱心にルソー研究をしていた彼は名画をこの目で見たいとの思いから、トムに内緒でスイス バーゼルに向かう。そして、もう一人、同じく依頼を受けた26歳のオリエ・ハヤカワと出会う。

バイラーのリクエストは、ルソーの「夢」とほぼ同一のモチーフの未発表作「夢をみた」の真贋判定。。正しく真贋判定したものには、その絵を譲ると告げ、手掛かりとなる謎の古書を2人に託す。こうして2人は、「夢をみた」をかけて、7日間の名画鑑定に挑むことに。

謎を秘めた名画。
古書から明らかになるルソーの創作活動と彼を取り巻く交友関係。
高齢のバイラー所蔵の名画を狙う者たちの陰謀、鑑定士自らが抱える秘密も絡まって、鑑定士2人は翻弄される。

幻の名画は真作なのか贋作なのか?
2人はどのような評価を下すのか?
そして、織江はなぜ、ルソー研究者という地位を捨て、岡山に戻って平凡な暮らしを選んだのか?

まさに、絵画ミステリーといえる傑作。

楽園のカンヴァス:より面白く読むために

【書評/要約】楽園のカンヴァス(原田マハ 著):より面白く読むために
《夢》ルソー 1910年、ニューヨーク近代美術館蔵

ストーリーは実際に本書を読んで味わっていただくとして、本書をより面白く読むために、先に少し知っておいてほしいことを紹介します。

画家:アンリー・ルソー

表紙の絵は見たことがあるけど、アンリ・ルソーって誰?ルソーといえば、社会契約論のジャン・ジャック・ルソーでしょ。

こんな方が多いのではないでしょうか。私も本書を読む前はまさにそんな一人でした。

でも、この本を読むには、ルソーという画家と、その作品、そして彼が生きた当時の美術界を知ることがとても大事。なぜなら、随所に、ルソーという人物、そしてその作品についての記述が随所に出てくるからです。特に、絵の説明は、絵を見て知っているか、知らずに読むかで、本の面白さ、感動が違ってきます。

というわけで、Wikipediaを簡単に抜粋・要約。

アンリ・ルソー(1844-1910年)

  • 19世紀末から20世紀初頭にかけて活躍したフランスの素朴派の画家
  • 彼の作品には熱帯のジャングルを舞台にしたものが多数
  • もともとパリ市の税関職員。22年ほど勤務した後、絵に専念
  • 存命中は、ピカソ、ロートレック、ゴーギャン、アポリネールなど少数の理解者によって評価されたのみ
  • ピカソが古物商でルソーの『女性の肖像』(ピカソ美術館蔵)をわずか5フランで購入
    彼の絵に「新しい美術」を見出す
  • キュビスムシュルレアリスムを先取りした、ヘタウマ芸術

アンリ・ルソーのその他の絵画(例)

画家・作品名は知らずとも、目にしたことがある絵画ではないでしょうか。


《飢えたライオン》1905年
バイエラー財団蔵(スイス)

《虎と水牛の戦い》1908年
クリーブランド美術館蔵

《眠るジプシー女》1897年
ニューヨーク近代美術館蔵

近代美術は理解されない時代

ルソーは、20世紀美術の大変革に一役買ったアーティストです。ルソーがいなければ、ピカソは絵画革命を進められなかったし、シュルレアリスムの誕生もありませんでした。しかし、ルソーが生きた当時、ルソーの評価は低いまま。それはなぜか。

当時は写実的な絵がうまい絵であり、ニューヨーク近代美術館「MoMA」に展示されるような美術は評価されなかった時代です。しかし、ピカソは、ルソーの中に「新しい美術」を発見して、キュビスムの出発点となる『アビニヨンの娘たち』を世に生み出しました。その絵の評価は極めて低いものでした。

でも、美術の世界においても「新しいものを生み出す」ということはすごいことなのです。以下の本書を読むと、それがわかります。

楽園のカンヴァス:本書の感想

【書評/要約】楽園のカンヴァス(原田マハ 著):より面白く読むために
ニューヨーク近代美術館「MoMA」

ここからは、私の感想です。いろいろあるのですが、ありすぎるので3点だけ、書き記しておきたいと思います。

ルソーの「夢」

ルソーの「夢」を深く見入っていると、神秘的な密林の「緑」に引き込まれていく。自分もその地に身を置いてみたい気持ちにもなります。
ルソー作品には密林・ジャングルを絵がものが多いですが、本来なら荒々しい光景となるであろう「飢えたライオン」や「虎と水牛の戦い」を見ても、荒々しさがありません。ルソーにとって、愛する女性(ヤドヴィガ)が音楽とともに眠りに落ちれるような緑の密林は「夢」のような場所だったのでしょうね。

名画は「永遠を生きる」

画家、そして絵のモデルは亡くなっても、名画は「永遠を生きる」

本書を読んでいると、「名画は永遠を生きているのだ」のだということを強く認識させられます。何年たっても、多くの人たちを魅了し続ける。
原田マハさんの本を読むと、この感動が味わえる。美術ってすごいなと思える。そのうえで、実物絵画を見たときの感動は、何も知らないときとは全く異なる感動を与えてくれるはずです。

知らないって超残念。人生損する!

本書には、MoMa貯蔵の名画が何点も出てきます。ルソーの「夢」もその一つ。

しかしです。私は、社会人になって数年のころ、ニューヨークに行き、MoMaで美術鑑賞したはずなのですが、ルソーの「夢」を見た記憶が全くない!

こんな残念が起きてしまったのは、当時の私が現代アートに対してあまりに無知で無関心だったからに他なりません。現代アートを見ても「子供のお絵描きみたいだ。よくわからん」と思っていたため、大作・名画を見ても、感動もなく、記憶にも残らなかったのですね。

確かに美術は感覚・感性で鑑賞するものなのかもしれないですが、しかし、それだけじゃない。それまでにない「新しい表現」を生み出す画家の苦労、絵に託した思いを知り、それを鑑賞することには深い感動があるはずです。

う~ん、知らないと人生損する。楽しみ・喜び・感動も確実に減る!

だから、私は生涯学び続けます。「楽園のカンヴァス」はそんなことを、再認識させてくれました。私が昔よりも格段に「旅行」が楽しくなったのも、様々な本と触れ合った影響が大きいです。

最後に

今回は、原田マハさんの「楽園のカンヴァス」を紹介しました。

教養書でなくとも、小説だって、人生を豊かにする学びがある。これが読書をする楽しみ。読書をすると、こういう豊かな学びが蓄積されていきます。是非、本書から、そんな読書の喜びを味わっていただけたらと思います。

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