ハダカデバネズミ… 漢字で書くと 裸出歯鼠…
なんとも残念な名前を持つネズミですよね。でも、ネーミングのまんまの見た目。しわしわの焼き芋のようで、毛がなく、出っ歯ときている。その出っ歯でトンネルを掘削し、地下トンネルの中で生活している生き物です。
私があまり手に取ることのない生き物の本を手にとったのは、たまたま、2週間ほどの間で読んだ2冊の本の中に「ハダカデバネズミ」の記載があったから。
新書「超・長寿」の秘密では、人間だと1000歳相当まで生きるバケネズミ
SF小説「新世界より」では、ストーリーの重要生物バケネズミの祖先
なかなか興味深い生き物だなあと思っていたところ、たまたま本書を発見。早速、読んでみたところ、生態が面白すぎ!研究者さんが書いた本ですが、笑いながら読めます。
女王デバ・兵隊デバ・働きデバ・ふとんデバ という職業階級カーストが、なんだか人間界にも重なり、「いとおしさ」を感じます。面白雑学として、おすすめしたい1冊です。
今回は、吉田重人さん、岡ノ谷一夫さんの共著「ハダカデバネズミ」から、私が人間に重なって面白いと思った部分にフォーカスして紹介します。人間社会を考えさせられます…
目次
ハダカデバネズミの生態
ハダカデバネズミは、東アフリカのケニアあたりにいる動物。地下にトンネルを掘って集団で暮らしています。本書では、ハダカデバネズミへの親しみ・愛も込めて「デバ」と呼んでいるので、本記事でも「デバ」と呼びます。
ネズミなのに女王がいるコロニー集団
デバの生態の面白さはいろいろあるのですが、その一つが「女王」をトップとした職業カースト制でです。
ネズミなのにハチやアリのように、集団内の繁殖を一手に引き受ける女王がいて、しもじもの者にも働きに応じた階級がある!女王は定期的に巡回し、さぼっている輩をどやす。どやされたデバは「服従のポーズ」をとり、反省の意を示すという、まるで人間社会のような社会で生きているのです。
階級は、上から、女王デバ、王様デバ、兵隊デバ、働きデバ・肉ぶとんデバ
肉ぶとんデバ、なんじゃそりゃですが、これは、まさに肉ぶとんとなるのがお仕事。哺乳類なのに自分で体温調節ができない変温動物なので、生まれてきた赤ちゃんを守るために、赤ちゃんの下敷きになるのが役目です(笑)
なぜ、ハダカ?
デバなのはトンネルを掘るためですが、ではなぜ、ハダカなのか?
有力なの見解は、寄生虫にたかられるのを防ぐため。ノミやダニの温床となりうる毛皮を自ら捨てたとするものです。地下トンネル内は一年中摂氏30度前後。万が一寒い日があったとしても、互いに身を寄せ合って暖を取れば大丈夫というわけです(むしろ、毛があると暑い)
恐るべし超長寿!まさに、バケネズミ
新書「超・長寿」の秘密によると、普通のネズミは3年ほどしか生きられないのに、デバは10倍の30年以上生きる!つまり、人間寿命が100歳なら、1000歳まで生きるということ。長寿すぎ…
ちなみに、著者らが飼育している女王デバは推定37歳!長生き過ぎのバケネズミです!デバは、哺乳類としては常識外れに長寿なので、長寿研究者の熱い的となっているそうです。
デバの群れの真社会性
デバの社会は真社会性。二世代以上が同居し、繁殖個体が限定(女王)されていて、繁殖個体の繁殖を手伝うだけで自分では繁殖しない個体をたくさん含む社会集団を持つ社会形態をなしています。
デバの真社会性
女王のみが子供を産む申請社会は、アリ・ハチなどを代表に無脊椎動物で結構います。しかし、脊椎動物ではデバと近縁種1種類の2種類のみで極めて珍しい。
人間界にも「女王様」がいて、これに仕えるのをよしとする殿方もいたりしますが、これって、人間も、ある意味、貴重な種ってこと!?(笑)
デバは血が濃い
デバたちのコロニーは平均80匹(最大300匹程度)。これだけの規模を持ちながら、繁殖に関わるのはたった1匹のメスと、1~3匹のオスのみ!彼らが交尾し、できた子どもがまたその繁殖メスと交尾し…で、世代がつながれていきます。
するとどうなるか。外から交わるものがいないので、どんどん血が濃くなる!みんなが血縁者、親戚同士というわけです。
すると、著書「利己的遺伝子から見た人間」(小林朋道 著)の書評で紹介したハチの社会のように、集団を守るために、働きバチのようにただ働いて働いて…死ぬだけの働きバチのような自己犠牲がいる社会となる。
あなたは人間界で自己犠牲者になってない?なんでそんな社会が成立するかは、以下の記事にてご確認を。
デバの職業カースト:みんなそれぞれしんどい
女王はつらい
女王の在任期間は、研究などで飼育されている場合は20年以上にも及ぶのだとか。妊娠期間は体の大きさに対して非常に長く約80日。1度の出産で10~20匹もの仔を産みます。
では、職業階級カーストのの座はトップに立つ女王デバは、いいご身分でなのかというと、これが、なかなか辛い。
なぜなら、アリやハチと違って、「女王の座」は、下剋上を勝ち抜いて「座」を奪って手に入れるものだからです。常に座を奪おうとするものがおり、下剋上に負ければ命を落とすことになる。だから、気を抜けない。
将来、女王の座を狙うであろうライバルたちが力をつける前に、叩いておかなければならないので、女王は常に巣穴をパトロール。ライバルたちを威嚇して回る。だから、研究からも女王デバのストレス値が最も高く、睡眠時間も群れの中で一番短いことが調査からもわかっています。
王様もつらい
王様デバは、女王デバの交尾相手。女王の座は下剋上なのに対し、王の交代は平和裏に行われます。それなら、生きるのはラクチンかと思いきや、そうでもない。
というのも、王様とは名ばかりで女王の尻に敷かれています。女王がある特定の鳴き声を発すると、必ず交尾に付き合わなければならず、丸々と太った個体が王様になったとたん、少しずつやせ衰えていくそうです。
また、どうやら人間と同じで、男性ホルモンと呼ばれるテストホルモンが多く、免疫系が抑制されるので病気にかかりやすい。さらに、女王の座を奪おうとするライバルは女王より先に王様を手にかける(妊娠阻止のため!?)。結果、在任期間が短くなりやすいそうです。
働きデバと兵隊デバもつらい
次のカースト階級に位置するのが、兵隊デバと働きデバ。
兵隊デバは、侵入者の対峙。積極的に戦うというより、自ら犠牲になってコロニーを救う…
働きデバは、巣の拡張、清掃、子育ての手伝いで、忙しく働いている…
2種類の役割も、生まれつき決まっているわけではありません。最初はみんな働きデバとなり、成長するとその中から、兵隊数の不足に応じて、普段は怠けていてもいい代わりに万一時に自らが犠牲になる兵隊デバになるものが現れるようです。
ちなみに、普段ゴロゴロしている兵隊デバの中に、一目でデブとわかるデブデバが現れることがあるそうですが、彼らは「反乱分子」的存在。自分自身で繁殖したい!と考えたなら、❶と王位奪取に挑むか、❷独立して新たな群れを創設するか、の二択しかありません。デブデバは後者を選んだもの。独立=「旅立つ準備」のために栄養を貯え、デブ化しています。
う~ん、これもなかなかつらい…
肉ぶとんデバはつらい?
さて、最後の肉ぶとんデバ。働きデバの一部で、女王に仔が生まれると、床に寝そべってひたすら子どもたちのふとん係に徹しするものたちですが、彼らはも押しつぶされてつらそう…
いやはや、デバ社会は、まるで人間界の一企業の要です。トップも辛ければ、取締役も辛いし、下層社員も辛いのです。
ハダカデバネズミのコミュニケーション
デバの職業カーストは、コミュニケーションにも顕著に表れます。
階級と弱チュー鳴き
デバは、目も耳もよくありません。しかし、17種類もの鳴き声を使い分けてコミュニケーションをしています。この鳴き声の内、コミュニケーションの基本の「あいさつ」に当たるのが弱くチューと鳴く「弱チュー鳴き」です。
「弱チュー鳴き」の頻度が高いのが、体の小さい下級のデバ。つまり、下級のものほど、目上の相手に対してはきちんとあいさつをしなければならない。まさに、人間社会と同じ…面白いというかなんというか…
下級民はいつも自己犠牲的なのか
デバの社会は真社会性で、しもじもの者は生殖をすることもない、自己犠牲者です。しかしです。中には、こっそり、サボるやつもいる!
働きアリの中にも、一定の割合でサボっているように見えるアリがいますが、デバも同じ。どうもてもサボっているとしか見えないものもいる。まあ、ラクするため?に万一の時に盾になって犠牲になることを選んだ兵隊デバになるものもいるくらいですから、やっぱり、サボるものはどんな社会にもいるわけですね。
また、職業カーストはありますが、絶対服従でもないらしい。マジでお腹が減っているときは、相手が女王であっても、大声を上げて自身の取り分を主張するものもいるのだとか。さらに、エサを仲間から離れた場所に持っていって、一匹で隠れて食べているような不道徳者も観察されるそうです。
協調(自己犠牲)・競争の両面を持ち、真面目・サボり魔・マイペースな奴が共存している。そして、やっぱり一番つらいのは経営トップである「女王」。この辺も、人間社会と同じですね。
なかなか親近感がわいてしまうのは、私だけではないのではないでしょう。
面白い社会性は研究の的
上記のような、このようなデバの特性は人間社会の階級・分業・ストレスの関係の理解に成り立つのでないかと研究が進められているそうです。また、鳴き声の使い分けなどは、人がどのように、TPOに応じた言語使用ができるのかを生物学的に解明するための糸口ともなると考えられています。
さらに、医療・生物学の分野では恐ろしいまでの長寿が研究の的になっています。なかなか、果てしない可能性を秘めた生物ですね。
最後に
今回は、吉田重人さん、岡ノ谷一夫さんの共著「ハダカデバネズミ」から、私が人間に重なって面白いと思った部分に的を絞って紹介をしました。雑学書としても非常に面白く笑いながら読めるので、是非、手に取って読んでみてください。
いつも読まないジャンルの本を読むと、いろいろと新しい発見があります。本ブログを読んでくださる方は、金融・ビジネスなどの分野に特化した情報を求めている人が多いと思いますが、時々、他分野の本を読んでみると、世界を見る目が広がります。是非、いろんなジャンルの本を読んでほしいなと思います。
なお、冒頭で紹介した、以下の本もジャンルを広める上でおすすめです。