「クリスマス・キャロル」はクリスマス小説の中でも最も有名な世界的名著。1800年代に書かれた英国の文豪チャールズ・ディケンズの代表作です。
主人公はロンドンの下町で商売をしている初老の商人スクルージは金がすべての嫌われ者。冷酷無慈悲で人間嫌い。一銭にもならないどころか時間を無駄にし散財するクリスマスを祝うことなど愚劣だ!と本気で思って生きている老人です。しかし、クリスマス前夜に起こった不思議な出来事で、彼は生き方を転換します。
本書は、絵本や児童書として知られていますが、私は、ミヒャエル・エンデの「モモ」同様、大人が読んでこそ、その良さがわかる本だと思います。
世の中が、家族・知人と楽しく幸せに過ごす、クリスマス🎄。そんな特別な日の持つ意味を、改めて感じてほしい1冊です。
今回は、ディケンズの名著「クリスマス・キャロル」のあらすじと、感想、心に残った言葉などを書き記します。
目次
クリスマス・キャロル:あらすじ
スクルージの7年前に亡くなった共同経営者マーリーが、クリスマス前の夜、突然、亡霊となってスクルージのもとに現れます。
亡くなった共同経営者が亡霊となって突然現れる
マーリーが現れたのは、不幸な生き方をするスクルージ―を死後の地獄から救うため。金銭欲や物欲に取り付かれた人間は死後も悲劇が待っていることを教えるためです。そして、「3人の聖霊が順にやってくるので、彼らに会い、生き方を変えよ」とスクルージに告げます。
そして、その予告通り、スクルージに3人の精霊がやってきて、彼を過去、現在、未来へと連れていきました。そこで見た光景は、スクルージにとっては、全く、耐え難いものでした。
第一の精霊:過去への旅
最初に連れていかれたのは「過去」。スクルージがまだ夢を持っていた少年期~性格がねじ曲がり守銭奴となってしまうまでの若き日のスクルージのもとです。
幼いころは、普通に夢を持っていた少年が、貧乏と不運で次第に守銭奴となり、恋人すら顧みることなくひどい言葉を浴びせられ破局…スクルージは当時を思い出し、スクルージは耐えられなくなります。
第二の精霊:現在への旅
第二の精霊が連れて行ったのは現在。貧しくとも愛で包まれた明るいスクルージの知人クラチットの家族。彼の家はそんなに裕福ではありません。そして、末子ティムは病気で長くは生きられません。しかし、直前、スクルージは貧しき人への寄付を求めてきた男性に「余分な人口が減って丁度いい」と暴言を吐き捨て追い返したことで、心が痛くなります。
第三の精霊:未来への旅
連れていかれた未来のクリスマスには自分の姿がありません。そして、無惨な死体や、その男の衣服まではぎとる日雇い女、さらには、盗品専門で交渉する男女の醜い姿を見ます。さらに、クラチットの末子ティム少年が世を去ったことを知ります。そして、最後に荒れ果てた墓地の見捨てられた墓碑に自分の名前を見つけます…
スクルージは、過去・現在・未来を見て、激しく動揺。こんな人生ではいけないと思い知ります。そして、まだ、人生は変えられる可能性があると改心するのです。
クリスマス・キャロル:感想
本書の中には、いろいろな素敵な言葉、考えさせられる言葉が出てきます。それらを抜粋し紹介します。
クリスマスでは喜びを分かち合う日
(略)
世の中には、幸せを感じること、喜びを与えられることがいくらでもありますよ。クリスマスはその最たるものです。
(略)
クリスマスは喜びの時です。人がみな、優しく、大らかで、慈しみの心をいだくようになる、嬉しい季節です。男も女も申し合わせたように狭い心を 寛げて、自分より身分の低い相手も墓場にいたる人生の旅の道連れで、行く先の違う無縁の集団ではないのだという気になります。そんなことが起きるのは、一年を通じてこの時期だけですよ。
物語のはじめ、スクルージをクリスマスディナーに招待しにやってきたフレッドがスクルージに語った言葉です。こんな風に、クリスマスを思える人の人生は、裕福でなくともきっと幸せなはずです。
しかし、これらの言葉に、守銭奴のスクルージは、実のふたもない言葉を彼に返し、誘いも断ります。さらに、この後、クリスマスだからと仕事の早上がりを懇願したボブに「その分、明日早く出勤しろ!」との言葉を浴びせます。
いつ、スクルージは金がすべてになってしまったのか
貧乏は、時として、人の性格を変えてしまいます。そんな兆候が表れたのは、スクルージが若手の未熟を脱していよいよ脂が乗ってきたころ。この当時の彼が以下のように表現されています。
そして、この当時、お付き合いしていた女性から、以下のような言葉を浴びせられます。
あなたの夢や希望は、人からとやかく言われたくないという、ただそれだけに凝り固まっているのだわ。私はね、あなたが純粋な憧れや高い志を次々に失って、とうとう暴利をむさぼる執念の 虜 になるのを見てきたのよ。
18世紀、産業革命時代の英国が感じられる
ディケンズがクリスマス・キャロルを執筆したのは18世紀。時代は、英国の産業革命期と重なります。小説からは、そんな産業革命の時代の過渡期に生きる人々の様子が伝わってきます。
まだまだ牧歌的な古き時代の習慣を大事にする人々と、工業化の波とでよき時代の文化・心を忘れてしまったスクルージのような人物が交差する… 世の中変わっても、あたたかな気持ちは忘れてはいけません。
あなたは日々の忙しさに、優しい心を忘れていませんか?
私は、クリスマスシーズンになるとリースや、小さなクリスマスツリーのオブジェを飾ったりしますが、それだけでも、少し暖かな気持ちになれます。
一人ぼっちのクリスマスも、長き人生の中にはあります。しかし、たとえそうであっても、また、クリスマスが日本人にとっては異文化だったとしても、メリークリスマスと祝う暖かな気持ち、クリスマスツリーを見て暖かくなる心は忘れないようにしたい。そして、一緒に過ごせる相手がなら、単に、はしゃぐだけでなく、皆で幸せな気持ちを共有し、一年が良い年であったと思えるようにしてほしいと思います。そんな気持ちが、世界平和につながったらいいなぁとも思います。
最後に
今回はディケンズの小説「クリスマス・キャロル」を紹介しました。読んだことがない人はもちろん、子どものころに読んだことがある人も、今一度、大人の目で読んでみてください。忘れていた大事なことに気づけるはずです。