「走れ、走って逃げろ」は、ユダヤ人強制居住区から脱出し、自分の本当の名前を伏せ、片腕と過去の記憶を失いながらも、毎日を生きぬいた少年の勇気と感動の実話。
ペペ・ダンカート監督の2014年公開の映画「ふたつの名前を持つ少年」の原作本です。
戦争の悲惨さに胸が痛くなるのはもちろんですが、それ以上に、少年の何があっても耐え、生き延びようと懸命に生きる生き様に胸打たれます。本書を読み終えた後、しばらく涙が止まりませんでした。
本書は、岩波書店の児童書ですが、とても、児童書とは思えない作品。大人が読んだ方が、深い感動・感銘。自分の生き方についても考えさせられるはずです。
目次
走れ、走って逃げろ:あらすじ
――― Amazon 本 解説
本作は著者である、ウーリー・オルレブが、ヨラム・フリードマンの子供の時代の経験をもとにした実話小説です。
時代は1939年に勃発した第二次世界大戦下、ポーランドはナチス・ドイツに占領。ユダヤ人に対する禁止令が次々に下され、 多くのユダヤ人がユダヤ人強制居住区ゲットーに強制移住させられました。さらに戦火がひどくなると、ナチス・ドイツによるユダヤ人虐殺「ホロコースト」が行われましたが、本書は、1942年、ユダヤ人強制居住区から逃げ出した8歳の少年を描いています。
映画「ふたつの名前を持つ少年」
ストーリーの概要を知るには、映画「ふたつの名前を持つ少年」の予告編を見ましょう。を見るのが最も早い。短い番宣動画を見ただけで、涙なしには読めない・見れない作品であることがわかります。
この予告編、非常によくできてると思います。
走れ、走って逃げろ:感想
以下、さらなるネタバレを含むので、まずは作品を楽しみたい方は読まないでください。
逃げが少年が、生きるために見につかなければならなかったこと
ユダヤ人強制居住区から逃げ出した少年が、生き延びるために行わなければならなかったこと。
露をなめ、雨水のたまりをすくって飲み、
森に生えているベリー類やキノコを食べ、
パチンコを練習して鳥を射落とし飢えをしのぎ、
飢えて傷ついた少年を拾い雇ってくれた貧しき農家では、言われたこと以上の働く…
一度雇ってもらっても、自分がユダヤ人であることが理由で少年自身、或いは、少年を助けてくれた農夫たちが危険にさらされると、その場から逃げなければならない
そんな、「飢えと恐怖の戦い」です。
このような経験を経て、少年は、何としても飢えに打ち勝つサバイバル力はもちろん、生きる知恵、運命を自らの力で切り開く強い意志 を身につけながら、1日1日を生き延びます。
少年が、封印せねばならなかったもの
サバイバル力・強い意志を身につける一方、封印しなければならないものもありました。それは、「自分がユダヤ人であること」です。
このことを最初に教えてくれたのは父。ユダヤ的な「スルリック」という名前を捨てよくあるポーランド人の名前「ユレク」と名乗ることを教えました。
そして、もう一人、少年が生き延びられるように指導してくれた人がいました。それは、逃亡で傷ついたスルリックを家に招き入れ、看護してくれた優しきおばさんです。彼女は、少年がユダヤ人であることを見破られないように、親を失ったポーランド人孤児として生きる術こと、そして、キリスト教徒として生きる術を教えてくれました。
彼女のもとを去らざるを得なくなった時、少年はユレク・スタニャックとして強く生きていくことを決意します。
助けてくれたのは貧しき人たち
ユダヤ人であることを隠し生きている少年ユレクは、幸運にも優しく手を差し伸べてくれる人たちに巡り合えましたがその場に安住することはできませんでした。危険が近づくと、逃げなければならなかったからです。
そんなとき、少年を救ってくれたのは、「権力もお金も持たない貧しき人たち」でした。助けてくれた人たちはとても暖かで、その姿にも心打たれました。
この事実は、何を意味するのか、考えさせられます。
薄れる記憶・蘇る記憶
ユレクに名前を変えたユレクは、キリスト教徒として4年、第二次世界大戦下を生き延びました。この間、「瞬間 瞬間を、一時間一時間を生き延びる生活」続けたユレクは、自分の本当の名前や家族の記憶すら薄れていきました。そして、「僕はユダヤ人じゃない!」と弁明する一方で、「自分がユダヤ人だということを決して 忘れるな」という父の言葉を思い出し、ユダヤ人は罪人なんだろうか?と問うたりもしました。
しかし、かつて一緒に近所で暮らしていたキリスト教徒の住人に「スルリック、あんた生きているのかい?」と呼びかけられた一言で、彼は、自分の名前と家族の記憶が蘇ります。そして、「ユダヤ教もキリスト教も同じ神様である」ことを再認識するのです。
ユレクが生き延びられた理由を考えてみる
生と死が隣り合わせにある時代を、なぜ、たった8歳の少年ユレクが生き延びられたのか。
それは、少年が、生き延びようという「強い意志」を持っていたからです。そして、懸命に努力する彼に、「運」が味方しました。
確かに、片腕を失うなど、多くの犠牲も払いました。しかし、片腕を失っても、彼は、弱音を吐くこともなく、健常者ができることは一人でやり切ろうと努力しました。また、失敗から学び、生き延びる力を高めていきました。彼に出会った人たちは、そんな少年ユレクの姿勢を見て、彼に生きていてほしい、何とかしてあげたいと思ったのでしょう。
これも、ある意味、「引き寄せの法則」。生きようとする強い意志と努力が、彼に「生き延びるための運」を与えてくれたのだと思います。
少年の生き様は、私に、「もっと真剣に生きよ!」と訴えてきます。自分の生き方を考えさせられます。
最後に
今回は、ウーリー オルレブの実話小説「走れ、走って逃げろ」を紹介しました。
不思議なことに、私は本書は読んでいる間は涙しませんでした。しかし、一冊読み切った後、しばらく涙が止まらなくなりました。それは、映画と異なり、原作では、「何としても生きるんだ!という少年の意思の意志」と「優しき貧しき人たち」が本書を包んでいるからのように思います。
冒頭で述べた通り、児童書ですが、大人に読んでほしい本です。是非、本書を手に取って、感動すると同時に、自分の生き方を考えてみてほしいです。