【書評/要約】孫正義の焦燥(大西孝弘 著)(★4)

「数々の事業を成功させて、今はどんな心境ですか」の問いに「俺はまだ100分の1も成し遂げていない」と答えたという、孫正義氏。

ご自身のツイッターでも、
 ”少し守りに入りかけている己を恥じ入る。もっと捨ててかからねば”
 ”排水の陣を敷く。どこにも逃げられない”
 ”目標が低すぎないか?平凡な人生に満足していないか?”

といった、理想の実現に向けてひるみそうな自分に喝を入れる姿が浮かび上がります。

なぜそこまで自分を追い込むのか? どんな課題に直面し、何を目指しているか?

300年成長し続ける企業を作ることを自分の使命と考える孫氏。

本書「孫正義の焦燥」は、孫氏がなぜ俺はまだ100分の1も成し遂げていないというのか、その裏にある、孫さんの野望をまとめた本です。当時の事業の中核であった、Pepperを代表するAI事業に加え、ソフトバンクグループ体制などから、孫氏のもつ統治観を明らかにしています。

個人的に面白いと思ったのは本書の後半。優れた経営者の頭の中が覗き見できて、非常に興味深いです。

ソフトバンクと孫正義

快進撃を続ける、孫さんは、何度も大きな経営の壁にぶち当たっています。
本書が書かれた当時の、経営の根幹を揺さぶる以下の3つの課題。

1.2013年に買収した米携帯電話3位のスプリントの低迷
2.急激に拡大した事業構造(ロボット事業、エネルギー事情、海外ネット関連企業への出資など拡大路線)
3.収益基盤である国内事業の成長鈍化

そんな壁にぶち当たる社内では、何が起こっていたかがが、明確化されています。

ソフトバンクの急成長を支えるストリートファイターたち(組織人)

社内外を問わず、これぞと決めた傑物を必ず口説き落とし、味方に付けてきた孫氏。

巻末に掲載された当時の「孫正義の相関図」には、その顔触れには凄い人たちが並びます。

海外の交友関係には、スティーブ・ジョブズ(+ティムクック)、ラリー・エリソン、ジャック・マーなど錚々たるメンバーが。

また、一方で、社外取締役に柳井正氏、永守重信氏、社内にはビルゲイツを超える天才と孫氏が位置づけるソフトバンクモバイル常務執行役員 筒井多圭志氏をはじめ、営業・技術・財務・人事等の各分野が優れた人材で脇を固められています。

組織について書かれた章は孫氏を取り巻く周りが見えてきて面白いです。

柳井正から孫氏への苦言~膨張より成長を目指せ

世界的ブランド ユニクロを作った柳井氏。彼は取締役会において、孫氏の提案に反対することが多いといいます。

本書の最後には、柳井氏のインタビューがまとめられていますが、孫氏の経営に対する分析が鋭い。「孫氏には面白いものがありすぎて、手を広げすぎるところがある。また、実業より投資で会社を大きくしてきたようなところもある」と厳しく指摘します。

そんな孫氏に対して、柳井氏は以下のような意見を述べています。

「どこまでがインサイドなのか、アウトサイドなのかよく考えることが大事。もう一つは自分たちの人的資源、金銭的資源は有効ということを認識すべき。何に先行投資するのかや、もっと自分のビジネスの範囲を限定すべき。枝葉末節的なちょっとした小遣い稼ぎのような投資は全部やめた方がいい。」

大きい会社になったらアップアンドダウンは許されない。安定成長以外はない。安定成長しながらベンチャービジネスをやるには説明が必要。もっと、説明責任を果たさなければならない。」

柳井氏の指摘は厳しい。しかし、そこには孫氏には経営者として絶対に失敗してほしくないという尊敬があることも忘れてはいけません。

最後に

今回は「孫正義の焦燥」を紹介しました。

現在は当時より経営規模が大きくなり、ますますチャレンジングな大企業になっていますが、まさに、本書が書かれた当時から描かれていた野望が実現されている証拠です。
これだけの大企業を築いた方が、「俺はまだ100分の1も成し遂げていない」といって、前進する姿に、あなたも鼓舞されることでしょう。

上記ではまとめていませんが、孫の歴史分析に関する章はおもしろい。「経営者目線から見た歴史分析」は一読の価値があり、いろいろと勉強になりました。