小説からジャズが聞こえる!魂の叫びが聞こえる!
小説を読んでこんなに感動したのははじめて。
石塚真一さんの大人気ジャズ漫画『BLUE GIANT』(ブルージャイアント)。
世界一のジャズプレイヤーを目指すテナー奏者宮本大が主人公の漫画ですが、『ピアノマン』はそのスピンオフ作品。ジャズバンドJASSのピアノマン・沢辺雪祈を主人公とした小説で、映画『BLUE GIANT』を雪祈の目線から描いています。
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原作マンガも映画も知らない人でも、小説の世界に引き込まれます。夢を目指すバンドマンの姿に何度もウルウル。一気読みはもちろん、二度読みしました。
小説全体から「熱さ」が伝わってくる音楽感動小説です。今回は、南波永人さんの『ピアノマン〜BLUE GIANT 雪祈の物語〜』のあらすじと感想を紹介します。
目次
ピアノマン〜BLUE GIANT雪祈の物語〜:あらすじ
映画『BLUE GIANT』のB面のような作品です。映画以上に感動します。感動は半端ないです。
描かれるのは「本当の雪祈」
180cmの長身で、イケメンのピアニスト雪祈。
ジャズの世界でNo.1になることにひたすら熱い情熱を傾けるテナープレイヤー宮本大に対して、雪祈の印象はクール。4歳からピアノを習い、圧倒的な技術で存在感を示す逸材です。
大と共に10代でジャズクラブの頂点、So Blue Tokyo(ソーブルー)の舞台に立つことを誓いますが、「夢の実現に向けた姿勢」は対照的。
死ぬほど努力を積もうが、手にマメができるほど楽器を吹こうが、才能のないやつはダメ。才能ある者同士が互いを踏み台にして才能を伸ばし、名を挙げていくのがジャズ。ジャズセッションのように組む相手をかけて成長していくものだ―というのが雪祈の信条。
音楽の世界で、お金・環境を含め条件が整わなければ音楽を続けられないこと、さらに、続けられたとしても、ごく一握りの人間しかトップに立てない厳しい現実を嫌と言うほど知っているが故、雪祈は、超現実的に「勝つ演奏をすること」にこだわります。しかし、雪祈の演奏は技術はあっても、音楽に「熱」がありませんでした。
対して、大は「勝ともしない、虚勢も、見栄も、戦略もない、魂の演奏をする」が持ち味。これまで出会ったどのプレーヤーとも違う大の演奏、雪祈は一目置いていました。そして、自分にはそれがないことにも気づきながら、クールな自分を演じていました。
プロに酷評され、苦悩する雪祈
世界的なプレーヤーだけが招かれるジャズクラブ「So Blue Tokyo(ソーブルー)」の平に演奏を聴いてもらうチャンスをつかむも、雪祈は酷評されます。「サックスとドラムは悪くない。しかし、ピアノの君はダメだ」と。さすがプロ、雪祈の演奏の「大きな問題」を短い演奏を聞いただけで、見抜き、指摘したのです。
このままでは自分が、JASSの脚を引っ張ってしまうことになる―。そう思った雪祈は、今までの自分を破ろうと、一人猛特訓を始めます。
しかし、猛特訓をしても殻は破れず… そして、弱い自分、カッコ悪い自分、素直な思いをバンドメンバーの大、玉田を晒すことを決めます。
その後も、雪祈の苦悩は続きますが、メンバーに弱みを見せたり、自分がなぜピアノが楽しいと思ったのか等、原点を振り返りする中で、大事なことに気づき始めます。
映画では簡略された部分に「感動」あり!
映画では簡略化されている「雪祈の苦悩」が、小説では丁寧に描かれます。読者は、一見クールに見える「ピアノマン “沢辺雪祈” の本当の姿」を知ることになります。
音が色に見えた幼少期の経験
ピアノを楽しんだ幼少期
ジャズへの目覚め
どうしても10代で「ソーブルー」の舞台に立ちたかった本当の理由
生き様
そして、最後に待ち受ける不幸…
本小説を読むと、より『BLUE GIANT』が好きになるはずです。
マンガ『BLUE GIANT』
ピアノマン〜BLUE GIANT 雪祈の物語〜 :感想
初めて味わった、小説から音が聞こえてくる感覚。
ジャズセッションのように畳みかけられる「雪祈の魂の声」にも、感動必至です。
伏線回収が素晴らしい
本小説を読んで思ったのは、とにかく、「話に無駄がない」ということです。
なぜ、「このシーンにこのエピソード?この人物?」と感じる箇所がいくつもあるのですが、それらが、全て、ラストに向かう中で、きれいに、かつ、わかりやすく回収されていきます。
一見無駄に思えたシーンが、全て、その後のストーリーの深い意味を与えています。二度読みして、それに気づいた時、この小説の「完成度の高さ」に感服しました。
章ごとに、「インタビュー」が挟み込まれる構成も、ラストへの期待を盛り上げるのに一役かっています。「構成力のすばらしさ」にも感服です。
何かに熱くなることの大切さを教えられる
大が連れてきたド素人ドラマー玉田に、雪祈の評価は辛辣でした。しかし、玉田の猛練習に、次第に玉田を受け入れていきます。
それなのに、今は初心者の心配をしている。
いつからそうなったのか。
大と玉田と出会ってからだ。
三人での音合わせは、ただの練習ではなかったからだ。
(略)
「玉田はへこんでも傷ついても、ステージから降りなかっただろ」
その通りだ。いつ店を飛び出してもおかしくないほどの状況だったのに
「あいつは凄えんだよ」
そうかもしれない。 だけど──。
サックス・ピアノ・ドラムの3人が共に努力し、時には互いを罵倒し、しかし、仲間を想い、信じ支え合うシーンは何度も登場します。その度に、感動させられ、涙腺が緩みます。
3人に教えられること
妥協なく突き進む3人の姿は感動を呼びます。本書を読む最大の意義は、「人生の中に、何か、熱中できることを持つことの大切さに改めて気づかされること」です。
自分への戒めでもあるのですが、現代は「何かに熱くなることもなく、ソツなくこなす。なり過ごす」といった生き方をしている人が多いと思います。しかし、本小説を読んでいると、「がむしゃらに熱中できることを持たなくちゃだめだ」と痛切に思わされます。
人生ずっとでなくてもいい。限られた数年でも、誰に何を言われようが、ただがむしゃらに前を向いて頑張った経験を持つことで、人生は潤い、輝くということです。
夢を持つこと、夢中になれること、楽しいこと―。私には「これがある」と言えますか?
「夢、はぁ?」と言う人は多いと思います。そんな人にも、是非、本書を薦めたいです。
自分の殻を破った、雪祈
できるかどうか、分からない。
ただ、それをしなければ、道は拓けない。
雪祈が、自分の演奏の殻を破る瞬間は感動的です。小説から聞こえるはずのないジャズが聞こえました。ライブステージでブルーに輝く雪祈が見えました。
絵も音もないはずなのに、それらが小説から伝わってくる。ただただ、感動しました。しかし、小説はココでは終わりません。
ラストに向けて―。JASSの最後のセッション。雪祈の魂の叫びが聞こえました。
どうか、続きは、本作品に触れて味わってください。
最後に
今回は、南波永人さんの小説『ピアノマン〜BLUE GIANT 雪祈の物語〜』を紹介しました。
とにかく、感動する小説です。この小説に出会えたことに感謝。一人でも多くの人に読んでほしいです。
文字を読むのが苦手なら、Audibleで読んでください。聴き放題対象です。その方が、魂の声はより伝わりやすいはずですから。
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