【書評/要約】会計の世界史(田中靖浩 著)(★5) 商人のための簿記が、投資家・株主の会計報告に。今なお 進化する「会計500年の歴史ツアー」が面白い!

会計の世界史」と聞いて、なんだかつまらなそう、難しそうと思ってしまわれた方は多いのではないでしょうか。

そんな不安は全く不要。難しい会計の公式などはほとんど出てきません。どんどん、読み進めたくなること間違いなしな、教養で溢れた1冊です。

会計500年の歴史で明らかになるのは、イタリアからイギリス、そしてアメリカへと渡って、商人・銀行のものだった「簿記」が、株主や投資家から預かった資金を守って事業に活かすガバナンスやデディスクローズの溺死。さらに、より収益を出すための管理会計や、未来の収益も考慮したファイナンスなど、経営者の判断を助ける仕組みに発展していった歴史です。

会計の数字を操る力が、新しい産業の拡大、技術の発展に如何に大きく貢献していることにも気づかされます。1冊読み終えるころには、会計ルールと産業・技術がリンクして発展しなかったら、現代のような効率的な市場、資本主義が生まれることもなかったことが腹落ちしてわかるしょう。

今回は、田中靖浩さんの「会計の世界史」のポイントを紹介します。要点はメモ書きで抜粋しました。

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会計500年の歴史:概要

【書評/要約】会計の世界史(田中靖浩 著)

会計500年の歴史ツアーは以下のような流れで進みます。
流れ押さえて進むと全体がわかりやすいです。
興味を持ってもらえばと思い、私の独断で大事なキーワードをピックアップしました。

会計の歴史 時代 場所 革命 産業・社会
キーワード
会計
キーワード
❶簿記と会社の誕生 15世紀 イタリア 銀行革命 ヴェニスの商人 為替手形と融資
15世紀 イタリア 簿記革命 メディチ家 決算書の原型
17世紀 オランダ 会社革命 東インド会社 株式会社
❷財務会計の歴史 19世紀 イギリス 利益革命 黒いダイヤ
産業革命
減価償却
発生主義
20世紀 アメリカ 投資家革命 鉄道建設
ウォール街大暴落
SEC
監査
ディスクローズ
21世紀 グローバル 国際革命 電信
情報
国際会計基準
キャッシュフロー計算書
❸管理会計とファイナンス 19世紀 アメリカ 標準革命 ロックフェラー
モルガン
コカ・コーラ
連結決算
管理会計
20世紀 アメリカ 管理革命 マッキンゼー 予算管理
事業部門制
21世紀 アメリカ 価値革命 ゴールドマン 企業価値
「未来」のキャッシュフロー予測

本書の面白さは、単なる会計にとどまりません。本記事では割愛しますが、絵画・文学・音楽といった文化ともリンクさせ、会計の歴史を語ることで、大変面白い「歴史ツアー」になっています。

レオナルド・ダヴィンチ、マイケル・ジャクソン、ジョンレノン・オノヨウコなど、誰もが知る有名人も出てきます。

その面白さは、是非、本書を手に取ってお楽しみください。

簿記と会社の誕生

【書評/要約】会計の世界史(田中靖浩 著)

簿記は「儲けたい」という人々の欲求から始まっています。
事業を継続させながら、どうしたら利益を大きくできるか、その必要手段として発展を遂げました。

以下では、私がポイントと考える部分を、箇条書きで紹介します。

15世紀イタリア:銀行革命

・15世紀のヨーロッパ経済の中心 イタリア
・東方貿易で潤うヴェニスの商人たち
 商人にとってリスクは「避けるもの」ではなく「挑むもの」
 一方で、問題は、現金を持っての旅と資金繰り
バンコ(Banco=銀行)が登場
 商人に対し、キャッシュレスサービス「為替手形」&「融資」を提供
 ⇒融資回収の記録としての「簿記・会計の基礎」が誕生
・商人たちにとっても、「簡易な簿記」は商売の現状把握手段に
 自己資本「資本(Equity:E)」と借入金「負債(Liability:L)」をもとに、
 商品「資産(Assets:A)」を買って商売
 ⇒簡単な「バランスシート(貸借対照表)」が誕生
  基本公式は、資産A=負債L+資本E
  儲かると「A>L+E」、失敗すれば「A<L+E」

15世紀イタリア:簿記革命

・中世、商売は個人商店→大組織へ。「簿記」が益々重要に
数学書「スンマ」に書かれた簿記説明がビジネスの歴史を変える
・舞台はヴェネツィアとフィレンツェへ
・商売は家族・親族→ファミリー・仲間へ
 メディチ家が広域ネットワークを利用したキャッシュレス決済を展開
フローとストックで「原因と結果」を表す決算日の棚卸が行われるように
 ⇒決算書、配当の原型が登場
・王族への貸倒=与信管理に失敗が原因でメディチ家没落

17 世紀オランダ:会社革命

・中世から近世に移り、世界のスペイン・ポルトガル・オランダへ
ローマ数字→アラビア数字(1,2,3)へ
 0の発明で位上がりの概念が登場⇒簿記における数字の取扱いが容易に

・オランダはプロテスタントを中心とした「商人の国」
 アムステルダムを中心に海運業で大成
 情報も集まり、「人→情報→市場→人→…」の好循環が生まれ、商売も潤う
 そんな中で「チューリップバブル」も発生
大航海に繰り出すには、持続可能な大規模会社が必要→株式会社「東インド会社」誕生
株式会社化で資金管理法が変化
 家族・親族・仲間⇒株主が追加されることに
 複式簿記を導入し、事業収益を計算。利益を出資比率に応じた配当を分配
 「有限責任」によって株主から出資を集め、かつ、「所有と経営のを分離化」
株式を転売できる証券取引所が誕生
・うまくいっていたオランダ経済は、英蘭戦争をきっかけに転落へ

財務会計の歴史

【書評/要約】会計の世界史(田中靖浩 著)

この当時、会計管理は未熟でした。オランダ経済の衰退は、高すぎた株主配当、内部留保不足と借金体質、稚拙なガバナンスも原因です。
そんな中、経済の中心はイギリスへ。管理会計が登場します。

19 世紀イギリス:利益革命

・経済の中心はイギリスへ
・黒いダイアの発見。炭鉱を掘る(湧き水対策)ために開発されたのが「蒸気機関
 ここから、蒸気機関車へ発展→鉄道会社の誕生。さらに事業が大規模化
「減価償却」という会計の仕組みが登場
 事業の初期に巨額な固定資産投資をしても「儲け=利益」が出せる→株主配当も出せるように
現金主義会計から発生主義会計への移行
 現金主義会計:収入-支出=純収入
 発生主義会計:収益-費用=利益
 発生主義会計は、人為的な操作が入りやすいといった問題も
 ⇒粉飾・黒字倒産も発生。利益はあるがカネがない
・産業革命による固定資産の増加→減価償却の登場→利益計算の登場
 単なる「収入・支出」から、いかに業績を適切に表現する「収益・費用」の計算を行うか
 ⇒企業会計へ進化
簿記は、個人のものから、株主のものへと進化

20 世紀アメリカ:投資家革命

・イギリスなど欧州の鉄道技術&マネーがアメリカへ
・米国で鉄道建設ラッシュ
 米国鉄道会社の経営者は、株式による資金調達(E)より社債や借入金による調達(L)が好み
 自己資本比率が低く、常に倒産の危険
 鉄道会社の急成長によるひずみ、価格競争による財務体質の悪化、不正経理などの横行
 ⇒投資家は企業分析が必須に⇒19世紀後半の「経営分析」ブームへ
・1929年 ウォール街大暴落&大統領交代
 ルーズベルト第32代米国合衆国大統領の選挙に加勢した勝負師のジョセフ・P・ケネディ
 ジョセフはもともとインサイダーで大儲けた人物
 ルーズベルトはそんな彼にSEC初代長官のポストを用意
・不況から脱出するためのニューディール政策の中の、目玉の一つが金融・証券市場改革
 ・商業銀行と投資銀行のあいだに一線を引く グラス=スティーガル法が成立
 ・空売り規制にも着手
「公開企業の会計制度」の根幹も出来上がる
 ①ルールに基づく正しく決算書の作成
 ②CPAによる監査
 ③決算書を投資家に公開するディスクローズ制度
 ⇒証券市場で初心者投資家も安心して株を買える仕組み作りが進む
  既存投資家から⇒潜在投資家へも公開
アメリカは世界で最も優れた会計基準と監査制度をもつ国に

21 世紀グローバル;国際革命

・世界で巻き起こる戦争。「情報の活用」がテーマに。いかに情報戦で有利に立つか
・イギリスは、鉄道と共に発達した「電信」をベースにITの覇者に
 戦争の情報戦だけでなく、商売ではいかに安く仕入れるかに貢献⇒イギリス 三角貿易へ
・通信技術は、有線⇒無線、レーダー、インターネットへ
 鉄道がもたらした「工業化」「情報化」は再び融合し、
 ヒト・モノ・カネがグローバルに行きかう時代へ
 便利なネットワークを最初に構築した者は儲かる。それが歴史の教訓に
金融資本市場もグローバル化⇒国際会計基準へ
 国際会計基準をめぐる米英の覇権争い USギャップ vs IFRS
 調整は今なお続く
 現日本では、日本基準・USギャップ基準、IFRS基準の決算書を用いてもOK
・縁の下の力持ちであった金融から「金融重視」の流れへ
 欧米金融機関の台頭とともに、資本市場も変化
 ファンド・M&Aの増加。経営に口出しするも「物言う株主」の世界的存在感が増す
 会社の経営や会計ルールにも影響⇒投資効率=利回り追求へ
 決算公開の短縮化、年から四半期へ
・EBITDAの登場は、N&Aの増加に伴う「キャッシュへの回帰現象」
 バランスシート&損益計算書⇒3つめの決算書「キャッシュフロー計算書」の追加

管理会計とファイナンス

【書評/要約】会計の世界史(田中靖浩 著)

前節の「財務会計の歴史」における大きな変化は、自分のための「会計」から株主・投資家のための「報告」へ の動きでした。
この後、その流れをいまいちど「自分=経営者のために」引き戻そうとする運動が登場します。それが「管理会計とファイナンス」です。

19 世紀アメリカ:標準革命

・鉄道は米全土へ。そして、鉄道会社は線路連結だけでなく、会社そのものを合弁・買収へ
 ⇒19世紀の末、連結決算の登場
・製造現場からは工場の原価計算改革を経て、 “自分のため”の管理会計へ
 製造業で重要なのは、売価決定のために必要な「製品1個製造するためのコスト(製造原価)」
 ⇒企業会計は、外部報告の「財務会計」と内部利用の「管理会計」の2本立てに
たくさんつくるほど製品原価が下がる⇒大量生産時代へ
・資本の理論は、「バランスシートの右下を握ったヤツが強い」
 =株を握ればその会社を支配できる
 これを巧みに利用して、成長する企業が登場
・石油王ロックフェラーなど(初代ロックフェラーは簿記係上がり)
 まずは、経営難に陥った石油ライバルを買収する「水平的統合」により、販売価格をコントロール
 その後、下流の販売会社などを買収する「垂直的統合」へ
 ⇒巨大コングロマリットの登場
  トラスト禁止法との関係で「持株会社」が登場。グループ連結決算
・P・J・モルガンは、経営難に陥った鉄道会社を狙い撃して買収
・コカ・コーラが、「米国史に残る権利売却」
 フランチャイズが、品質の高い大量生産を可能に。
 ブランドに価値

20 世紀アメリカ:管理革命

・販売の効率化(いかに儲けを出すか)に大切なこと「予算管理
 「何台売れるか」の予測⇒「何台つくるべきか」の計画(在庫・売り損じを防止)
 「過去の実績」だけでなく、「将来の計画」
・「予算管理」の内容をビジネスマン向けて説いたのが、マッキンゼー教授の管理会計講座
 経営者が学ぶべき会計の内容は、守りの財務会計と攻めの管理会計に(計画を重視)
 コストを変動費と固定費に分離し、売上に比例する「限界利益」を明らかにするように
・GEの功績
 電気の時代になって、「特許」が大事に。特許次第で会社の稼ぎと未来が左右されるように
 割賦販売を発明。借金を恐れず消費する米国の大量社会の始まり
 部門別・製品別の採算性の明確化による「選択と集中」
 管理会計のセグメント情報もは「製品別」から「事業別」へ発展。事業部門制
・フランス系・デュポンの起こした管理会計革命
 借入には頼らず、 内部留保を増やしてバランスシートの「自己資本」を
 充実させる堅実な経営を実施
 ROIの高め方を示したデュポン式を考案 ROI=PxT(利益÷資本=利益率×回転率
 利益率・回転率のいずれかを上昇させればROIが上がる
 ⇒会計を超えて、ビジネスモデルを考える原点に

21 世紀アメリカ:価値革命

・「企業価値」を旗印に掲げるファイナンスの登場
 情報化社会の中で「資産とは何か?」が問われるように
 背景に情報・サービス・金融業を中心とする、ノウハウ、ネットワークなどの「隠れ資産」の増加
 バランスシートが「会社の実力」を表現できなくなる
・M&A時代に必要なファイナンス
 期待リターンこそがその資産の「価値」に
 将来キャッシュフローを複数年度にわたって計算する、「コーポレート・ファイナンス」が登場
 時間軸が過去から未来へ
・投資銀行ゴールドマン・サックス
 「資金調達のお手伝い手数料」にとどまらず、自ら稼ぎはじめるように
 割安な会社発見し、株式を5~7年保有した後、株式公開・売却・合併して収益を上げるように
 1990年ごろ、日本がバブルに溺れていたころに、将来キャッシュフローの予測でファイナンスの腕を磨く
会計は「過去の後追い」⇒「未来」のキャッシュフロー予測へ
 これまでの守りの「経理」とは、全く異なる「攻め」の新領域

最後に

今回は、田中靖浩さんの「会計の世界史」のポイントを紹介しました。
会計がいかに発達してきたか、よくわかりました。

そして、ビジネスマンに求められるスキルも、以下のように変わっています
・イタリア・オランダの商人の時代    :帳簿をつける力
・イギリスからアメリカの組織大規模の時代:決算書を読む力
・現在                 :将来の収益を読む力

現代のビジネスパーソンは、「数字を読む力」が求められます。数字の力は一夜にしてはつきません。まずは、本書を数字に興味を持つきっかけにしてみてはいかがでしょうか。