美肌への近道は、正しい知識から。しかし多くの人が正しい知識を身に付けることもなく、高い化粧品を買っては試し、肌を痛めています。
国立病院機構東京医療センター形成外科医長 落合博子さんの科学的エビデンスに基づく美容の本「美容情報の9割は嘘」を読むと、私たちは化粧品のキャッチコピーに踊らされている。本を読めばわかりますが、「健康的で美しい肌を手に入れるためにやるべきことは極めてシンプル」で、肌のために今まで使っていた「お金」や「時間」が浮いてくるはずです。
今回は著書「美容情報の9割は嘘」から、肌についての基礎知識、巷にあふれる間違った美容情報、さらに、具体的なお金がかからない最強のスキンケア法などの学びを紹介します。
美容情報の嘘:「肌の奥まで浸透する」はあり得ない
美容成分が肌の奥まで浸透して潤いのお肌に…化粧品でよく目にするキャッチコピーです。
しかし、化粧品の成分が肌の奥まで浸透するなんてことはあり得ない。専門家の目から見ると、美容情報は嘘だらけだと言います。
「肌の奥まで浸透する」の「奥」ってどこ?
「肌の奥、角質層まで浸透してプルプルのお肌に」などの宣伝文句がありますが、「角質層」がどこにあるかご存じですか?角質層は、肌のいちばん表面、厚さにして0.01~0.03ミリの部分です。これって「奥」でしょうか??
肌の構成:角質層は肌表面にある”死んだ細胞”
わたしたちの肌──皮膚は、真皮と表皮から成り立ちます。肌表面にあたるのが平均0.2ミリほどの表皮で、外側から順に「角質層」「顆粒層」「有棘層」「基底層」の4層から構成されています。
つまり、肌の一番外側にあるのが「角質層」。そして、この角質層は、基底層が絶えず分裂をくりかえすことで押し上げられた〝死んだ細胞〟でできています。細胞が死んでいるので、血液中から栄養が補給されることもありません。。特別な薬剤でも使わない限り、化粧品が浸透するのはこの角質層までで、細胞分裂している肌の「奥」に、届くことはありません。
角質層はいちばん外側にあるので、見た目の美しさを左右します。故に、この角質層を一生懸命ケアしようとするわけですが、 角質層はそもそも、しばらくすれば「垢」となって 剥がれる運命にあります。
CMの文句に魅了された女性は、このたった0.01~0.03ミリの死んだ細胞の表面をうるおわせるために、化粧水をせっせと使っています。なんともショッキングな事実です。
肌の最大の役割は「からだを守るバリア機能」
まず最初に知る必要があるのは、肌の最大の役割は「からだを守ること」であること。異物が体内に侵入するのを防ぐ「バリア」です。
①水分の喪失や侵入を防ぐ
②体温を調節する
③微生物や物理化学的な刺激から生体を守る
④感覚器としての役割を果たす
このバリアを強化するためにも、肌の自己再生力を甦らせるスキンケアが大事です。
正しい肌知識を知る
綺麗な肌は自分の自信になります。そのためにも、美容情報に溢れるご誘導(嘘)を見破る肌知識を身につけることが大事です。
以下では、化粧品の説明にある美容情報の嘘を、これでもかと列挙します。
化粧品の浸透もシミの原因
シャワーを浴びたとき、水が弾かれて、まるい水滴ができるのが健康な肌と言われますよね。これこそ、皮膚の表面の天然の油「皮脂」によって、外部から直接異物が入り込まないように生命を守っているバリア機能。同時に、皮脂の膜が体内の水分の蒸発を防いでいます。
これが年齢を重ねると、自然な皮脂がなくなり、バリア機能が衰えて水が弾かなくなるばかりか、内部の水分を守れず、乾燥肌になってしまう。
つまり、化粧品も含めて、異物が弾かれない状況はNG。入ってきた場合は、肌は異物をそれ以上深く浸透させないために、メラニンを集め、異物が進入した部分をとり囲みます。これがゆくゆく「シミ」になる。 つまり、化粧品を浸透させようとすることで、逆にシミをつくってしまうのです。
ヒアルロン酸の不都合な真実
ヒアルロン酸が入った化粧品を塗ると肌がプルプルした感じがします。これは、ヒアルロン酸に「高い保水力」と「粘性」があり、細胞どうしをつなぐ潤滑油やクッションのような役割を果たすからです。真皮(=皮膚下層)には、ヒアルロン酸が存在しますが、ヒアルロン酸の分子量は大きいので、肌に塗っても角質層にとどまるのみで、真皮のヒアルロン酸を補う効果はありません。
つまり、肌がプルプルになったと感じても、塗ったヒアルロン酸の保水膜による、「見せかけのプルプル」です。
保水膜が常に角質に触れているのは、常に濡れているのと同じ状態です。これでは、角質層の構造が崩れ、皮膚から保湿因子が流出し自分の力で保湿ができなくなっていきます。その結果、やめると肌が乾燥するため、つねに塗りつづけなくてはならないという悪循環を招きます。
「無添加化粧品=安全・安心」とは言い切れない
肌にいい安心な化粧品と多くの人が思っている「無添加化粧品」。ではいったい何が「無添加」なのでしょうか?
「無添加化粧品」というのは、30 年前に表示が義務化された「旧表示指定成分」が使われていない化粧品を指すことが多く、各メーカーがそれぞれの判断で、「ある成分を排除している」ことを強調する場合に「無添加」とうたっています。つまり、これは、「○○という成分が配合されていない」という意味でしかありません。
「薬用=医薬部外品のほうが効果的」とは限らない
広く、私たちが化粧品と呼ぶものの中には、「医薬部外品」「化粧品」がありますが、その違いをご存じですか?
■医薬部外品(薬用化粧品)
厚生労働省が認可した「有効成分」が一定の濃度で配合されている製品 のこと(日本独自のカテゴリ)。治療用に使われる医薬品より効果が穏やかで、「防止・衛生」を目的につくられたものです。
■化粧品
医薬部外品よりもさらに効き目が穏やかで、「肌を 健やかに保つ」という目的でつくられた製品 のこと。そのため効き目をパッケージに表記することはできません。
ここで知っておくべきは、「医薬部外品」の成分表示ルールは、化粧品よりも甘いという点・そのため、ごまかしが可能。商品選びに迷ったら、「化粧品を使う本来の目的を思い出そう」と落合さんはアドバイスします。
「オーガニック」「天然成分由来」に 騙されてはいけけない
「天然成分由来」や「植物エキス」と書かれていると、つい安心・安全だと感じます。しかし、その感覚は改める必要があります。理由は、なぜなら、「天然=何が入っているかわからない」ともいえるからです。
日本には、仏・独・米などのような、化粧品に関するオーガニック認定基準がありません。天然であるが故、成分が安定していない(配合比率がぶれる)こともあります。むしろ、合成成分の方が安定しています。また、「天然」だから「ピュア」という認識も誤りです。
じつは曖昧な 「敏感肌用」
「敏感肌用」も安心な化粧品の印象を受ける表現です。しかし、これは「その化粧品が合わなかった人の数がほかの商品よりも少ない=低刺激性」という程度のものです。誰にとっても刺激がないという意味ではありません。
敏感肌だと感じる人なら、まずは、「できるだけ使わない」シンプルなスキンケアにトライしてみることを落合さんはすすめます。
間違いだらけのスキンケア
私たちは、「スキンケア」と称して、肌に何かを「やる」スキンケアを行っています。しかし、肌は、何かを「やる」よりも、「やらない」方がずっと大切です。
スキンケアの2大原則
目指すのは化粧品いらずの肌。肌の機能が正常に働いている肌です。しかし、私たちは「やりすぎスキンケア」で本来の機能を弱めているので、本来の機能が戻るスキンケアに努める必要があります。注意することも、やることは極めてシンプルです。
スキンケアの2大原則は、
❶できるだけ「触らない」
❷肌は「洗いすぎない」
上記を意識したうえで、以下を行うことです。
・よく泡立てた石けんの泡でやさしく洗顔
・脂質や保湿剤、クリームなどのうち一剤で保護
私たちの体には、驚くほどの自己再生力が備わっています。「やりすぎスキンケア」は、この自己再生力を落とします。良かれと思って洗顔・高価な化粧品に頼るのはNG。また、良かれと思ってやる「顔マッサージ」も、肌の遷移組織を壊すと同時に、肌のたるみやくすみ、摩擦による黒ずみをつくる原因になります。
まず、やるべきは、この再生能力を取り戻すスキンケア「やりすぎないスキンケア」です。
洗いすぎ厳禁!肌の再生機能について知る
実は、人の肌は、そんなに頻繁に洗う必要がありません。私たちの皮膚は通常、皮膚常在菌 によって弱酸性に保たれ、有害な菌が増殖しにくい環境が維持されています。また、皮膚の常在菌である表皮ブドウ球菌が、皮脂をエサとしてグリセリンや脂肪酸をつくり出し、皮膚のバリア機能を保っています。さらに、皮膚ではつねに新陳代謝がおこなわれていますから、汚れがついても角質の剥離成分(=垢)とともに剥がれ落ち、自然と毎日キレイになる仕組みが備わっています。
洗いすぎは、この肌の本来の機能を奪います。洗いすぎることで、乾燥し、さらに化粧品を過剰につけることで肌の機能を弱めています。
ふだんは水やぬるま湯ですすぐ程度でも、じつは充分です。落合さんは、「洗顔は週2回ほど」しかしていないそうです。化粧品の使用はできるだけ最低限にして、肌本来の機能をとり戻していくことが、健康な美肌を叶えるための近道です。
【結論】お金がかからない最強スキンケア法
最後に、具体的に、何を使って、どうスキンケアすればいいか、まとめます。
・メイク落としはオイルクレンジング(こすらない)
・洗顔は石けんを泡立てて使う
・洗顔後にワセリンを塗る(皮膚に油脂の膜をはり、乾燥を防ぐ) ※化粧水不要
メイク落としはオイルクレンジング
メイクを落とすのに使うのは「オイルクレンジング」。最も効果的な使い方は「こすらずに、ただのせて、しばらく待つ」ことです。摩擦・刺激を極力排除して洗います。
仮にメイクが若干残っても、角質には汚れを自動的に排除する機能が備わっていますから、自然にキレイになります。
落合さんは、「美容情報の9割は嘘」の中で、具体的な化粧品は紹介していませんが、極力こすらないで肌に載せて使うなら、オイルクレンジングはケチらないで使う方がいいことになります。故、定評のあるオイルクレンジングをケチらず使うのがよいかと思っています。Amazonで最も評価数が多いのが、ファンケルのクレンジングオイルです。
洗顔は石けんを泡立てて使う
ノーメイクだったり薄化粧の場合は、水かぬるま湯で洗うだけでOKだと落合さんは言います。ただ、何か使うなら、肌への刺激を考えて「石けんを泡立てて、泡で包み込んで洗う」ことをすすめます。
石けんは、油脂とアルカリを原料とする弱アルカリ性の界面活性剤です。肌はもともと弱酸性なので、弱アルカリ性の石けんは皮膚上で中和され、界面活性剤としての効果はすぐ失われます。つまり、界面活性作用が肌の皮脂を取りすぎてしまうリスクは少なく、 肌のバリア機能が壊されることもありません。皮膚科医が、肌トラブルを持つ患者さんに石けんをすすめます。
ちなみに以下の商品は、油脂とアルカリを原料としていて、売れているものです。
洗顔後にワセリン
洗顔後に最初につけるものと言えば、化粧品が一般的ですが、角質層の保護や修復を最優先にするなら、化粧水は必要ありません。むしろ使わなくてOK。使用でしっとり感が得られるように感じますが、肌自体がうるおっているわけではありません。むしろ、化粧水で疑似的な水分が過剰に補われると、角質層の構造が崩れ、キメも荒れて艶がなくなったり、毛穴や小じわ、ニキビなど、さまざまな不調につながりやすくなります。
補うべきは「皮脂に近い成分」。油分が入ったクリームや美容液。最もシンプルで、価格も安いのがワセリンです。
落合さんは著書で具体的な商品は紹介していませんが、健康本で定評のある鈴木祐さんは「不老長寿メソッド:死ぬまで若いは武器になる」の中で、以下の商品をすすめています。
いますぐできる最強の「アンチエイジング」
どんなに「若返り」や「アンチエイジング」をうたった化粧品を使っても、化粧品によって肌が若返ることはありません。化粧品の目的は「肌を健やかに保つ」ことでしかないからです。
ただ、唯一、今すぐできる最強の「アンチエイジング」は、「毎日かならず、1年じゅう、日焼け止めを塗る」ことです。これが大きなシミ対策となります。
日焼け止めについて学ぶには、紫外線(UV)、日焼け止めに必ず記載のあるSPFとPAなどの知識が必要です。この点については、改めて、「日焼け止め・シミ編」で紹介したいと思います。
最後に
今回は、落合博子さんの科学的エビデンスに基づく美容の本「美容情報の9割は嘘」から、巷には間違った美容情報が溢れ、特に女性は、多額の美容代をどぶに捨てていることがわかる情報を紹介しました。
また、一方で、美肌へ近道は正しい知識から始まり、やるべきことはシンプルであること、必要な化粧品は限定的でお金がかからないことがご理解いただけたと思います。
まずは、上記で紹介したような基本的なスキンケア品が自分に合うかを試してみることが大事です。自分に合って、使用感に心地よさを感じられるなら、これほどやすいスキンケア法はありません。
別記事で、日焼け止めとシミに関する学びは、紹介したいと思いますが、これ以外にも、本書には、最新の美容医療などに関する情報を含めて、実に様々な肌情報が紹介されています。是非、ご一読をおすすめします。