まさか、こんな結末が待っていようとは…
小説最後の一言に、唖然…
小説の前半からは想像もしない結末が待っている、大どんでん返し小説「ルビンの壺が割れた」。
男女のメッセージのやりとりのみで展開する本小説は、まさに、小説表紙に描かれたトリックアート(多義図形)「ルビンの壺」のように、男性・女性、どちらのメッセージを読んでいるかで、小説の印象がガラガラと変わっていく!
ミステリー小説ではないのに、ミステリー小説のような面白さ。
今回は、宿野かほるさんの小説「ルビンの壺が割れた」の感想・面白ポイントを紹介します。
ルビンの壺が割れた:あらすじ
――送信した相手は、かつての恋人。フェイスブックで偶然発見した女性は、大学の演劇部で出会い、二十八年前、結婚を約束した人だった。やがて二人の間でぎこちないやりとりがはじまるが、それは徐々に変容を見せ始め……。
先の読めない展開、待ち受ける驚きのラスト。前代未聞の読書体験で話題を呼んだ、衝撃の問題作! ──── Amazon解説
ルビンの壺が割れた:感想
男女のメッセージのみで話が展開
本小説は、かつての結婚の約束を交わした男女のメッセージのやり取りのみで話が展開します。
最初は、昔の恋人を懐かしむノスタルジックなメッセージ。
男性からの一方的なメッセージが回を重ねるごとに、
男性は既に53歳になっていくこと、
今だ独身であること、
人間ドックで小さなガンがあることを宣告されたこと、
メッセージ送信相手である女性とは愛し合い、結婚を約束していたこと、
結婚式当日、突然、女性は男性の前から姿を消してしまったこと、
いろいろ騙されり、辛い経験もして、それがなかったらもっと別の人生があったのではないかと後悔があるものの、女性との思い出は「よき思い出」として大事にしていること…
などがわかってきます。
特に、女性に恨みつらみをいうわけでもない、ただ、昔を懐かしみ、今はどうしているだろうかと、思いをはせているだけの淡いメッセージが何度かやり取りされるのですが、メッセージが重なるたびに、その雰囲気が一変していきます。
男性・女性がそれぞれが、若き日に知ってしまった「相手の秘密」が明らかになるたびに、読者が、当初、男性、女性に対して抱いたイメージがどんどん崩れていきます。
そして、しまいには…. 唖然。
秘密が明らかになっていく展開は、ミステリー的な興奮ありです。
ルビンの壺とは
「ルビンの壺」とは、デンマークの心理学者エドガー・ルビンが考案した図形です。本書の表紙に描かれているように、見方によって「壺」に見えたり「向き合った二人の顔」に見えたりするという不思議な絵(多義図形)で、皆さんもご存じでしょう。
白い部分に注目すると、中央に壺が浮かび上がる
黒い部分に注目すると、左右から向かい合う2人の横顔が浮かび上がる。
だまし絵、トリックアートと言われたりもしますが、どの部分をフォーカスしてみるかで見えるものが変わるのは、一種の「錯覚」。人間の認知能力の特徴です。
小説の最後、ルビンの壺は粉々に割れる
本書のストーリーは、まさに、男性、女性のどちらのメッセージにフォーカスするかで、小説の印象がガラリと変わっていきます。そして、本小説の最後の最後の一言で、「ルビンの壺」は粉々に割れてしまいます…(比喩表現ですが)。
是非、その壺の割れっぷりを本書で楽しんでみてほしいと思います。
最後に
今回は、宿野かほるさんの小説「ルビンの壺が割れた」を紹介しました。
本小説は、134ページ。短い小説の中で、話がどんどん展開していきます。短時間で読めるので、是非、本書のスピーディーに、ドラスティックに展開する大どんでん返しを愉しんでみてください。