【書評/要約】スクラップ・アンド・ビルド(羽田 圭介 著)(★3.5) 死にたい祖父、死にたいは本当か?人間の生存本能を考える

じいちゃんなんて死んだらよか

この言葉、介護に苦しむ家族からでたセリフではありません。このセリフを発したのは「おじいちゃん」。仮に、おじいちゃんが発したとしても、病気に苦しんでいるとか、悲壮感たっぷりな小説なのかなと、続きを想像してしまいますが、今回の紹介の小説 羽田圭介さんの「スクラップ・アンド・ビルドは、そんな悲しい小説ではありません。

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第153回芥川賞受賞作
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すぐに死にたいという祖父と、祖父を介護する28歳の主人公健斗。
「死にたい」という祖父の希望を、尊厳を重視しつつ、叶えてあげようと考えた健斗の計画が面白い。第153回芥川賞受賞作

扱う内容は尊厳死・介護ですが、話はある意味コミカル。家族の介護に追われる方、そして、筋トレが趣味で筋肉マニアな方も、面白く読める一冊。

今回は「人間の生存本能」という観点にフォーカスし、本書「スクラップ・アンド・ビルド」を紹介。タイトルの「スクラップ・アンド・ビルド」の意味も考えます。

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スクラップ・アンド・ビルド:あらすじ

スクラップ・アンド・ビルド(羽田圭介 著):あらすじ

主人公・28歳の健斗は4年前から祖父と母の3人暮らし。再就職先に頭を悩めている。

87歳の祖父は、その年齢の割には健康なものの、なにかと心身の不調を訴え、すぐに「死にたい」と口にする。

これまで、そんな言葉をスルーしてきた健斗でしたが、再就職という人生につまずきに、花粉症が重なり、全く前向きに物事が考えられなくなったとき、ふと、祖父を自らに重ね、おじいちゃんの死にたいという気持ち真摯に向き合ってこなかったのではないか、と自分を振り返る。

そして、思いついたのが、積極化介護で「究極の尊厳死」を与えてあげる計画。かくして、尊厳死計画」がスタートしたのであった….

スクラップ・アンド・ビルド:感想(ねたばれ)

スクラップ・アンド・ビルド(羽田圭介 著):感想(ねたばれ)

健康に興味があり、運動にも励む私にとって面白いと感じたのは、いかにして人を弱らせるのかという健斗の尊厳死計画です。以下、ネタバレ内容を含みます。

筋肉を使わせない、甘やかす老人支援

祖父の希望をかなえる尊厳死計画とは、とにかく、「祖父に筋肉を使わせない」という方法。

筋肉を使わなくてもいい、或いは、筋肉の再生を阻止するために、

・積極的に介護。移動に力を貸してあげる
・部屋の動線を整えて、移動を楽にする
・タンパク質を採らせない
・好物の柔らかくて甘いおやつばかりを積極的に与える

さらには、年齢を重ねて衰えた自分を認識させて、絶望感を与えること。

・若者の太くてしなやかな筋肉を見せつけることで、
 瘦せ衰えた己の身体との埋まりようのない絶対的差を実感させる
・質問攻めで、記憶を思い出せないという、ストレスを与え、脳や身体を萎縮させる など

そもそも祖父はまもなく死ぬといような病気に犯されているわけでなく、助けを借りながらも自分で動ける身。故、母は、甘やかさない正しい介護を推進中。介護をするようになってから、母の祖父へのあたりもきつい。

一方、健斗の計画は対照的。助ける。

普通、「尊厳死」というと、殺人かが問われるような事件となることもある中で、健斗の計画は、なんともみみっちくて面白い。しかも、ある意味、愛💕があります。

筋トレにはまる健斗

人生がうまくいっていないとき、人は何か、自分に価値を見出そうとするものです。そんな彼の支えとなっているのが「筋トレです。

こちらの記事に書きましたが、私も、運動で持久力や筋肉がつくと、RPGゲームのキャラクターの「戦闘力」「生存力」カウンターがアップしたような感じで、思考がポジティブになり、自分の尊厳が守られます。

だから、健斗は、筋トレにハマる。筋肉を痛めつけ、超回復させることで肉体をアップデートしていくことに快感を感じ、さらに頑張る。 そして、4つ下の彼女 亜美とのセックスを繰り返し、日々強くなり、張りを増す自分の肉体に自身を得る。

入浴支援が必要な祖父を浴槽をさせる際には、いつもの杖の代わりに、健斗の鍛えた身体が生きた支えとなるのですが、裸の老人の肌に触れ、彼は、何を思うのか。

衰えた祖父とは異なり、まだまだ体を鍛えられる自分自身に、優越感を抱くのだ。

超回復について知るおすすめ本

年齢を超えて、戦い続けるために必要な理想的の身体・脳を作るノウハウが満載の本です。超回復に必要な成分などについても解説。

祖父、風呂で溺れる

ある日、祖父の入浴介護をしているとき、事件は起きます。

尿意をもよおした健斗は、ほんの束の間、お風呂で祖父を一人にします。用を済ませてお風呂に戻って健斗が見たのは、浴槽で溺れる祖父

通常ならば、溺れる水位ではありません。しかし、三半規管を弱らせた祖父はなんでもない水位の浴槽で、体勢を立て直せずパニックに陥りました。

パニックは、いつは死にたい死にたいと言いながらも、実際には、やっぱり行きたいという「人間の生存本能」。「生への執着」そのものです。

そして、健斗は、結論をだします。

「祖父は本当に、純粋に死のうとしているのか?」 いや、「祖父は、生にしがみつこうとしている」のだ と。

人間の生存本能はすごい

スクラップ・アンド・ビルド(羽田圭介 著):人間の生存本能

最近、AIに絡んで遺伝子とか、そういう類の本を多数読んでいるのですが、太古の昔から、とにかく人間の脳・体は長い歳月をかけて、いかに存続するかに最適化されてきたということです。

タダ、今の現代社会、技術変化・社会変化が激しくて、人間の進化はそれに追いついておらず歪みが起こっているのも事実。現代人が、現代の飽食の時代、ついつい食べ過ぎて肥満が大問題になっているのも、、人という種が、いつも食べ物があるかわからない中で生き残る術だったからです。

自殺をほのめかす人もホントは死にたくない。やっぱり、死にたい死にたいといっても、やっぱり人間は「生き物の本能として生きたいのだ」と改めて、再認識させられます。

スクラップ・アンド・ビルドとは

スクラップ・アンド・ビルド(羽田圭介 著):人間の生存本能

一般的に、「スクラップアンドビルド」とは、何かを刷新するために古いものを破棄すること。老朽化のため効率の悪くなったものを廃止し、新しくすることです。

では本書のタイトルが示す「スクラップ・アンド・ビルド」とは何か。

それは、「健斗の筋肉と思考と人生(生活)」

筋肉のスクラップ・アンド・ビルドは、破壊と超回復という点からわかりやすい。

思考、および、人生(生活)のスクラップアンドビルドについては、是非、本書を読んで、自ら考えてみてほしいです。

最後に

今回は、羽田圭介さんの、芥川賞受賞作「スクラップ・アンド・ビルド」を紹介しました。

コミカルなストーリーの中に、考えさせられることも多い本作。介護支援真っ只中の方はもちろん、筋トレマニアにも是非読んでほしいです。

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