「事実について淡々と書かれた短文」を正確に読むことは、実はそう簡単なことではない。それが読めるかどうかで人生は大きく左右される

読解力が重要なことは誰しも認識していると思いますが、自分がどのぐらい読む力があるか、そして、その能力がその人生に与える影響力の大きさについて理解している人は少ないでしょう。

そんな私たちに、ガツンと思いっきり一撃を与えてくれるのが今回紹介の「AIに負けない子どもを育てる」。
簡易読解力テストであなたの読解力を数値化し、その点数が人生に与える影響(学力、学歴、年収などの傾向)をズバリと指摘したうえで、読解力アップの実践法を提示してくれます。

本書は、ビジネス書対象2019対象を受賞した「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」の続編。前作を読んで満足した人も多いと思いますが、本当に大事なことが書かれているのは続編。本書を読まなければ、人生損している!と言っても過言でないほど、重要なことが書かれています。決して、子供の教育本にとどまる本ではなく、現在、ビジネスマンとして力をのしたいと思っている大人にも大変有益なことを教えてくれます。

私にとっては、今年読んだ本の中でもTOP5に入る良書で、本書に書かれた事実を知らずに今まで生きてきてしまったことが、ただただ残念でならなくなる良書でした。

本書は子供の教育をメインとした著書ですが、今回は、大人自身にも大いに理解しておくべき読解力について、ポイントを絞って紹介します。

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読解力を計るリーディングスキルテスト

読解力を計るリーディングスキルテスト

著者の新井紀子さんは、2011年から「ロボットは東大に入れるか」(通称:東ロボ)という人工知能のプロジェクトを指揮してきたリーダーです。
プロジェクトの目標は、現状、そして近未来のAIにはどのような可能性と限界があるかを社会に広く公開し、AI時代に正しく備えてもらうこと。そして、人間のAIに対する優位性を明らかにするために、「意味を理解しながら読めているかどうか」を測る一つの指標となるテスト「リーディングスキルテスト(RST)」が開発されました。

大規模テストの結果、白日にさらされた「読解力のなさ」

リーディングスキルテストは、小学6年生~社会人が対象のテストで、測ろうとしているのは「基礎的・汎用的読解力」です。

皮肉にも、AIの弱点を突くつもりでつくられたRSTで明らかになったのは「人間の読めなさ加減」。
子供であれ大人であれ、実に多くの人が、意味を理解しながら読めていないという事実です。

子供の場合、圧倒的多数の生徒は「自分は教科書は読めている」と思っていますが、実は読めていません。
そして、テストで出題されるような、事実について書かれた「短文」を正確に読むことができなければ、「長文」が正確に読めることは、まず、ありません。

大企業の採用試験にも導入

リーディングスキルテストは、大企業の新人研修や採用のスクリーニングにも取り入れられています。

就職・転職業界は人手不足なので、
・出身大学の偏差値はいま一つだが、実は読解力が高い人材を拾う
・暗記やAOで高偏差値の大学に入ったけれども、実は読解力が低い人材を避ける
ことに価値を見出し、採用する企業が増えているようです。

働き方改革が求められる中、基礎的読解力不足によるトラブルを避けたいという流れがあるのは当然のことですね。

体験テストであなたの読解力が明らかに

本書3章では、体験版のリーディングスキルテストが受けられるようになっています。

たった28問の体験テスト。急いで答える必要もなければ、ひっかけ問題もない、読めば答えが書いてあるテストなのですが、これが実に難しい… 普段、自分がいかに適当に流し読みで文章を読んでいたかを思い知らされます。たった28問のテストなのに凄く頭が疲れました

答え合わせをすれば、自分が弱い分野も見えてきます(テストでわかる能力は後述)。まずは自分の弱点を把握しましょう。

なぜ、読解力が大事なのか

なぜ、読解力が大事なのか

読解力に決定的な差が生まれる少学3、4年生

人は、文の基本構造(主語・述語・目的語など)を把握する力や、指示代名詞が指すものや省略された主語や目的語を把握する力がないと、文章が正しく読めません。

小学校の国語で習うような内容ですが、小学3、4年生あたりで、本や教科書の読み方や、板書の読み方に決定的な差が生まれ始めます。このような、文の基本的な構造を理解できない子は、教科書を読んでもぼんやりとしか意味がわかりません。

さらに、このころになると、自宅で親が話す話も十分理解できるようになりますが、家庭によってその語彙の種類や量が大きく異なります。米国では、3歳に達するまでに、高学歴過程と貧困家庭で育った子供が日常的に効く語彙の差はのべ3000万語に達するという調査もあり、この語彙の格差は学校教育ではなかなか埋まりません(同理由で、高学歴でも親子・親同士の会話がない家庭もNG)。

親が高学歴だと子供の高学歴、親が低学歴だと子供の低学歴の傾向がありますが、「家庭環境」は子供の教育に極めて重要なのです。

事実、脳力差がしっかりとでる高校受験において、「能力値」と「入学し得る高校の偏差値」はきれいに相関関係が成り立ちます。

リーディングスキルテストでわかるあなたの能力

リーディングスキルテストでわかるあなたの能力

リーディングスキルテストは読解力を以下の7つのスキルで判定。どの分野の点数が高い・低いかで、あなたのおおよその学歴や仕事ぶりすらわかってしまいます(理由は後述)

リーディングスキルテストでわかる能力

❶係り受け解析:文の基本構造(主語・述語・目的語など)を把握する力
❷照応解決  :指示代名詞が指すものや、省略された主語や目的語を把握する力
❸同義文判定 :2文の意味が同一であるかどうかを正しく判定する力
❹推論    :小学6年生までに学校で習う基本的知識と日常生活から得られる常識
        を動員して文の意味を理解する力
❺イメージ同定:文章を図やグラフと比べて、内容が一致しているかどうかを認識する能力
❻具体例同定(辞書):辞書的な言葉の定義を読んでそれと合致する具体例を認識する脳力
❼具体例同定(数理):数理的な定義を読んでそれと合致する具体例を認識する脳力

RST体験版では、6点がビジネスパーソンの平均レベル。それを下回った場合は、注意が必要になります。

「係り受け解析」「照応解決」は文を読む基礎能力

「係り受け解析」は、どんな文章を目にしても文の構造を正確に捉えられるかどうかを計ります。一方、「照応解決」は、指示詞が何を指すを読み取れるかを計ります。
正確に照応解決するには、まず文の構造を理解できないと難しいので、係り受け解析ができることが、照応解決の能力に影響を及ぼします。

「係り受け解析」の点数が悪い人が偏差値の高い学校に進学することは、まず無理です。

「同義文判定」と「推論」

「同義文判定」は、提示された2つの文が同じ意味か異なる意味か、「推論」はいわゆる三段論法が理解できるかを問うテストです。
この2つの能力は、自学自習をする上で、欠くことができない能力です。自学自習する際には、教科書や参考書を読んで問題を解き、自分で丸付けをした上で、間違っている部分を訂正することが大事ですが、自分の答えと模範解答が同じか(同義文か)見極めることができなければ、答え合わせはできません。

つまり、この能力が劣っていると、自己学習ができないので、勉強しても学力が伸びません。

「イメージ同定」と「具体例同定」

ここからは、AIが不得意とする領域に入ってきます。
「イメージ同定」は、文章で表現された内容と図が対応しているかどうか見極める能力で、「具体例同定」は定義を具体的に理解する能力です。

「推論」、「イメージ同定」、「具体例同定」の問題は、文が表す意味がわからないと、基本的に解くことができません。正解を見せて解説しても、子供(中学生以上)が腑に落ちない顔をしている場合、たぶん教科書を読めていません。
また、「具体例同定能力」が十分に伸びていない状態で中学に進学することが、中学校での勉強のつまずきの原因になっているらしいことが研究で明らかになってきています。

点数の取り方でわかるあなたのスキル:タイプ分析

点数の取り方でわかるあなたのスキル:タイプ分析

リーディングテストの各分野の点数にどのような傾向があったかで、あなたの能力も明らかになります。すべて10点満点だった人は、上位1%未満の基礎的・汎用的読解力を有する人です。

理数系が苦手?〈前高後低〉

このタイプは、推論と具体例同定(理数)が苦手、つまり論理と定義を理解する力が不十分な人で最も多いタイプです。

このタイプは、知的好奇心はあるのに理数系やコンピュータに対して苦手で、一行一行確実に読むよりも、キーワードを拾って「今、こういうことが話題になっているんだな」とザックリ理解しようとしがち。

イノベーションの速度とインターネットでの情報拡散速度が上がった現在は、「話題になっている」ときには、もう誰もが知っているのでその方法で他の人々と差別化することはできません。

また、推論が苦手なのを無理に補おうとすると、経験値か「空気」(同調圧力)かネット等の情報に頼ることになり、「情報量過多」になります。

この「情報量過多で論理力不足」のタイプに圧倒的に多いのが、情報を大量に取り入れながらも新しい環境に尻込みしたり、反対するパターン。できない理由、反対する理由を考えるのは上手。でも、本当の理由は、新しいテクノロジーを本質的に学んだり考えたりする自信がなく不安が大きくなります。

自力でもっと伸ばせる〈全分野そこそこ型〉

本書の読者層で、〈前高後低型〉の次に多いのがこのタイプ。各分野で10点は取れないが、ほぼすべて6点以上。しかし、推論・イメージ同定・具体例同定のどれかは3点だったタイプです。

こういう方は、真面目で優秀でそれなりに論理的です。自学自習の基礎もできています。ただ、今、多くの組織で、「前高後低型」や「全低型」の人材がが少なくないため、多くの仕事を押しつけられ、疲弊しがちです。

基本的には自力で能力を伸ばす力があるので、もし今の会社に満足できていないなら、転職も考えるべきです。

中学生平均レベル〈全低型〉

読みの最も基本になる係り受け解析か照応解決のどちらかで3点以下だった層です。中学生の平均と同じレベルです。このタイプが、後半の推論・イメージ同定・具体例同定が高いということはめったにありません。

この層は、5科目まんべんなく勉強する必要がある「センター入試+記述式二次試験」を課す国立大学に入学するのは厳しい。また、ビジネスマンなら、メールや契約書など文書で判断をしなければならない仕事は無理。。本人は読んでいるつもりでも、読めていないのでミスが頻出し、上司に叱られるシーンが増えるます。

さらに不幸なのは、推論と同義文判定ができないので、「なぜ叱られているのか」がわからず、不満がたまる。さらに、資格を取るにも苦労します。

自分の点数にショックを受け、なんとかしたいと思った方向けに、本書の最後の方にアドバイスがあります。

知識で解いてしまう〈前低後高型〉

係り受け解析や照応解決が6点未満なのに、具体例道程(理数)だけが満点という人がいます。また、推論や具体的同定(理数)が6未満なのに具体例同定(辞書)だけが10点万点という人がいます。このタイプは、「読めてないのに知識で解いている人」です。

子供の読解力を伸ばすには

子供と読解力

本書では、子供の教育について多くの紙面を割いて解説されており、日本の教育の問題点に驚かされます。是非とも、本書を手に取り読んでほしいことが満載です。

今回は「大人の読解力」に関する部分にフォーカスしてまとめる都合、子供の教育に関しての詳細は割愛しますが、その中でも、私が重要と感じた部分を抜粋して紹介します。

家庭環境は無視できない

これについては上述したので、割愛します。

プリント授業、ドリルの弊害

板書を写させるよりも、ノート代わりにプリントを配布させるほうが、効率が良い。生徒にも喜ばれる。このような考えから、全国に広がった穴埋めプリント学習。しかし、これが結果的に、それが生徒の読解力や集中力を下げています。

ノートを写す、ということなど極めて退屈で無意味な作業だと思うかもしれません。しかし、皮肉なことに、子供すら侮る作業を機械に頼ることによって、実は子供の自身の質を低下させています。

黒板に書かれたことを一時的に記憶し、ノートに書きとる(まとめる)能力をも低下しているとは寂しい限りです。ちなみに、このような子は、教室の後ろから板書の様子を見ているとわかります(見分け方は、本書でご確認を)。

大人も実はやっている

これは、小学・中学に限った話ではありません。大学生や社会人はパワーポイントのスライドを直筆で書き留めることなく、写メで写して終わり。記憶にもあまり残りません。
私たちはテクノロジーにより、自分の能力が衰退している可能性があることを自覚すべきです。

隣の子のすることを真似てばかりの子供の将来は厳しい

授業で問題を出題され、一斉に作業にとりかかるとき、いつも「隣の子の様子を伺う子」がいますよね。こういう子は、
❶集中力が途切れている
❷課題を聞いても指示がわからない
❸指示はわかっても何をすればよいか考えつかない
など、問題を抱えています。

隣の子を真似することで授業をやり過ごしている生徒は、多くの場合、論理的な考え方が身につきません。中学校に進学するころには授業がまったく理解できなくなり、学習に急速に興味を失ってしまう危険性が高まります。

小学生のうちに、間違えても、消しゴムで消さずに「根拠を持って誤りを自覚し、適切に修正できる」ように支援することが重要です。

受験教育の弊害

「受験攻略」という言葉がある通り、私たちは、高校、大学の受験でも、優れた解法で攻略したいと考えがちです。

しかし、ただ受験に受かるためだけの受験行動は、行動は短期的に最適なだけで、長期的に意味には意味はありません。たとえば、一時的によい大学に入ったとしても、国家試験合格が必要な職業の場合、読解力が必要とされる国家試験を通れなければそれまでの投資は無に帰します。

大事なのは、「基礎的・汎用的読解力」を身につけて、ふつうに教科書で勉強をし、堂々と大学入試に臨むこと。この方法が、のろまな亀のように見えて、結局は最も賢い生き方となる可能性は高いです。

大人でも読解力は上げられる

本書の後半には、大人が読解力を上げる方法として、克服した人の実践記がまとめられています。

この克服法に近道はありません。「キーワードピッキング」やスマートフォンの「スワイプ読み」に慣れきってしまっている脳を、一行一行しっかりと読むように地道にトレーニングするしかありません。

ただし、読解力があがれば、生産性が向上し、仕事の幅も広がり、結果的に年収アップにつながり、自己肯定感も高まるばかりか、AIに仕事を奪われることを恐れる必要もなくなります。

あなたが何歳でも、読解力UPに励む意味は十分あります。

最後に

本書は子供の教育をメインとした著書ですが、今回は、大人自身にも大いに理解しておくべき読解力について、ポイントを絞って紹介しました。

まずは、本書の体験版リーディングスキルテストを受け、自分がどのぐらい読解力があるか把握してください。自分の弱点が分かるだけでも、大きな収穫です。弱点が分かれば、自分が何をすべきかが見えてきます。

 

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