様々な投資ノウハウが簡単にネットで収集できる昨今。
しかし、平日、フルタイムで働く傍ら投資を行う〈ごく普通の個人投資家〉にとっては、平日のごく限られたスキマ時間、或いは土日に数時間程度投資先の選定をするのが精いっぱい。投資は情報がすべてと言われるほど重要であっても、情報収集や分析にかけられる時間は限定的です。
そんな多忙なビジネスマンでも無理なくできる投資法と本書の著者の柳橋さんが提唱するのが「イベント投資」です。
イベント投資とは、〈何ヶ月も前から、あらかじめ起きるとわかっているイベント〉に合わせて投資する投資手法。それ故、必要な情報の収集・分析は最低限なので、スキマ時間でも可能。売買も予約注文でOK。板情報とにらめっこする必要はありません。また、過去のデータと照らし合わせての検証がしやすいため、誰でも取り組みやすいというメリットもあります。
今回は柳橋義昭さんの著書「先回りイベント株投資」のからの学びを紹介します。
目次
著者提唱:6つのイベント投資
イベント投資とは、あらかじめ起きるとわかっている値動きに先回りして投資する方法です。イベントが発生することで、その前後の株価の値動きに一定の方向性や傾向が生まれるので、それに先回りして投資する方法です。
株式投資の6つのイベント
株式市場では以下の6つのイベントがあります。
[株主優待に関連したイベント投資]
①株主優待先回り買い
[インデックス系のイベント投資]
②TOPIX買い
③日経平均銘柄入れ替えへの先回り買い
④東証REIT指数買い
[IPO(株式新規公開)に関連したイベント投資]
⑤戦略的なIPO株の獲得
⑥IPOセカンダリー投資(新規公開株が上場してから行う)
本書では、これらのなかでも特に周期性が高い=同じ〈イベント〉が何度も定期的に繰り返され、取り組みやすい①~④の投資手法について詳細解説されています。
※⑤⑥については、著者の別書作「いつでも、何度でも稼げる!IPOセカンダリー株投資」にて解説
イベント投資が実現する理由
イベント発生で再現性高く儲けるイベント投資。なぜ、イベント通過で下げるとわかっていても株価は値上がりするのでしょうか?
理由は、実際の株式市場には、配当・株主優待など、株価には大して注意を払わないまま、特定の銘柄を売買する参加者が一定数います。こうした取引参加者の存在が、特定のイベントの前後に、株価に一定の値動きの傾向を作り出します。
またファンドマネージャーなど大口の機関投資家は、個人と異なり相場を休むことができません。株価が高すぎても、あらかじめ決められているルールに従って、それらの銘柄の株を売買しなければならないルールがあります(損切りルールもあり)。
こうした人たちの存在が、株価に規則性を生み出します。
イベント投資のメリットとデメリット
ここまでの話だと、イベント投資はメリットだらけのように見えますが、当然、デメリットもあります。メリット・デメリットをまとめると以下のようになります。
イベント投資のメリット
●投資タイミングが明確で悩まない
●投資の優位性が長くつづく
●収益機会が多くあるので、安定的に利益をあげられる
●株式投資の初心者でも取り組める
イベント投資のデメリット
●予定されていたイベントが急になくなる場合がある
●「一攫千金」よりは「じっくり」
●突発的な大事件のときには、予想された値動きが発生しない
相場なので、絶対儲かるということはありません。損切りが必要なケースも生じます。
また、非常に大きな値幅が取れる可能性もあるものの、標準的に、一度の投資で狙える値上がり幅は5~15%です。
「株主優待先回り買い」でイベント投資の基本
株主優待株には、優待買いなどにより、権利付き最終日に向けて、株主優待実施企業の株価はジリジリと上がるが、イベントを通過すると一転、「権利落ち」で途端に株価が下落する傾向があります。
参考「株主優待が権利付き最終日までの株価に与える影響」
投資戦略
株主優待の権利確定というイベントに向けて、優待実施企業の株価は数ヶ月~1ヶ月くらい前からジリジリと値上がりしてくる傾向があります。つまり、その傾向を月単位で見ると、権利確定の当月でも2ヶ月前でもなく、前月にこそ値上がりが顕著に現れます。具体的には、以下のように投資します。
①権利月の前月のローソク足が圧倒的に陽線になる確率が高い銘柄を厳選
②株主優待の廃止や改悪がないか確認
③上記から、上位2~5銘柄に分散投資
④機械的に権利確定の前月の月初に買い付けし、前月の月末に値上がりしたタイミングで売却
遅くとも権利確定日の2営業日前となる「権利付き最終日」
権利確定の当月にまでは持ち越さない方がよい
⑤上記を毎月実施し、12ヶ月先回り買いリストを作り、次年度に活かす
12ヶ月先回り買いリスト(著者例)
1月 柿安本店(2294)2月決算銘柄 過去8年間の月足 7勝1敗
2月 日本KFCホールディングス(9873)3月決算(9月中間決算)銘柄過去8年間の月足 7勝1敗
3月 伊藤園 第1種優先株(25935)4月決算銘柄 過去8年間の月足 7勝1敗
4月 銚子丸(3075)5月決算銘柄 過去8年間の月足 7勝1敗
5月 湖池屋(2226)6月決算銘柄 過去8年間の月足 5勝3敗
6月 バルニバービ(3418)7月決算銘柄 過去4年間の月足 3勝1敗
7月 鉄人化計画(2404)8月決算銘柄 過去8年間の月足 8勝0分
8月 ヨシックス(3221)3月決算(9月中間決算)銘柄 過去5年間の月足 4勝1敗
9月 東和フードサービス(3329)4月決算(10月中間決算)銘柄 過去8年間の月足 8勝0敗
10月 北恵(9872)11月決算銘柄 過去8年間の月足 6勝2敗
11月 日本和装HD(2499)12月決算銘柄 過去8年間の月足 8勝0敗
12月 ダイドーグループHD(2590)1月決算銘柄 過去8年間の月足 6勝2敗
インデックス系のイベント投資
インデックス系のイベント投資(②TOPIX買い、③日経平均銘柄入れ替えへの先回り買い、④東証REIT指数買い)にも、収益の機会があると柳橋さんは言います。
TOPIXのリバランスはほとんど毎月あるため、投資のチャンスも多い。東証一部への上場の翌月末にインデックス買いが発生するので、10日~1週間くらい前までに先回りして買い、指数への組み入れ当日の前営業日に売ると、もっとも効率よく値幅をとれます。
TOPIXのリバランスが発生するパターン
TOPIXのリバランスパターンには大きく3タイプあります。
①東証二部やマザーズ、ジャスダック、あるいは地方市場などの別の市場から、東証一部へと昇格した企業があった場合
②IPOで東証一部に直接上場した企業があった場合
③M&Aや粉飾決算などによって、上場廃止や東証二部への降格をした企業があった場合
①昇格銘柄
数が多いのは、①の昇格です。
東証一部に昇格した銘柄がTOPIXに組み込まれるのは、原則として「昇格した月の翌月末」です。
そのため、各インデックスファンドの運用担当者も、原則として昇格月の翌月末までにこれらの銘柄を買い付けます(月末の営業日当日に買うインデックスファンドと、数日前から仕込み始めるインデックスファンドの両方がある)
東証一部への昇格の翌月末を過ぎると、翌営業日(つまり、昇格の翌々月の第一営業日)には、こうしたインデックス買いの圧力が消滅し、一転して当該銘柄の株価は値下がりします。
東証一部への昇格があったら、
・昇格翌月末から数えて10日~1週間ほど前までに、その昇格した銘柄の株を先回りして購入
・月末の1~2営業日前には売却
どの株を買えばいいかは、1~2ヵ月以上前から明確なので、誰でも実践でき、高い確率で毎回利益を狙えることになります。
②東証一部への直接上場銘柄
チャンスは少ない(通常年に数回)ものの勝率は非常に高い方法です。上場翌月末に向けての値上がりが、①昇格銘柄より素直に発生します(市場に公開されている情報がまだ少ないため、さまざまな思惑や、各企業の個別事情にもとづく〈ノイズ〉が少ないため)。
※スピンオフ上場やテクニカル上場の場合はこの手法は使えない
東証一部への直接上場銘柄は、上場時の見込みで時価総額250億円以上、株主数2200人以上、流通株式数2万単位以上などの上場基準を満たす必要があり、公募増資が行われることがよくあります。
公募株の売り出し数の多さなどから、こうした東証一部へ直接上場するIPO株は、上場直後には短期的に値下がりするケースも多く、それを知っている個人投資家のあいだでは必ずしも人気が高くありません。公募株というのは、基本的には類似他社の株価と比較して、少し割安に値段がついているので、公募で購入しておくという方法もありです。
「日経平均の銘柄入れ替え」に先回り
日経平均株価指数の構成銘柄の入れ替えは、株式市場では非常に多くの投資家に注目されるイベントです。
銘柄入れ替えのタイミングには、新たに採用される銘柄に〈どうしても買わなければならない〉機関投資家による大量の買い注文が入り、規模の大きな「インデックス買い」が発生します。このときの買い圧力は、相場の全体状況に関係なく発生します。
逆に、除外される銘柄については、〈どうしても売らなければならない〉ので「インデックス売り」が発生します。
最新 日経プロフィル:日経平均株価銘柄変更履歴
「日経平均の銘柄入れ替え」スケジュール
①6~7月ごろ
最初の動きが発生(採用銘柄と除外銘柄の予想レポートや記事が多数出てくる)
②毎年9月5日前後
日本経済新聞社からその年の銘柄入れ替えについて公式発表⇒インデックス買いが発生
③10月の第一営業日
毎年、原則として10月の第一営業日に実際の入れ替えが実施⇒買い圧力なくなり下落
・9/5前後に発表される日本経済新聞社からの公式発表後に飛びつかない。
・実際のインデックス買いが生じるのは3週間ほど先のため、たいていはその後少しダレて、いったん値下がりする。そのタイミングを狙い、インデックス買いが入る日の大体1週間くらい前に買いを入れる
・インデックス買いの当日(つまり、9月の最終営業日)に売却
採用予想がはずれた株のリバウンドを狙う
日経平均株価指数の構成銘柄への採用予想が外れた株にも儲けのチャンスがあります。
当然、期待で上がっていたはずれ銘柄は、一時的に株価が急落します。しかし、これらの銘柄は業績が悪いわけではありません。むしろ好調な業績を維持していることがほとんどです。
値下がったところをあえて買い、一時的な株価の急落が回復するのを数日~2週間程度待ってから売却します。この方法は再現性高い方法です。
勝率9割の「東証REIT指数買い」
東証REIT指数でも、件数は多くないもののTOPIXの指数買いと同じような戦略が取れます。
REITには配当金ありませんが、分配金があるからです。また、大江戸温泉リート投資法人(3472)のように投資主優待がある銘柄もあります。「東証REIT指数買い」は勝率が非常に高く、勝率が9割を超えます。
・新規上場したREIT銘柄を、上場翌月末から数えて10日~1週間ほど前までに購入※
・月末に向けての値上がりを確認しながら、上場翌月末の前日までに売却
※公募割れなら、そのタイミングで買うのもあり
勝率9割が狙えますが、注意点もあります。
・REITは1口の価格が比較的高い
・価格変動の幅が小さい(一度の投資で得られる利益の額は小さい)
=ローリスク・ローリターン
直近のIPO株の上場来高値更新狙い
IPO株が上場してからの取引のことを、「IPOセカンダリー投資」と言いますが、IPOセカンダリー銘柄も「上場来高値ブレイク戦略」でイベント投資が可能です。
新規上場したばかりの銘柄では、上場来高値を更新すると上値抵抗線として意識されるような節目らしい節目がないため、いわゆる「青天井」の状態となって株価が吹き上がりやすい傾向があります。
銘柄の善し悪しを判断するほかの情報も少ないので、カップ・ウィズ・ハンドルのチャート形状に、投資家が素直に反応しやすい傾向があります。
・過去1~2ヶ月以内に新規上場したIPO株がチャート上に「カップ・ウィズ・ハンドル」の形状ができると、強い買いのサイン
・上場来高値(ネックライン)をブレイクした段階、あるいはハンドルまでしっかり形成した段階で買い
・直近の高値をブレイクしている間は保持する
・勢いがなくなって直近の高値を割ってしまったら、その段階で売却
※もともとはウィリアム・オニールという超有名な投資家が提唱したアイデア
イベント投資家が守るべきルール
イベント投資は勝率が高い投資法です。しかし、株式投資に全勝はありえません。そこで以下のルールは守る必要はあります。
・思惑が外れたときには素直に負けを認める
・自分なりの資金管理ルールをあらかじめ決めておき、そのルールを守る
(損切りルール、1銘柄への投資額上限など)
・なんとなくの行き当たりばったり投資をしない ←ビビッて狼狽売りすることになる
適切に損切りせずに、塩漬け株を作ってしまうと、なかなかプラ転しないばかりか、長期間資金がロックされることで、有望株に投資できないという機会損失を招きます。
著者の場合、以下のようなルールを設けているそうです。
・まず1銘柄あたりの投資金額を原則200万円まで
・評価損の金額が20万円(-10%)に達したら機械的に損切り
・利益確定ルールは数%~15%程度の利益を獲得した段階で一部売却。後は株価推移を見て決定(ルールは緩め)
イベント投資家がチェックすべき重要な情報
「適時開示情報」は適宜確認する必要があります。
●業績に関する発表
●事業内容に関する発表
●株式分割
●株主優待の新設や内容の変更
●配当金に関する発表
●業務提携に関する発表
●東証一部や二部への以降
最後に
今回は、柳橋義昭さんの著書「先回りイベント株投資」からの学びを紹介しました。
本書には、各投資パターンがチャート付きで紹介されているので、それらを見ると、より先回りイベント投資について理解を深めることができると思います。
なお、著者は「新柳橋塾」を経営し、有料でIPO投資とイベント投資の攻略法を毎月配信されているとのことです。もし興味があれば、こちらもご確認を。