会社に利益を残すためにも重要な「原価計算」。
各製品の原価算定はもちろん、販売価格の設定、製品やサービスの開発、新規取引の検討など、経営上のさまざまな意思決定において、原価計算の情報は欠かせません。
しかし、会社に役立つ原価計算ができておらず、製品やサービスの正しい原価が不明、設備や人員の稼動実態が見えないという企業は多いですし、“売上は増えているし、原価計算にも時間をかけているのに、根本的な改善策が見えてこないといった企業も多数見られます。
それはなぜなのでしょうか?
本書の著者は
『餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるか?』などのベストセラーを著書にもち、会計を知り尽くした林總さん。
難解な原価計算をわかりやすく教えるために、その実践ノウハウをストーリーで紹介してくれます。
次の展開が気になる面白いストーリーになっており、なぜ、原価計算が大事なのか、企業のどこに問題が生じやすいかなど、非常にわかりやすく教えてくれます。
経理担当はもちろんのこと、経営者、各セクションのマネージャーなら是非とも読んできたい一冊です。
目次
伝統的な総合原価計算は役に立たない
経営判断として大事な指標となる「原価計算」。
効果的な原価計算は、製品やサービスの正しい原価やどの顧客から利益が上がっているのかを明らかにするだけでなく、設備や人員の稼動実態までをも浮き彫りにします。しかし、そこまでできている中小企業は決して多くない。その理由は何でしょうか?
それは、伝統的な総合原価計算を行っているから。これでは経営に使える原価計算は行えません。
それを解消できる手法は、活動基準個別原価計算「ABC(Activity Based Costing)」です。
ABC分析でわかること
ABCとは「活動ごとの生産性を数値化」すること。
例えば、製造業における「活動」であれば、設計、工程管理、品質検査、受注、発注、請求 他などの活動に対してかかった時間をベースにコストをも鑑み、原価を計算する手法です。
ABC分析を行いどのようなプロセスや活動にどれだけのコストがかかっているかを見える化できることで、例えば以下のようなことが明らかになります。
例)
・ビジネスプロセスの実態が明らかになる
・経営資源がどのように使われたのか明らかになる
・付加価値を生まないコストが明らかになる 他
上記がわかることで、始めて儲けを最大化するための意思決定が行えるのです。
ビジネスの流れを知らずに、原価計算を理解できない
ABC分析には、ビジネスプロセスを明らかにすることが基本にあります。
単に経理の視点だけでは、分析はできません。経理が行う原価計算は使えないと言われる理由は、そもそも、経理担当者が「生産管理や販売管理などの業務に関する知識」に欠けていて、ビジネスのどこにボトルネックがあるかわからない原価計算法になってしまっているからです。
原価計算システムを導入する目的は、仕掛品の原価計算や原価管理にとどまらず、会社の活動の成功である営業キャッシュフローの増加にあることです。だから、原価計算を理解するには、営業キャッシュフローを生み出すビジネス全体を頭に入れておくことが必須なのです。
赤字がなぜ見抜けない?ありがちな間違った原価計算
頑張って原価計算しても、従来の原価計算ではなぜ赤字の原因が見抜けないのか?
それは、以下のような問題を抱えるからです。
製造業の場合の例)
・製造原価を突破口にして、原因の発生源にさかのぼれない
・製造部門がブラックボックス化していて、製造現場の活動実態がつかめない
・どの各顧客、どの商品から最終的にいくら利益を上げたかをつかむ仕組みがない
何も価値を生まない活動の原価を可視化する仕組み、すなわち活動ごとの生産性を数値化する仕組みがない限り、原因の究明はできないのです。
感想:ビジネスの苦労・失敗を知ることが大事
以前読んだ本の中に、単にビジネス書のやり方をマネても多くの場合成功しないと言う記述がありました。
理由は、ビジネス書には正解部分しか書かれておらず、ビジネスで成功するために立ちはだかった壁やその時どんな工夫をし解決をしたかといったことが一切書かれていないからです。
しかし、本書には、主人公が壁にぶつかり苦悩する姿が描かれている。この苦労する姿が、大きな学びになります。
私はすぐにビジネス書そのものに手を出しがちなのですが、本書を読むと「失敗からの学び」がいかに大きいか、改めて気づかされました
【参考】「ザ・ゴール」の減価計算改善版的な本
昔、エリヤフ・ゴールドラットさんの「ザ・ゴール」という本が爆発的に売れました。機械メーカーの工場長である主人公を中心に繰り広げられる工場の業務プロセス改善を主題にした小説で、一つ一つボトルネックを解消していくことで飛躍的に生産が伸びてくさまを面白いストーリーで紹介した本です。
ちょうど、本書は会社のボトルネックを「原価計算」から見つけるために、改善を試みるといった内容になっており、ストーリー展開を楽しみながら、会社にありがちな原価計算の罠が学べるようになっています。