【書評/要約】一流の偏愛力(谷本有香 著)(★4) 時代とともに求められるリーダーは変化する、これからは「大好き」がキーワード

経済ジャーナリストとして、多数のトップリーダーと接する機会を持つ谷本有香さん。
時代の変遷にあわせて求められるリーダー像や資質は変わりつつあるものの、「トップリーダー」には共通しているのは、何かしらの「強い思い」をもって生きていること、そしてその思いを、それぞれの手段を使い、社会に還元していることだと言います。

どんな人でも、自分が大好きなこと、熱中してしまうことを持っている人は、周りから見ていてもエネルギーレベルが高い。常識を飛び越えて思考・行動し、そこから生み出される提案が、共感を呼び、信頼を集め、その人を時代のリーダーに変えていく。

本書では、そんなトップリーダーが共通して持つ「大好き」を「偏愛力」と命名。偏愛力をベースに時代をリードために必要なことを教えてくれます。

AIの時代はやりたくないこと、作業的なことはコンピューターやロボットがやってくれるようになります。つまるところ、人間は「好き」なことだけをしていけばいいのです。逆に言えば、好きなことがない人、好きなことをマネタイズできない人は淘汰されます。

「好き」に忠実に、成功をも勝ち取るにはどうしたらいいのか―――― 本書では、そのために必要な、思考・行動・習慣等が学べます。

非常に学びの多い本です。今回は、本書「世界のトップリーダーに学ぶ 一流の偏愛力」の前半部分を中心に、学びをまとめます。

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21世紀、時代をリードする人の条件

【書評/要約】一流の偏愛力(谷本有香 著):

時代の変遷にあわせて求められるリーダーは変化していきます。従来型のリーダー像と、これからの時代のリーダー像は何が違うのか? 正しい変化をしていける人だけが、新時代を生き残ることができることは、時代が変わっても変化しません。

AIの到来で淘汰されること

AIの到来によってあらゆる「職業」が淘汰されると言われますが、これは、正しくありません。淘汰されるのは、「職業」ではなく、AI時代に対応できない「人」です。

この認識を正確に持っているか… それがこれから先の「新時代」を生き抜くビジネスパーソンとして活躍できるかどうかの「境界線」となります。

旧来型と新時代型リーダーの違い

AIが普及し社会が変われば、求められるリーダーも変わります。従来型のリーダー像と、これからの時代のリーダー像の違いは以下の通り。日本には旧来型リーダーが多いのが現状です。

旧来型と新時代型リーダーの違い

旧来型リーダー :保持・継続、カリスマタイプ
新時代型リーダー:進化・成長・価値創造、同級生タイプ

これからは、AIも競争相手。生産性や効率重視では勝ち残れない。必要なのは「価値創造」であり、「仕事が楽しくて大好き」だから、仕事もプライベートも分けることなく隔てることなくやり続けられるリーダーです。「好きを仕事に!」という言葉の意味はそこにあります。

また、カリスマ社長が統率するのももう古い。今求められるのは、信頼できる仲間と同級生のようにフラットな関係で意見交換し、ともに好きなことを共に楽しみながらチーム強化できる同級生リーダーです。「好きなことをやる」リーダーなら、コアがぶれない。仲間も信頼してついていけます。

「好きを仕事にする」と言っても、「好きなように仕事をする=自分のスタイルで、好きなように、自分のペースで仕事をする」ではダメ。「好きなことを仕事に、大勢を巻き込んで、組織やチームで統率するリーダー」が求められます。

これからのキーワードは「偏愛力」

大好きなことを追求すると、万人受けを狙うわけではないので、その分、対象とする顧客ターゲットは狭まります。しかし、これからは、「95%を大事にすると失敗する。5%を大事にすると成功する」がセオリー。

「自分だったらこういうものが欲しい」という視点で、コアな人にピンポイントにはまるものを提供する。こんな偏愛が共感を生み、その声が拡散します。「偏愛」が大事です。

偏愛+共感=信頼

【書評/要約】一流の偏愛力(谷本有香 著):

谷本さんは、20世紀の大量生産、大量消費時代ではないこれからの時代に求められるのは、「ビジネス・アイデンティティ=熱中するほど好きなことで、他者貢献できるもの」だと言います。これからは、ビジネス・アイデンティがあるところに、お金も人も集約していくようになります。

仕事の「軸」はビジネス・アイデンティティに

今、時代は、行動を起こせば、「好きなこと」を仕事ができる時代です。従来、ビジネスリーダーは技術・論理・説得力の3本柱が求められましたが、新しいリーダーに求められるのは、「ビジネス・アイデンティティ」を軸とした偏愛・共感・信頼の三本柱です。

「偏愛」「共感」「信頼」の内、なかでも重要なのが「信頼」。なぜなら、「通貨は『お金』から『信頼』へ」変化、つまり、お金が人についてくる時代だからです。

公式:偏愛+共感=信頼

ビジネス・アイデンティティ
= 熱中するほど好きなこと(偏愛)+ 他者貢献(共感) ⇒ 信頼 という価値 が生まれる

今後、ただ単に売上や利益の数字を追い求めることにしか関心がない強欲的なリーダーは、世の中から信頼を得られなくなるでしょう。顧客はもちろん、従業員やその家族、地域の人たちに受け入れられて、はじめて売上につながるという考え方に考え方をシフトしていく必要があります。このような信頼経済においても、「好きなことで他者貢献=ビジネス・アイデンティティを軸に仕事をしているか」できるリーダーは最高の評価を得ていくはずです。

信頼は数値化される

既に中国では、「ジーマ信用(芝麻信用)」によって信用(与信、信頼)が指数化されています。日本をはじめ、他国においても、個人の信用が、指数化され、お金を借りる(信用によって利率が異なる)、物件を借りる(信用がないと部屋が借りられない)、などの経済活動に紐づいていく流れは変わらないでしょう。

「ジーマ信用(芝麻信用)」は以下の5軸で、信用が数値化される

①プロフィール :学歴や勤務先などのステータス
②支払い能力  :過去の支払い能力
③過去の信用履歴:クレジットカードなどの支払い履歴
④人脈     :交友関係
⑤行動     :とくに消費行動

自分自身の「好きで好きでたまらない」という偏愛から生まれる意志や目標は、ビジネスにおける最大の「自己プロフィール」となり得ます。偏愛力のある人は、①プロフィールと④人脈がより強力になる。つまり、人にお金がついてくることになります。

物が売れる仕組みも変わる

偏愛✕共感⇒信頼が大事にされる現代では、モノが売れる仕組みも「What-How-Why」モデルから「Why-How-What」モデルへとシフトしています。

モノが売れる仕組みもシフト

旧:「What-How-Why」モデル 「何を作るか(what)」から商品が生まれる仕組み
新:「Why-How-What」モデル 「なぜするのか(why)」から商品が生まれる仕組み

ではなぜ、私たちの消費行動が今「why」へと変化しているのか。

それは、安全・安心がほぼ確保されている現代においては、マズローの5大欲求(5階層ピラミッド)の低階層は満たされているため、「自己実現」「共感・感動」「信頼」「快適性」など、より上位階層の欲求を求めるよう変化しているからです。しかも、直感・感情をくすぐることが大事になり、脳科学的視点から言語に基づき思考する「大脳新皮質」ではなく、感情を司る「大脳辺縁系」に訴える必要があるからです。

脳と機能の仕組み」については以下の本が参考になります。知っていると、自分の能力開発のためにも非常に有益です。大脳新皮質と大脳辺縁系についても以下の記事で解説しています。

WeではなくIで語る

感情に訴え共感を得るためには、主語は「We(私たち)」ではなく、「I(私)」で語ることが大事になります。

かつて、ビジネスの現場では主語はWeでした。しかしこれは、会社の経営者が従業員に向かってビジョンを語り掛けたり、世の中の人にミッションを訴えるなど、カリスマ型リーダーが下層を導くために、同じ目線に立っていることを強調していたにすぎません。これからは「I」で語ることが大切です。

トップリーダーに学ぶ新しい価値を生みだす人の「新」常識

【書評/要約】一流の偏愛力(谷本有香 著):

これからの時代を生きていくには、過去の常識をアップデートし、「新」常識へと意識をシフトさせていく必要があります。谷本さんは新常識として7つを挙げます。

時代をリードするリーダーに求められる新常識

❶30年先より100年先のビジョンを語る
❷過去の事例から答えを学ぶより、自分自身で答えを創り出す(ないものをいかに生み出すか)
❸判断基準は「マーケットがあるか」より「価値があるか」
❹「ストーリー」はもう「一瞬」にはかなわない
❺同業者より「異能者」を重用する
❻「社内」の親睦より「社外」の親睦を深める
❼確実な理論よりも「ゆらぎ(偶然性・異常値)」を大事にする

上記から❶❸❺❼について追加説明します。

新常識1:30年先より100年先のビジョンを語る

30年程度の未来であれば、利益や効率を軸としたビジョンでもイメージできるが、100年先となるとアイデンティティを軸にしたものでなければ、決して生き残ってはいけません。人でも、企業でも、プロジェクトでも、ブランドでも、サービスでも、都市でも、100年後も残っているものには、「文化的背景」やアイデンティティが必ず存在しています。

新常識4:「ストーリー」はもう「一瞬」にはかなわない

昨今のマーケティングでは、商品やサービスに「ストーリー」を 作ることが大事と言われるようになりましたが、時間をかけてストーリーを理解もらうのも難しくなりつあつつつあります。
その代わりに広まりつつあるのが、「写真」や「1 秒動画」といった、「一瞬」の切り取り。そこには文字は一文字も必要ありません。消費者は「見て、感じるだけ」なので、負担はほとんどありません。振り向いてもらうには「一瞬」の力が必要なのです。

新常識5:同業者より「異能者」を重用する

今、ビジネスリーダーがアドバイスを求めるのは同業者以上に、「異能者」。 一般の人とは違った感覚を持つ人たちです。自分自身の考えが「型」にはまらないようにすることが大事です。異能と異能の掛け合わせは、時に想像を超える価値を生み出します。

新常識7:確実な理論よりも「ゆらぎ(偶然性・異常値)」を大事にする

ゆらぎ(偶然性。異常値)を大切にすることが大事です。これを、 ①意識化 ②顕在化させる。
「ゆらぎ」が生じたときにそれを切り捨てて考えるのではなく、スポットライトを当てるのが意識化。そして「どんな意味があるんだろう?」と新たな意味を見出し、他者と共有までするのが顕在化です。 この二つを実行できた人が、結果的に大きな成功を収めています。

最後に

今回は、谷本有香さんの著書「世界のトップリーダーに学ぶ 一流の偏愛力」に、AI時代に淘汰されることのない、偏愛をベースとした一流の思考法・行動法を学びました。

ここまでで紹介したのは、まだまだ前半。本書の後半では、一流が行う習慣、その他、マッド・ジーニアスの磨き方などについても紹介されています。

ビジネスマンとして生きていくに当たって、人生を楽しみながら仕事をする方法が満載なので、是非、読んでみられることをおすすめします。