本書タイトル「人質の経済学」。一見、人質と経済学は関係がないように見えますが、本書を読むと、中東で起こるテロ、難民問題など、世界を揺るがす深刻な難題が、経済活動そのものであり、実に地元の経済に密着していることに驚かされます。
テロ組織による人質解放に対する見返りは、国や富裕層から奪い取られる「金」。
難民を闇ルートでギュウギュウづめのトラック・船に乗せて中東からヨーロッパに移動さえるビジネスも、弱いものから奪い取られる「金」。
海賊による船の襲来も見返りも、企業などから奪い取られる「金」。
つまり、これらは宗教の対立に見られるような価値観の違いにより引き起こされるわけではなく、ブラックな組織による「人間が、単なる商品として取引される金儲け行為」=「経済活動」なのです。
しかもそのお金はブラックな組織だけにとどまるだけではありません。彼らが手にしたブラックな報酬は、その土地で消費され、地元民へマネーが移行するというトリクルダウンにより、その土地の経済が成り立っているのです。
そんなダークな経済活動が、本書では広範な取材をもとにまとめられています。なんとも恐ろしい「世界の闇」を明らかにした一冊です。保護主義など、自分がよければよいという考えが蔓延する今の時代に読んでおきたい一冊です。
最も多額な身代金を支払っているイタリア
ここ15年ほどの間に大量のイタリア人が誘拐されています。その理由は、一番、身代金の金払いがいいのがイタリア政府だから。もちろん、政府はそれを公的には認めていません。
つまり、テロ組織、闇組織にとって誘拐は金になるビジネスなのです。10年前、200万ドル払えばイラクで人質は解放されていましたが、今日ではシリアでの誘拐で1000万ドル以上の支払いが必要になっています。
そのため、もともとの麻薬密輸ルートは、生身の人間を運ぶ人間密輸へと移行。さらには、誘拐から、毎週数万人をヨーロッパの海岸に運ぶという難民たちの密入国斡旋へと広がり、毎月1億ドル近い利益を上げているのです。
助かる人質、助からない人質
イスラム国による誘拐。日本でも、後藤健二さんと湯川遥菜さんがイスラム国に捉えられた映像、そしてその顛末は日本人に大きな恐怖と不安を与えました。
助かる人質がいる一方、殺害という最悪の結果に至る人質がいます。これはどういうことでしょうか?
イスラム国は、人質を身代金目的と外交戦略目的の2つに分類し、非常に高度なテクニックを使って交渉をしてきます。身代金目的の人質は解放されますが、途中で交渉を間違えると、身代金目的の人質として扱われなくなり、最悪な結果を招くことになるのです。日本政府はこのイスラム国との交渉を誤り、犠牲を出す結果となりました。
解放された人質はヒーローなのか?
莫大な身代金と引き換えに解放された人質には、ヒーローになるものもいれば、なぜリスクを考えず危険地帯に立ち入ったのかと厳しい追及を受けるものもいる。
「あの身代金があったら、どれだけのことができたか、考えてみてほしい」という人質となった活動家と一緒に働いたこともある人物の言葉は重い。