【書評/要約】本の読み方 (平野 啓一郎 著)(★5) 本を価値あるものにするかは読み方次第。人生を豊かにするスロー・リーディングの実践書

本を多く、速く読んで、知識を吸収したいと考える人は多いのではないでしょうか。

しかし、「本をどう読むか」については、人は意外なほど無頓着。国語の授業でも「本の読み方」について教わることはなく、誰もが自己流の読み方をしています。

1冊の本を、価値あるものにするかどうかは、読み方次第。

本というのは、本来は、何をどんなふうに読んでも構わないものです。しかし、自分に活きる読書と時間の無駄にしかならない読書は確実に存在します。読み方次第で、大きな気づき、感動を味わい、考えて読むことで人間としても成長できます。本書にはそうした本の読み方のコツが溢れています。この本に出会えたことを感謝したい。

今回は、平野 啓一郎さんの『本の読み方 スロー・リーディングの実践』からの学びを紹介します。

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スローリーディングとは

【書評/要約】本の読み方 スロー・リーディングの実践(平野 啓一郎 著):スローリーディングとは

平野さんが提案するスロー・リーディングは、 速さや量ではなく「質」で差がつく読書術です。

本を速く読もうとすると、人は速く読める薄い本へと自然と手が伸びがちになります。一方、時間をかけて読めば、今まで同じ本を読んでも得られなかったような深い気づき、学びが得られます。そして、時間をかけるにふさわしい、手応えのある本を好むようになります。

「量」の読書から「質」の読書へ

出張で訪れた町を駆け足で2時間で見て回るのと、1週間滞在し、地図を片手に丹念に歩いて回るのとでは、印象の強さ・気づきに大差があります。これは、読書も同じです。

本当の読書は、単に表面的な知識ではなく、内面から人を変え、思慮深さと賢明さとをもたらし、人間性に深みを与えます

そんな読書をするには「書き手になったつもりで読む」ことです。

本の書き手は、「こう読んでもらいたい」という意図を持ち、作品の一語一句から作品全体に至るまで吟味を重ねています。そんな書き手の仕掛け・工夫を見落とさないように読むと、今までとは全く異なる読書体験ができます。

速読今日、明日のための読書目的が短期的
今欲しい情報を得るための読書。新聞に近い。
新聞もしかり
遅読5年後、10年後のための読書即効性はない
長い目で見たときに、間違いなく、その人に人間的な厚みを与える
教養を授けてくれる

たくさん読んでも、知的にはなれない

現代人は、電子書籍の普及により、読みたい時にすぐに、しかも安価に本を手に入れられるようになりました。しかし、100年前と比較して、知的レベル、教養は上がっていません。

昔の人は、入手できる限られた本を細部まで味わい、何度も再読することで、自分の血肉としました。現代人は情報つまみ食い、或いは、情報に溺れているだけです。「量の読書」から「質の読書」へ、「網羅型の読書」から「選択的な読書」へ、読み方のシフトが必要です。

じっくり読む読書

書き手の主張を正確に理解しようと努めながら読むと、必然的に、いろんなことを考えます。

「考える読書」は、いわば、「自分自身と向き合う時間」です。自分ならどう考え、どう行動するか考えながら読むことは、必ず、自分の成長につながります。

また、相手の主張を正確に理解するクセをつけておけば、人との議論の場でも役立ちます。自分と異なる意見を持つ相手の話を辛抱強くを聞く。発言の機会が巡っていたら、反論する前に、「つまり、こういうことですね」と、相手の主張を丁寧に要約、さらに、その不完全なところまで補って話ができれば、話はスムーズに進みます。できるビジネスマンは、読書などを通じてこういう訓練を重ねています。

1ヶ月〇冊読んだという薄っぺらい自慢

多読家でも「本の魅力」を知人に語れない人がいます。これは、記憶に残る読書、印象に残る読書をして、血肉化していないからです。一方、読書を血肉化している方は、話に教養がにじみ出ます。そんな深いところまで読んでいるのかと感嘆・尊敬します。

読書量は少なくても、たった一冊の1フレーズに対し「めちゃくちゃ感動した!」と目をキラキラさせて語る人も魅力的です。まさに、本を嚙みしめ、味わい尽くしている。彼は間違いなく読書で人生が豊かになっています。

【基礎編】スローリーディング

【書評/要約】本の読み方 スロー・リーディングの実践(平野 啓一郎 著):スローリーディングとは

本当の読書は「読了後」に始まる

読みながら疑問に思ったこと・気になったことを、自分なりに考え、どのように活かしていくか考える―。

遅読=知読。読書体験は、この行為をもってはじめて意味を持ちます。人は、これまで考えてこなかったことに、素晴らしい回答を提示することはできません。読書は「未知な世界」を仮想的に体験させ、考える機会を与えてくれます。これが、「考えの幅」となります。

とりわけ小説を読む楽しみは、自分だったらどうするだろう? と考えてみることに尽きます。私は近未来小説やディストピア小説が好きですが、このジャンルの本は「リスクについて考える機会」を与えてくれます。この思考実験が、リスク想定の幅を広げ、万一の時の強みとなると信じています。

著者と向き合う効果

本から「自分の思考を高める」一方で、「著者の言わんとするところをできるだけ正確に理解する読み方」を意図的に実施することも大事です。これは、「多様な考え」「広い視野」につながります。

小説は速読に向かないのには訳がある

私は、ビジネス書に比べて、小説を読むのに時間がかかります。その理由は「読み慣れていないから」だと思っていました。しかし、本書の中に「その答え」がありました。

小説を読むのに時間がかかる理由は、様々なノイズがあるからです。小説は「ストーリーのコア」+「細部」で成り立っています。小説は、この「細部」が大事です。書き手は、ストーリーはもちろん、単語、接続詞、助詞・助動詞など細部にまでこだわって言葉を選んで書いており、そこには必ず意味があります。「表現としておかしい」「なぜのシーンに、こんな話題が?」と思うこともよくありますが、それら全てに意味があります(伏線の仕掛けなど)。

疑問を感じたら、素通りせずに、立ち止まって、なぜ?と考えてみる―。あらすじだけ知ってもその小説の面白さを堪能できません。こうして、初めて小説を読み尽くせます。

【テクニック編】スロー・リーディング:

【書評/要約】本の読み方 スロー・リーディングの実践(平野 啓一郎 著):スローリーディングとは

スロー・リーディング【テクニック編】では、様々な読み方が紹介されています。以下は、いくつかをピックアップしたものです。

速読で本の70%は理解できるが…

速読で本の趣旨は70%は理解できます。しかし、曖昧な30%に決定的な間違いが入っている可能性があります。

速読では、名詞や動詞の拾い読みで、助詞・助動詞がおろそかになります。例えば、「私はリンゴが好きである」と「私はリンゴが好きではある」といった文章のニュアンスは読み飛ばされる。ここが大事な場合は、結構あるのです。

また、人間のワーキングメモリは小さく、忘れます。分からなくなった箇所をそのままにして、読み進めても理解は半減します。前のページに戻って確認することも大事です。

動詞や名詞を生かすも殺すも、助詞、助動詞次第

「ボキャ貧」であっても、妙に説得力のある人がいます。それは、助詞、助動詞の使い方がうまいからです。助詞や助動詞が不正確な文章は、いくら高尚な単語を知っていようと、文章に安定感になります。動詞や名詞を生かすも殺すも、助詞、助動で決まります。いい本は、これを学ぶ機会です。

より「先に」ではなく、より「奥に」

名著と言われる小説でも、「なんじゃこりゃ」と思う小説があります。このような衝撃は、もっと知りたいという気持ちを湧き上がらせ、「より奥に」に進むきっかけを与えてくれます。

私の場合は、例えば、坂口安吾の『堕落論』。作者は一体、何を言おうとしているのだろうか? そしてその主張は、どんなところから来ているのだろうか? そう考え、気がつけば、坂口安吾は『桜の森の満開の下・白痴』と他の作品を読むきっかけとなりました。

ある作家のある一つの作品の背後には、さらに途方もなく広大な言葉の世界が広がっています。どの一つの連鎖が欠落していても、その作品は生まれてこなかったかもしれません。一つの作品を支えているのは、それまでの文学や哲学、宗教、歴史などの膨大な言葉の積み重ねです。

このように考えれば、大事なのは、本を「先へ」と早足で読み進める読み方ではなく、「奥へ」とより深く読み込んでいく読み方。1冊の本をじっくりと時間をかけて読めば、実は、10冊分、20冊分の本を読んだのと同じ手応えが得られます。

複数の本を比較する

本を読んでいると、「よく似た考え・同じ主張」に遭遇することがあります。このような時は、「単に似ている」で終わらせず、何が同じで何が異なっているのか、その違いを丁寧に見ることで、両者の意味はいっそう鮮明になり、より鮮明で、精密な知識を蓄えてゆくことができます。

「しかし」に印

本の中に登場する「しかし(だが、が、けれども、しかしながら)」はとても大事です。「しかし」のすぐあとの部分に注目すると、作者の主張がよく理解できるからです。それが、視覚的にすぐに分かるように、「しかし」にマークをつけておけば、ページの中の論理構造が一目で確認できるようになります。

「第一に/第二に」「一つに/また一つに」「そもそも/加えて」「まず/それに」などは、並列的に事実を列挙した部分であり、同じく、マークしておくと、論点を整理に役立ちます。

再読にこそ価値がある

本とジャストミートするためには、時を待たねばならないことがしばしばあります。つまらないと思った本が、年齢を経て読むと、そのすばらしさに感動することがあります。再読の意義は、ここにあります。

本は一期一会ではもったいない。自分にとって本当に大切な本を、5年後、10年後、と折に触れて読み返してみる。その印象の変化を通じて、私たちは 自分自身の成長を実感できます。

本の傍線、書き込み、要点メモは、自分自身の関心の記録です。昔はこんなところに感動していたんだ、読み方が浅かったなど、様々な発見もあります。当時の自分を思い起こすいいきっかけとなります。記録を残して読みましょう。

最後に

今回は、平野 啓一郎さんの『本の読み方 スロー・リーディングの実践』を紹介しました。

本をいかに読むか―。読書には、自分に活きる読書と時間の無駄にしかならない読書は確実に存在します。本書にはまだまだ紹介しきれないほど、様々な気づきがあります。

本書には、スローリーディングをより詳しく体験するために、複数の古今の名著を取り上げ、平野さんがどのように読んだかが紹介されています。深い読書の仕方に驚かされると同時に、それが自分の読書の読み方にヒントを与えてくれます。

本が好きな人はもちろん、好きでない人も、いろいろ学びがある本です。是非、手に取って読んでみてください。