世界をぐるぐると回るお金。
経済全体で見れば、「お金を払った人」と「お金を受け取った人」は一致し、お金は巡っています。これを、一個人で見ると、人は稼いだお金の一部を消費し、残りは貯蓄します。そして貯蓄されたお金は銀行に向かい、企業等の設備投資等に使われます。つまり、「貯蓄=銀行の預金=投資」です。
よって、「銀行の貯蓄残高」が減れば、設備投資等は減り、お金のめぐりは悪くなり、景気は悪くなります。これは経済のセオリーです。
2023年3月の銀行を発端とする経済不安局面においては、シリコンバレー銀行においては「預金額減少→現金確保のための資産の売却を発表→取り付け騒ぎ」という流れであっという間に大きな銀行が破綻しました。
経済のセオリーに従えば、3月の銀行不安が落ち着けば、銀行の預金額の減少はおさまるはずですが、実際には、それよりも大きな力が働いて「銀行の貯蓄残高:減少」は続いています。つまり、お金の流れは悪くなる方向に向かっています。
本記事では、 銀行の預金額の推移から、米国経済の行方・転換点を考察したいと思います。
目次
2022年四半期をピークに減少に転じた銀行預金額
上図は超長期1973年からの米国の銀行預金の推移です(最新2023/3/22まで)。
これを見ると、新型コロナ感染での混乱を食い止められるために急激に市中にお金がばらまかれ、銀行の預金額も増えましたが、それが、2022年をピークに減少しています。
同じ米国の銀行預金の推移を直近5年間に絞って拡大したのが上図です。
これを見ると、
❶2022年第2四半期ごろに銀行の預金額がピークアウトアウトして減少に転じる
❷2023年3月の銀行騒動で、銀行貯金額の減少が加速
となったことがわかります。
推移をみると、大事なのは❶です。シリコンバレー銀行の破綻劇をきっかけに銀行の預金額の減少が急速に高まったことは事実ですが、それ以上に大事なのは❶による現象です。
❶はFRBが金融緩和から「金融引き締めに方向性を転じた時期」に一致します。
米国、超金融緩和の転換点
ここで米国の金融政策を振り返っておきます。
テーパリング(量的緩和縮小):2022年11月~
FRBは2021年11月から債券購入額を月間1,500億ドルから1,200億ドルに縮小すると発表
その後、段階的に減少し、2023年3月に終了
政策金利利上げ:2023年3月~
急激に進むインフレを抑えるため、
2022年3月 0.25→0.5%に利上げが開始
その後、段階的に利上げが継続し、開始から1年経過後の2023年3月現在 5%
下図は、直近5年の政策金利(青線)と消費者物価指数(赤線)の推移(上図)とM2(下図)の推移です。
金融政策の転換で「銀行預金=貯蓄=投資」も減少
冒頭でも示した通り、経済学的には「銀行預金=貯蓄=投資」です。
投資可能な資産が減れば、投資(設備投資なども含む)は減り、経済は悪化しますが、現在の環境と上記データを鑑みるに、この方向性を握っているのが「金融政策」ということがよくわかります。
FRBの利上げによるインフレ退治が続いている限り、銀行預金資産の減少はこれまでと変わらず減少すると思われます。これはすなわち、次なるシリコンバレー銀行が発生しうる状況は続いているということになるかと思います。
次の転換点は「利上げ停止」「利下げ」
では、次の金融政策の転換点は何か?
それは、政策金利の利上げ停止、そして、利下げです。さて、いつになるでしょうか。
前回の米国金融危機を振り返る
さて、過去の米国金融危機についても、振り返っておきましょう。上記はS&P500の推移です。
過去のサブプライム危機を振り返ったとき、リーマン破綻前の前夜祭ベア・スターンズの危機がありました。
2008年3月:
当時米国第5位の投資銀行ベア・スターンズ、デフォルト
JPモルガン買収により救済
2008年9月:
当時米国第5位の投資銀行リーマン・ブラザーズ
6000億ドルの負債を抱えて当時史上最大規模の破綻
奇しくも、サブプライム危機の時も、銀行が破綻寸前まで行ったのは「3月」。その後、ベア・スターンズ問題が落ち着いた後、少し株価が盛り返しましたが、その後、リーマンショックが起きて、株価は大暴落しました。
これらを見る限り、2023年も注意をしておくに越したことはないというのが私の考えです。
投資においては「資産は増やすより減らさないことが大事」と言われます。
FRBがこれまでの経験をもとに、マイルドな危機で次なる経済成長のレールを引いてくれればラッキーと思うぐらいでいたい(自己への戒めの気持ちも込めて)。復帰できないぐらい資産を毀損することを避ける運用に努めたいと思います。