タックスロス・セリングとは、年末にに向けて、個人や法人が含み損が出ている株を売る行為です。損失を確定することで、利益との相殺で、税金の支払額を軽減する「節税対策」のために発生します。
特に、今年2021年は、タックスロス・セリングが強まるとみられています。
今回は、タックスロス・セリングがいつ、どのような銘柄で発生しやすいか、また、2021年にタックスロス・セリングが強まりやすいとみられている事情について解説します。
目次
タックスロス・セリングが出やすい時期はいつか
米国の確定申告:個人・法人
米国個人の確定申告は、日本と同様年末閉めです。毎年1月1日から12月31日までの所得について、翌年の4月15日までに申告することになっています。
米国では、株式などのキャピタルゲインに対して、日本のような分離課税制度の適用はありません。日本でいうところの総合課税のような扱いで「累進課税」となります。年給与などの所得の上に、株式などの投資利益が上乗せされることで、所得税率が上がってしまいます(所得額の幅に応じて10%~39.6%の7段階)。
※1年以上の長期保有株式の売却で得たキャピタルゲイン(ロングターム・キャピタル元)は、もう少し緩い税率が適用されます。
そのため、個人投資家も年末にかけてキャピタルロスを確定し、利益と相殺するインセンティブが強く働きます。
一方、法人(ファンド)の確定申告は、会計年度に沿って確定申告を行いますが、1月から12月を会計年度とする企業が圧倒的に多く、年末までに決算調整を行う法人が多くなります。
タックスロス・セリングが起こりやすい時期
タックスロスセリングは、個人投資家と法人(ファンド)で特徴が異なります。
個人投資家は、米国の投資家はサンクスギビング・デー(感謝祭)が終わった頃から、「そろそろ…」と税金対策を考え出す傾向があります(2022年は11月24日(木))。そして、クリスマス🎄を楽しみたいという考えから、クリスマス前までに損切りを実行する投資家が多いです。
つまり、個人投資家の売り圧のピークは12月半ば辺りとなります。
一方で、多くのファンドの年間運用の損益通算の締めは10月から11月末です。そのため、ファンドは個人よりも早い時期に節税対策の売りでキャピタルロスを出す傾向があります。また、同時にポートフォリオの見直しも行われます。見直しの結果、方針に合わなくなった銘柄や、今後上昇する見込みのない銘柄なども合わせて処分・整理されることになります。
どんな銘柄がタックスロス・セリングのターゲットになるか
タックスロス・セリングのターゲットは、「キャピタルロス(損失)を出すことが目的」なので、儲かっている個人投資家なら、大きくやられている銘柄ほど節税効果が見込めます。
タックスロス・セリングのターゲットになりやすい銘柄の特徴
以下のような銘柄は特にタックスロス・セリングのターゲットになりやすいです。
❶過去1年間の間に15%以上下落した銘柄
❷個人が好む成長株やIPO銘柄で、思惑外れてズルズル下がった銘柄
❸上半期に大きく下げ、割安だと思って飛びつき買いしたが、その後も下落した銘柄
タックスロス・セリングのターゲットになりやすいセクター
❶の銘柄はを探るために下図で示したのは、「2021年初来の騰落率マップ」です。ほとんどのセクターが上昇していますが、「テレコム」、「エンターテイメント」、「家庭用品」、「省エネ」、「バイオ」などのセクターが弱そうです。これらのセクターの米国株式を保有してる方は注意が必要です。
なお、通常、老舗企業や大型株は、その年のパフォーマンスが悪くてもタックスロス・セリングによる売り圧力は大きくありません。また、株価が横ばいを続けてきたような銘柄は、節税効果が薄いので大きな売り圧力にはなりにくいです。
2021年はタックスロス・セリングが強まる観測の理由
2021年はタックスロス・セリングが強まるとの観測があります。その理由は以下の2点。
・米国株式主要3指数が年初来2桁の上昇率
・バイデン政権によるキャピタルゲイン税の増税懸念
バイデン政権は、トランプ政権時代に行われた減税から増税へと政策を転換。低所得層などには減税するに対し、富裕層からの課税の強化が盛り込まれています。
・個人所得最高税率は22年度から39.6%へ引き上げ(従来の37.0%)
・富裕層による巧妙な課税対策にメス
[図表1]米財務省推定のバイデン計画の今後10年の税収
※その他には米国雇用計画と米国家族計画の増税案が含まれる
期間:2022年度~2031年度の合計、単位は10億ドル
[図表2]バイデン計画の歳入増(税収増)と減税予想の推移
期間:2022年度~2031年度、単位は億ドル
タックスロスセリングで個人投資家が注意すべきこと
上記もふまえ、タックスロスセリングに関連して個人投資家が注意したいことをまとめます。
下げた銘柄がさらに下がる可能性
上記で、売られやすい銘柄を❶~❸まで紹介しましたが、年初から大きく下げている銘柄が年末にかけてさらに売られる可能性が高まります。こんな銘柄を持っている場合は要注意です。
タックスロスセリングは企業業績には関係ない
タックスロスセリングは、法人・個人の節税対策の都合による売り圧力です。つまり、個別銘柄の今後の業績見通しに関係なく売られます。
狼狽売りに注意
タックスロスセリングは、個人の事情による売りです。逆に、一旦、税金対策で売られた後、12月中〜下旬、或いは、1月に買い戻されて反発することもあります。特に、年初の市場は上がりやすいアノマリーもあります。故、決定的な売り材料がない銘柄なら狼狽売りには注意しましょう。
最後に
今回は、米国投資家の年末節税売り「タックスロス・セリング」と、 2022年が抱える特殊事情、取引に当たっての注意点を紹介しました。
今回は米国の税金対策売りを中心に解説しましたが、日本でも投資家の考えることは基本的に変わりません。
毎年起こりやすい季節事情(アノマリー)をベースに、今年の特殊事情を押さえておくと、必要以上の売買や狼狽売りを避けられます。本記事が参考になれば幸いです。
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